CV増が「正解」とは限らない?顧客ロイヤルティを表すNPS®とネット行動の関係とは?

CV増が「正解」とは限らない?顧客ロイヤルティを表すNPS®とネット行動の関係とは?

「ブランドや商品・サービスに対する顧客のロイヤルティを数値化したNPS®(Net Promoter Score)」は、日本でも様々な業界で取り入れられつつあります。しかし、NPS®と実際のネット行動の関係性はまだあまり明らかにされていません。本稿では、「NPS®とは」のそもそもの定義から、調査事例、批判者~中立者のネット行動の傾向までを解説します。


いつも「マナミナ」を読んでいただきありがとうございます。ヴァリューズでマーケティングコンサルタントを務めている向井優と申します。

このコーナーでは、消費者の購買意識やネット行動について、マーケティングでよく課題となるテーマに焦点をあて、実際の調査事例をもとに解説しています。

前回は、消費者の記憶と実行動に焦点をあて、その乖離や実態をお話ししました。

今回は、顧客ロイヤルティを数値化した指標NPS®について、意外と明らかにされていないネット行動との関係性に焦点をあて、実際の調査結果をもとにお話しします。

ヴァリューズでマーケティングコンサルタントを務めている向井優

向井優(むかい・すぐる)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント
京都大学大学院で中国哲学史を専攻。前職では外務省や大手ホテル等を中心に訪日外国人施策を担当。ヴァリューズでは、国内でのマーケティング支援を行う一方で、食品・飲料・ヘルスケア領域を中心に中国本土進出・越境EC・訪日中国人市場の調査/マーケティング支援を行っている。趣味は旅行と漢文・民俗学の文献研究。

顧客ロイヤルティを数値化するNPS®とは?

「NPS®(Net Promoter Score)」とは、ブランドや商品・サービスに対する顧客のロイヤルティを数値化した指標です。アンケート形式で取得したデータから算出されます。

※Net Promoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)、フレッド・ライクヘルド(Fred Reichheld)、サトメトリックス・システムズ(Satmetrix Systems)の登録商標です。

(図 NPS®の調査イメージ)

(図 NPS®の調査イメージ)

単なる満足度と異なり「薦める」という要素が加わることで、今後の収益性との相関が高いとされています。

(図 NPS®と成長率イメージ)

(図 NPS®と成長率イメージ)

欧米の公開企業では3分の1以上が活用しているとも言われており、日本でも顧客満足度に並ぶ新たな指標として注目を浴びています。

ただし、日本人はNPSスコアがマイナスになりやすいとも言われており、スコアの絶対値を比較するよりも、他社との相対比較やKPIとして定点的にスコアの推移を観測する際に活用されています。
(逆に海外の調査では、国によっては認知度が上振れする傾向もあるので、それはそれで注意が必要です。)

ここで実際にNPS®調査を行った例を見てみましょう。

下の図は、証券会社の利用者に対し、NPS®調査を行った例です。

(図 証券会社のNPS®調査 VALUES自主調査より)

(図 証券会社のNPS®調査 VALUES自主調査より)

NPSスコアが最も高いのはSBI証券、次いで、松井証券、楽天証券となっており、全体的にネット証券のスコアが高い傾向がみられます。一見、消費者には違いが分かりにくい証券会社ですが、利用者の満足度は、事業形態で異なることが分かります。

また、NPS®調査では、推奨者や批判者それぞれの満足点や不満点を洗い出して行き、サービスの改善点や訴求上の強みを探ることもあります。

SBI証券、野村証券の2社について、利用者が自由回答で記入した、推奨する理由、しない理由をワードクラウドで可視化してみました。文字のサイズが大きいものほど、記入者が多かったワードです。

(図 証券会社のNPS®調査 VALUES自主調査より)

(図 証券会社のNPS®調査 VALUES自主調査より)

SBI証券の推奨者は「手数料が安い」という回答が多く、批判者には「可もなく不可もない」や「サイトの使い勝手が悪い」という回答がみられました。

一方、野村證券では推奨者は「業界最大手による安心感」、批判者は「取り引き手数料が高い」という内容が多くを占めていました。

各社の強み、弱みが明確に表れているのではないでしょうか。

自社サービスの改善点を探ろうとしても、多くの要望が利用者から出てしまい、優先順位を定めることが難しい場合がありますが、推奨者、批判者に分けてそれぞれの要望を見て行くことで、どの層に対する打ち手なのかを明確化し、集中的にリソースを投下することが可能です。

