企業ブランドの指標
企業ブランド価値を評価するための最もふさわしい指標のひとつが企業イメージです。企業の持つイメージはステークホルダー(取引先、従業員、株主、顧客、労組、地域社会など)によってそれぞれ異なる可能性があります。その要因として、年代や世代、性別、居住地、職業、世帯年収、季節性など多数の要素があげられます。企業を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。時系列調査で定点観測すると、企業の不祥事が発覚した前後ではイメージは異なりますし、イメージの回復には相当な時間がかかるのが常です。従業員からノーベル賞受賞者が生まれた、新製品が絶好調の売れ行き、など好材料によっては短期的にイメージは急上昇しますが、中長期的に維持し続けるのは至難の業です。また、企業によってイメージの振れ幅が大きい場合は何か問題が潜んでいると検証すべきです。グローバル社会の進展により、国際的な諸問題や事件・紛争に巻き込まれる可能性も大いにあります。対応次第ではイメージの悪化は避けられませんが、逆にスピーディーかつ説得力の高い対処により、グローバル化が進む先進的な企業として良好なイメージが醸成された企業も存在します。
企業も社会の一員であり、利益の最大化を追求するばかりでなく、その活動に相応しい企業の社会的責任(CSR)を果たす義務があります。CSRには社会的貢献活動や法令順守、経営の透明性、説明責任などが含まれます。これからの経済社会はステークホルダー資本主義を目指し、CSRを重視した企業経営に重点が置かれています。また、企業ブランド価値を高めるためには社会との共存・協働を意識し、将来性を感じさせる経営戦略が求められます。
ブランド・エクイティ(ブランド資産)
強いブランドには何らかの「資産」があり、他のブランドと比べて優位性を持っています。この「資産」はブランド・エクイティと呼ばれ、広告・宣伝などのコミュニケーション活動はブランド・エクイティを構築するために重要な役割を果たしています。ブランド論の第一人者であるデービット・アーカー氏によると、ブランド・エクイティは主に四つの次元から構成されるとしています。①ブランド・ロイヤルティ。ブランドへの行動的あるいは心理的忠実性を指します。あるブランドを繰り返し反復して購入する行動やブランドの愛好者などが思い浮かべられます。②ブランド認知。ブランド名やロゴ・マークなど消費者に広く知られて記憶に残っている商品・サービスは消費者市場に浸透しやすいといえます。口コミやSNSも含めた有効なコンタクトポイントを増やし、消費者の意思決定の場面でブランド名が想起されることが重要です。③知覚品質。消費者は購入する前に商品・サービスの品質を的確に見極めるのは不可能です。そのため消費者が活用するのが、信頼できる品質を表現したコミュニケーション活動であり、商品・サービスから発せられる「シグナル」なのです。➃ブランド連想。強力なブランドほど愛され好まれるブランド連想やイメージを持っています。連想の対象とブランドやイメージを結び付ける訴求を随時行うことが効果的な戦術です。
企業のメセナ活動
メセナとは狭義では企業が主として資金を提供した文化・芸術支援活動です。広義では福祉、教育、環境保全などを含めた社会貢献活動を指します。フランス語では「文化の擁護」を意味していて、語源はローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの政治的助言者で文化・広報を担当していたガイウス・マエケナスの名前に由来しています。現代を通じて文化を助成することを「マエケナス」する、フランス風には「メセナする」と表現されるようになりました。
企業がメセナに貢献すべき理由として、『企業は経済活動のために環境負荷を与え資源を浪費する。同時に文化を支える人材を労働力として収奪してしまうため、文化で次世代に還元する必要がある』とされています。特に1988年の第3回の日仏文化サミットから、日本でも広がりを見せ、バブル崩壊後は敢えて企業名を出さない地味なメセナが展開されるなど、規模は縮小しつつも多様化が進んでいます。1990年には社団法人企業メセナ協議会が発足。メセナという言葉も浸透してきました。現在のメセナはCSRの一環として、広義の解釈である福祉、教育、環境保全などを推進すると共に、文化・芸術支援活動では古典的なものだけでなく近現代的なもの、あるいは大衆的なものまで支援の対象を拡大しています。
フィランソロピー
フィランソロピー(Philanthropy)とはギリシャ語の「フィロス(愛)」と「アントロポス(人類)」を語源とする言葉で、「人類への愛」に基づいたウエルビーイング(Wellbeing)を高めるための社会貢献活動や慈善・篤志活動を指します。現在では企業や個人など民間主体による社会貢献活動を表しています。活動としては、①寄付、②地球環境保護、③ボランティア、④子育てや教育支援などが当てはまります。日本ではまだまだ知名度が低いフィランソロピーですが、2003年公益社団法人日本フィランソロピー協会が「企業フィランソロピー大賞」を創設。フィランソロピーはCSR活動の推進に相まってニーズが高まり、さらなる展開が期待されます。企業は常に利潤最大化をはかっています。フィランソロピーによる支出の増加も、社会的評価を高めて長期的な利益を増大できれば、現実の経営理念としても説得力を持ちます。企業のフィランソロピーが消費者に評価され企業イメージを高めることにより、優秀な人材の確保や企業業績の向上につながるなど様々なメリットが考えられます。ただ、社会的にあまり意味のない活動や社会的に意義のない小さな活動などに膨大な資金を投入してしまう危険性もあります。フィランソロピーの水準は、企業の経営姿勢だけの問題でなく、様々なステークホルダーが各企業の活動を適切に評価できるか、企業はそうしたステークホルダーの評価を正しく認識できるかにかかっています。企業の行動哲学ともいうべき概念として、有効なフィランソロピーがステークホルダーの評価を通じて長期的な利益の増大につながるという「見識ある自己利益(enlightened self-interest)」が存在します。ステークホルダーの評価以上に企業は正しい自己認識をし、見識ある判断が可能であれば、真の意味での企業による社会貢献を進め実現することになります。
企業も個人も心の壁を乗り越え、人類愛のために汗をかくことは当然の定めなのです。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。