マーケターに限らず独立で絶対必要なのは「営業力」と「潮流を読む力」【南坊泰司】

マーケターに限らず独立で絶対必要なのは「営業力」と「潮流を読む力」【南坊泰司】

マーケターとして独立を目指すとしたら、どのようなスキルセットを持った上で、どう自らを売り込んでいけば良いのでしょうか。電通からメルカリを経て独立し、現在はスタートアップ企業から一部上場企業まで事業開発やマーケティング戦略の支援を行う南坊泰司さんに、独立して働くためのマーケターとしてのスキルやメンタリティとは何か、お話を聞きました。


最近、マーケティングやPRなどのビジネス職でも、副業やフリーランスといった働き方を選ぶ人が増えています。SNSの浸透やクラウドソーシングの台頭といった時代の変化によって、多様な働き方の選択が可能になったためと言えるでしょう。

一方で、独立しても安易なスキルの切り売りに留まってしまえば、長期的な視点で見たときにキャリアとして先が細くなってしまう可能性もあります。時には企業で研鑽を積む方がより良い選択肢だった……ということもあり得るでしょう。

マーケターとして独立を目指すとしたら、どのようなスキルセットを持った上で、どう自らを売り込んでいけば良いのでしょうか。この問いを考える上で重要なロールモデルとなるのが、電通からメルカリを経て独立し、現在はスタートアップ企業から一部上場企業まで事業開発やマーケティング戦略の支援を行う南坊泰司さんです。

独立して働くためのマーケターとしてのスキルやメンタリティ・経験などについて、「マーケティングという仕事で食べていく」にまつわるお話をお聞きしました。

2年ごとに領域を変える。電通で培ったスキルセット

――2011年に新卒で電通に入社された南坊さんですが、最初はどのような仕事に携わっていたのでしょうか。

南坊泰司さん(以下、南坊):新卒で配属されたのがブランドコンサルティングの部署です。電通の中では特殊かつ小さな部署で、人数は全部で50人ほど。そこでブランドコンサルタントとして、クライアントの商品・サービスのリブランディングや新ブランド構築の支援をしていました。今風の言葉で言えば、 ミッション・ビジョン・バリューを作っていくような仕事です。

南坊 泰司さん

南坊 泰司さん
株式会社NORTH AND SOUTH代表/株式会社南マ研代表。電通にてブランディング、メディアプランニング、メディア PDCAツールSTADIAの開発運用などを担当し、ストラテジックプランナーとして活躍。その後メルカリに入社し、マーケティング/PRチームマネジャー、OMO(Online merged offline)戦略チームリーダーを経て独立。マーケティング戦略立案と事業開発の両面を横断し、事業成長を支援する。

――電通の中でも特殊というのは、どのような点だったのですか?

南坊:いわゆる「広告代理」ではない領域の仕事という点ですね。今は変わってきましたけど、かつては広告代理店って提案の仕事に対して明確にお金を請求しない場合が多く、メディアの広告枠販売の売上に提案業務のフィーを含めるといったビジネスモデルが基本でした。そうなると、自分がした仕事への対価が明確でない場合も多いわけです。

しかし僕の場合は、入社した瞬間から肩書が「コンサルタント」で、自分が働いた時間×単価でフィーを請求する仕組みでした。当時の上司から入社1日目に言われて印象に残った言葉が、「バックオフィス部門のフィーもあるから、コンサルタントは大体自分の給料の3倍は稼がなきゃいけない」ということ。クライアントに対して自分の価値を明確に提供する意識を身につけられたのは、今思うと良かったですね。

――その次はどのような業務に携わったのでしょう。

南坊:ブランドコンサルで2年ほど働いたのち、次はストラテジックプランナーという職種に異動となりました。仕事は調査や分析がメインです。消費者や市場の調査を通して、コミュニケーション戦略や商品開発戦略の設計まで担当しました。さらに、こういったマーケティングの王道に近いところを経由して、次第にデジタルマーケティングの領域でも仕事をすることが多くなってきました。

