オウンドメディア戦略はデータで決める。リサーチ会社がメディアを作るときの調査手法とは

オウンドメディア戦略はデータで決める。リサーチ会社がメディアを作るときの調査手法とは

マーケティングリサーチとコンサルティングの会社「ヴァリューズ」は、新しいオウンドメディア「マナミナ」を立ち上げました。どのようにメディアを作っていったのか、その過程を今回から全4回でお伝えします。初回はメディアのコンセプト・戦略設計についての話。私たちの得意技であるリサーチを使って、マーケティング戦略を決めていきました。


オウンドメディアを作ろう

2018年11月。平成最後の秋が深まる中、マーケティングリサーチの会社「ヴァリューズ」ではこんな話が上がっていました。

「メディアを作りたいですね…!」

左はマナミナ編集長となる星、右は編集部員の弥富

こんな会話が起こったのは、次のような背景があったからです。

まず私たちヴァリューズは、インターネット行動ログを使ったマーケティングリサーチ事業を行う会社です。

主要商品は「VALUES eMark+(イーマークプラス)」というインターネット行動ログ分析サービス。
ブラウザ上で消費者のサイトアクセス状況を簡単に分析できるツールです。
それに加え、アンケート調査を活用した個別分析やプロモーションのプランニングなど、マーケティング・コンサルティングサービスでさまざまな業種の企業を支援しています。

・・・しかし、「結局何ができるのか?」が伝わりづらい、ということが課題でした。

ひとくちにリサーチやデータ分析といってもサービス領域が多岐にわたり、それらをすぐに理解してもらうことは難しい、という問題があったのです。そのため、新しいクライアントの開拓・サービス案内を展示会や人的リソースに頼ってしまう、という状況が続いていました。

ヴァリューズオフィスの一角

この状況を打破するためには、コンテンツが必要だと私たちは考えていました。

オウンドメディアによるコンテンツの力を活用すれば、私たちができることを多くの方に分かりやすく伝えられるかもしれない。そして、私たちが持っているデータマーケティングの知見をメディアを通じて伝えることで、より多くのマーケターの方々を支援できるかもしれない。

しかしここで疑問がひとつ。
果たして、そんな簡単にうまいこと話が進むのでしょうか?

実際のところ、マーケティングメディアはいま乱立している状況です。オウンドメディア自体も様々な会社が取り組んでいますが、うまくいっていないところも多いと聞きます。

ただメディアを立ち上げただけで効果が立ちどころに出るわけではないのは、なんとなく想像がつきました。

どんなメディアを作り、どんなコンテンツを発信していけばいいのか…。
これを考えるため、私たちの得意なリサーチを活用することにしました。

「検索ワード」でユーザーのインサイトを調査する

まず知りたかったのは、「ターゲットユーザーはどんな情報を求めているのか」です。

そこで、最初に私たちは「既にヴァリューズのwebサイトを訪問したユーザー」の検索動向について調べることにしました。既にヴァリューズに興味を持っているユーザーが見出した価値を探ることで、私たちとユーザーとの関係性を客観的に理解していく作戦です。

具体的な調査の観点としては、下記の3つを意識しました。

1.彼らはどんな人たちか?(業種や部署は?)
2.どんな検索ワードを打っているか?
3.ビジネス上の課題は何か?

このような調査意図を持ちつつ、検索ワードを集計していくと……。
ヴァリューズのサイトへの接触者は「ブランド企業のマーケター」と「広告代理店系のマーケター」の2つに大別できることが分かりました。

まず「ブランド企業のマーケター」について見ていきましょう。

ここでは「競合調査」というワードが大きく表示されていました。ブランド企業のマーケターは、まず競合の動向を気にしていると考えられます。

さらに「セレブ向けサイト」という言葉からは、「ターゲットユーザーの興味を知りたい」というブランド企業のマーケターの意図がうかがえます。

これらのことから、ブランド企業のマーケターは「競合の動向を知りたい」「ユーザーの興味は何か知りたい」という2つを、ビジネス上の課題として抱えているだろうと考えました。


では次に、広告代理店系のマーケターについて見ていきます。

広告代理店系のマーケターにおいては、様々なジャンルのワードが並んでいると言えます。これはその業務の特性上、多様な業界のマーケティングに携わっているからでしょう。

その中でも「業界動向」といった言葉や、「ZOZOTOWN」「UBER」など成長中の企業の動向など、幅広く市場の情報を求めていることが分かります。一言で言えば「市場の動向を知りたい」というのが、広告代理店系のマーケターの特徴なのではないかと考えられます。


以上のことから、リサーチのトピックに関しては

ブランド企業のマーケターには競合企業やユーザーの調査結果を
広告代理店系のマーケターには市場動向の調査結果を

それぞれ発信することが価値になるのではないかと結論づけました。

ただ、先ほども言ったようにマーケティングメディアはたくさんあります。既に他のメディアが調査系のテーマを扱っているのであれば、私たちが新しくやっても読まれる可能性は低いかもしれません

そこで、次はマーケティングメディアの市場環境を調査していきます。既存メディアはこの市場でどのようなポジショニングを取り、どのようなコンテンツを発信しているのでしょうか?

