前回の調査記事はこちらです。本調査はこちらの調査結果を元に進めていきます。
ゲーム好き以外も使っている?睡眠アプリ「Pokémon Sleep」の利用動向
https://manamina.valuesccg.com/articles/2720大人気コンテンツのポケモンから新たに睡眠アプリがリリースされました。睡眠を利用したゲームアプリとして注目を集める「Pokémon Sleep」はどのような人に利用されているのでしょうか。リリース直後の利用状況とユーザーの人となりについて調査しました。
ライトユーザーは離れ、ヘビーユーザーが愛用
まずは、ユーザー数の推移をみていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
リリースされた2023年7月時点では402万人だったユーザー数は徐々に減少し、2023年12月にはほぼ半分の198万人になっています。一方で月平均アプリ起動日数は2023年8月には約14日を超え、右肩上がりに増加しています。
Pokémon Sleepのユーザー数(左)と月平均アプリ起動日数推移(右)
Dockpitより集計。対象期間:2023年7月~2023年12月
デバイス:スマートフォン
このように、初めは注目され、多くの人にダウンロードされましたが、毎日利用するというハードルや、ゲーム自体が合わなかった人が離れ、現在は利用習慣が出来たユーザーの割合が多くなっていると考えられます。
スマホゲーム好きは離脱?
続いて、男女別で関心アプリを見ていきます。まず男性では、2023年7月の初回調査時点と同様、2位のPokémon GOをはじめ、10位にゲームアプリ、3位にゲーム画面の共有がしやすいボイスチャットアプリDiscordがランクインしています。しかし、2023年7月時点ではゲームアプリは7個、ゲーム関連アプリは4個ランクインしていたのに対し、2023年12月現在はゲームアプリが2個、ゲーム関係のアプリ(Discord)が1個となっています。「ゲーム好き」の延長から利用を始めたユーザーが徐々に離れ、純粋にPokémon Sleepを楽しめるユーザーの割合が増えてきたと考えられます。
Pokémon Sleepの男性ユーザーの関心のあるアプリ(リーチ率※優先)
Dockpitより集計。対象期間:2023年12月
デバイス:スマートフォン
※リーチ差:一般的なネット利用者と比べて、対象者がどれくらい特徴的に利用しているかを表す指標。以下の式で計算される。
リーチ差=対象者のリーチ率(※)ーネット人口全体のリーチ率
※リーチ率:抽出条件に当てはまった人のうち、当該アプリを利用している人の割合。
次に女性ユーザーです。Pokémon GO、Discordがそれぞれ2位、6位にランクインしている他、ゲームアプリが10位、11位にランクインしています。2023年7月時点ではゲームアプリが6個、ゲーム関連アプリが2個ランクインしていたのに対し、2023年12月にはゲームアプリが3個、ゲーム関連アプリ(Discord)が1個になっている所を見ると、ゲームアプリのランクインが減少しており、女性ユーザーにおいても、ゲーム好きのユーザーは一定数離れたものと考えられます。
ただし、11位にランクインしているPikmin Bloomは、2023年7月時点にもランクインしており、歩くことでアイテムや新しいキャラクターを発見できるという、Pokémon GOと基本的なプレイスタイルが似ているゲームです。このことから、男性と同様、ゲーム然としたスマホゲームが好きなユーザーは離れたものの、Pikmin BloomやPokémon GOといった、ヘルスケアと組み合わせたゲームを好んでいたユーザーは利用を続けている可能性があります。
Pokémon Sleepの女性ユーザーの関心のあるアプリ(リーチ率優先)
Dockpitより集計。対象期間:2023年12月
デバイス:スマートフォン
ポケモン好きも離脱か
さらにポケモン公式のアプリの併用率も見ていきましょう。2023年7月時点では、公式アプリ10個のうち、8個が上位1000個以内に該当していましたが、2023年12月現在は、5個しか該当していませんでした。また、該当しているアプリの特徴値も、2023年7月時点より、どれも0.1pt以上減少していました。このことから、ポケモン関連アプリであることから利用を始めたものの、Pokémon Sleepが合わなかったユーザーが離れていったと考えられます。
Pokémon Sleepのユーザーが利用しているポケモンの公式アプリ(特徴値優先※)
Dockpitより集計。対象期間:2023年7月(上)2023年12月(下)
デバイス:スマートフォン
※特徴値:当該アプリのユーザーのうち、指定したアプリも利用した人の割合
Aというアプリについて分析している場合、Bというアプリの特徴値は次の式で求められる。
