■スピーカー紹介
図:スピーカー紹介
【コロナ第七波前夜。旅行業会を翻弄する今をどう乗り越えるか?】
株式会社ヴァリューズ 田中理佳子(以下、田中):「目まぐるしく変容する旅行業界。県民割施策やコロナ第7波など、頭を悩ませる問題が山積していると思います。そのような中で、本日は2つのテーマに絞り、アンケートと弊社独自のWeb行動ログデータを用いて、皆さんのアクションにつながる調査結果をお伝えしたいと思います。
まず1つ目は「夏の旅行トレンド解説」です。
目下のコロナ情勢に振り回されてしまい、市場全体のトレンドを把握した上での戦略立案が難しいという方が多いのではないでしょうか。
そして2つ目は「宿泊サイトの勝ち負け分析」です。
OTAを始め、宿泊サイトの群雄割拠の時代、他社サービスに消費者が流れてしまう状況に対して、消費者のインサイトを調査しました。他社ユーザーのリプレイスや、サイトのトラフィック増に役立てていただければと思います。」
図:本日のセミナーでお持ち帰りいただきたいこと
【「3つの回帰」から見る2022夏の旅行トレンドとは?】
株式会社ヴァリューズ 海野秋生(以下、海野):「ヴァリューズでは毎年、夏の旅行トレンド調査を行っております。以下が、これからお伝えする2022年の調査の概要です。
・アンケートデータ(調査概要)
調査対象者:株式会社ヴァリューズのモニターパネル 20歳以上の男女
調査地域:全国
調査デバイス:パソコン・スマートフォン
調査期間:2022年6月21日(火)~6月30日(木)
サンプル数:7,632サンプル
1つ今夏の調査データに補足させていただきますと、データ取得時期が6月下旬となっており、7月に入ってから発生したコロナ第7波の現在とでは、回答に多少のずれが生じる可能性があります。
とはいえ、3年ぶりの行動制限のない夏に、消費者がどのように「旅行」に回帰するのかという点、そしてニューノーマルな旅行様式が、昨年・一昨年と比較してどのように変化しているのかという点を分析するためには、非常に有効なデータだと考えております。ぜひご参考にしていただければと思います。」
図:はじめに:2022年6月データの捉え方
■行動制限がなくなった2022夏、消費者はどのような「旅行」に回帰するのか?
海野:「早速、2022年6月時点の傾向を見ていきます。
今年は「3つの回帰」が見られました。以下がその3つです。
①「旅行意欲」の回帰
②「早期予約」への回帰
③「定番スポット」への回帰
それでは各ポイントについて、詳しく解説していきます。」
■①「旅行意欲」の回帰:国内旅行検討者は回復傾向
海野:「国内旅行の検討者数を毎夏のアンケートデータで経年比較すると、2020年や2021年はコロナ前の2019年と比較すると大きく下がっていましたが、2022年には回復が見られました。
この様子はWeb行動ログにも顕著に現れています。
下図は、Dockpitで「旅行」と検索しているユーザー数の推移グラフです。2022年6月の「旅行」検索ユーザー数は、2021年6月の約2倍にも増えています。この数字からも「旅行」への関心の高まりがうかがえます。」
図:「旅行意欲」の回帰:オンライン上でも旅行への関心が戻る
■②「早期予約」への回帰は2分化が浮き彫りに
海野:「下図は、2019年から2022年の夏の旅行の予約時期をプロットしたものです。
まずは2019年(オレンジ色)をご覧ください。4月から徐々に予約者が増え、6月になって増加に落ち着きが見られます。ほかの年と比較すると、早めに予約する方が多いことがわかります。」
図:「早期予約」への回帰:22年は早期予約・かけこみ予約の2分化
海野:「一方で、コロナ1年目の2020年(青色)は6月に急にピークが来ていました。2020年を振り返ってみると、4〜5月は緊急事態宣言が発令されていた一方、6月には新規感染者数がだいぶ落ち着きを見せていたので、かけこみ予約を行った人が多かったことがうかがえます。
ここで2022年(赤色)を見てみましょう。今年こそは旅行ができるのではないかと「早めに計画的に予約した層」と、様子見をしていて今年は旅行できるかもしれないと、「かけこみ予約した層」の2つに分かれているように見えます。この二分化は今年ならではの特徴的な予約傾向と言えそうです。」
■③「定番スポット」への回帰:「疎」から「密」へ
海野:「次の図は、旅行先選びにおいて重視するポイントを表したグラフです。
2022年の回答率を2021年の回答率で割り、左から数値が小さい順に並べました。
