ビジネスパーソンのためのSDGs・ESG超入門 ー 今さら聞けないSDGsとESGの違い

ビジネスパーソンのためのSDGs・ESG超入門 ー 今さら聞けないSDGsとESGの違い

近年「SDGs」や「ESG」といったワードを書籍やニュースなどで見聞きすることが増え、重要なトピックとして頭ではわかっているけれども実はよくわかっていない…と焦っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では「SDGs」や「ESG」が今後のビジネスやみなさんの生活にどのように関わるのかをできるだけ分かりやすく解説していきます。


「SDGs」と「ESG」

はじめまして。宮澤大喜と申します。 普段はESGコンサルタントとして仕事に従事しています。

近年、「SDGs」や「ESG」という言葉が流行語のように注目を集めています。
この背景には「SDGs」「ESG」を正しく理解し、適切な場で使うことによって得られるメリットが多々ありますが、誤った認識のもとで言葉だけを独り歩きさせてしまうと、ごまかしや上辺だけという意味の造語である「グリーンウォッシュ」と揶揄され、企業にとってリスクにもなりえます。

ここでは、これら言葉の意味及びその歴史を振り返りながら、可能な限り「SDGs」「ESG」とは何か、そして、この2つの言葉の関係性について分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

「SDGs」の歴史 ~「IDGs」から「MDGs」そして「SDGs」へ

「SDGs」とは、エス・ディー・ジーズと読み、英語表記で記載すると(Sustainable Development Goals)と記載し、日本語では、持続可能な開発目標と訳されます。

これは、国連によって提唱された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標であり、2015年9月の国連サミットで採択されました。

SDGsは、17のゴール、169のターゲットから構成され、全ての国が取り組む普遍的なものとされ、英語の末尾に小文字の「s」がついているのはゴールが複数あることを表しています。また、SDGsの中にもある「Sustainable Development」という言葉単体では「持続可能な発展」と訳され、ブルントラント委員会が発行した最終報告書“Our common future”の中では、「将来性大のニーズを損なうことなく、現在世代のニーズを満たす発展」と定義されます。

このSDGsは、ひと昔前のミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)が前身であり、更にその前身は国際開発目標(IDGs:International Development Goals)と言われています。

近年では、これら17つの目標を階層化して「ウェディングケーキモデル*¹」という概念も生まれています。 図表1を見ていただくと、目標17が頂点となり、その下に「経済」「社会」「環境」と3階層になっていることが見て取れるかと思います。

この3つの階層の並び方に注目すると、最下層の「自然環境」によって「社会」や「経済」などの人間の生活は支えられていることが分かります。これは環境と経済は競合するといったひと昔前の考え方とは一線を画すものです。

図表1 “The SDGs wedding cake”

「ESG」の歴史とその意義

続いてESGという言葉について解説します。「ESG」とは、環境・社会・ガバナンス(Environment、Social、Governance)の頭文字をとって作られた言葉です。これは財務的な情報以外にも考慮すべき3つの要素として近年、注目度が増している概念で、日本語では、非財務情報(近頃では未財務情報)と呼ばれます。

主に金融業界を中心に「ESG投資」という言葉で使われていることから、投資と密接に関わっている概念と理解していただいて良いかと思います。

このESG(ESG投資)が注目されるようになった背景には、金融危機への反省から短期主義偏重から長期投資の役割が見直されたことが挙げられます。

日本では、GPIF*²(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)と呼ばれるESG投資の推進母体へ署名したことを皮切りにESG投資のメインストリーム化が進んできました。

なお、ご参考までにGPIFは公的年金の一部を管理・運用している世界最大規模の機関投資家であり、しばしば「市場のクジラ」と呼ばれるほどの影響力を持っています。

こうした影響もあり、一昔前の、企業がESG投資をする必要性について説明しなければならなかった時代から、今では「なぜESG投資をしないのか」を説明しなければならない時代にもなってきています。

この背景には、ESG対応をしないことが「リスク」であり、ESG対応をすることで「新たな機会」を創出しようとするという考えがあります。換言すると、サステナビリティを考慮することは広義の意味で事業計画(BCP)であるという考えもできるかもしれません。

また、メインストリーム化しているという事実に関しては、日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が公表しているサステナブル投資合計額*³である514兆528億100万円(2021年3月末時点)という数字が証憑の一つとなりそうです。

なお、ESG投資に関する手法に関しては、ESGパフォーマンスが良いと判断されたセクター、企業、プロジェクトへ投資をする「ポジティブスクリーニング」、逆に除外する「ネガティブスクリーニング」、ESGに関する取り組みを考慮し、総合的に評価する「ESGインテグレーション」等が存在しています。

「SDGs」と「ESG」の関係性

「SDGs」と「ESG」の言葉の違いについてご理解いただけたかと思いますが「SDGs」と「ESG」はその関係性を正しく理解することが重要です。

結論からお伝えすると、SDGsは世界が目指すべきゴールであり、ESG(投資)はそのための手段です。これが端的に示されている画像として上述のGPIFが公開している図が分かりやすいかと思います。

