リアルな会話への飢えを満たすClubhouse ~コロナが及ぼす影響とこれからを考察

リアルな会話への飢えを満たすClubhouse ~コロナが及ぼす影響とこれからを考察

アメリカ発の音声SNSアプリ「Clubhouse」が2021年1月に日本に上陸し、大ブームを巻き起こしています。既存SNSで招待を求める声が相次ぎ、その投稿を見てアプリの存在を知ったという方も多いのではないでしょうか。今回はヴァリューズ蓄積の検索データに加えてClubhouse初心者の筆者と、上陸初期からフル活用されているというヴァリューズのマーケティングコンサルタントの見解を交えながら、流行の背景や現状、今後の展望について分析・考察していきます。


縮まるソーシャルディスタンス

引用元:App Storeの画面キャプチャ

まずは「Clubhouse」と検索したユーザー数の推移を見てみましょう。

キーワード「Clubhouse」の検索ユーザー数推移
対象期間:2020年3月~2021年2月 対象デバイス:PC&SP

実際に2021年1月に入ってユーザーが急増していますね。日本版がリリースされたのは1月下旬なので、短期間で爆発的に関心を集めていることがわかります。

このようなClubhouse導入のイノベーターはどのような人々なのでしょうか。

次の画像は、検索者の関心ワードを特徴値が高い順に並べたものです。

「Clubhouse」を検索する人の関心ワード
対象期間:2020年8月~2021年1月 対象デバイス:PC&SP

上位10位のカテゴリをまとめると以下のようになります(「ビジャレアル」はスペインのサッカーチーム)。

VODサービス:Amazonプライムビデオで配信中の「バチェロレッテ」、
       Netflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」
オンラインイベント:主催者と参加希望者が出会うプラットフォーム「Peatix」
オンラインコミュニティ:セミナー開催も可能な「オンラインサロン」
SNSアプリ:「Snapchat」を展開する米国企業「SNAP」
オンライン会議ツール:興味のあるルームを選べる「Remo」
システム・IT系:「FINDER」、「AWS」、「エンジニア」

このように、最新のVOD作品を押さえておきたい人、オンライン上の繋がりを求めている人、セミナーなどのオンラインイベントに関心のある人、ITシステム関連の人がClubhouseのトレンドをいち早く掴んでいることがわかりました。コロナ禍においてもオンラインで積極的に他者との交流を楽しもうとする傾向が見られますね。

Clubhouseが提供するリアルな会話のテンポ感は、知らない人同士でも気軽に話せる距離感を生み出し、自粛中で会話に飢えている人々のニーズを満たすものだと思われます。遠く離れた著名人ともリアルタイムで時間を共有することを可能にし、ソーシャルディスタンスの確保が求められるコロナ以前よりもむしろ他人とのバーチャル上の距離感を縮めたことは、Clubhouseがブームを巻き起こしている一因と言えるでしょう。

「ながら聴き」ニーズに応える

コロナ禍が追い風になった点として、Clubhouseがコミュニケーションの飢えを満たしたことに加え、ながら聴きの需要に応えたこともユーザー獲得に繋がったと考えられます。実際にコロナ禍でリモートワークが広がったタイミングで、「Podcast」や「radiko」など代表的な音声配信サービスの検索者にも伸びが見られました。

キーワード「Podcast」の検索ユーザー数推移
対象期間:2019年2月~2021年1月 対象デバイス:PC&SP

キーワード「radiko」の検索ユーザー数推移
対象期間:2019年2月~2021年1月 対象デバイス:PC&SP

在宅ワークに付いて回るのが、静かすぎて逆に集中できないという悩みです。職場では周りの作業音や声など、家には無い適度な雑音があるものです。かといって、感染リスクからカフェにも行きにくい状況。

そんな中、作業用BGMとしてClubhouseを流すという使い方もあるのではないでしょうか。職場やカフェで聞かれるような「今その時」の会話のテンポ感は、はきはきと企画を進めていくYouTube動画等よりも耳ざわりが良く、かえって集中して作業に取り組むことができそうです。また、筆者はよくYouTube動画を流しながら作業しますが、定期的に広告を消さなければならず煩わしさを感じることもあります。その点Clubhouseには現状広告がなく、ながら聴きがしやすいように感じました。

音声のみのツールであるため、外見の支度をする必要がないのもリモートワーク生活中の女性には嬉しいポイントですね。

Clubhouseに向いている人、今後の見通しは?

