企業イメージ経営 ~ メセナとフィランソロピー

企業イメージ経営 ~ メセナとフィランソロピー

企業の存続意義は利潤の追求だけでしょうか。昨今では、CSRなどの社会における企業責任や役割を示す概念も浸透し、企業の理想的な立ち位置や求められる企業イメージなども過去と比べると大きく変わってきたように思われます。本稿では、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が、文化的活動に寄与すべきとの支援活動「メセナ」や、ウエルビーイングを高めるための社会貢献活動、慈善・篤志活動といった「フィランソロピー」について解説。今や企業も個人も「人類愛」を念頭に置いた社会活動が望まれると提言します。


企業ブランドの指標

企業ブランド価値を評価するための最もふさわしい指標のひとつが企業イメージです。企業の持つイメージはステークホルダー(取引先、従業員、株主、顧客、労組、地域社会など)によってそれぞれ異なる可能性があります。その要因として、年代や世代、性別、居住地、職業、世帯年収、季節性など多数の要素があげられます。企業を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。時系列調査で定点観測すると、企業の不祥事が発覚した前後ではイメージは異なりますし、イメージの回復には相当な時間がかかるのが常です。従業員からノーベル賞受賞者が生まれた、新製品が絶好調の売れ行き、など好材料によっては短期的にイメージは急上昇しますが、中長期的に維持し続けるのは至難の業です。また、企業によってイメージの振れ幅が大きい場合は何か問題が潜んでいると検証すべきです。グローバル社会の進展により、国際的な諸問題や事件・紛争に巻き込まれる可能性も大いにあります。対応次第ではイメージの悪化は避けられませんが、逆にスピーディーかつ説得力の高い対処により、グローバル化が進む先進的な企業として良好なイメージが醸成された企業も存在します。

企業も社会の一員であり、利益の最大化を追求するばかりでなく、その活動に相応しい企業の社会的責任(CSR)を果たす義務があります。CSRには社会的貢献活動や法令順守、経営の透明性、説明責任などが含まれます。これからの経済社会はステークホルダー資本主義を目指し、CSRを重視した企業経営に重点が置かれています。また、企業ブランド価値を高めるためには社会との共存・協働を意識し、将来性を感じさせる経営戦略が求められます。

企業ブランドの指標

ブランド・エクイティ(ブランド資産)

強いブランドには何らかの「資産」があり、他のブランドと比べて優位性を持っています。この「資産」はブランド・エクイティと呼ばれ、広告・宣伝などのコミュニケーション活動はブランド・エクイティを構築するために重要な役割を果たしています。ブランド論の第一人者であるデービット・アーカー氏によると、ブランド・エクイティは主に四つの次元から構成されるとしています。①ブランド・ロイヤルティ。ブランドへの行動的あるいは心理的忠実性を指します。あるブランドを繰り返し反復して購入する行動やブランドの愛好者などが思い浮かべられます。②ブランド認知。ブランド名やロゴ・マークなど消費者に広く知られて記憶に残っている商品・サービスは消費者市場に浸透しやすいといえます。口コミやSNSも含めた有効なコンタクトポイントを増やし、消費者の意思決定の場面でブランド名が想起されることが重要です。③知覚品質。消費者は購入する前に商品・サービスの品質を的確に見極めるのは不可能です。そのため消費者が活用するのが、信頼できる品質を表現したコミュニケーション活動であり、商品・サービスから発せられる「シグナル」なのです。➃ブランド連想。強力なブランドほど愛され好まれるブランド連想やイメージを持っています。連想の対象とブランドやイメージを結び付ける訴求を随時行うことが効果的な戦術です。

企業のメセナ活動

メセナとは狭義では企業が主として資金を提供した文化・芸術支援活動です。広義では福祉、教育、環境保全などを含めた社会貢献活動を指します。フランス語では「文化の擁護」を意味していて、語源はローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの政治的助言者で文化・広報を担当していたガイウス・マエケナスの名前に由来しています。現代を通じて文化を助成することを「マエケナス」する、フランス風には「メセナする」と表現されるようになりました。

