Edtech(エドテック)とは、Education(教育)とTechnology(科学技術)を掛け合わせた造語であり、教育をテクノロジーの力で革新していく概念です。
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)によると、2025年のEdTechの世界市場規模は約38兆円と予測されており、2018年の市場規模である約17兆円から約2倍の成長が見込まれています。日本国内の市場規模は2,403億円(教育市場全体は約2.5兆円)とされています。(参照:Edtech市場|独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO))
そんなEdtech市場の中で、近年のオンライン需要の拡大を受け、英会話やプログラミングといった「オンライン教育」が盛り上がりをみせています。実際に、これらの学習サービスを利用するようになった方も多いのではないでしょうか。オンライン教育サービスを提供する企業も増えてきており、投資先としての注目も集まってきています。
そこで今回はオンライン教育に焦点を当て、「英会話」や「プログラミング」といったカテゴリごとの動向、業界シェア、各サービスのユーザーの特徴を調査しました。
EdTechの市場動向は?プログラミング教育のユーザー数が前年比157%増
EdTechとはいっても、様々なカテゴリがあります。まずはカオスマップから業界全体を俯瞰してみました。こちらはStudyplusが作成したEdtech業界のカオスマップです。
ICT教育(Edtech)サービス提供事業者マップ
学習支援系やオンライン授業系、toB向けの支援系(公務支援や授業支援)、オンライン英会話やプログラミング教育など、幅広いサービスがあることが分かります。
今回は、toBのサービスや学習支援系、学習管理系のサービスは除き、toC向けに学習コンテンツを提供しているサービスに絞って調査しました。また、サービスごとの横比較がしやすいように、今回はアプリは除き、Webサイトを通して学習コンテンツを提供しているサービスに限定しています。
カオスマップを参考にして、「オンライン教育」「プログラミング」「社会人向けリカレント教育」「オンライン学校」「MOOCs」の5つのカテゴリに分類し、以下の合計20サービスをピックアップしました。
今回取り上げるオンライン教育のカテゴリ、サービス一覧
まず、Edtechのサービスがどれくらい伸びているのか、ユーザー数推移を調べてみましょう。
ヴァリューズが提供するWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて、今回対象にした「オンライン教育」「プログラミング」「社会人向けリカレント教育」「オンライン学校」「MOOCs」の5つのカテゴリごとに月間訪問ユーザー数を集計し、直近2年間の推移を調べました。次のグラフをご覧ください。
オンライン教育業界のカテゴリ別のユーザー数推移
期間:2019年11月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
まずグラフのユーザー数規模に着目すると、「プログラミング教育(青)」と「オンライン英会話(オレンジ)」は特にユーザー数が大きな業界であることが分かります。この2つの業界はどちらも直近2年間でユーザー数が増加しており、業界全体の成長が見受けられます。直近1年間の増加率よりも2年前~1年前の期間の増加率の方が高いことから、コロナ前後でユーザーが増えていたことが読み取れます。特に「プログラミング教育」は第一回緊急事態宣言のタイミングで「オンライン英会話」のユーザー数を超え、それ以降、現在にいたるまでの約1年半の間、多くのユーザーを獲得し続けています。
また、「プログラミング教育」は緊急事態宣言中に多くのユーザーを獲得しているのが特徴です。キャンペーンや広告等の集客施策を緊急事態宣言の期間内に集中させた事業者がいたのかもしれません。
次に「社会人向けリカレント教育(グレー)」に注目してみましょう。この分野は直近1年間でユーザー数が増加しており、特にここ3か月間の増加率には目を見張るものがあります。この点については後ほど詳しく解説しますが、あるサービスが多くのユーザーを獲得していました。
また、「社会人向けリカレント教育」では2019年、2020年ともに年末(12月)のユーザー数が少ないのが特徴です。会社員のユーザーが多いため、年末はクリスマスや帰省などが重なって自己投資に充てる時間が減る動きがあるのではないでしょうか。
▼関連記事:教育アプリの調査については下記の記事をご覧ください。
コロナ影響で休校はいつまで続く?教育アプリに子どもも大人も注目
https://manamina.valuesccg.com/articles/840新型コロナウイルスの影響で全国の都道府県に緊急事態宣言が出されたことにより、学校は全国的に休校処置が取られています。そんな中、学習習慣を途絶えさせないために、学習塾などはオンライン授業を行ったり、教育関連企業が学習支援サービスを提供したりする動きが目立ちます。また、学習・教育関連スマホアプリの中には、この1ヶ月でユーザー数が急増しているアプリも。今回は、そんな情勢を受けての教育アプリの利用状況について分析します。