右上に来ている項目は、より2022年の回答傾向が強く、この夏の旅行で重視されやすい回答となっています。」
図:「定番スポット」への回帰:アウトドア→名所やレジャー施設へ
海野:「さっそく各項目を見ていきましょう。
右上には、お祭り・イベントやショッピング施設、観光名所、レジャー施設などが並びました。
一方で左下を見ると、マリンスポーツやアウトドアなどの回答率が下がっています。
この結果から、2021年はできるだけ「密」を避けたアクティビティへの関心が高まっていましたが、2022年の旅行者は、定番の観光スポットに戻りつつあるということがうかがえます。
「密」への回帰の理由を、アンケートのフリーアンサーからも抽出してみたところ、大きく3つの特徴的な答えが現れました。
・行動制限がなくなり、都府県外問わず遠出や周遊ができそうだから
・インバウンド回復前で人出が過剰になる前だから
・全国各地でコンサートやスポーツなどイベントが再開されるから
これらは、行動制限のない2022年夏ならではの特徴的な回答と言えそうです。
続いて、Web行動ログからも旅行者の関心事を探ってみます。
下図は2021年と2022年の6月に、「旅行」という言葉と掛け合わせて検索されたワードをランキング化したものです。
「定番のスポット」を探るという目的でランキングを注視すると、北海道や沖縄といった地域名が、いずれの年においても検索上位に見られました。コロナの波を繰り返し、ウィズコロナの状態であってもなお、旅行先の定番として高い関心をキープしているエリアと言えます。
また、「割引」「キャンペーン」「補助」「クーポン」といった、県民割を始めとした旅行支援制度に関する検索も多く見られました。ランキング全体を見ると、各ワードの検索者数が2021年に比べて大幅に伸びていることがわかりますが、こうした支援制度によって、旅行者のすそ野が広がったとも言えそうです。」
図:「定番スポット」への回帰:WEB行動ログから見る関心
■「3つの回帰」まとめ
海野:「ここまでの調査で、「旅行意欲の回帰」そして「早期予約への回帰」、さらに密を避けた観光から「定番観光への回帰」と3つの回帰が見られました。
現在、コロナ禍第7波只中ではありますが、行動制限のない夏にはこのような旅行希望者の心理変化が起きることがお分かりいただけたかと思います。」
コロナを経て変化した旅行の予約行動|宿泊サイト勝ち負け分析
海野:「それでは、もう1つのテーマである「宿泊サイト勝ち負け分析」についてお話します。
具体的には、宿泊先を検討したサイトでそのまま予約を行った場合を「勝ちパターン」、検討したサイトとは別のサイトで予約した場合を「負けパターン」と定義して、その実情を分析しました。さらに、比較対象サイトを旅行代理店系、航空会社系、OTA系と振り分けて分析をしています。」
■オンライン上での宿泊先検討にOTA系は欠かせない?
海野:「まずは、どの程度各サービスの利用者が重複しているのかを表現したのが下図になります。
左側が旅行代理店系とOTA系サービスの重複状況です。こう見ると、OTA系サービスのボリュームの大きさが目立ちます。また、旅行代理店系サービスを利用する人も、半分以上がOTA系でも宿泊先を検討していることがわかります。この傾向は航空会社系のサービスにおいても同様であることが、右側の図からおわかりいただけるかと思います。」
図:旅行会社系・航空会社系利用者もOTAで宿泊先検討
海野:「また、各サービスの宿泊予約決定率(最終決定率 / 検討率)を見てみると、代理店・航空会社系は50%程度にとどまった一方、OTA・ホテル系は80%超の予約決定率となっていました。このことから、代理店・航空会社系は宿泊先の比較検討対象として活用されている可能性が高く、検討先として重複しながらも、最終的な刈り取りはOTA・ホテル系が担っている、という状況にあることがわかりました。」
■大手OTAは、幅広いユーザー層の獲得が強み
海野:「続いて、各宿泊予約サイトにWeb接触した利用者を性年代でマッピングし、性年代で利用メディアに差異があるのかを見てみます。
中央には楽天トラベルやじゃらんといった大手OTAが集中していることがわかります。右側の女性寄りの部分では、JTBや近畿日本ツーリストが現れました。
バブルの大きさは利用者のボリュームを表現していますが、性年代別共に偏りなく多くの人に利用されていることが、楽天トラベルやじゃらんを始めとしたOTA系サイトの強みであることがわかります。」
図:宿泊予約メディアに性年代の違いはあるか?
