スマートとは
スマート(smart)とは、日本では主に細いとかスタイル抜群とかカッコいいといったイメージや意味として使用されます。ただ、大学生の頃、スマートという言葉の意味合いは若干異なりました。良い意味としては、利口な、見事な、きちんとした、こざっぱりした、といった使われ方をしていたと記憶しています。逆に悪い意味では、抜け目のない、油断のならない、悪賢い、生意気な、のように少々とげのあるイメージを思い浮かべる言葉でした。成績が良く、頭の回転が速く、明朗快活、都会的で、健康で、幸福感溢れる人間がスマートであり、エリート。それらを併せ持った理想の将来像・生き方、つまりはスマートに生きることを人生の目標に大学生諸君は将来にわたって奮闘努力すべしといったような志向が、特に若い教官や大学院生、上級生の間で存在していたような気がします。周りに存在した経済学部で近代経済学を専攻し、留学してPh.D.を取得した教員や勉強好きで上昇志向が強い学生達がアメリカのアイビーリーグなどの影響を受けていたことがその遠因かもしれません。
今では肥満の対義語としてスマートは健康社会実現の目標となる言葉として存在価値が高まっています。もちろん、時の流れの中で言葉の意味も活用も変化しますが、本質は変わらないのかもしれません。後程のスマートシティの定義でそれが証明されます。
セルフ・コンパッション
コンパッション(compassion)とは「思いやり」や「慈悲」を表します。自分自身や他者に対する理解を深め心から力になりたいと思うこと、自分自身が他者に寄り添う能力、と定義されています。さらに、自分自身に対して思いやりを持つ、他者を思いやるように自分自身を大切にする、セルフ・コンパッション(self compassion)がビジネス界でも注目されています。評価や判断を加えずに自分と向き合い、いま経験・体験していることに対して意識を向け続けるマインドフルネス(mindfulness)と同様に必要とされています。自分のありのままを受け入れるのがマインドフルネスで、それに慈悲の心で接するのがセルフ・コンパッションなのでしょうか。
経済・社会生活では、利益や効率を追求する風潮が高まり、個々人のセルフケアが極めて重要となってきました。また、新型コロナウイルス禍では仕事・プライベートに限らずコミュニケーションの機会が著しく減少し、セルフ・コンパッションによる心のコントロールが個人でも企業でも重要視されました。
セルフ・コンパッションを身につけると様々な効果があることが研究で証明されています。①幸福感の向上。マイナス思考を改め、焦りや悲観的な感情を抑えることにつながります。②ストレスの減少。ストレスを感じにくくなり、怒りや悲しみといったネガティブな感情を抑えられます。③健康な心の創造。自分の状況を客観的に捉え、自己肯定感を高め、ストレスや困難に立ち向かえる心を創れます。スマートな人生を歩むためには心の状態を整えて、日々の生活や仕事にポジティブに取り組むセルフ・コンパッションのようなセルフケアの手法が極めて重要です。
コンパッションは医療や介護などの分野・業界でも使用頻度が高い言葉です。終末ケアの充実を目指す「コンパッション都市」という構想も、健康都市の進化型として研究が進んでいます。都市のコミュニティを深化・活性化させるためにも導入が期待されます。
健康都市連合
ヨーロッパを中心とした国々の都市では、人口の集中・過密化により生活環境が激変し、人々の健康に与える影響が拡大するといった都市問題が深刻化しています。それまで、健康は個人の責任と考えられてきました。しかし、居住環境、水や空気、都市の整備、安心・安全など個人の努力だけではどうにもならない要因が複雑に存在しています。都市の政策に住民の健康維持を掲げることがこれからの都市のあり方といえます。
健康都市(Healthy City)とは「都市の物的・社会的環境の改善を行い、そこの住む人々が互いに助け合い、生活のあらゆる局面で自身の最高の状態を達成するために、都市にある様々な資源を幅広く活用し、つねに発展させていく都市」と定義されています。2003年、WHOの呼びかけで、都市に住む人々の健康を守り、生活の質を向上させるため健康都市に取り組む都市のネットワークとして健康都市連合が創設されました。2023年6月の時点で、9か国から189都市50団体が加盟、日本は31都市6団体が加盟しています。各都市の経験や知見を活かし、国際的な協働を通して健康都市の発展を目指し、知識や情報の共有・発展を進めています。
スマートシティ
世界の人口は増大し続け、都市への人口集中は加速化しています。その結果、エネルギー消費量や交通量も増え、環境汚染や交通渋滞を引き起こしています。日本では高度経済成長時代の名残りともいうべき首都高などの都市インフラは老朽化し、少子高齢化が進み、気候温暖化により都市災害が頻発するなど都市問題が山積、対応策で行政は頭を悩ましています。
都市開発においてはスマートシティと呼ばれる街づくりの概念が注目されています。スマートシティとは、2020年代に日本で導入が検討されている都市計画であり、「第5期科学技術基本計画」で示された社会像「Society5.0」の一環として企画立案されました。ICTなど先端技術を活用し、エネルギーや交通網などのインフラを効率化することで、住民の生活の質やサービスの向上をはかり、暮らしやすさを現実化する都市です。スマートシティで取り上げられる技術には、①5Gなど情報基盤となる通信技術、②災害予測の情報共有とそのための有益なデータ活用と収集、③温度センサーや加速度センサーなどのセンシング技術、④自動運転やAIなど新たな応用技術、があります。これまで活用が進まなかった街のデータを集積・活用することの技術連携がスマートシティでは実行されます。今までのスマートシティの考えでは課題を個別に解決する「個別分野特価型」が中心でしたが、近年では先端技術の進化で、複数の課題を幅広く解決する「分野横断型」への取り組みが増加しています。
人が住みやすい都市の実現には自治体と先端技術やノウハウを持つ企業が連携をはかり、賢く、抜け目なく、未来に相応しい、それこそスマートな街づくりが求められています。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。