オンライン英会話ではDMM英会話が約70%のユーザーを安定して獲得
以降はユーザー数規模が大きかった「オンライン英会話」「プログラミング教育」「社会人向けリカレント教育」の3つの業界について、さらに深掘って調査していきます。
■オンライン英会話業界の業界シェア
まずはオンライン英会話業界の動向について、DMM英会話、レアジョブ英会話、ネイティブキャンプ、Camblyの4つのサービスの業界シェアから調査します。直近2年間のユーザー数割合の推移がこちらです。
DMM英会話、レアジョブ英会話、ネイティブキャンプ、Camblyのユーザー数割合推移
期間:2019年11月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
「DMM英会話(青)」の業界首位のポジションは、2年間を通して安定しています。シェアは60~70%程度で一定ですが、業界全体のユーザー数は増えていることから、ユーザー数は増えていると思われます。
また、業界シェアを堅調に伸ばしている「ネイティブキャンプ(緑)」は、第一回緊急事態宣言が発令された2020年4月のタイミングでシェアを拡大しています。「レッスン受け放題」という同サービスの特徴が、コロナ禍に入っておうち時間が増えた背景とかみ合って、多くのユーザーを獲得したのではないでしょうか。
■オンライン英会話業界のポジショニングマップ
続いて、DMM英会話、レアジョブ英会話、ネイティブキャンプ、Camblyの4つのサービスのユーザーの特徴と比較してみます。直近3ヶ月間のユーザーを対象に、性年代ごとの特徴を可視化したポジショニングマップがこちらです。
DMM英会話、レアジョブ英会話、ネイティブキャンプ、Camblyの性年代別ポジショニングマップ
期間:2020年8月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
オンライン英会話業界の4つのサービスでは、性年代の軸では大きな違いは見受けられませんでした。共通している特徴として、20代~40代のユーザーがボリュームゾーンであり、男女比はやや女性の方が高い傾向にあることが分かります。
その中で、他サービスと比較してネイティブキャンプはやや女性比率が高いようです。定額でレッスン受け放題というおトクなサービス特徴が、可処分時間が比較的多い主婦層からの支持を集めているのではないでしょうか。
プログラミング教育はTECH::CAMP、Udemyの成長で競争は激化か
■プログラミング教育業界の業界シェア
プログラミング教育業界の動向について、テックアカデミー、Udemy、Progate、TECH::CAMPの4つのサービスの業界シェアから調査します。直近2年間のユーザー数割合の推移がこちらです。
テックアカデミー、Udemy、Progate、TECH::CAMPのユーザー数割合の推移
期間:2019年11月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
この2年間で、プログラミング教育業界のパワーバランスがゆるやかに変化してきている傾向が見受けられました。業界トップは2年間通して「テックアカデミー」ですが、業界シェアはここ1年間で減少傾向にあるようです。
一方、シェアを伸ばしているのは「Udemy」と「TECH::CAMP」でした。2019年において「Progate」よりもややシェアが小さかった両サービスですが、コロナ禍に入ってからシェアを拡大し、現在では「Progate」のユーザー数を抜いています。
■プログラミング教育業界のポジショニングマップ
続いて、テックアカデミー、Udemy、Progate、TECH::CAMPの4つのサービスのユーザーの特徴と比較してみます。直近3ヶ月間のユーザーを対象に、性年代ごとの特徴を可視化したポジショニングマップがこちらです。
テックアカデミー、Udemy、Progate、TECH::CAMPの性年代別ポジショニングマップ
期間:2020年8月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
業界全体の特徴として、男性比率が62~67%と高くなっています。また、平均年齢も低く、オンライン英会話が20代~40代の幅広い年代に利用されていたのに対し、プログラミング教育は20代のユーザーがボリュームゾーンとなっていました。
「Progate(黄)」は特にその特徴が強く見受けられ、男性比率が66.5%、20代のユーザー割合が47.6%と、若年層の男性からの人気が高いサービスであることが分かります。
「テックアカデミー(緑)」、「TECH::CAMP(青)」はユーザー数、ユーザー属性ともに類似度が高いことから、競合関係が強いと思われます。TECH::CAMPがユーザー数を伸ばしているなか、テックアカデミーが今後どのように対応していくのか注目したいところです。
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社会人向けリカレント教育では「グロービス学び放題」の今後に注目
■社会人向けリカレント教育業界の業界シェア
社会人向けリカレント教育業界の動向について、4つのサービスの業界シェアから調査します。直近2年間のユーザー数割合の推移がこちらです。
ストアカ、資格スクエア、Schoo、グロービス学び放題のユーザー数割合の推移
