育児中の女性が動画アプリの成長をリード。気になる2強の「経済圏」~急速に浸透する動画サブスクの最新事情(2)

育児中の女性が動画アプリの成長をリード。気になる2強の「経済圏」~急速に浸透する動画サブスクの最新事情(2)

第1回では急速に浸透する動画アプリ利用動向を概観し、Amazon Prime Videoの独走ぶりとテレビからアプリへのコンテンツ視聴スタイルシフトを確認しました。第2回は、2年間のユーザー属性別利用傾向と2強Amazon Prime Video、GYAO!の関連アプリ併用状況から、今後の展望を探ってみます。


育児中の女性が成長ドライバー

主要動画アプリの半年ごとのユーザー推移を確認したところ、女性ユーザーの増加が顕著です。

特にAmazon Prime Videoは706万人から1,553万人へ220%増、GYAO!は513万人から1,177万人へ229%増と、2年前に比べて倍以上の急成長を果たしました。

この間男性もそれぞれ179%、185%増加していますが、とくにAmazon Prime Videoは2年前70%近かった男性比率が相対的に低下しています。Hulu、Netflixも成長を牽引したのは女性で、2年間でそれぞれ191%、275%増加しました。スイッチングコストを嫌う傾向が強い女性ユーザーを取り込み、市場は成熟期へ向かいつつあるといえそうです。

主要動画アプリのユーザー数推移

主要動画アプリのユーザー数推移(男女別)

集計期間:2017年11月-2019年10月

年代別構成比には、各サービスとも大きな変化は見られません。第1回でご紹介した通り、GYAO!だけは満遍なく幅広い年代で利用されていますが、他の3サービスは20-30代が過半です。

50代~60代以上のユーザーで見ると、Amazon Prime VideoとGYAO!のユーザー数は大体同じくらいなので、2強の分岐点はデジタルネイティブ世代への浸透度といっていいかもしれません。

主要動画アプリのユーザー数推移

主要動画アプリのユーザー数推移(年代別)

集計期間:2017年11月-2019年10月

子供向けコンテンツがキーに?

未婚/既婚別だと、GYAO!もNetflixも2倍超、既婚ユーザーが増加しました。

未婚ユーザーが多いNetflixですが、この2年間で見れば既婚ユーザー率は36%から43%に増え、ユーザー層が変化しています。Amazon Prime VideoとHuluは構成比に大きな変化はなく、未既婚バランスよくユーザーが増加しました。

図表 10 主要動画アプリのユーザー数推移

主要動画アプリのユーザー数推移(未婚/既婚別)

集計期間:2017年11月-2019年10月

子供のいるユーザー獲得で目立ったのもGYAO!とNetflixで、それぞれ2倍超、子供有りユーザーが増加しました。とくにGYAO!は子供有りユーザー比率が60%程度と他のアプリを上回っています

子供が見たがった結果なのか親自身の利用かはわかりませんが、どのアプリも子供無しユーザーの増加率を子供有りユーザーが上回り、キッズの支持もひとつの分かれ目になりそうです。折しもYouTubeが米国児童オンライン プライバシー保護法(COPPA)に対応し、子供向けコンテンツでのパーソナライズド広告や一部コメント機能の停止を発表したところ。コンテンツの安全性に対する関心が高まれば、動画アプリにとっては追い風かもしれません。

主要動画アプリのユーザー数推移(子供の有無別)

主要動画アプリのユーザー数推移(子供の有無別)

集計期間:2017年11月-2019年10月

サブスク専業の苦戦

いまのところAmazon Prime Video独走、GYAO!が幅広い顧客層を武器にその背中を追う構図ですが、HuluやNetflixの巻き返しは期待できるのでしょうか。

主要アプリの併用状況を見る限り、2強のユーザーほどロイヤリティが高いとうかがえ、Amazon Prime Videoは71%、GYAO!は63%が「併用なし」でした。これに対し有料サブスクのHuluユーザーは40%、Netfilixユーザーは43%がAmazon Prime Videoを併用していて、コンテンツによってアプリを使い分けている様子がわかります。

主要動画アプリの併用状況

主要動画アプリの併用状況

集計期間:2019年5月-10月

2強アプリのユーザーはサブスク料金の支払い自体がハードルになっているケースも考えられるので、専業のHulu、Netflixにはやや厳しい環境といえるかもしれません。

Amazon経済圏を追う? Yahoo!(PayPay)経済圏の出方は

価格競争力に加え、コンテンツ拡充にも注力するAmazon。BtoC事業におけるロックオン力を、Amazon主要アプリの併用状況から確認してみます。ECサイトを核にしたAmazon経済圏ロックオン戦略の強さが鮮明です。

Amazon Prime Video、Amazon Music、Kindle、Amazonオーディオブックのユーザーは80%前後の高い比率でAmazonショッピングアプリを使っていました。

Amazonショッピングアプリユーザーだけは他Amazonサービスとの「併用なし」が55%に上ります。でも、プライム会員であれば、Amazon Prime VideoやAmazon Musicを使い始めるハードルは、そう高くないでしょう。Amazonが、当面市場を独占し続けるのでしょうか。

Amazon主要アプリの併用状況

Amazon主要アプリの併用状況

集計期間:2019年5月-10月

ZOZOTOWN買収、LINE経営統合でPayPay経済圏構築を急ぐYahoo!(Zホールディングス)ですが、GYAO!に関してはあまりIR資料等でも言及していません。GYAO!コンテンツページでも決してYahoo!やPayPay色を前面に出してはいないものの、もし市場に変化があるとしたらZホールディングス、あるいは5Gを睨んだソフトバンクグループとしてのテコ入れでしょうか。

現時点ではAmazon経済圏に見られるほどの囲い込み効果とはいえませんが、Zホールディングス主要アプリユーザーの多くは、Yahoo! JAPAN、PayPay、Yahoo! ショッピングを併用しています。これらに比べて浸透が進んでいないGYAO!併用が進むとしたら、現プレイヤーの勢力図を塗り替える可能性はありそうです。

Zホールディングス主要アプリの併用状況

Zホールディングス主要アプリの併用状況

集計期間:2019年5月-10月

いまのところAmazon Prime Video一強な動画アプリ市況ですが、第1回で見た通り、市場全体としては拡大路線。

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、有料動画配信は2017年1,319億円から2018年1,477億円規模へと12%成長し、当面その傾向は継続しそうです。

他方、米国で11月から始まった「Disney+」は月額6.99USドル(800円弱)と、戦略的な価格設定で話題になっています。日本でのサービス展開はまだ発表されていませんが、「アベンジャーズ」などの20世紀FOX作品を引っさげて上陸の影響は小さくないでしょう。今後の動向に注目です。

調査概要

ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「eMark+」を使用し、2017年11月~2019年10月のネット行動ログデータを分析しました。
※アプリユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、株式会社ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
※アプリ名、カテゴリはGooglePlayのアプリカテゴリに準拠。
※メール、Google Chrome、Googleマップ、Gmailなどプリインストールアプリは除く。

この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

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