余剰生乳に苦しむ日本の乳業界を救う「プラスワンプロジェクト」
『~毎日牛乳をもう(モ~)1杯。育ち盛りは、もう(モ~)1パック~』
これは、農林水産省が酪農家を支えるため、牛乳やヨーグルトを普段より1本多く消費することを推進する「プラスワンプロジェクト」のキャッチコピーです。
当初は学校休校や商業施設、飲食店などからのキャンセルが相次ぎ、生乳をバターやチーズといった乳製品へと加工することによって、行き場を失うことがないよう取り組んできた模様。
しかし、4月〜6月の生乳生産量ピークを迎える中で、乳業メーカーの乳製品の製造能力を超えた場合、行き場を失った生乳は廃棄せざるを得ない状況に陥るとの見解に基づき、発出されました。
止めることのできない搾乳。余剰生乳の状況が、乳業界をも圧迫する不安の声も上がっています。
図:牛乳生産量グラフ
乳製品の消費に救いの手になるか?乳酸菌飲料は好調に推移
しかし、このような深刻な状況の中、「乳酸菌飲料」は売れ筋であるとの見解も見られました。
”明治ホールディングスの主力商品である乳酸菌飲料「R-1」は、販売数の漸減が続いていたが、2020年1月後半から販売数が急増し、2月単月では前年比で10%超となった。明治ホールディングスの広報担当者は「各メディアやネットで、免疫力向上アイテムとして取り上げられたことが需要増に繋がった」と語る。
キリンビバレッジは、独自素材の「プラズマ乳酸菌」を使用した「キリン iMUSE 水(みず)」(500mlPET)を、1月14日から発売したところ、発売初週に3ヵ月の販売予定数を突破したと発表した。無糖、カロリーゼロであることから、30代以上の男性ユーザーが多いという。2018年に発売した「iMUSE レモンと乳酸菌」も合わせた「iMUSEブランド」計では、1月の販売数量が前年比2倍以上で推移し、2月も同様の傾向が続いているとする。
このように、乳酸菌飲料が好調な推移を見せている理由の一つとして、新型コロナウイルス感染拡大中の今、「乳酸菌」というワードに「免疫力向上」といった健康・予防医学との関係性を見出し、人気が高まっていると推測されます。
「乳酸菌」×「免疫力」のキーワードで検索実態を調査
■キーワード検索者数は1年間で4.6倍に
そこで、「乳酸菌」及び「免疫力」の2つのキーワードを用いて、実際に検索しているユーザー数を調べてみたところ、2019年4月から2020年3月の1年間に4.6倍に急増していました。
また、前述の「2020年1月下旬から乳製品販売上昇が見られた」という記事と同様に、2020年1月から3月までの3ヶ月間の検索数は特に上昇しており、1.6倍にも伸びています。
図:「乳酸菌」及び「免疫力」のキーワード検索UU数
期間:2019年4月〜2020年3月
デバイス:スマートフォン
■「乳酸菌」×「免疫力」検索のLPランキングを調査
それでは、このキーワード検索をした結果、どのようなページが見られているか、2020年3月のLPランキング上位10位までを見てみましょう。
「免疫力を高めるためには」といった情報が多くみられている中、乳酸菌飲料の商品情報や、「コロナウイルス」を意識した記事も見受けられます。また同じ乳酸菌でも、「発酵食品」「納豆」というワードを含めたページもランキングにあがっています。
図:「乳酸菌」×「免疫力」LPランキング表
※2020年3月
続いて、どのようなページが閲覧されていたのか、ランキングの中からいくつか見てみましょう。
3位「免疫力を高める5つの食品」〜自然治癒力を高めよう!
全国共済水産業協同組合連合会の運営する「健康ナビ」というページにあるコンテンツの一つです。
「自然治癒力を高めるために免疫力を高めよう」と題して、「免疫力を高める食品」をわかりやすく5つに分類し紹介しています。
今回注目している「乳酸菌」は4つ目の「発酵食品」に含まれ、味噌・納豆・キムチ・チーズ・ヨーグルトなどの発酵食品と共に紹介されています。「善玉菌」が腸内を活発にして免疫力を高めてくれる」と紹介されています。
図:「免疫力を高める5つの食品」
5位「免疫力と発酵食品について」〜食べ方次第で誰でも免疫力は上げられる!