期間:2019年11月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
先ほど、業界全体の特徴として、年末(12月)にユーザーの利用率が下がると考察しました。2019年、2020年の年末(12月)において、業界シェアに大きな変化はみられないため、12月にユーザー数が減るのは業界全体の特徴と捉えてよさそうです。
また、業界全体のユーザー数が直近3か月で増加していたのは、「グロービス学び放題(黃)」が牽引していたことが分かります。
業界シェアの変遷として、2019年11月から2021年7月の間は、4社のパワーバランスは小さな変化がありつつも拮抗してきたように見えます。しかし、直近2ヶ月ではグロービス学び放題が多くのユーザー数を獲得し、業界トップとなっています。
■社会人向けリカレント教育業界のポジショニングマップ
続いて、ストアカ、資格スクエア、Schoo、グロービス学び放題の4つのサービスのユーザーの特徴と比較してみます。直近3ヶ月間のユーザーを対象に、性年代ごとの特徴を可視化したポジショニングマップがこちらです。
ストアカ、資格スクエア、Schoo、グロービス学び放題の性年代別ポジショニングマップ
期間:2021年8月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
先ほど調査した「オンライン英会話」「プログラミング教育」と比較して、サービスごとのユーザーの性別比率の違いが顕著に表れています。「グロービス学び放題」は特に男性比率が高く、88%となっています。一方、「ストアカ」は女性比率が65%となっています。
「英語」や「プログラミング」はコンテンツが限定されやすい一方、「リカレント教育」では各種資格、マーケティングや財務・会計など、コンテンツ内容が差別化しやすいことが要因として考えられます。
続いて、直近3ヶ月でユーザーを多く獲得している「グロービス学び放題」の集客施策について、少し深掘って調査します。こちらは、同サービスの直近1年間の集客構造の推移です。
グロービス学び放題の集客構造の推移
期間:2020年11月~2021年10月
分析ツール:Dockpit
グロービス学び放題は、7~8月、9~10月と段階的にディスプレイ広告経由のユーザー数が増えていることがわかります。2021年7月以降の4か月間はディスプレイ広告に注力し、多くの新規訪問ユーザーを獲得していたようです。同サービスが今後そのユーザーを定着させられるのか(どれだけの新規訪問ユーザーを有料会員にCVできているか)が今後の見どころです。
▼下記の関連記事も併せてご覧ください。
withコロナに対応するオンライン学習サイト〜プログラミングのTECH CAMPの集客施策を基に分析
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コロナ影響で『隙間時間』が増加「オンライン教育サイトに大人も注目」レポート
https://manamina.valuesccg.com/articles/924新型コロナウイルスの蔓延により、私たちの生活様式は大きく変化しました。在宅勤務の推奨により通勤時間が短縮されたり、外出自粛に伴い家で過ごす時間が増えたことで生まれた隙間時間。そんな時間を活用し、オンラインでスキルアップを目指す人々が増えているようです。eMark+を用いて、大人向けオンライン教育サイトの変化を分析しました。(ページ数|7p)
まとめ|コロナ禍で特にユーザーが増えたのはプログラミング教育
今回は、最近盛り上がりを見せるオンライン教育業界において、「オンライン教育」「プログラミング」「社会人向けリカレント教育」「MOOCs」の5つの業界に分け、合計20サービスを調査しました。
5つの業界のうち、「プログラミング教育」と「オンライン英会話」は特にユーザー数が多く、多くの方が関心のある分野であることが再確認されました。
「プログラミング教育」は第一回緊急事態宣言以降にユーザー数が大きく増加し、ここ1年間では「オンライン英会話」よりもユーザー数が大きくなっています。コロナ禍に入っておうち時間が増えたことで、新しくプログラミングを学ぼうとしている方が多いことが示唆されました。
「オンライン英会話」では、DMM英会話の業界首位は安定しているものの、「ネイティブキャンプ」が第一回緊急事態宣言以降にユーザー数を伸ばしていました。ネイティブキャンプの「レッスン受け放題」という特徴が、コロナ禍によるおうち時間の増加と噛み合った結果ではないでしょうか。
「社会人向けリカレント教育」では、年末の12月にユーザー数が減るという面白い特徴がありました。また、「グロービス学び放題」は2021年7月以降、ディスプレイ広告経由で多くの新規訪問ユーザーを獲得していました。今回の施策で獲得したユーザーが、今後どれだけサービスに定着するか、今後も注目したいところです。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』は、競合サイト分析や消費者のトレンド調査に役立ちます。例えば、今回の調査で行った以下のような分析が可能です。
Dockpitには無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
Dockpitでできること