Bの特徴値 = Aを利用し、かつBも利用した人数 ÷ Bを利用した数
若い女性やスマホゲーム好き、睡眠に悩んでいるユーザーが利用
続いて、ユーザーの深掘り分析をしていきます。まずは以下の表をご覧ください。これは2023年7月~12月のそれぞれにおいて、Pokémon Sleepを26~31日起動したユーザーの割合を示しています。これを見ると、9月以降アプリの起動日数が安定していることから、ユーザー層が固まってきたのではと考えられます。そこで、これ以降、2023年7月・8月を「リリース直後」、2023年9月~12月を「現在」と呼び、この期間同士を比較していきます。
Pokémon Sleepの月平均アプリ起動日数(26~31日のみ)
Dockpitより集計。
デバイス:スマートフォン
※Pokémon Sleepのリリース日は7月20日であり、最長11日しかアプリを起動することができないため、6~11日アプリを起動させたユーザーの割合を合算した。
ではここから、Web行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank」を使用して深掘り分析をしていきましょう。
■若い女性に人気
まずユーザー属性を見てみると、「リリース直後」も「現在」も20代女性が25%前後、30代女性が約17%と、若い女性ユーザーが多いことがわかります。Pokémon Sleepはリリース以降一貫して若い女性に人気のコンテンツと言えそうです。
Pokémon Sleepユーザーの性別と年齢
story bankより集計。対象期間:2023年7月~8月(左)9月~12月(右)
デバイス:スマートフォン
■ゲームアプリの利用時間は普段から長い
次に、Pokémon Sleepユーザーにおける「ゲーム」に興味がある人の特徴値は「リリース直後」も「現在」も約30ptとほとんど変わらないことからも、変わらずゲーム好きのユーザーから人気があると言えるでしょう。
Pokémon Sleepユーザーの興味関心(縦軸:リーチ率|横軸:特徴値※)
(特徴値20pt以下は省略)
story bankより集計。対象期間:2023年7月~8月(左)9月~12月(右)
デバイス:スマートフォン
※特徴値:一般的なネット利用者と比べて、対象者がどれくらい特徴的に利用しているかを表す指標。以下の式で計算される。
特徴値=対象者のリーチ率(※)ーネット人口全体のリーチ率
※リーチ率:抽出条件に当てはまった人のうち、当該サイトを訪問している人の割合。
Pokémon Sleepユーザーの1日あたりのゲームアプリの利用時間を見ると、「リリース直後」「現在」問わず、ネット利用者全体よりも、ゲームアプリを利用する人の割合が約28%も高く、特に1時間以上ゲームをする人は、ネット利用者全体よりも約25%も高いです。このことから、普段から暇つぶし程度ではなくじっくりゲームアプリで遊んでいる人が多いと考えられます。
Pokémon Sleepユーザーのゲームアプリの利用時間(1日あたり)
story bankより集計。対象期間:2023年7月~8月(左)9月~12月(右)
デバイス:スマートフォン
Pokémon Sleepは就寝時常に起動しているとはいえ、推奨されている通りスマホを伏せておけばスリープモードとなり、その間の時間が利用時間として計算されることはありません。睡眠記録を取るための操作は、就寝時・起床時の10分程度のみです。他には朝昼夜に時間限定の操作をしたり、パーティー編成を行ったり、図鑑を確認したりと、様々に遊ぶことはできますが、長時間のプレイは想定されていないと思われます。つまり、他のゲームアプリで長時間遊んでいる可能性が高いのではないでしょうか。
しかし、先ほどDockpitの関心アプリ分析においては、ゲームアプリのランクイン数がかなり減少していました。これらを併せて考えると、Pokémon Sleepのユーザーは、ゲームアプリ好きの傾向があるものの、併用しているゲームに共通性はなく、それぞれが気に入ったゲームをプレイしていると考えられそうです。
また、Pokémon Sleepユーザーの約28%はPokémon GOも利用しており、Pokémon GOの利用時間が長いことが影響している可能性もあります。
Pokémon Sleepから見たPokémon GOの併用率
Dockpitより集計。対象期間:2023年7月~12月
デバイス:スマートフォン
■睡眠に悩みを抱えたユーザー
続いて、Pokémon Sleepユーザーの抱える体の悩みについて見ていきます。上の図は、「リリース直後」のPokémon Sleepユーザーの体の悩み、下の図は「現在」のPokémon Sleepユーザーの体の悩みを示しています。
Pokémon Sleepユーザーの体の悩み(縦軸:リーチ率|横軸:特徴値)