――デジタルの方では具体的にどんな仕事をされていたんですか。

南坊:マスとデジタルのメディアを合わせて、コミュニケーション戦略を最適化するといった文脈での仕事が多かったですね。コンテンツマーケティングやデジタル広告など、メディアにおけるコミュニケーション戦略の調査・設計に携わりました。

これが入社して5年目の2016年のことだったのですが、その年にはさらにキャリアを変えて、データを扱う部署に異動します。そして、テレビなどのマス広告データとデジタルを横断して分析できる統合プラットフォーム「STADIA(スタジア)」の開発・運用や、電通独自のDMP(データマネジメントプラットフォーム)の開発や分析、セールスに携わったりしていました。

――ブランドコンサルからコミュニケーション戦略に領域を移し、そこからさらにデジタル、データまで関わった電通でのキャリアですが、こうして分野を変えてきたことにはどんな意図があったのですか?

南坊:ブランドコンサルからストラテジックプランナーへの最初の異動では別に何も考えていなかったんですが、そこで働き出してから気づいたことがあって。一定レベルのブランド戦略の専門知識を持ったストラテジックプランナーって希少性が高く、キャリアとしてレバレッジが効いたなという印象があったんです。

だからその後は、おおよそ2年ごとに関わる場所を変えていこうという意識を持っていました。同じマーケ内でも分野を変えていくことで、専門的領域の経験を積みに行く。しかも単に専門的なだけではなく、デジタルやデータなど、これから先に絶対来ると思った領域を狙いました。

――スキルセットを高めるため、意図的に専門領域に行っていたんですね。データが確実に来ると予測を立てたのはなぜだったのですか。

南坊:当時、「マスからデジタルへ」という流れを経てデジタル広告が成長していたのは明白な事実でした。この過程でデータを扱う仕組みの整備は進んでいたため、大量のビッグデータが蓄積されていくことになります。すると、それを広告に使うだけでなく、ソリューションを見出すために使いたいと考える人が増えるはず。だからデータは今後、よりブランドや戦略と結びつく……。こういった考えがキャリア選択の背景にありました。

メルカリで気づいた、事業会社と代理店の大きな違い

――電通のデータ部署にも同じく2年ほど在籍したのち、南坊さんは次にメルカリに転職します。これはどういう決断だったのでしょうか。

南坊:データ部署の次はまた電通内の別の部署に行こうかとも考えていたんです。でも、そろそろ電通ではない場所に行く方がレバレッジが効くのではないかと唐突に思いまして。 それで辞めることを先に決めました。

じゃあ転職先はどうするかと考えたとき、できるだけ対角線っぽい、正反対のところにしようと。電通は伝統のある大企業なので、新しくて小さな会社と定めました。その中でメルカリを選んだのは、 実はもともと電通時代に担当しており、プロダクトが好きだったからというのが一番の理由ですね。

――メルカリではどんな経験をされましたか。

南坊:2年間いましたが、すべてが電通の3倍速で進んだ印象です。意思決定も速いし、コミュニケーションなど仕事のスピードも段違いに速い。6年分の経験をしたほどの濃さでしたね。

マーケティングという仕事の上では、事業会社と代理店で考え方が全く違うことを痛感しました。代理店の場合は既に予算と課題が決まっている状態から始まる。しかし事業会社では事業を伸ばせればどんな手段でも良いし、そもそもお金を使わない方がいいこともあります。

立脚点が違うということを肌で感じて理解できたのは、独立した今振り返ってみても良い経験だったと思いますね。代理店としての能力と、事業会社としての経験を両方備えているということは大きな価値だと考えています。

南坊さん

南坊さんは株式会社南マ研の代表をしつつ、クリエイティブ・ディレクターの北尾昌大さんと共同で株式会社NORTH AND SOUTHも経営する。「仕事はそんなに簡単に切り分けられるものではない。ビジネスデザインやブランディングなどは、マーケティングとクリエイティブの間にあるファジーな領域だが、2人いればそういった案件を依頼される可能性も増える」

