縁とは?
縁は円とは違います。当たり前ですが、弱くなってきている点は同じです。有事の円と称され、世界における日本経済の強さの象徴でもあった円。少しでも早い日本経済の再生、復活が望まれます。一方、「袖振り合うも多生の縁」とは縁に関する有名なことわざです。この発展形ともいえるのが徳川将軍家の兵法指南役、柳生新陰流の柳生宗矩の名言、「小才は縁に合って縁に気づかず、中才は縁に合って縁を活かさず、大才は袖触れ合う多生の縁もこれを活かす」があります。縁をいかに活かすかは、人生においても、ビジネスにおいても、マーケティングにおいても、永遠の課題なのかもしれません。
縁を国語辞典で引いてみると、様々な縁があることに気づきます。意味としては、つづきあい、頼りにする、てがかりにする、関係、とあります。さらに、肉親や婚姻の関係、と続きます。仏教用語としては、原因をたすけて結果を生じさせる作用、まわりあわせ、などです。特に漢字2文字が目立ち、地縁、血縁、類縁、絶縁、縁故、良縁、復縁、因縁、縁起など、日常よく使われているような言葉が数多く存在します。
ライフスタイルと仕事、住まい
新型コロナの影響もあり、ライフスタイルや住まい方も著しく変化しています。例えば、東京都は2022年1月1日時点での推計人口が1,398万人8,129人で、前年同期から4万8,592人減少したと発表しました。コロナ禍で東京離れが進んだとみられています。東京都の人口が通年で減少するのは、1996年以来、26年ぶりとのこと。当時は不況による求人数減で転入が低調だったためです。
リモートワークでの仕事を推進する企業が増加し、在宅勤務やサテライトオフィス・シェアオフィスの活用など場所にとらわれない仕事が当たり前となってきました。その流れから代表されるギグワークは場所や時間にとらわれない自由な働き方として、日本でも広がりを見せています。雇用契約を結ばない、単発・短時間で働くような働き方を選択する人が増えているようです。
変わる縁
江戸幕府から明治政府に変わり、廃藩置県など明治維新の改革により藩がなくなり、富国強兵で新しい産業が興り、急速に経済も発展し、人はぞくぞくと都会を目指すようになりました。そして明治以降、何代も経て、元々のふるさととは疎遠になり、当然地縁も薄れてきました。地域の独特の文化や芸能、お祭りなども伝承することが難しくなってきました。
同じく、少子化が一段と進み、核家族化が進み、婚姻率も長期的には減少し続け、夫婦の離婚も「3組に1組」といわれるように血縁の絆も薄れてきました。新型コロナの影響で結婚式も葬式もしないという流れも加速化しました。
また、会社などの組織でも、終身雇用・年功序列・新卒一括採用という日本企業の伝統的経営システムが消えつつあります。何といっても、正社員が減り、非正規雇用が約4割となりました。こうなると会社に献身的に貢献したいと考える若者が減少するのは間違いありません。
新たな縁
このようなトレンドにより、昔から育まれてきた日本の縁というユニークな存在は減少の一途をたどるのでしょうか。また、日本人は新たな縁を求めているのでしょうか。
新たな縁について3つの考えがあります。ひとつは『縁の拡大』です。定住化が減少する傾向にあったり、会社や家以外でも様々な場所で仕事をしたり、生活したりすることで新たな出会いが生まれ、縁を拡げています。定住を嫌い、何度も引っ越しを繰り返したり、二拠点居住のように心休まり豊かな生活ができる場を、仕事を中心に住む場とは別に見つけるといったライフスタイルから、新しい縁ができるといった例も見られます。
次が『縁の復活』です。あえて山奥に住んだり、大家族で自給自足の生活を目指したり、ライフスタイルの幅が拡がっています。それにより、都会と地方、若者と老人の交流が生まれ、新しい形での地縁、血縁が復活しています。地元に溶け込み、新旧で新しい生活・文化が交流するこれからの地縁、血縁といえるでしょう。
最後は『縁の深化』です。今、最も縁が生まれるチャンスはSNSなどを活用した趣味や仕事、ボランティア活動などでの交流です。新型コロナも一息つき、ワイン好き交流会などは花盛りです。実際、参加した経験もありますが、流石に参加者のワインや料理に関するうんちくには驚かせられ、老若男女の仲間づくりを楽しみました。また、ボランティア活動の仲間づくりではSNSの活用により、ボランティアを初めて行う仲間を作るために様々な取り組みがあります。共感でき、一緒に助け合う仲間をつくることは生き甲斐につながります。
縁とマーケティング
マーケティングの本来の持つ意味は「売れる仕組みをつくること」です。変貌しつつある縁をマーケティングに活かすためには工夫が必要です。良い縁を持つ集まりを様々な手段で見出し、そこに適切な提案を行い、商品・サービス化することは今までにも増して、これからの企業戦略においての成功の秘訣となります。もちろん、Webを活用することが前提かもしれませんが、企業にとって、マーケティングにとって、縁がこれからのキーワードになりつつあるといっても過言ではありません。これから新しく生まれる多種多様な縁がもたらす市場、そこを捉えた売れる仕組みについて考えてみるなんて、何だかワクワクしませんか。
観光業界をはじめ、「コト消費」といわれる体験型の消費を重視するサービスが伸びています。単純にニーズを満たすだけの消費活動ではなく、「経験」で得られる価値はどのように捉え、創り出していけばよいのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、「経験価値マーケティング」を考察します。
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株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。