story bankより集計。対象期間:2023年7月~8月(上)9月~12月(下)
デバイス:スマートフォン
まず、「気にしていること」における「睡眠不足」の特徴値が+約5.3pt増加しており、かなり増えていることがわかります。また、同様に特徴値が増加しているのが「気にしていること」「対策していること」ともに「生理痛」、「気にしていること」の「頭痛」「貧血」です。
貧血は生理痛と関連したものと考えられますが、睡眠不足、生理痛、頭痛はどれも良い睡眠によって改善する可能性があるといわれているものです。生理痛に悩みを抱えるユーザーが多い点については、女性のユーザーが多いことが影響していると考えられます。
このことから、Pokémon Sleepはリリース以降、身体の悩みが顕在化している人による利用割合が徐々に増えていると考えられます。
また、このような変化が起こっているということは、こうした悩みに対して、Pokémon Sleepが有効と感じる人が一定数いたと考えることもできるのではないでしょうか。同様の悩みを持つ人の口コミが後押しになり、利用を始めた人もいるかもしれません。
Pokémon GOとの併用状況と今後
ところで、Pokémon Sleepでは、睡眠計測に「Pokémon GO Plus +」というデバイスを用いることができます。これは、ポケットモンスターシリーズに登場する「モンスターボール」の形状を模しており、中央にボタンがついています。就寝前にこのボタンを押してデバイスを枕元に置くことで、アプリを起動しなくても睡眠計測をすることが可能になります。さらにPokémon GO Plus +はPokémon GOにも対応しており、Pokémon GO上でアイテムを獲得できる場所であるポケストップでは、このボタンを押すことでアイテムを入手できますし、遭遇したポケモンを捕まえることもできます。
また、Pokémon GO Plus +を用いてポケストップをたくさん回すと、その回数に応じてPokémon Sleep上で報酬がもらえる仕組みになっているとのこと。ファミ通のインタビューにおいて、制作陣の一人である寺田佑貴氏は、この仕様に関して次のように語っています。
ポケストップをたくさん回そうとすると、たくさん歩き回る必要がありますよね。日中『ポケモンゴー』をしながらたくさん歩くと『ポケモンスリープ』でいいことがある。実生活でも昼間たくさん歩くことで夜にぐっすり眠れるようになりますので、どうぞ“Pokémon GO Plus +”を活用して『ポケモンゴー』と『ポケモンスリープ』をあわせてお楽しみいただければと思います。
このように、Pokémon SleepはPokémon GOとの併用を想定して設計されていることが分かります。では、実際の併用率はどのようになっているのでしょうか。下のグラフは、Pokémon Sleepユーザーのうち、Pokémon GOを併用している人の割合の推移を示していますが、Pokémon Sleepユーザーの約24~29%は継続的にPokémon GOを併用していることがわかります。
Pokémon Sleepから見たPokémon GOの併用率の推移
Dockpitより集計。対象期間:2023年7月~223年12月
デバイス:スマートフォン
Pokémon Sleepはユーザー数を減らしつつも、常に一定割合Pokémon GOと併用されていることから、両者にシナジーがある可能性は否定できません。また、現在はPokémon GOで遊ぶとPokémon Sleep上で報酬がもらえますが、その逆はありません。つまり、もともとPokémon GOで遊んでいたユーザーからすると、ゲームとしてのPokémon Sleepをプレイするメリットは特にないと言えます。もし今後、Pokémon GOにもメリットのあるシステムが導入されれば、Pokémon GOユーザーの流入が見込めるかもしれません。
まとめ
Pokémon Sleepはリリース以降ユーザー数が減少していますが、「現在」はPokémon Sleepによって睡眠不足などの悩みを解消しようという目的を持った人やゲームが好きな人が利用していると考えられます。また、ほぼ毎日継続的に利用されていることからも、Pokémon Sleepの効果を実感できている人が多いのではないでしょうか。
また、2023年12月21日からテレビCMの放映が始まったことで、SNS等で情報を得ていなかった人の利用が今後始まっていくのではないかと予想できます。現状は、ゲーム好きの人の利用がかなり多いですが、ゲームを普段しない人でも、睡眠改善を求めてPokémon Sleepを使うようになるのか、今後の動向が気になります。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2024年春にヴァリューズに入社しました。
大学では言語学を専攻していました。