【解説者紹介】
B2C領域でも注目される「ソーシャルセリング」
岩間:2023年3月のコンテンツマーケティング最新動向レポートでは、ソーシャルセリングについて説明していますね。ソーシャルセリングとは何か、改めて教えてもらえますか。
蒋:ソーシャルセリング(social selling)とは、FacebookやTwitterなどのSNSを通じて見込み客と信頼関係を深め、自社商品を購入してもらう販売手法のことです。自社商品について積極的に情報発信をしてブランディングを図ったり、フォロワーなど見込み客とDMでやりとりしたりすることで、関係を構築し、購入へとつなげていきます。
ソーシャルセリングは、もともと主にB2B領域で活用されてきたのですが、SNSの発展に伴ってB2Cの領域でも注目され始めています。今後日本でも盛り上がりを見せると考えられるため、マーケターの皆さんにぜひ活用していただきたいと思い、今回ピックアップしました!
中国でB2Cソーシャルセリングの市場規模が拡大中のワケ
蒋:ソーシャルセリングを説明するにあたって、まず中国の状況からお伝えしたいと思います。日本と中国、両方のマーケティングを見ている私からすると、中国のSNSマーケティングやインフルエンサーマーケティング市場は成熟してきており、現在日本は中国を追っている形と感じているからです。
中国では、既に5年前からB2C領域でソーシャルセリングが盛り上がっています。以下の図をご覧ください。2018年から市場規模がどんどん拡大していって、2022年には5年前と比べて約10倍の規模になっていることがわかります。中国の場合、WeChatやTikTokなどをメインの媒体として、ソーシャルセーリングが実施されています。
岩間:どうして中国では、B2Cソーシャルセリングが流行るようになったのですか。
蒋:インサイト面と機能面の2つの背景があると考えます。
まずインサイト面について説明します。中国では海賊版の商品がかなり出回っていた時期があったことから、そう簡単に情報を信用しない人が多い傾向があります。多くの人は、企業がネット上で発信している情報をすぐにそのまま信用することはないでしょう。その点、ソーシャルセリングのように、ある程度信頼関係が構築されている人からの情報は信用しやすいといえます。「信頼している人がおすすめする商品なら買おう」という心理が働くからです。
もうひとつの機能面についてですが、ソーシャルセリングは、認知から購買までの動線が短いところで発展しやすいと考えられます。中国では、以前のレポートでご紹介した「興味EC」のように、SNS内のEC機能がかなり充実しています。消費者はSNS上で情報を得たら、他のプラットフォームに移ることなく、そのままワンストップで購買に移ることができるんです。
【SNS最新トレンド】TikTokのコンテンツ運用や「興味EC」に注目|「2022年8月 コンテンツマーケティング最新動向レポート」
https://manamina.valuesccg.com/articles/1950
岩間:なるほど。日本と中国では状況が異なる部分もあると思うのですが、日本でも流行するのでしょうか。
蒋:私は、B2Cソーシャルセリングは日本でも流行ると思います。
確かに日本と中国で見られるインサイトは異なりますが、日本でもソーシャルセリングが流行する可能性が高いことを示唆するデータがあります。2020年にリリースされたTikTokのZ世代に関する調査によると、今の日本のZ世代は、芸能人やフォロワーを多く抱えるインフルエンサーより、友達や信頼できるマイクロインフルエンサーの発信を信頼している傾向があるとのこと。つまり、親近感のある人からの情報を信頼しやすいという傾向が、Z世代の中でどんどん生まれているのです。
そのため、確かに中国人と日本人で見られるインサイトは違いますが、情報収集において信頼関係が重視されていることは共通していると考えられるでしょう。
機能面についても、確かに今の日本では、中国ほどSNS内のEC機能は充実していないと言えますが、最近ではInstagramやTwitterでも、EC機能や購買に繋がりやすい機能がどんどんリリースされています。
このように、日本でもB2Cソーシャルセリングが流行する環境は整いつつあると思います。
