花王の「データ分析者コミュニティ」が誕生した背景
――本日は花王様のデータ分析者コミュニティについて伺っていきたいと思います。まず、貴社における、データ分析者コミュニティの役割をお聞かせください。
成島魁至氏(以下、成島氏):花王には、マーケティング、研究開発、生産現場、デジタル戦略など、様々な部門にデータ利活用者が在籍し、データドリブンな意思決定を日々支えています。こうした多様な領域に広がる知見をつなぎ、部門にとらわれない連携を促進する場として誕生したのが、花王のデータ分析者コミュニティです。
このコミュニティは、データに携わる社員もしくは興味がある社員であれば誰でも参加でき、部門の垣根を越えて知見や経験を共有し合うことで、いわゆる“サイロ化”に陥らない風土づくりにも寄与しています。
成島魁至氏
花王株式会社 デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部所属。工学博士。2023年に花王に中途入社。以降はD2Cマーケティング領域を中心にデータ分析に携わる。社内コミュニティの運営も担当。
――意義深い取り組みですね。現在、こちらの取り組みを成島様らが運営されているということですね。
成島氏:はい。これまでは先輩方が中心となり、コミュニティを活性化させながら、部門横断でネットワークを深める様々な取り組みを企画・推進してくださいました。そして2025年度からは、私たち若手メンバーが運営を引き継ぎ、リードする立場を担っています。これまでコミュニティを築かれてきた先輩方の想いを受け継ぎながら、コミュニティの活動をさらに加速させていきたいと考えています。
部門横断で悩みを共有、解決できるネットワークに拡大
――現在、コミュニティにはどのような方が参加されているのでしょうか。
成島氏:コミュニティには性別・年代を問わず幅広いメンバーが参加しています。データサイエンティストやデータエンジニアの経験者はもちろん、これから学ぼうとしている人まで、データに興味があれば専門性を問わず参加可能です。
――普段、コミュニティではどのような活動が多いのでしょうか。
清野峻彦氏(以下、清野氏):一つは勉強会です。機械学習や統計などのスキル習得の会を開催しており、昨年はベイジアンモデリング※勉強会を実施しました。最新の技術を学ぶ機会を提供するとともに、参加者全体のスキルセットの底上げにもつながっていると考えています。コミュニティには初学者も多いことから、今後は初学者向けに事例紹介を交えた内容も取り入れていく方向で検討しています。
※ベイジアンモデリング:ベイズの定理を基盤とした、データから確率的なモデルを構築する統計手法の一つ
清野峻彦氏
花王株式会社 デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部所属。2022年に花王へ入社。データ分析・最適化や生成AI活用を通じ、物流・事業課題を始めとする様々な部署の課題解決に取り組む。データ分析事例共有会「データインサイトJAM!」の運営も担当。
成島氏:また、社外の専門家・有識者を招いた勉強会も実施しています。昨年のアンケートでは「社外の方から最新トレンドを学びたい」という意見が多く寄せられたことから、今年も複数回にわたって社外講師を招いた勉強会を予定しています。
――コミュニティの運営に携わる中で、皆さまが感じているコミュニティのメリットや価値があれば教えてください。
松永純弥氏(以下、松永氏)個人的な話になりますが、私自身、社内に広い人脈があるわけではありません。そうした中で、このコミュニティは既存の人脈にとらわれず他部門のメンバーと交流できる貴重な場となっていると感じます。
コミュニティ内には、メンバー同士で業務上の取り組みや課題、その解決策をやり取りする情報共有の場があります。以前、私が業務で行き詰まった際、他のメンバーが投稿した過去の事例に大いに助けられたことがありました。もし自分一人で抱え込んでいたら、解決までにかなりの時間がかかっていたはずですが、その情報のおかげでスムーズに解決することができました。こうした「知見の蓄積によって助けられた経験」が、自分も積極的に情報を発信・共有したいという気持ちにつながっています。
松永純弥氏
花王株式会社 デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部所属。2019年に花王へ入社。デジタル戦略部門のデータサイエンティストとして、データ分析や数理モデルを活用して、様々な業務分野における課題解決や意思決定支援に取り組んでいる。社内コミュニティの運営にも携わる。
成島氏:私は中途入社のため、当初は社内に知人がいない状態でしたが、コミュニティ運営の前任者であった上長から招待されたことをきっかけに、分析者やエンジニアなど様々なメンバーとのネットワークを広げることができました。これもコミュニティの価値のひとつではないでしょうか。
――なるほど。実務的な知見はもちろん、社内に相談しやすい場があること自体、働きやすさにつながりますよね。
コミュニティが育つ土壌がある、花王の文化
――これから成長していくコミュニティだと思いますが、現時点でここまで発展できている理由はどこにあると考えますか?
菅原 英氏:まず、トップダウンではなく、意欲あるメンバーが自発的に動き出し、同じ志を持つ仲間に声をかけながら活動していることにあると思います。その結果、若手層が積極的に参加するようになったのではないでしょうか。
また、コミュニティメンバーによるナレッジ共有が部門間の交流のきっかけとなりました。Pythonの書き方やツールの使い方、開発中のつまずきポイントなどの記事を積極的に発信したことで、他部署のメンバーが関心を持って交流が生まれ、横断的なつながりへと発展していきました。
花王にはほかにも様々なコミュニティもあることから、コミュニティ活動が生まれやすい文化が根付いているのだと感じます。
菅原英氏
花王株式会社 デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター データインテリジェンス部 マネージャー。1996年に花王へ入社。メディア媒体の製品開発、化粧品物流企画、アジア地域でのシステム展開などを経験し、現在はデータサイエンスを武器に、事業や組織の意思決定を支える価値創造に取り組んでいる。
データ分析事例共有会「データインサイトJAM!」とは
――コミュニティの取り組みのひとつである、「データインサイトJAM!」について伺います。企画から開催に至るまで、どのような流れで進められたのでしょうか?