ここからは、Clubhouseが日本に上陸した初期から活用されているという、マーケティングコンサルタントの青木さんへのインタビューを交え、Clubhousブームの背景や現状、今後流行りそうなSNSアプリについて考察していきます。

株式会社ヴァリューズ 
データマーケティング局 マーケティングコンサルティング1G アシスタントマネジャー 青木成美さん

日本に上陸して間もない1月26日にTwitterで友人づてにClubhouseを知ったという青木さん。既存SNSが新規SNSの認知に役立っている状況がうかがえます。

完全招待制という物珍しさから、SNSに上がる招待を求める投稿のインパクトは大きかったと思われます。ユーザー1人につき与えられる招待枠は2人ということから、いち早くトレンドに乗ってマイノリティに入りたいというイノベーターの欲求を掻き立てたことが、爆発的なユーザー増に繋がったと青木さんは考察します。

青木さんのClubhouseコミュニティは起業家から芸能系、一般層へと1日ごとに広がったそうで、「友達の友達と簡単に友達になれる」というコミュニティの広がりやすさが面白いポイントだと言います。

しかし実際に筆者がClubhouseを使ってみて気になったのが、具体的にどうやってコミュニティが広がっていくのかということ。リスナーとして会話を聞いているスタイルでは、知らないユーザー同士で相互フォローはあるもののそれ止まりで、友達になるまでに至るコミュニケーションを取るのは難しいように感じていました。

そんな筆者との活用法の違いは、青木さんは当初からスピーカーとしてルームに参加してきたということでした。Clubhouseではルームを立ち上げたモデレーターが許可すれば、リスナーからスピーカーに昇格することができます。リスナー自身が挙手して発言することもあれば、モデレーター側がリスナーの中から知り合いを見つけて登壇させることもあり、こうしてスピーカー同士となって会話するうちに友達になることができるそうです。前のルームで話したユーザーが、次のルームで他の友達を連れてくるケースもあり、こうしてコミュニティが広がっていく仕組みになっています。

またモデレーターがリスナーの中からプロフィールを見て面白そうな人を昇格させることもあり、この人と話してみたいと思わせる充実したプロフィールにすることも、スピーカーになる可能性を上げるために必要だと思われます。

引用元:進行中ルームの画面キャプチャ
参加者は上から「Speakers」、「Followed by the speakers」、「Others in the room」に振り分けられる。

このようにClubhouseは自分で喋りたい人、言語化して話せる考えがあって大勢が話している中で挙手して発信できる人、友達を作りたい人など、積極的にコミュニケーションを取ろうという人向けのプラットフォームと言えます。スピーカー側に回る人は継続しやすいと予想されますが、リスナー専門の人はClubhouseのヘビーユーザーにはなりにくいのではないかと青木さんは指摘します。筆者も同年代の友人たちに使い心地について聞いてみたところ、聞くだけなので飽きた、という声がよく聞かれました。

Clubhouseは音声配信サービスに分類されますが、Podcastやラジオなどのサービスに取って代わる可能性はあるのでしょうか。

これらの既存サービスとの違いは、あらかじめ企画やコンテンツづくりをきっちり行っているかいないか、ということです。準備を十分に行った上でプラットフォームだけClubhouseに移行するユーザーは出てくるかもしれませんが、Clubhouseでぱっと集まってリスナーのインプット用のものを流そうとするとスピーカー側に高度な即応力やコミュニケーション能力が求められるため、既存サービスに全く代替するものではないと青木さんは分析します。

