「データの裏には人の心がある」250万人のWeb行動ログを“体温のある言葉”に変える思考法

「データの裏には人の心がある」250万人のWeb行動ログを“体温のある言葉”に変える思考法

月刊『宣伝会議』が主催し、広告表現のアイデアをキャッチフレーズや絵コンテ・字コンテなどの形で募集する公募広告賞「第63回宣伝会議賞」の発表が2026年2月に行われました。一般部門において、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」のサービスコピー「ちょっと250万人に聞いてみますね。」を考案した電通クリエイティブピクチャーズの藤田洸介さんが協賛企業賞を受賞。藤田さんはどのような思考からこのコピーに行き着いたのか、また、コピーライティングやクリエイティブについてどのような考え方をしているのか。マナミナ編集部が藤田さんにお聞きしました。


「Dockpit」のコピーはこうして生まれた

――今回、受賞した「ちょっと250万人に聞いてみますね。」というコピーはどのようにして生み出されたのでしょうか。

電通クリエイティブピクチャーズ 藤田洸介氏(以下、藤田):まず、「250万人」という国内最大規模のデータ数はアピールすべきだと思いました。そのうえで考えたのは「手軽さ」という要素も入れることです。

理由のひとつとして、Dockpitのようなマーケティングツールは分析の精度ももちろん大切だと思いますが、労働環境の改善に向けて法律や規則の整備が進む現代においては、「手軽さ」は切迫した課題として認識されているのではと感じていたからです。また、もうひとつの理由として、Dockpitのようなマーケティングツールは、そのままでは活用しにくいデータを「手軽に活用できるようにする」という点に大きな価値があると考えています。「250万人分のデータをバラで買うよりも、何がいいのか」という点をヴァリューズさんには自信を持って発信していただきたいという意味で、「手軽さ」をコピーの一要素として設定しました。

具体的なコピー作りに当たっては、「250万人」という数字の大きさと「手軽さ」というギャップを印象的に伝えるため、「ちょっと」「~してみますね」などあえて軽やかな言葉を置いて「手軽さ」を強調しつつ、「250万人」という数字との落差を生んでみました。

また、サービスの強みをユーザーが実感できる言葉に置き換えることも意識した点です。「ちょっと250万人に聞いてみますね。」という発言は、商品開発について意見を求められたマーケティング担当者が返答するシーンをイメージし、Dockpitを導入した後の現場を想像できるよう心がけました。

協賛企業賞を受賞した藤田さんのコピー「ちょっと250万人に聞いてみますね。」

協賛企業賞を受賞した藤田さんのコピー「ちょっと250万人に聞いてみますね。」

――制作の過程では切り口について他の可能性も考えたのでしょうか。

藤田:訴求内容的には「データ数」×「手軽さ」という組み合わせ以外で迷うことはなかったです。むしろ、サービスの強みを「どのような意味を持つものとして表現するか」には迷いました。例えば、「女子中高生向けの商品を考えなければいけないおじさんの担当者が困っている」というシチュエーションから印象を残せないか考えてみたり。

しかし、今回はさまざまな商品を扱うマーケ担当者に広く刺さることがもっとも重要だと考え、今の形に落ち着きました。今回のキャッチコピーは、Dockpitというサービスの大枠を理解してもらうとき、「これだけは最初に伝えなければ」という要点だけを抽出しています。サービスの詳しい機能や解決できる課題については、その先で説明すれば良いだろうと考えたからです。

私は理屈っぽいタイプなので、情緒訴求やユーモアに振り切っていくようなコピーよりも、機能から表現を落とし込みやすい商品から書くコピーの方が書きがいを感じます。Dockpitは250万人分の圧倒的なデータ数など様々な具体的な強みがあったため、ノリノリで書けました。

株式会社電通クリエイティブピクチャーズ コピーライター 藤田洸介氏

株式会社電通クリエイティブピクチャーズ
コピーライター 藤田洸介氏

新卒でIT企業に入社後、フリーランスとしてコピーライターに転身。その後複数の広告制作会社で経験を積み、現在は電通クリエイティブピクチャーズ社でコピーライターとして活動する。