企業がメセナに貢献すべき理由として、『企業は経済活動のために環境負荷を与え資源を浪費する。同時に文化を支える人材を労働力として収奪してしまうため、文化で次世代に還元する必要がある』とされています。特に1988年の第3回の日仏文化サミットから、日本でも広がりを見せ、バブル崩壊後は敢えて企業名を出さない地味なメセナが展開されるなど、規模は縮小しつつも多様化が進んでいます。1990年には社団法人企業メセナ協議会が発足。メセナという言葉も浸透してきました。現在のメセナはCSRの一環として、広義の解釈である福祉、教育、環境保全などを推進すると共に、文化・芸術支援活動では古典的なものだけでなく近現代的なもの、あるいは大衆的なものまで支援の対象を拡大しています。

企業のメセナ活動

フィランソロピー

フィランソロピー(Philanthropy)とはギリシャ語の「フィロス(愛)」と「アントロポス(人類)」を語源とする言葉で、「人類への愛」に基づいたウエルビーイング(Wellbeing)を高めるための社会貢献活動や慈善・篤志活動を指します。現在では企業や個人など民間主体による社会貢献活動を表しています。活動としては、①寄付、②地球環境保護、③ボランティア、④子育てや教育支援などが当てはまります。日本ではまだまだ知名度が低いフィランソロピーですが、2003年公益社団法人日本フィランソロピー協会が「企業フィランソロピー大賞」を創設。フィランソロピーはCSR活動の推進に相まってニーズが高まり、さらなる展開が期待されます。企業は常に利潤最大化をはかっています。フィランソロピーによる支出の増加も、社会的評価を高めて長期的な利益を増大できれば、現実の経営理念としても説得力を持ちます。企業のフィランソロピーが消費者に評価され企業イメージを高めることにより、優秀な人材の確保や企業業績の向上につながるなど様々なメリットが考えられます。ただ、社会的にあまり意味のない活動や社会的に意義のない小さな活動などに膨大な資金を投入してしまう危険性もあります。フィランソロピーの水準は、企業の経営姿勢だけの問題でなく、様々なステークホルダーが各企業の活動を適切に評価できるか、企業はそうしたステークホルダーの評価を正しく認識できるかにかかっています。企業の行動哲学ともいうべき概念として、有効なフィランソロピーがステークホルダーの評価を通じて長期的な利益の増大につながるという「見識ある自己利益(enlightened self-interest)」が存在します。ステークホルダーの評価以上に企業は正しい自己認識をし、見識ある判断が可能であれば、真の意味での企業による社会貢献を進め実現することになります。

企業も個人も心の壁を乗り越え、人類愛のために汗をかくことは当然の定めなのです。

フィランソロピー

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人ギフト研究所 主筆。
広告・マーケティング業界に約40年従事。日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連するキーワード


渡部数俊 ブランディング

関連する投稿


企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージと聞き、最初に思いつくのはロゴでしょうか、色でしょうか、それともキャラクター?昨今では、キャラクターを用いての広告戦略は企業だけでなく、地域おこしなど、あらゆるところで目にするようになりました。誰も彼もが深い意味もなく「かわいい」と愛着を感じてしまう「ゆるキャラ」や企業のイメージキャラクター。実はそこに認知心理学が深く関わっているようです。本稿では人心を捉えるために計算尽くされたキャラクターの威力について、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


森と生きる ~ 山、川、海

森と生きる ~ 山、川、海

日本の国土のどれほどが森林かをご存知でしょうか。その面積は実に3分の2。しかしながらこの森林も、今では林業従事者の減数などで十分な管理が行き届かないのが実情です。また里山の暮らしも変貌を遂げ、昨今では野生生物が人間の生息域へ出現し、大きな混乱を招くニュースも多数見聞きします。本稿では山、川、海のそれぞれの作用をあらためて見直し、それらからの恩恵の上に経済があることを気づきとして、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が自然と現代の融合について解説します。


スマートな街を目指して ~ コンパッションと健康

スマートな街を目指して ~ コンパッションと健康

近年、人口の集中・過密化による過疎、そしてインフラの老朽化や少子高齢化により、生活環境が激変しているという都市問題が私たちの国・日本でも大きくなりつつあります。変わりゆく都市は、その機能や姿をどのように変貌させてゆけば良いのでしょうか。人が集い生活を営む集合体である「都市」の、本来のあるべき姿とは。本稿では、「コンパッション都市」「健康都市連合」といった新たな概念をもとに、望まれるスマートシティの形について、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