信頼関係の構築が重要!「B2C2C」ソーシャルセリング
岩間:ここまでの説明を聞いて、近いうちに日本でもB2Cソーシャルセリングは流行しそうだと感じました。
ところで今回の2023年3月のコンテンツマーケティング最新動向レポートには、B2C2Cソーシャルセリングという表現がありますね。B2Cではなく、B2C2Cとしているのはどうしてですか。
蒋:B2Cソーシャルセリングをもっとイメージしやすいように、B2C2Cという表現にしました。以下の図を見ていただくと分かりやすいと思います。
蒋:一般的に、企業は新商品などをリリースする際、まずイノベーターやアーリーアダプターのような、商品を早い段階で取り入れる人たちに対してアプローチします。ソーシャルセリングでは、このような人たちの中で、積極的に情報発信をしている人をソーシャルセラーと呼んでいます。このソーシャルセラーたちが、その新商品を購入して試してみた体験や感想をSNS上で発信し、その発信に影響を受けた一般消費者が購買行動に移るイメージです。
つまり、「B(企業)」2「C(ソーシャルセラー)」2「C(一般消費者)」を意味しています。
岩間:新商品をいち早く取り入れて情報を発信し、一般消費者に影響を与える。インフルエンサーと似たような意味に聞こえるのですが、ソーシャルセリングとインフルエンサーマーケティングはどう違うのでしょう。
蒋:ソーシャルセリングとインフルエンサーマーケティングは共通点もあるのですが、違う点を挙げるとすると、ソーシャルセラーは、インフルエンサーだけではなく一般人もなれることです。ソーシャルセリングの大事なポイントは、信頼関係があるということ。インフルエンサーよりも、友達など身近な人からの情報を信頼できるという人もいるでしょう。
岩間:なるほど。インフルエンサーというと企業からインセンティブをもらって情報発信をするイメージがあるのですが、一般の人たちは何をモチベーションに商品を紹介しているのでしょう。もちろん純粋に、自分が良いと思ったものをおすすめしたいという気持ちもあると思いますが。
蒋:中国では、一般の人たちもインセンティブをもらえる体制です。企業がSNS上で展開しているキャンペーンに一般の人が自発的に参加できるほか、商品を売る契約を企業と交わすケースもあります。
岩間:日本でも同じような状況になるのか、少し疑問に思います。インフルエンサーと違って、商品紹介を仕事としているわけではない一般の人たちの中には「SNS上でお金儲けをしているみたいに見られたら…」と抵抗を感じる人もいるのではと。
蒋:まず信頼できる人と思ってもらうことが大切なのではないでしょうか。普段から、インセンティブをもらう案件ではない情報発信も積極的に行うことで、「この人はビジネス目的だけで商品を紹介しているわけではない」といったイメージを作ることが大切だと思います。
B2C2Cソーシャルセリングを行うために、マーケターがすべきこと
岩間:B2C2Cソーシャルセリングを行うにあたって、企業は一般消費者から信頼される人を選んだり、依頼しなくてもそのような人たちが商品を紹介してくれるような仕組みを作ったりする必要がありそうですね。
蒋:マーケターがメインで行うべきことは、自社商材の世界観やUSP(Unique Selling Proposition = 独自の強み)を明確にすることです。例えば、リリースを発信する際はターゲットの解像度を高めるようにします。そうすれば、ターゲットの中から確度の高いイノベーターやアーリーアダプターが出てくるようになり、「いつも発信しているあの人がおすすめする商品なら信頼できる」と一般消費者も思うようになるでしょう。
ほかにも、自社商材やサービスのイノベーターやアーリーアダプターに影響を与えやすい施策を策定することも大切です。
以上、3月のコンテンツマーケティング動向「SNS編」でした。レポートの完全版ではその他に、「2023年3月に知っておきたいSNSニュース」などのコンテンツもございますので、是非チェックしてみてくださいね。
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IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。