コロナ禍で広島県観光連盟が実践したカスタマー理解のための「アンケート×行動ログ分析」とは|MarkeZine Day 2020セミナーレポート

コロナ禍で広島県観光連盟が実践したカスタマー理解のための「アンケート×行動ログ分析」とは|MarkeZine Day 2020セミナーレポート

広島県内およびその周辺県における観光事業の発展と振興・地域の活性化を図る、一般社団法人広島県観光連盟(HIT)。今回は2020年9月1日に開催されたMarkeZine Day 2020 Autumnで解説された、コロナ禍で広島県観光連盟が推進した、新たな商品開発における「圧倒的なカスタマー理解のための、ヴァリューズ独自保有のネット行動ログとアンケートを掛け合わせた分析手法」をご紹介します。


今回のセッションは「コロナ禍での新たな観光商品開発において広島県観光連盟が実践した、圧倒的なカスタマー理解のための「アンケート×行動ログ分析」とは」と題し、株式会社ヴァリューズ ソリューション局マネジャーの和田尚樹(わだ・なおき)と、一般社団法人広島県観光連盟(HIT) チーフプロデューサー 兼 常務理事事業本部長の山邊 昌太郎(やまべ・しょうたろう)氏が登壇し、様々なデータ活用や組織づくりに至るまで、興味深いセッションを繰り広げました。

図:スピーカー紹介①

図:スピーカー紹介①

図:スピーカー紹介②

図:スピーカー紹介②

一般社団法人広島県観光連盟(HIT)とは

山邊 昌太郎氏(以降、山邊):「広島県観光連盟(HIT)は、広島県の観光全体を促進するための組織です。一般社団法人として広島県の外郭団体の一つであり、各旅行関連の事業会社さん、広島県民のみなさん、あるいは他の地域のみなさんと協働して、広島県の観光を促進する立場にあります。」

図:広島県観光連盟 紹介サイト

カスタマー理解のためのデータ活用とは?

現在ヴァリューズでは、データの様々な活用方法(分析・組織の構築など)を、広島県観光連盟(以下、HIT) に向け提供しており、例としては主にプロダクトの開発、観光客の受け入れ改善に生かされているとのこと。扱うデータとしては、ヴァリューズ保有の「消費者データ」や、HITが保有する観光客のアンケートデータ、さらには外部のクチコミデータと多岐にわたっています。

和田 尚樹(以降、和田):「ヴァリューズへの仕事の依頼を考えたときに、どのような期待がありましたか?」

山邊:「ヴァリューズ社は、過去から含めての大量なネット行動ログデータをお持ちだというところが魅力の一つですね。単なる統計情報を出すといったことではなくて、仮説を立てるためにログデータから活用できないかという目論見がありました
また、このコロナ禍において、人々の価値観が大きく変わるという局面もあって、人々の行動がどう変わるのかが見えるというのも期待の一つでしたね。」

では、実際にどのようにデータ活用のサポートをしていったのか、全体感を見ていきます。

一般的に旅行に関する調査・分析をする際には、「旅行に関する分析」という一視点で行われがちですが、HITとのケースでは、あえて「旅行に直接関係しない分析」も積極的に行ったとのこと。目的としては対象物だけに拘らず、アイデアを広げるという意味合いもあったそう。

山邊:「日頃からよく話しているのは、当該のマーケットだけ見ても広がりはないということですね。旅行のデータを見るのはもちろん重要ですが、それ以外のカスタマーの行動の変遷を見るということが、旅行や、旅行を含むその他の行動の理解につながっていく、イメージができるという意図があって、幅広く調査・分析をお願いしています。」

図:データ活用・分析の全体感

図:データ活用・分析の全体感

とはいえ、データ分析を採用した当初は、HITの中でも「どうデータを活用すればいいか」という戸惑いの声があったと言います。そこで和田は、すでにHITが持っている「観光客のアンケートデータ」を業務活用から始めたとのこと。そういったHITにとって、身近なデータを活用し、段階を踏むことによって、現場の「データの活用方法」や「データ活用の有益性」の認知を上げていったと言います。

和田:「アイデアを広げるためだけにデータを扱うと急に言っても、現場としては難しい点も多いと思います。したがって、最初は業務サポートという視点からデータ活用を導入し馴染んでもらうことで「データって使える」と理解して頂きました
すると次第に「クラウドファンディングにどう繋げようか」とか「受け入れ補強としてのクチコミデータをどう利用しようか」というアイデアにつながる議論ができるようになりました。」

山邊:「今までもデータを使ってなかったわけではなかったのですが、それらは主に報告をするために利用する程度でしたので、自分たちのやろうとすることに戦略的にデータを活用するということはありませんでした。ですが、こうやって生のデータを見ることで刺激にもなり、色々な仮説・アイデアが出てくる、戦略的にデータを活用するという姿勢が生まれてきましたね。

図:「業務サポートのデータ活用」と「アイデアを広げるデータサポート」

図:「業務サポートのデータ活用」と「アイデアを広げるデータサポート」

実際の観光客のアンケートデータ分析を検証してみると…

続いては実際に用いられたアンケートデータでの事例を紹介。

和田:「そもそも報告のために取られたデータだったため、ローデータ自体を蓄積してその後も活用する視点で保持されておらず、さらなる深堀り分析やデータ資産として活用されにくい要因になっていました。」