バタフライエフェクト ~ 予測不可能な未来

バタフライエフェクト ~ 予測不可能な未来

「蝶の羽ばたきはトルネードを引き起こすか」という提言のもとに生まれたバタフライエフェクト。この概念の真意は、些細な事が様々な要因を引き起こし、非常に大きな事柄の引き金となり得ることと説かれています。日々の何気ない気づきや些細な偶然、無意識の集合、それらが奇妙なタイミングで合致した時、歴史を動かすほどの事象が起きうる可能性があるとも考えられそうです。それは一人一人の小さな良心がエフェクトを起こし、よりよい未来を創造することも可能であるとも言えるでしょう。本稿では、心理学の分野から興味深いワード群も用いながら、未来へのエフェクトを構成する様々な知見を、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


ブランディングの成功事例11選!事例から読み解く成功の秘訣を解説

ブランディングの成功事例11選!事例から読み解く成功の秘訣を解説

企業におけるブランディング戦略は今後の事業運用に欠かせません。しかし、ブランディングといっても、「どのように始めればいいのか」「ブランディングを強化するためにはどうすればいいのか」とお悩みの方もおられるでしょう。 そこで本記事では、企業のブランディングデザイン、リブランディング・採用ブランディングといった種類別の成功事例について解説します。 本記事をお読みいただくことで、他社の事例を自社のブランディングに取り入れたり、戦略を進める上で重点的に対応すべきポイント、成果を上げるためのコツがわかるはずです。


最新の投稿


広報・マーケティング担当者の約9割がPR施策に悩み・失敗を実感【リンクアンドパートナーズ調査】

広報・マーケティング担当者の約9割がPR施策に悩み・失敗を実感【リンクアンドパートナーズ調査】

株式会社リンクアンドパートナーズは、上場企業に勤めており、PR施策を行っている広報担当者・マーケ担当者を対象に、「上場企業のPR施策の実態に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


推し活は生活の一部?時間もお金も、約4割を「推し活」に費やしている【博報堂・SIGNING調査】

推し活は生活の一部?時間もお金も、約4割を「推し活」に費やしている【博報堂・SIGNING調査】

株式会社博報堂、博報堂DYグループの株式会社 SIGNING は、生活者発想で経営を考える研究開発・社会実装プロジェクト「HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO」の活動の第二弾として「オシノミクス プロジェクト」を発足、「オシノミクス レポート」を発表しました。


サイバーエージェント、Amazon Ads運用最適化ツール「PARADE」を開発 リアルタイムな情報管理が可能に

サイバーエージェント、Amazon Ads運用最適化ツール「PARADE」を開発 リアルタイムな情報管理が可能に

株式会社サイバーエージェントはインターネット広告事業において、Amazon Adsにおける運用最適化ツール「PARADE(パレード)」を開発したことを発表しました。


企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージと聞き、最初に思いつくのはロゴでしょうか、色でしょうか、それともキャラクター?昨今では、キャラクターを用いての広告戦略は企業だけでなく、地域おこしなど、あらゆるところで目にするようになりました。誰も彼もが深い意味もなく「かわいい」と愛着を感じてしまう「ゆるキャラ」や企業のイメージキャラクター。実はそこに認知心理学が深く関わっているようです。本稿では人心を捉えるために計算尽くされたキャラクターの威力について、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


現役Z世代が検索ワードからトレンドを考察!「バレンタイン」×「推し活」、大学受験の「応援・ご自愛ニーズ」とは?(2024年1月)【現役Z世代が読み解くZ世代の行動データ】

現役Z世代が検索ワードからトレンドを考察!「バレンタイン」×「推し活」、大学受験の「応援・ご自愛ニーズ」とは?(2024年1月)【現役Z世代が読み解くZ世代の行動データ】

Z世代のデータアナリストが、自らZ世代の行動データを分析する本連載。第15弾となる今回は、Z世代とミレニアル世代の検索キーワードランキングから、「バレンタイン」「大学受験」の2テーマを取り上げてZ世代のトレンドをお送りします。 お菓子の手作り・購入のみならず、推し活やファッションにも広がるバレンタイン市場の様子や、大学受験にまつわるマーケティング・消費行動など、データとリアルな声を掛け合わせ、Z世代のニーズを読み解きます。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