図表2 ESG投資とSDGsの関係

つまり、SDGs達成のためにESG投資があり、そのESG投資を投資家から積極的に受けるために(主に民間企業が)ESG体制の構築に尽力しているという構図になっているのです。
 
投資家からの評価にESGの観点が含まれるようになったことで、企業はひと昔前のように自社の利益を追求するだけではいられなくなりました。最近では「サスティナブルな〇〇」といった売り文句がついた商品が、アパレルや小売りなどでもみられるようになり、人々の日常生活まで浸透してきていることがわかります。

この観点からも企業活動において、「SDGs」「ESG」を正しく知っておくことが大切になってきていることがご理解いただけるかと思います。

ウォッチしておきたい関連ワード

ここでは、今後、ますます注目されるであろう単語を2つほど紹介します。
この2つのワードは知っておいて損はないかもしれません。

①TCFD

正式名称は、Task Force on Climate-related Financial Disclosuresといい、日本語では、「気候関連財務情報開示タスクフォース」と訳されます。

この国際イニシアティブであるTCFDは、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の要請を受け、金融セクターが取り組むべき気候関連課題を議論するために金融安定理事会が設立したものです。

TCFD設立にあたっては、温室効果ガスの排出削減に関する国際的枠組みを定めた「パリ協定」により世界が脱炭素経済へと移行していく中、脱炭素化が金融市場に与える影響を見極め、必要な投資を促進する必要があるという考えがその根底にあります。

また、世界中で多くの企業・機関がこの提言に賛同を表明し、日本国内からも経済産業省、環境省、金融庁のほか、経団連、メガバンク各社、損保各社、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)などがTCFDへの賛同を表明しています。

このTCFDは、気候関連情報をいわゆる「非財務情報」ではなく、財務計画に重大な影響を及ぼす重要な「財務情報」の一部であるという立場をとり、企業が気候変動と組織運営に関わる情報を開示するよう提言を行っています。

②カーボンニュートラル

カーボンニュートラルは、社会が目指すべきコンセプトであり、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。

なお、カーボンや炭素と呼ばれるものは、基本的に二酸化炭素(CO₂)を含む温室効果ガス(GHG)と考えて差し支えないです。このカーボンがニュートラル(中立)であるということは、吸収と排出が釣り合っていることを表しています。排出がゼロでなくとも吸収と相殺(オフセット)していればカーボンニュートラルということができる点が大事です。

なお、釣り合っているだけでなく、吸収が排出を上回る場合、カーボンネガティブといいます。現在、世界各国や主要な国際機関が、このカーボンニュートラルの目標を掲げ、そのシナリオを検討しており、これを成長の「機会」ととらえ、脱炭素に向けた製品やサービスに投資がなされています。

Carbon neutrality concept

まとめ

ここまで「SDGs」や「ESG」について様々な視点からお伝えしました。ややこしく感じる言葉の定義もあったかもしれませんが、これらを正しく理解することが今後のみなさまの「リスク」の軽減と「機会(チャンス)」を掴むきっかけになるかと思います。

本記事がみなさまにとって少しでも参考になりましたら幸いです。

●参考
*¹ Stockholm Resilience Centre
https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-how-food-connects-all-the-sdgs.html
*² 年金積立金管理運用独立行政法人
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/
*³ 日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)
https://japansif.com/survey

関連記事

「SDGs」検索数は過去1年で2倍に。企業の担当者がロゴのDLページや取り組み事例を調査か

https://manamina.valuesccg.com/articles/750

「持続可能な開発目標」、SDGsに対して、世の中ではどのような形で関心が寄せられているのでしょうか。検索ワード等をカギに分析していきます。

食品ロス解決アプリのMAUは1年で約1.9倍。SDGsで追い風が吹くフードシェア系サービスを比較調査

https://manamina.valuesccg.com/articles/817

食品ロスを減らすための法律「食品ロス削減推進法」が2019年10月に施行され、SDGsの目標のひとつとしても掲げられている食品ロス問題。自治体主体の取り組みが広がる一方、食品ロス削減に役立つサービスも増えてきています。それらのサービスは、どこまで浸透し、どのような層に利用されているのでしょうか?本稿では「食品ロス削減」サービスを調査しました。

ESG投資への関心はミレニアルやZ世代が中心… アーリーアダプターからの育成が投資拡大の鍵か

https://manamina.valuesccg.com/articles/1412

最近話題になっているESG投資について、検索データから関心層の属性や気になっているポイントについて調査しました。「ESG」検索者は20代がボリュームゾーンとなっており、年収別では1,000万円以上が中心です。また、掛け合わせワードでは「SDGs」「ETF」などが上位にランクインしていました。

