「スタンレー」のタンブラーが女性を新ターゲットに人気沸騰中! | 海外トレンドに見るビジネスの種(2024年8月)

「スタンレー」のタンブラーが女性を新ターゲットに人気沸騰中! | 海外トレンドに見るビジネスの種(2024年8月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アメリカを中心にSNSを通じて社会現象となった人気商品、スタンレーのタンブラーについて取り上げます。


創業110年超えの老舗水筒ブランド「スタンレー」とは

スタンレー(STANLEY)は、1913年にウィリアム・スタンレー・ジュニア(William Stanley Jr.)が創立したアメリカの水筒ブランド。商品ラインナップは、水筒やタンブラーに加えて、アウトドアで持ち運びできるクーラーボックスやランチボックスなども取り扱っています。

アメリカのニュース放送局CNBCによると、スタンレーの収益は2019年の7300万ドルから年々増加していきました。2020年は9400万ドル、2021年は前年比約2倍の1.94億ドル、2022年はなんと4.02億ドルに急上昇し、2023年は7.5億ドルにまで至っています。今回は、創業から約110年経った老舗ブランドの商品が、なぜ今のタイミングで脚光を浴びることになったのか、その理由を探っていきたいと思います。

今回取り上げる人気沸騰中の商品は「クエンチャー(Quencher)」というタンブラー。サイズは高さ約30cm、容量40オンス(約1.18L)とタンブラーにしては大きめで、マグのような持ち手がついている特徴的なフォルムになっています。下半分がスリムになっているため、大容量にもかかわらず車のカップホルダーに収まります。また、クエンチャーの真空ボトルは11時間の保冷と7時間の保温機能があり、高機能な点も人気を集めている理由の一つです。

クエンチャーの売り上げが飛躍した理由

元々は男性に親しまれてきたスタンレー商品

スタンレーのクラシック真空ボトル

クエンチャーを売り出す前のスタンレーは、「クラシック真空ボトル」というグリーン色の昔ながらの水筒で成功していました。この水筒は、アウトドアや建設現場などで働く人、特に男性の間で人気となり長い間親しまれてきました。スタンレーがクエンチャーを売り出したのは創業から100年以上経った2016年のこと。スタンレーの歴史から見ると最近の出来事です。発売してから約3年が経った2019年の時点では、クエンチャーは主力商品という立ち位置ではなかっため、新しい生産をストップしていたこともありました。

女性に向けたアフィリエイトマーケティングの成功

2019年に、商品紹介のブログとインスタグラムアカウントを運営するThe Buy Guideでクエンチャーが紹介されたことが最初の流行のきっかけとなりました。その後スタンレーはThe Buy Guideと手を組み、The Buy Guideを通じてクエンチャーを販売したところ、4日間で5,000個があっという間に売り切れ、追加の5,000個もわずか1時間以内に売り切れるほど人気となりました。The Buy Guideのフォロワーのほとんどが女性ということもあり、スタンレーにとっては新たにターゲット層を広げる機会となりました。また、The Buy Guideの口コミによるアフィリエイトマーケティングの成功体験にもなりました。

女性客の心をとらえるカラー展開やコラボ商品

スタンレーの公式インスタグラム

2020年にスタンレーの社長としてテレンス・ライリー(Terence Reilly)が就任したことも大きな転機となりました。テレンス・ライリーは、シューズブランドのクロックス(Crocs)で7年間働いた経験をもとにクエンチャーを売り出す戦略を大きく変えました。それまで男性中心に親しまれていたスタンレーの商品でしたが、新たに女性をターゲットとしてカラー展開やコラボ商品などを増やしていきました。

クエンチャーのカラー展開は100色以上にも広がり、その日の服装やネイルカラーに合わせてコーディネートするといったファッションアイテムとしての楽しみ方も見出されるようになりました。期間限定のカラーやコラボ商品を販売することで、買う側の購買意欲を掻き立てる戦略をとっています。中でも2024年1月にスターバックスとのコラボでピンク色のクエンチャーが販売された時には、スーパーマーケットのターゲット(Target)の駐車場に野宿をしてまで開店を待っている人たちの様子が話題になりました。

全焼した車内でも氷が解けない高機能性がTikTokで話題に

2022年の時点で、クエンチャーはスタンレーで最も売れ筋の商品になっていました。そんな中、2023年11月のとあるTikTok動画がきっかけで、ますます注目を浴びることになりました。事故で全焼してしまった車内に、クエンチャーがほぼ無傷の状態でカップホルダーに残っており、しかも中の氷まで解けずに残っていたという内容の動画です。この投稿により、クエンチャーの頑丈さと保冷機能の高さの認知がさらに広がりました。この動画の広がりを受けて、スタンレーの社長テレンス・ライリーは動画投稿者に新しいタンブラーと新しい車を贈っています。

@stanleybrand #stitch with @Danielle ♬ original sound - Stanley 1913

ついついたくさん集めたくなる可愛さ

クエンチャーの購入者の中には、様々なカラーを集めるコレクターファンもいます。集めることに楽しみを見出してしまうほど、タンブラーの見た目が可愛く、バリエーション豊かな点が人気です。TikTokには、棚いっぱいに並べたクエンチャーのコレクションを披露する動画が投稿されています。これらの動画は商品の魅力が伝わってくる一方で、本来環境にやさしいはずの水筒を必要以上に収集するトレンドに対しての批判的なコメントもあがっています。そんな熱狂的なファンができるほど、スタンレーのトレンドはここ数年で社会現象となっています。

【参考文献】
https://www.forbes.com/sites/conormurray/2024/01/03/why-is-tiktok-obsessed-with-stanley-cups-the-water-bottle-craze-racks-up-millions-of-views-and-lots-of-revenue/
https://www.cnbc.com/2023/12/23/how-a-40-ounce-cup-turned-stanley-into-a-750-million-a-year-business.html?&qsearchterm=stanley%20cup
https://www.retaildive.com/news/stanley-quencher-tumblers-viral-success/699416/
https://www.today.com/food/news/starbucks-pink-stanley-cup-target-rcna132157

この記事のライター

大学でポルトガル語と言語学を専攻していました。
趣味は、海外エンタメ情報の追っかけとおうちでラテアート修行をすることです。

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