しかしClubhouseの強みはその場でしか聞けない話題の希少性(アーカイブは残らず記録を取ることは禁止されているため)や、リスナーの発言に対しその場で応答できることなので、それらを重要視するユーザーが移行することは考えられます。

これらのことからClubhouseは、発言ありきのスタイルやアドリブ力が求められるために認知が広まりきってからユーザーが増えることはなく、Twitterやmixiのようにユーザー数が急増した後に減少し、それから安定すると青木さんは推測しています。実際に初期と比べるとルームの数は半分ほどに落ち込んでいます。初期はとにかくフォロワーを増やしたい人やインフルエンサーになりたい人が多く、今やるしかないというFOMO(Fear of missing out:取り残されることへの恐れ)に駆られたユーザーが多かったために急激にユーザーが増えましたが、既にそれが落ち着いてきている状況にあるということですね。

また青木さんはスピーカーとしての目線から、発言側に回ると拘束時間が長くなるため、コロナ感染が収束して自粛生活が終われば今よりも利用時間が減る可能性についても言及しました。

Clubhouseイノベーターが考える「次に来るSNS」

最後に、他に気になるSNSについてもお聞きしました。

Dispo

一番流行りそうなSNSアプリとして青木さんが注目しているのが、2021年2月24日に正式リリースされた「Dispo」です。カメラとSNSの要素を組み合わせたこのアプリは、何時に撮っても翌日9時まで写真を見ることができないというわくわく感を提供。現像に時間を要するフィルムカメラの要素を取り入れたものですが、ここぞという時にはフィルムカメラを利用し、常用はDispoで撮影というように兼用するユーザーが増えているようです。

例えばInstagramのストーリー機能では投稿内容が24時間で消えてしまうため、その瞬間見るように仕向けている一方で、Dispoはそれを逆に見せないことによって、リアルタイムで見ていなければならないという従来SNSの呪縛からユーザーを解放することを可能にしています。SNS機能の逆行を求めるユーザーのニーズが見えて面白いですね。

Gowalla

次に注目しているのが「Gowalla」。自分の位置情報をチェックインして、「今ここにいるから会おう」というようにユーザー同士がオフラインで集まることができます。正式リリースはまだされておらず、ゲーム要素を強めてリリースする方針で現在テスト段階にあるとのことです。

Roadtrip

RoadtripはClubhouseの音楽版のような位置づけで、ルームに音楽を流す側と聞く側の人々が集まるというもの。友達がフォローしている人のルームに入ったり、流す側になって好きな音楽を流すだけで、趣味が合う人と簡単に繋がれるアプリです。

コロナ禍においても続々と新しいSNSが誕生し、支持を集めていることは、いかに人々が外の世界との繋がりを求めているかということを伺うことができます。

まとめ

緊急事態宣言下で一大ブームを起こしたClubhouseは、自粛生活の中で生まれた会話や人との繋がりへの飢餓感を満たす新しいSNSとしての地位を確立しつつあります。

爆発的にユーザーを増やしている一方で、今後も継続して利用するユーザーは、自ら発信していくという会話への主体性がある人や、行き当たりばったりでもすぐに対応できる反射能力のある人に限られるのではないか、という指摘もあります。しかし、リスナーからの質問にリアルタイムで対応し、そこからさらなる議論が生まれるという点は、セミナーなどこれからのビジネスに活用できる点でもあります。入れ替わりの激しいSNS界で、今後Clubhouseがどのような役割を担っていくのか必見です。

本調査が、皆様のお役に立ちますと幸いです。

【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年2月〜2021年2月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC&SP

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この記事のライター

1997年生まれ、大阪大学卒。データアナリストを経て、Webマーケティング・リサーチを軸に、コンテンツディレクション、SNS運用、デジタル広告運用などを担当。現在はフリーで活動しています。

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