マーケティングメディア市場、主要な5つのプレーヤー

市場調査はヴァリューズのネット行動ログ分析ツール「eMark+」を用いて行いました。
その調査対象ですが、UU数が多くマーケターの認知度も高い、次の5つのメディアを主として見ていくことにします。

メディアM

1つ目はブランド企業の事例紹介記事が豊富なメディアM。上の画像は「eMark+」で2018年5月〜10月の月間訪問ユーザー数を調査したキャプチャです。これによると、月間UU数は約20万人で推移していました。
(数字はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測したものです。)

メディアN

2つ目はマーケティング戦略の情報を主に発信するメディアN。こちらも月間UU数は約20万人前後でしたが、やや右肩上がりとなっています。

メディアW

3つ目はマーケティング情報を幅広く扱うメディアW。マーケティングからサイト制作、SEOなど広範囲にトピックをカバーしているためか、月間UU数は約40万人ほどを推移しています。

メディアD

4つ目のメディアDの月間訪問ユーザー数は約5〜7万人ほど。海外のマーケティング情報を発信しているのが特徴で、先進的なテーマが多く取り扱われています。

メディアF

最後はメディアF。初学者にも分かりやすいマーケティング知識の解説が人気を集めており、UU数は約150万人ほど。他4メディアと大きく差を空けています。

「eMark+」でサイト訪問数とユーザー属性をさくっと調査

マーケティング主要5メディアの大まかなユーザー数を把握したところで、次はその属性について調べていきましょう。

このために「eMark+」の「Site Analyzer」というメニューを使って、まずは性別割合を調査します。

表は上から、M→N→W→D→Fの順となっています。

この中でもっとも女性割合が多かったのは、一番下の「F」で38.2%でした。「F」はマーケティング初学者向けの分かりやすいコンテンツを発信しており、メディア全体の雰囲気として親しみやすさがあります。その影響でしょうか。

ただ、5つのメディアとも男女比で大きな違いは見られないと言えるでしょう。マーケティングメディアという特性上、男性割合が多めであることがうかがえます。

一方、年代別では特徴的にメディアごとの差が現れました。

まず、上から2番目の「N」では40代以上ユーザーの割合が突出しています。
全体のおよそ70%弱が40代以上のユーザーとなっており、「戦略」というテーマの影響でマネジメント層の読者が多いことが、理由のひとつとして考えられるでしょう。

対して若年層割合が高かったのが「M」と「D」の2メディア。
全体の約65%ほどが30代以下のユーザーで占められており、「N」とは対照的でした。


さて、これで主要5メディアの基本的な定量データは明らかになりましたが、最終的な目標は各メディアのポジショニングを把握すること。そしてその上でメディア戦略を決めていくことです。

そこで、各メディアコンテンツのカテゴリ分けの仕方や、コンテンツ内容といったデータを加味した上で、ポジショニングマップを作っていきます。

すると、当初の想定どおりマーケティングメディア市場は混戦であることが分かりました……。

マップを作ってマーケティング戦略を決めに行く

これが、私たちの作ったマーケティングメディアのポジショニングマップです。

このマップでは、縦軸に「課題レベル」、横軸に「ビジネス上のアクション」を取りました。

縦軸の「課題レベル」とは「対象として扱うトピックの難易度」のようなイメージ。高校の数学を例に取れば、基礎知識は加法定理などといった公式で、そこから基本問題→応用問題→研究問題と続いていくものですが、これのアナロジー(類推)として考えました。

一方横軸は「ビジネス上のアクション」。これはマーケティングファネルをイメージしています。
最も左にあるのがビジネス企画立案で、そこから戦略を決め、認知→興味喚起→購買と続いていきます。

このマップに上記の5メディア+2つの調査系メディアを位置づけてみると、ほとんどの場所が既に埋まっていることが分かりました。

中央付近を占めているM、Wに加え、基礎知識的な部分はFが幅広くカバー。戦略策定の領域にはNが位置づけられます。この図を見る限り、穴場は存在しなそうです……。

それと同時にもうひとつ重要な発見は、「調査」というトピック単体ではボリューム感が足りなそうだということ。確かに市場調査はマーケティング全体プロセスの一部分でしかなく、常に必要とされているものではないでしょう。

では私たちが取るべきポジションはどこでしょうか…?

「市場調査」を中心として、ビジネス企画立案やマーケティング戦略策定の範囲までをカバーする場所です。

私たちの強みはweb行動データとアンケートデータの両方を分析することができて、リサーチだけではなくプランニングまでサポートできること。調査結果だけではなく、それをどう施策に落としこんでいくか、どうサービス設計に結びつけていくかを含めたコンテンツを発信できれば、価値の高いメディアになるのではないかと考えました。

となると「マナミナ」のコンセプトは「リサーチとプランニングのメディア」がよさそうです。

「リサーチ」カテゴリでは市場や消費者動向の調査を発信し、それを活用したマーケティングの戦略策定や施策決定の事例・ノウハウを伝える記事を「プランニング」カテゴリで発信する。「マナミナ」の骨格はこのようなものにしていこうと思います。

初回はメディア立ち上げ期におけるコンセプト・戦略策定の様子をお伝えしました。次回は明日更新の「CMS選定編」です。しかし、限られた社内リソースという制約もあってCMS選定作業は難航。私たちはCMSをどのように決めていったのでしょうか?

次回もご期待ください。

この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

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