未経験での受賞からコピーライターになるまでの歩み

――藤田さんとコピーとの出会いはいつだったのでしょうか。

藤田:10年前の大学時代に「第53回宣伝会議賞」で「お母さんの顔なんて、二泊三日見たくない。」というJTBさんの「旅行券を大切なひとへ贈りたくなる広告表現」でシルバー賞をいただきました。振り返れば、まさにあれが私にとってコピーとの出会いでした。当時はコピーなど書いたことがなく、ネットでたまたま宣伝会議賞の存在を知り、30本くらい応募したところ、受賞できたのです。

受賞によって、それまでなんとなく得意だという意識を持っていた言葉を扱う能力により自信がつき、新卒でコピーライターを目指すことにしました。広告代理店を大きい順に3つだけ応募し、授賞式で頂いた畳一枚分くらいの大きさがある自分のコピーが書かれたボードを担いで面接に臨みました。しかし、結果は惨敗。

結局、新卒ではアプリの企画・開発・販売を行っているIT企業に入社しました。そこで3年間働いたのですが、コピーライターになりたいという夢を捨てきれず転職を決意しました。

――コピーライターになるまで、しばらく時間がかかったのですね。

藤田:そうですね。そこからコピーライター養成講座に通ったり、再び公募に挑戦したりする中で、当時の私に一番必要なものは「実務で活躍できる根拠」であると感じていました。そこで、フリーランスでの活動を通して実績を積み上げながら、ポートフォリオを作っていった結果、広告制作会社に入社できました。働き始めてからは、コピーやディレクションをより深く学びながら、さらに自分がやりたいことをできる環境を求めて2度の転職をして、現在に至ります。

――転職を経て得られたものは今に生かされていますか。

藤田:IT企業にいたときは研修でマーケティングの基礎を教えていただきましたし、その時はクライアント側だったので、発注側の気持ちをリアルに理解できるようになった点は今の仕事にも活きていると思います。また、現在のひとつ前に在籍していた広告代理店ではクリエイティブの部署にコピーライターは私だけでした。1人あたりが背負っている役割や領域がかなり広くて、ディレクション能力は随分培われたと思います。それも良い経験だったなと感じます。

ロジックは多様な人の心と向き合う武器

藤田洸介氏のXアカウントでの投稿の一例。クリエイティブやコピー、仕事について構造的に読み解くコンテンツが多く発信されている。

――これまで、どのようなコピーに携わったのでしょうか。

藤田:コピーライターになりたての頃は求人サイトのコピーライティングからはじまり、その後はBtoB・BtoCを問わずさまざまな業界の動画やWebサイト、カタログなどの制作に幅広く関わっています。

これは仕事ではありませんが、印象的だったのが2023年に高円寺のキャッチコピーの一般公募に応募して実際に採用していただけたことです。その時のコピーは「すべての路地が、だれかの聖地。」というもので、私自身6年ほど高円寺に住んでいたのもあって、お気に入りのコピーです。ほかにも会社に所属する前は友達の実家がやっている中華料理店のラー油のコピーを書いたこともありますね(笑)。

――今回の受賞はキャッチコピーのみに特化していますが、通常の仕事はどのように進めることが多いのか聞かせて下さい。

藤田:たいてい、コピーを書いてくださいと依頼が来るというよりは、広告を作りたいですという依頼の中にコピーが含まれることが多いので、まず全体の広告設計を考える仕事をしています。その中で、Webサイトへの展開が見込まれるのであれば、その面を想像したコピーを書こうと考えますし、CM単体で使われるものであればパンチラインとして面白いものをと考えるなど、制作物全体の中でのコピーの役割を把握していきます。

コピーはクリエイティブの一要素であると同時に、すべての要素を束ねる役割も担えるものだと思っています。コピーを考える際は、その前提にある戦略も合わせて明文化しますし、それによってデザイナーやCMプランナーなどさまざまな仕事を担う人が、ひとつの方向を目指せるようなディレクションも心掛けています。