■それぞれのサービスを選択する理由に「特別な理由はない」?
海野:「各種サービス利用の重複があり差別化が難しい中で、選ばれるサービスになるにはどうしたら良いか、ヒントはないのでしょうか。
各サービスグループ上で宿泊予約を行った理由をアンケートで聞くと、1位はいずれも「いつも利用しているから」という、とりわけ特別な理由ではないことがわかりました。ある意味、惰性と言っていい理由でいずれのサービスも選ばれているということが浮き彫りになりました。
しかしこの回答は裏を返せば、いつも利用するメリットをどのように作っていくか、という発想に結びつけることも可能ではないでしょうか。」
図:宿泊予約を行った理由にサービス別の違いはあるか?
■アクティブな駆け込み予約層はOTA・代理店へ
海野:「「いつも利用する」メリットをいかにして作るかを考えるために、それぞれのサービス接触者がどんな情報を求めているのか、DockpitのWebログデータから見てみましょう。
サイト流入時の検索ワードを見ていくと、旅行予定者が何に関心を持ってそのメディアに接触したかを分析することができます。今回は各グループごとにサイトを束ね、検索ワードを集計しました。
まずはOTA・旅行代理店系への接触者の関心を見てみます。
2022年の6月単月の検索を見ていくと、目立つのは「ツアー」や「県民割」、「レンタカー」といったワードでした。こうした旅行予定者からは、県民割をきっかけに心が動き、レンタカーを借りたり、ツアーに参加したりしてアクティブに観光を楽しみたいという心理がうかがえると思います。
また、このような旅行予定者は、先ほどの駆け込み予約層に近しいのではないかとも推測されます。このように、検討者がどのようなニーズを持っているのか把握することが、「勝ちパターン」を狙う上で重要だと考えます。」
図:<勝ち負けパターン分析>OTA・旅行代理店系接触者の関心
■ホテルでの滞在そのものを楽しみたい層は、ホテル企業サイトへ
海野:「ホテル企業サイトという括りでも分析してみます。
こちらは先ほどのOTA・旅行代理店系サイトとは異なる傾向が見られました。
ランキングを見ると、一部「アフタヌーンティー」や「ランチ」など、宿泊目的ではなさそうな検索も見られますが、「朝食」や「レストラン」などは、先ほどのOTA・旅行予約サイトでは見られない特徴であることがわかると思います。これにより、ホテル企業サイトにあえて接触している旅行予定者は、「ホテル内施設での娯楽」、「優雅な食事の時間」などに期待感を寄せているのではないかと推測できる結果となりました。
ログデータから、普段なかなか把握しにくい生活者の本音の部分が見てきたのではないでしょうか。」
図:<勝ち負けパターン分析>ホテル企業サイト接触者の関心
海野:「ここで勝ち負けパターン分析についてまとめます。
OTA系の利用が大きなボリュームを持っている反面、最終的には「よく使うサイト」で宿泊先を決定する消費者。そのインサイトを的確に掴み、各サービスのメリットを訴求することが重要課題と言えるでしょう。そのためには消費者の背景情報も踏まえた生活行動を観察していくことも必要不可欠と考えます。
Web行動ログとアンケート調査の結果をもとにお話した本日のセミナー。
こちらの資料は無料でダウンロード出来ますので、お役立ていただければと思います。」
図:勝ち負けパターン分析まとめ
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■2022夏の旅行トレンドとは? 旅行予定者アンケート×Web行動ログ解説と予約サイトの勝ち負けパターンを分析|セミナーレポート
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マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。