清野氏:データ分析事例共有会である「データインサイトJAM!」は、データ分析や活用に携わる花王グループ社員が、発表や参加を通じて部門を超えた緩やかなネットワークを醸成することを目的としています。
2025年の6月頃に企画し、10月に1回目を開催しました。花王ではマーケティングやSCM(サプライチェーンマネジメント)/生産現場、研究開発など多くの部署でデータ分析が行われています。こうした幅広い領域の事例を共有できる場にしたいと考え、企画メンバーが各部署へ個別に声がけをしながら準備を進めました。発表案件が十分に集まるか当初は不安もありましたが、実際にはライトニングトークを含めて多くの応募があり、想像以上に活気のある会となりました。
当日の様子。各セッションに加え、懇親会も実施。
――当日の参加規模やプログラム構成について教えてください。
清野氏:参加者は全体で約180名、うちオンサイト参加者は70名弱。マーケティングや研究開発、生産現場、デジタル戦略など、データ活用に携わる幅広い部署のメンバーが参加しました。
プログラムは2部構成で、第1部はオーラルセッションとして、マーケティング2件・研究2件・SCM/生産現場3件・デジタル戦略2件の計9件にわたる幅広い内容が発表されました。第2部はネットワーキングセッションとして、参加者同士のつながりを深める場を設けました。
――特に印象に残ったセッションや、参加者からの反響が大きかったセッションがありましたら、お聞かせください。
松永氏:いずれの発表も部門外の視点では新鮮な内容だったため、全体的に大きな反響があったと感じます。特に機械学習や統計モデルを活用してビジネスに落とし込んだ事例や、分析ツールの構築に関する発表が注目を集め、データドリブンな意思決定を推進する取り組みに対する関心の高さを改めて実感しました。
――運営側として、手ごたえを感じたポイントを教えてください。
成島氏:実施後のアンケートでは、半数以上が、イベントへの参加を通じて花王のデータ活用への理解が深まったと回答しており、「普段聞けなかった内容を理解できた」といった声が多く寄せられました。
また、イベントをきっかけとして部署間の情報交換会が自発的に開催されるなど、具体的な成果も生まれています。
活動の輪をさらに広げるために
――直近で、コミュニティをより良くするために、取り組んでいることや考えていることはありますか。
成島氏:現状の課題としては、一部の部署とは連携が進んでいるものの、まだ接点を持てていない部署もあることです。これからデータ分析を学びたい人にも、まだ十分にアプローチできていないと感じます。
松永氏:これまでは人づてにコミュニティへの参加を呼びかけていましたが、2025年末からは社内ポータルサイトにも掲載し、より幅広い周知をしています。これまでアプローチが届かなかった分析担当者も含めてより多くのメンバーを巻き込んでいきたいです。
参加者を増やすだけでなく、活動しやすい環境づくりにも力を入れています。例えば、参加者の心理的ハードルを下げる工夫として、定期的な懇親会の実施や、コミュニティ内の投稿に対して積極的にコメントを返すようにして活発なコミュニケーションを促しています。若手メンバーがコミュニティ運営をリードしていることも参加しやすい・話しやすい雰囲気づくりにつながっていると思います。
――今後、このコミュニティで実現したいことはありますか。
清野氏:コミュニティメンバー向けのイベント企画を通じて、初学者から熟練者まで立場や部門を越えて交流し、より気軽に課題共有や相談ができる環境作りに貢献したいと考えています。部門内にとどまらず横断的につながることで、個々の取り組みが組織全体の成果につながると思っております。そのためにも、これまで接点を持てていなかったものの業務でデータを扱っている方や、データに興味を持つ方への発信を強めていきたいです。こうした活動を通じて、花王が「データに強い会社」と言われる組織づくりに少しでも貢献できればと思っています。
成島氏:引き続き、花王全体を巻き込む形でコミュニティの認知を高めながら、活動の輪をさらに広げていきたいと考えています。
取材協力:花王株式会社
花王流"アジャイル型マーケティング"の舞台裏。高速・高品質なリサーチを叶える「NautsHub」とは
https://manamina.valuesccg.com/articles/4714生活者ニーズが多様化する中、商品発売初期の反応を素早くかつ深く捉えることは、マーケターにとって一つの命題となっています。生活者起点のブランドづくりを推進する花王株式会社。同社は生成AIによる生活者インタビューが可能なヴァリューズのリサーチプラットフォーム「NautsHub(ノーツハブ)」を活用し、従来の定性調査では難しかった発売直後の多サンプル・深掘り型の生活者理解を、アジャイルに実現しています。生活者理解の高度化・高速化を支える新しい調査アプローチとヴァリューズとの連携について、花王株式会社 マーケティングイノベーションセンター グローバル生活者インサイト部の神園氏に伺いました。






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