新潟県のある漬物店による「知って得する豆知識」というページのコンテンツ。「免疫力」についての明瞭な説明から、「なぜ免疫力が下がるのか」といった情報まであげられています。
そして注目は「腸」。腸管免疫システム(人間の腸には50%以上もの免疫細胞が集中するといわれ、これを専門的に「腸管免疫システム」と呼ぶそう。)を刺激し活性化するものとして、乳酸菌が有効だということが分かってきていると書かれています。
こちらにも「免疫力がアップする食事のポイント」として5項目ほど上がっており、3つ目に「腸内の善玉菌を活性化し、免疫力をアップする効能」として「乳酸菌」が取り上げられていました。
図:「免疫力と発酵食品について」
9位「新型コロナで注目、免疫力を高める食材はあるのか?〜食の研究所
今、最も注目されてるといっても良い「新型コロナウイルス」の予防法について特集されている、JBPRESSのページ。
冒頭では、首相官邸の「新型コロナウイルス感染症に備えて」のページ内「新型コロナウイルスに感染しないようにするために」というコンテンツ内の一文、『普段から、十分な睡眠とバランスのよい食事を心がけ、免疫力を高めておきます。』を紹介し、これに紐付け「免疫力(自然免疫と獲得免疫の違いなど)」について詳しく書かれています。
「「免疫力」とは曖昧模糊としているため、新型コロナウイルスに対し自然免疫と獲得免疫がどのくらい作用するかは、まだ十分に解明されていない。」としてはいるものの、今回の「新型」コロナウイルスに絞れば、まずは自然免疫が働くのでは?という興味深い見解も述べられています。
また、5位のページにも見られた「腸管免疫システム」にも触れており、腸内環境を整えて「免疫力」を高める方法の一つとしての「乳酸菌飲料」の需要増についても触れています。
図:「新型コロナで注目、免疫力を高める食材はあるのか」
代表的な乳酸菌飲料3商品のサイト訪問ユーザーを調査
これまでのいくつかのデータを見ると、やはり「乳酸菌飲料」の売り上げ増加の要因は、感染症予防において、「免疫力」を高める食品の一つとして「乳酸菌飲料」が選ばれている、ということが推測できそうです。
そこで、前述の記事にもあがっていた「乳酸菌飲料」商品のうち、明治乳業の「R-1」とKIRINの「iMUSE(イミューズ)」に、アサヒ飲料(カルピス)の「L-92」を加えた3商品で、各社サイトの訪問ユーザーを比較調査してみました。
図:明治「強さ引き出す乳酸菌」R-1
図:KIRIN「プラズマ乳酸菌」iMUSE
図:アサヒ飲料(カルピス)「守る働く乳酸菌」L-92
■3社のサイト訪問ユーザー数推移を調査
まず、2019年4月から2020年3月の1年間のユーザー数推移を見てみます。
上下動を繰り返しながらも右肩上がりとなっています。2020年2月からの上昇傾向は今後にも期待です。
図:乳酸菌飲料3社サイトUU数推移
期間:2019年4月〜2020年3月
デバイス:PC&スマートフォン
■直近3ヶ月間のユーザーを属性別に調査。性別平均はほぼ同数
続いては、2020年1月から3月までの3ヶ月間のユーザーを属性別に調査してみました。まずは性別のグラフです。
「アサヒ飲料 L-92」の女性率55.5%、「KIRIN iMUSE」の男性率56.2%と若干の差はあるものの、3商品共にほぼ男女半々と見て良いでしょう。
図:ユーザー属性別グラフ(性別)
期間:2020年1月〜2020年3月
デバイス:PC&スマートフォン
■年代別は、人気の商品にばらつきも
20代の「KIRIN iMUSE」への人気が目立ちます。500mlペットボトルタイプの商品であり、常温可能で持ち運びしやすく、水分補給としても飲める手軽さが人気の一つだそう。
全世代に浸透が見られたのは『体調第一家族』のCMが印象的な「明治 R-1」。幅広い層への人気を感じます。
図:ユーザー属性別グラフ(年代別)
期間:2020年1月〜2020年3月
デバイス:PC&スマートフォン
■未既婚別では、ファミリー層の方が乳酸菌飲料を飲む機会が多い?
女性の人気も高かった、カルピス社独自の機能性乳酸菌「L-92乳酸菌」を含んだ「アサヒ飲料 L-92」が既婚率では65.7%と最多。
一方で、小岩井乳業と共同開発した「プラズマ乳酸菌」配合の「KIRIN iMUSE」は未婚率が59.8%という結果になっています。
図:ユーザー属性別グラフ(未既婚別)
期間:2020年1月〜2020年3月
デバイス:PC&スマートフォン
まとめ
日々深刻さが増してゆく新型コロナウイルス感染拡大の中、少しでも感染予防になればという思いが「自己の健康管理」に繋がり、「免疫力をあげる乳酸菌」にたどり着いた結果、手軽に「乳酸菌」が取れる「乳酸菌飲料」が急速な需要増となったのではと推測されました。
消費活動にも大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス。今回の調査を通じて詳しく知った「免疫力」の有効性や、「乳酸菌飲料」などの手軽な予防法で、「できることから始める自己の健康管理」の重要性も改めて感じました。
調査概要
全国のモニター会員(20代以上男女)の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2019年4月~2020年3月におけるインターネット行動ログを分析しました。
※Webサイトユーザー数は、PC、スマートフォンからのアクセスを集計しヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
本記事ではeMark+を用いて調査を行いましたが、eMark+の機能がパワーアップした新ツール「Dockpit(ドックピット)」が2020年10月にリリースされました。まずは無料版に登録して、実際にDockpitを体験してみてくださいね。
■関連記事
ステイホームを「お取り寄せグルメ」で乗り切る人が急増!話題のお取り寄せサイト分析
https://manamina.valuesccg.com/articles/855新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国的にステイホームが奨励されています。飲食店も臨時休業している店舗があり、外食もままならない状況。「巣ごもり消費」という新たなトレンドも生まれる中、じわじわ盛り上がってきたのがお取り寄せグルメ市場。今回はステイホーム期間中のお取り寄せグルメ市場の動向についてまとめます。
巣ごもり消費でホットケーキミックスが爆売れ!炊飯器も大活躍?
https://manamina.valuesccg.com/articles/862新型コロナウイルスの影響で外出自粛が続く中、今、ホットケーキミックスや薄力粉・強力粉など小麦製品の品薄が続いています。マスクや消毒液が店頭から消えるのは理解できるにしても、なぜ、そしていつの間にホットケーキミックスが消えたの…?今回は「eMark+」を使って、”巣ごもりホットケーキミックス消費”の実態を探ります。
ファミマも売り始めたビーガン向け商品は今後の食トレンドとなるか?検索者は家庭で試せるレシピに興味
https://manamina.valuesccg.com/articles/886ヨーロッパやアメリカで取り入れられているライフスタイル「ビーガン」について、健康志向の高まりやインバウンドの増加などの影響から、日本国内でも目にする機会が増えてきています。本稿では、ビーガンに対してどのように関心が寄せられているのか、検索キーワードや人気コンテンツから実態を調査しました。
メールマガジン登録
最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします
マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。