サステナブルは購買動機に繋がるか?消費者の関心を検索動向から考察

https://manamina.valuesccg.com/articles/1500

SDGsが採択されて以降、世界中でサステナブルな取り組みが加速する昨今、日本国内でも環境へ意識が特に高まり、「サステナブル」を掲げる商品も多く見られるようになりました。商品価値の一つとしてサステナブルが発信されるようになった一方で、その訴求が購買にまで繋がっているのかには様々な意見が述べられています。そこで本稿では「サステナブル」の検索動向から、サステナブルを検索する人の興味関心を調査。ユーザーはサステナブルの何を知りたいと考えているのでしょうか。

この記事のライター

CSRデザイン環境投資顧問株式会社 シニア・コンサルタント。現在は、J-REIT・不動産会社・インフラファンド向けの海外機関投資家が求めるサステナビリティ調査「GRESB」参加支援コンサルティングやESG取組み推進・ESG情報開示の推進に関するコンサルティング、省庁・自治体等からの受託によるESG関連政策の調査などに従事している。2016年より株式会社船井総合研究所にて環境ビジネスに関するコンサルティングに従事し、2018年より現職。京都大学大学院地球環境学舎修士課程修了(地球環境修士)、CASBEE不動産評価員、Climate Reality Leadership Corps Tokyo Training修了、Columbia Business School Venture For All®修了。

LinkedIn:www.linkedin.com/in/-383038303830

関連するキーワード


金融 SDGs

関連する投稿


Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 1

Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 1

How should companies address their SDGs initiatives for a positive response and effectiveness and create SDGs products that lead to business opportunities? Based on VALUES’ survey and online behavioral data, we researched “action / interest / non-interest" consumers to understand how to approach action/interest groups.


Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 2

Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 2

How should companies address their SDGs initiatives for a positive response and effectiveness and create SDGs products that lead to business opportunities? Based on VALUES’ survey and online behavioral data, we researched “action / interest / non-interest" consumers to understand how to approach action/interest groups.


Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 3

Gen Z has high interest in the SDGs, is that true? Reality of interest in the SDGs - PART 3

How should companies address their SDGs initiatives for a positive response and effectiveness and create SDGs products that lead to business opportunities? Based on VALUES’ survey and online behavioral data, we researched “action / interest / non-interest" consumers to understand how to approach action/interest groups.


「Z世代=SDGs高関心」は本当か?アンケートとWeb行動ログから見えるSDGs関心層の実態

「Z世代=SDGs高関心」は本当か?アンケートとWeb行動ログから見えるSDGs関心層の実態

企業がSDGsの開発目標に取り組む際、どんな点に留意すれば反応や効果が得られるのでしょうか。またSDGs関連商品を開発する際には、どんな切り口から商品化すればビジネスチャンスにつながるのでしょうか。 今回、ヴァリューズが行った約15,000人規模のアンケート調査とWeb行動ログ分析から、「SDGs行動層/関心層/非関心層」それぞれの生活者の実態を明らかにしました。結果から見える行動層/関心層へのアプローチ方法をご紹介します。  ※詳細なセミナー資料は記事末尾のフォームから無料でダウンロードできます。


ネイチャーポジティブ ~ 生物多様性保全と企業経営

ネイチャーポジティブ ~ 生物多様性保全と企業経営

絶滅した生物、あるいはその危機にいま晒されている生物を幾つご存知でしょうか。そして、企業経営とは関係がないと思われがちな自然界の摂理も、実は親密に関係しているということも。本稿では、自然や生物多様性の損失に歯止めをかけ、回復させるという、既に世界的にはメジャーとなりつつある「ネイチャーポジティブ」概念の推進を提言。自然界における危機や新たな感染症の危惧、企業もまた生物であり生物多様性の保全や回復に取り組むことで生まれる利益への可能性などを含め、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


最新の投稿


日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ放送網株式会社は、日本テレビが事業展開する XR分野のコンテンツ制作および開発支援サービス『日テレXR』において、新たな広告没入体験ができるサービスの実証実験を開始しました。


ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

株式会社ギブリーは、生成AI技術を活用してマーケティング業務を自動化・効率化するAIマーケティング支援ツール「マーケGAI」の提供を開始したことを発表しました。


「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

検索エンジンで調べ物をするときによく使われる「〇〇とは」検索。今回は、直近1年間で検索数が多かった注目ワードや、時期によって急上昇したトレンドワードをご紹介します。「とは」検索から見えてくる最新の流行りやみんなの関心事を読み解いていきます。


GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

株式会社mitorizは、消費者購買行動データサービス「Point of Buy®」の会員に対し「大型連休に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

“Oshikatsu” stimulates consumption in Japan. In fact, more than 80-90% of teens answered that they have an “Oshi.” We will deepen our understanding by investigating the current state of the “Oshikatsu” market, behaviors like time and money spent on “Oshikatsu,” and its connection with collaborations, etc. in marketing.


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