マーケターに限らず独立する上で絶対に必要なスキルは「営業」

――南坊さんの目から見て、マーケターとして独立する上で「これは絶対に必要だ」というスキルセットとは何でしょうか。

南坊:これは絶対に「営業力」ですね。営業というのは純粋に仕事を取るだけじゃなくて、リードになりそうな案件をちゃんと育てて仕事にすることや、適切な金額を交渉すること、 あるいはビジネスモデルをつくることも含まれます。結局、仕事を作らないと独立しても生きていけない。

もうひとつあった方が良いスキルは、僕は「潮流を掴む力」だと思いますね。今このテーマや業界にニーズが生まれているとか 、あるいはこんな企業や人の近くにいた方が良いとか。独立して一人でやるとなると、他の人や会社より一歩先にいないといけません。トレンドを読む力はとても重要だと思います。

――そういったスキルセットはどのように鍛えてきましたか。

南坊:営業力に関しては、電通の中で優れた営業の方の仕事ぶりを注目して学ぼうと考えていたことが大きかったですね。これは知っている人は知っていることなのですが、電通は営業が非常に優秀な会社なので 、リスペクトしてコミュニケーションの取り方や仕事の進め方をよく見ていました。それは今に活きていると思います。

また、潮流を掴むということに関してはシンプルで、圧倒的にインプットするということですね。たくさんインプットすると、世の流れが見える。毎日時間を取って、見る媒体を決めて継続的に行うことが大事です。

▼南坊さんは毎朝Twitterでマーケティングにまつわる最新ニュース・トレンドを考察して10件ほど投稿している。「もともとインプットは大量にしていましたが、Twitterなどのアウトプットを含めることでよりインプットの精度が高まります」

――マーケティングの仕事で独立を考えている人に向けて、独立するかしないかの判断はどのように行えばいいか、アドバイスをお聞かせいただけますか。

南坊:逆説ですけれども、絶対に独立しようって思わない方がいいと思います。その前に、今の目の前の仕事をクオリティ高くできるようになれば、勝手に能力が高まって勝手に独立できたりする。独立は結局、手段です。自分のキャリアを振り返ってみても、とにかくスキルセットを高めていきたい狙いはありましたが、独立をゴールにしたことはないですね。

――では最後に「マーケティングの仕事で食っていく」という点について、南坊さんが考える大事なポイントを教えてください。

南坊:マーケターという職種に限らずデザイナーやエンジニアでも全て同じだと思うんですが、仕事は勝手に振ってこないんです。だから自ら作りにいく必要がある。本気で独立しようと思ったら、営業するとか経費精算するとか、本業のマーケティング以外の仕事が必ず入ってきます。しかもそれはどんなに低く見積もっても、全体稼働のうち半分くらいは発生します。

――「どんなに低く見積もっても」50%ということ。

南坊:はい。なので独立したら本業の純度は上がらなくて、むしろ下がるんです。また、ほとんどの場合、独立したら自分の能力を食い潰していくことになります。会社にいることによるインプットって強烈なんです。最新の情報が手に入り、一緒に仕事する同僚や上司から勝手に吸収する情報やスキルも多々ある。独立した瞬間、うかうかしていたらすぐに自分が古くなって、相対的に自分の能力が落ちることはめちゃくちゃあります。

だから独立した瞬間に数倍は勉強しないといけない。中途半端なネットワーキング目的のコミュニティなどはあまり頼りにならないです。独立したら、自ら強い気持ちで勉強を続けられるかどうかは非常に重要だと思いますね。

そこで個人的には副業がすごく良い手段だと思っていて。今は多くの会社でOKになっていますが、軸足が会社にあるので福利厚生も安心ですし、その状態で別の事業にチャレンジできるというのは幸せなことだと思います。今は本当に働き方が自由になってきた時代。一足飛びに独立まで考えなくても、まずはよりファジーな選択から始めてみてはどうでしょうか。

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この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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