今回のDockpitのコピーを広告として発展させるなら、リモート会議の画面に250万人の顔が並んでいてもいいかもしれないし、オフィスの扉を開けたら250万人が待ち構える巨大な会議室があってもいいかもしれない。そんなふうにイメージしながら作りました。

“マーケターのためのリサーチエンジン”「Dockpit」のサービス画面。国内最大規模250万人のWeb行動ログデータをもとに、競合・市場調査、ユーザー理解を手軽に実現できる。

“マーケターのためのリサーチエンジン”「Dockpit」のサービス画面。国内最大規模250万人のWeb行動ログデータをもとに、競合・市場調査、ユーザー理解を手軽に実現できる。

――コピーライティングをはじめとするクリエイティブについて、ご自身が大事にされていることはなんでしょうか。

藤田:コピーライターという仕事においては、感性やセンスが重要だと一般的には思われがちかもしれませんが、私は論理立てて物事を考えていくことも重要だと考えています。「理屈じゃ人は動かないから、もっと感覚で書こうよ」など、「ロジックより感性」の視点が重んじられる場面はときどきあると思います。もちろん感性は大事なのですが、感性とは人によって異なるものだとも思うんです。感性だけでコピーを作るということは結局、自分の感性しか当てにしないことと同義になりますし、それだと人々の心に向き合ってはいないとも言えるのではないでしょうか。

また、「データvs人の心」という対立構造を見るたびに、「そのデータの裏には人の心があるんだけどなあ」と感じています。ロジックはデータで支えられるものなので、私にとってロジカルに考えることは人の心、つまり様々な感性と向き合うことなのです。実際にコピーを考える時などは、まず文章を書いて整理していくのですが、データを参照しながら数学の証明問題のように「○○は△△である、よって□□にもなる」みたいに文章で整理していって、ではどこからキャッチを抜き出そうかというふうに考えたりもします。

とはいえ、決して感性をおざなりにしているわけではなくて、最後の仕上げの段階では自分の感性も取り入れるようにしています。リズムが悪い、改行が気持ち悪いといったところは直感的に手を入れる場合もあって、なんか変だと思ったときはほかのメンバーも同じことを考えていることも多い。また、AIの時代とは言われていますが、その人だからこそ書けた雰囲気やトーンは差別化の要素だと思いますし、その意味で感性を磨く必要性も感じています。

――最後にこれからクリエイティブの分野やコピーライターを目指す方へメッセージをお願いします。

藤田::前提として私はまだまだだと思いますが、自分の経験から語れることがあるとするなら、クリエイティブやコピーを仕事にしたいのであれば、それに必要な能力は想像以上に幅広いことを理解し、それらを身に付けていく必要があるということです。

コピーが力を発揮するためには、映像やグラフィックなどのビジュアルに乗せなければいけないし、それを作ってくれる担当者やクライアントとのコミュニケーションも欠かせません。完成するまでのプロセスも気を配る必要がありますし、そもそも選んでもらうために提案の仕方も学ばなければなりません。

自分のやりたいことで成果を出そうと本気で突き詰めていくと、いろんなことが必要だと分かります。まずは何かひとつ好きなことで成果を出すと決めて、そのために必要なことを必死に考えるのが大事だと思います。

【記事内で紹介したサービスはこちら】Dockpit|競合も、業界も、トレンドもわかるリサーチエンジン

https://www.valuesccg.com/dockpit/

Dockpitは、誰でもかんたんにデジタルマーケティングが可能になるリサーチエンジン。国内最大規模250万人のWeb行動ログデータをもとに、競合・市場調査、ユーザー理解を実現し、あなたのビジネスの意思決定、ビジネスゴールの達成をお手伝いします。

この記事のライター

マナミナは" まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン "。
市場の動向や消費者の気持ちをデータを調査して伝えます。

編集部は、メディア出身者やデータ分析プロジェクト経験者、マーケティングコンサルタント、広告代理店出身者まで、様々なバックグラウンドのメンバーが集まりました。イメージは「仲の良いパートナー会社の人」。難しいことも簡単に、「みんながまなべる」メディアをめざして、日々情報を発信しています。

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