そういった中、アンケートの設問の内容をより確認し、例えばどういった目的で広島県を訪問しているのかという設問をピックアップし、観光客のペルソナ像に繋げたりと、一つずつ分析に適したデータ整形を行っていったと和田は続けます。

図:観光客のアンケートデータ分析①

図:観光客のアンケートデータ分析①

ようやく集約できたデータや複数のエクセルは、BIツールで表現するのに適した形に整形し、BIツールで可視化。HITのプロジェクトではTableauを活用したとのこと。

データにまだ慣れていないスタッフのことも考え、プログラミングが必要ないツールのTableau Prepに置き換えるなど、チーム内で分析が自立できるように考慮したと言います。

図:観光客のアンケートデータ分析②

図:観光客のアンケートデータ分析②

和田:「可視化すると、データを戦略的に活用する事ができるようになります。例えば、今までとっていたアンケートデータを、クラウドファンディングのアイデアにも転用できると言った声が上がったりしているのも、大きな一歩だと思っています。」

既存保有のローデータでも、一つ一つ確認し分析向きに整形する事で、BIツールで可視化に繋げられ、さらに可視化される事で戦略が立てやすくなる、といった手法の興味深い事例と言えそうです。

VALUESパネルを活用したデータ分析の活用例

次にHITから要望があったのは、「広島県の旅行者の分析だけでなく、カスタマー全体、さらにいえば旅行をしない人も含めての行動分析」だったと言います。
ここで外部データ、ヴァリューズのデータを含め、その中で広島県への旅行者はどんな人かを深掘りしたとのこと。

この際に用いたのが、ヴァリューズ保有のモニターパネルに対して、今年の6月に実施した「今年の夏に旅行をするかしないか」というアンケートデータ。これにネットログ行動を掛け合わせて、旅行者の全体像をあぶり出し、分析した例を紹介します。

図:ヴァリューズのインターネット行動ログ分析事業

図:ヴァリューズのインターネット行動ログ分析事業

実際にどのようなデータを用いたのかというのが、下記のグラフになります。
2019年と2020年の旅行関係サイト全体がどのように動いたのかがわかります。
緊急事態宣言前後のデータをフォーカスして見てみます。

図:ヴァリューズ保有パネルを活用したデータ分析①

図:ヴァリューズ保有パネルを活用したデータ分析①

旅行の緊急事態宣言前後の旅行検討行動を深掘りしてみると、居住エリア内での旅行は、宣言解除後に盛り上がりを見せている事がわかります。また想定している期間(いつ頃旅行に行きたいか?)といった、細かい旅行の意向も見えてきました。

図:ヴァリューズ保有パネルを活用したデータ分析②

図:ヴァリューズ保有パネルを活用したデータ分析②

カスタマーのインサイト分析の重要性

さらにヴァリューズでは、HITでのデータ分析が根付くために、まずは実感を持ってもらい、そして実感を広げもらうために、インサイト分析、N=1の検索行動を起点にディスカッションし、想像を膨らませる取り組みを毎週取り組んでいるとのこと。

図:カスタマーのインサイト分析①

図:カスタマーのインサイト分析①

和田:「こういった取り組みを、山邊さんはどう思われますか?」

山邊:「観光業界に初めて取り組んでみて分かった事が、カスタマー起点ではないという事。ほとんどがプロダクトアウトな世界なんです。そこで、思い切りカスタマーのことを考えて、カスタマーになりきるくらいにならないと、カスタマーに寄り添った商品もサービスも生まれてこないと考えました。
だからいつも、メンバー全員にカスタマーの気持ちになるよう強く言っているですが、そうなるための活動の一つがこれですよね。

色々な人に面と向かってインタビューできればいいことなのですが、一方でこういった生のログデータをずっと見ていくことで、あたかもこの人になりきったかのような、よく「憑依する」と表現するのですが、「憑依して体感する」ことによって、カスタマーの気持ちや行動を擬似体験する。そうすることで、僕たちがこれから行っていくサービス、あるいは商品といったところに、役立てていけるのではないかなと考えています。

そうした意味で、ネットログデータという「生々しさ」は大変役立つと思っています。僕自身、過去の職務の経験上から言っても、ネットには人の本音が現れてくると思っているので、ネットログデータというのは、なかなか見えない裏の面まで垣間見ることができる、すごく大事な手法だなと思っています。」

和田:「アンケートなどで見られる「表のデータ」と、ネット検索行動などから見られる「裏のデータ」、こういった「表裏」合わせて理解する事で、より深いカスタマー理解に繋がるという事ですね。」

図:カスタマーインサイトのまとめ

図:カスタマーインサイトのまとめ

まとめ

和田:「HITとしては今後のカスタマー理解について、どのように進めていかれるのでしょうか。」

山邊:「重複してしまいますが、データを使って何かしたい、カスタマーをとにかく理解したいわけですね。カスタマーを理解した上で戦略を打ちたいのですけれども、その時に、データを見る側が、何かしらの意図を持たないとデータは活きてこないと思うのです。

統計的なデータもさることながら、これから先の未来に向けての、お客様のログデータを見て分析するとなると、尚更、我々の確固たる意図が必要となると思うので、そういったところをさらに試行錯誤しながら、引き続き取り組みたいと思っています。」

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この記事のライター

マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。

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