CV数増が正解とは限らない?NPS®とネット行動の意外な関係

では、推奨者や批判者でネット購買行動は異なるのでしょうか。

下の表は、ある大手旅行予約サイトの利用者について推奨者/中立者/批判者のサイト接触状況を集計したものです。(集計対象期間は1年分)

(図:旅行サイトのNPS®と利用実態 VALUES自主調査より)

(図:旅行サイトのNPS®と利用実態 VALUES自主調査より)

評価が高い人ほどPV数も多く、CV率は推奨者が最も高くなっているのは、納得感もあるかと思います。

しかし、意外な事に中立者よりも批判者の方が、CV率が高いのです。

実はこうした意識と実行動の乖離はたびたびみられる現象です。「利用者のリテラシーが低い」「競合サービスの認知度が低い」等の為に「余り好きではないけれど他に良いものが無いから使う」という層が少なからず存在している可能性が考えられます。

こうした場合、事業のKPIとしてCV数のみを追い続けてしまうと、獲得する層が偏り、いつの間にか中立者が競合に流出してしまう、利用者は増えたが満足度が低く単価が低下するといったこともしばしば起こってしまいます。

広告部門とCS部門が分かれているケースも多い、Webマーケティングの落とし穴と言えそうです。

また、「推奨者」「中立者」「批判者」でサイトへの流入経路も異なる場合があります。この旅行サイトの評価別での流入経路を見てみましょう。

(図:旅行サイトのNPS®と利用実態 VALUES自主調査より 一般広告:GDN、YDN、DSP等)

(図:旅行サイトのNPS®と利用実態 VALUES自主調査より)

※一般広告:GDN、YDN、DSP等

広告からの流入率では中立者>批判者>推奨者の順になっています。
広告をクリックするからと言って、好意的なユーザーとは限らない」というのはなかなかシビアな話です。

NPS®が影響するのは、CV数や流入経路だけではありません。この旅行サイトについて、NPS®の回答者の1年間のサイト接触状況を集計してみました。

(図:NPSの回答者の1年間のサイト接触状況 VALUES自主調査より)

(図:NPSの回答者の1年間のサイト接触状況 VALUES自主調査より)

推奨者のアクセス数が全期間を通して高くなりそうですが、実際にはそうではありません。

1月~7月は推奨者>中立者>となっていますが、批判者、推奨者は10月以降訪問回数が減り、中立者との差が広がっています。11、12月に至っては、推奨者の利用者率はむしろ低下しています。ここから、サイトを訪れるタイミングも推奨者~批判者で異なることが分かります。

まとめ

今、自社サイトを訪れているのは誰なのか?が改めて問われている

ここまで、NPS®と消費者のネット行動について、証券会社と旅行サイトの事例をもとにご紹介しました。

特に
広告をクリックするからと言って、好意的なユーザーとは限らない
サイトを訪れるタイミングも推奨者・批判者で異なる
といった点についてWeb行動ログとアンケートの掛け合わせをもとにお話しいたしました。

実際に仲介サイト等では、メディア運営部門はKPIとしてCV数を追っていても、送客後の店舗等での満足度・NPS®が低い、というケースはしばしば問題となっています。

「今、その経路からサイトに流入しているのは推奨者なのか?批判者なのか?」を考えることが重要と言えそうです。

*本稿でもご紹介した旅行予約サイトの利用者を対象としたNPS®調査の事例レポートは、下記フォームから無料でダウンロード頂けます。興味を持たれた方は、ぜひ無料ホワイトペーパーをダウンロードしてみてください。

ホワイトペーパーダウンロード【無料】|NPS®調査(旅行サイト)レポート

資料のダウンロードURLを、ご入力いただいたメールアドレスに送付させていただきます。
ご登録頂いた方にはVALUESからサービスのお知らせやご案内をさせて頂く場合がございます。

この記事のライター

京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。

関連するキーワード


KPI

関連する投稿


ECサイトにおけるKPI策定のポイント

ECサイトにおけるKPI策定のポイント

ECサイトの売り上げをあげるためには、KGIの設定だけではなく、KPIの策定が重要なポイントになります。そこで、気になるKPIの策定ポイントや、課題の洗い出し・分析についてご紹介します。効果的なマーケティング施策にお悩みの方や、ECサイトの売り上げが伸び悩んでいる方はぜひ参考になさってください。


意外と知らない?!Webサイトの「滞在時間」や「直帰率」の業界平均は?

意外と知らない?!Webサイトの「滞在時間」や「直帰率」の業界平均は?

自社サイトを評価をする手段の1つとして「滞在時間」や「直帰率」を指標にしているものの、その数字が適正なのか分からないマーケティング担当者も多いのではないでしょうか。今回はいくつかの業界をピックアップして、Webサイトの「滞在時間」と「直帰率」の平均について調査しました。ぜひ、自社サイトの目安にしてみてください。


第一想起、購入意向など...ロイヤルティKPIとして選ぶべき指標は? | ホワイトペーパー

第一想起、購入意向など...ロイヤルティKPIとして選ぶべき指標は? | ホワイトペーパー

KGI(Key Goal Indicator / 最終目標)を達成する上で設定しておくべきKPI(Key Performance Indicator / 中間目標)。しかし、似たような指標が多かったり、アンケート結果と実際の数値に乖離があるなど、悩みが尽きないのがロイヤルティKPIです。ブランドが追っていくべき適切なKPIを設定するには、どうすべきなのでしょうか?KPIと購入の関連度を検証しました。


もう迷わない!KPI・KGI・KSFの違いを徹底解説

もう迷わない!KPI・KGI・KSFの違いを徹底解説

事業の目標達成にあたって重要なKPI・KGI・KSFという3つの用語。似た略称で区別しづらいので、曖昧な理解になっていませんか?KPI・KGI・KSFの定義とそれぞれの違い、使い分けを説明します。KGIで設定した目標・ゴールに向けてその達成に必要な要素を洗い出し(KSF)、各要素の達成具合を定量的に見る(KPI)という関係があります。


カスタマーサクセスのKPIに使う指標とは?チャーンレート・LTVなど

カスタマーサクセスのKPIに使う指標とは?チャーンレート・LTVなど

顧客の成功を支援するカスタマーサクセスですが、その結果として契約更新を目指すだけが目的ではありません。カスタマーサクセスのKPIとしては顧客生涯価値を最大化するLTV、解約率を見るチャーンレート、オンボーディング完了率、アップセル/クロスセル率などの指標を使います。


最新の投稿


BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、全国のマーケティングコンサルタントを対象に、「BtoBマーケターが始めた方が良いこと」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


デビットカードは日本でも覇権を握るのか? 検索者の実態をクレジットカードと比較調査

デビットカードは日本でも覇権を握るのか? 検索者の実態をクレジットカードと比較調査

即時払いで決済を行うデビットカード。キャッシュレス決済全体に占める割合はまだまだ低いものの、利用者や利用場面は着実に増加しており、成長の兆しを見せています。本稿では、そんなデビットカードの検討状況について、キャッシュレス決済カテゴリのマーケットリーダーであるクレジットカードと比較し、今後の市場動向を占います。


博報堂DYMP、日本経済新聞社・東北新社と企業ブランディングのためのドキュメンタリー動画広告企画を開発

博報堂DYMP、日本経済新聞社・東北新社と企業ブランディングのためのドキュメンタリー動画広告企画を開発

株式会社博報堂DYメディアパートナーズは、株式会社日本経済新聞社、株式会社東北新社とともに、ドキュメンタリー動画を制作・提供する広告企画「日経ブランドドキュメント」を開発したことを発表しました。


2024年人気アニメを振り返る!ヒットを生む「勝ちパターン」とは?

2024年人気アニメを振り返る!ヒットを生む「勝ちパターン」とは?

コンテンツには事欠かない現代ですが、話題を呼ぶ人気作には、どのような「勝ちパターン」が存在するのでしょうか。2024年に放送された新規アニメ「薬屋のひとりごと」「逃げ上手の若君」「怪獣8号」「ダンジョン飯」に、11月に劇場版が公開された「進撃の巨人」を加えて、消費者の関心を調査しました。


2024年トレンド総決算!6つのテーマのマーケティング調査で振り返る

2024年トレンド総決算!6つのテーマのマーケティング調査で振り返る

マナミナでは、国内最大規模の消費者オンライン行動データを活用して、世の中のトレンドを調査しています。2024年もさまざまなトレンドを記事として取り上げてきました。今回は調査記事の総集編として、2024年のトレンドを振り返ります。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