商標は大丈夫?オリンピックを使ったマーケティングはどこまでOKか

商標は大丈夫?オリンピックを使ったマーケティングはどこまでOKか

1年延期が決まった東京オリンピック。オリンピックはBtoCを中心に大きな商機であることは間違いありません。しかしオリンピック関係は、ブランド保護に厳しいイメージがあるのでは思います。オリンピックに関連するマーケティングをする場合、何が許され何が禁止されているか、境界線を認識しておくことが大事です。


オリンピック開催による経済効果

東京都はオリンピックの経済効果の試算例として、 オリンピック大会招致決定の2013年から大会終了10年後の2030年までの18年間の経済効果が約32兆3千億円にのぼると発表しています。

経済効果の内訳は、「直接的効果」 約5兆2千億円 と「レガシー効果」 約27兆1千億円にわけられます。「直接的効果」は、大会運営費、大会観戦者のチケット費用、企業のマーケティング活動費用などです。「レガシー効果」は、交通インフラ整備、訪日観光客数の増加、スポーツ人口やイベントの拡大などです。

ドリーム効果といわれる、応援やお祝い気分でお財布の紐がゆるみ、テレビやスポーツ用品の売上が好調になる現象も「レガシー効果」に含まれます。オリンピック開催となると、観光客が増えるイメージはありますが、実際日本政府観光局(JNTO)の調査によると、2019年の 訪日外客数は合計約3,188万人でした。オリンピック開催決定前の2012年は合計約836万人だったので、比較すると約381%も増加しています。

みずほ総研のレポートによれば、過去開催国でも、オリンピック開催により、インバウンド観光客需要を開催決定から終了以降も継続して喚起できています。オーストラリアのシドニー大会(2000年開催)では主催都市以外での観光客も増加、国際会議開催がアジア・オセアニア地域でトップになるなどの効果があがりました。

スペインのバルセロナ大会(1992年開催)では、オリンピック開催が都市再生の起爆剤となり、道路・交通インフラ整備が大幅にすすみました。また過去7大会(除く韓国・中国・英国)の平均で、開催決定後の経済成長率(実質GDPトレンド)平均1.3倍の効果があったと発表されています。

オリンピック後の日本経済をアテネ・ロンドン五輪から考察しました【2020年トレンド予測】

https://manamina.valuesccg.com/articles/736

2020年に話題になりそうなトピックを調査・紹介する連載企画「2020年トレンド予測」。今回のテーマは「ポストオリンピックの経済をロンドン五輪から予測」です。大会後の日本経済について、サイト分析ツール「eMark+」や過去の開催国の経済を参考に予測します。

オリンピックのスポンサーの種類と活用方法

オリンピックのスポンサーには、「ワールドワイドオリンピックパートナー」と大会ごとの「東京2020スポンサー」があります。「東京2020スポンサー」はさらに「東京2020オリンピックゴールドパートナー」「東京2020オリンピックオフィシャルパートナー」「東京2020オリンピックオフィシャルサポーター」の3種に分けられます。

これらのスポンサーから得られる収入は、大会運営費の調達、日本代表選手の強化、オリンピックおよびパラリンピックブランドの向上などに活用されています。東京オリンピックの予算収入の内訳では、TOPプログラムが9%、ローカルスポンサーシップが55%と、スポンサーからの収入だけで64%を占めています。オリンピックはスポンサー企業により支えられていることがわかります。

●ワールドワイドオリンピックパートナー
国際オリンピック委員会と契約し、契約期間は10年間、1業種1社の規定により2020年2月現在TOP契約は14社のみです。日本企業では、トヨタ自動車、パナソニック、ブリヂストンの3社が名を連ねています。

●東京2020オリンピックゴールドパートナー
2020年2月現在15社契約しています。
アサヒビール、明治、アシックスなど

●東京2020オリンピックオフィシャルパートナー
2020年2月現在32社契約しています。
味の素、JTB、アース製薬など

●東京2020オリンピックオフィシャルサポーター
2020年2月現在19社契約しています。
Google、ヤフー、パソナグループ、ECCなど

東京2020スポンサーになると得られる権利と活用方法

スポンサーになるとオリンピック・パラリンピックに関する知的財産権を使ったマーケティング活動が認められます。スポンサーレベルによって詳細は異なりますが、具体的には主に次の権利が与えられます。

・呼称の使用権
・マーク類の使用権
・商品/サービスのサプライ権
・大会関連グッズ等のプレミアム利用権
・大会会場におけるプロモーション
・関連素材の使用権


これらの権利を有効にマーケティングに活用するには、オリンピックのスポンサーであること自体を認知してもらう活動が非常に重要になります。

一般的にスポーツのファンは、同じチーム(対象)を応援している企業に好感を持ち、その企業の商品やサービスの購買意欲が高まるといわれています。また、オリンピック・パラリンピックには、「平和」などクリーンでポジティブなイメージが想起されるため、ブランドイメージの向上も図れます。

オリンピックのスポンサーであることを認知してもらうためにはCMが有効と言われていますが、数あるスポンサーがみな同様にプロモーションを行うため、差別化が重要になります。

たとえば、ワールドワイドオリンピックパートナーであるP&Gは「ママの公式スポンサー」海外では「Thank You, Mom」というテーマを掲げ、オリンピック出場選手を支える家族への感謝というオリンピックの要素とかけ合わせ、マーケティングを行うことで他社との差別化に成功しています。

便乗商法=アンブッシュマーケティングは禁止

オリンピックはスポンサーからの収入によって支えられています。そのためオリンピック委員会は、巨額スポンサー費用の代わりにスポンサーの権利保護のため厳しい姿勢を打ち出しています。

スポンサーでない企業がオリンピックなどのイメージを利用してマーケティングを行うことをアンブッシュマーケティングといいます。アンブッシュマーケティング規制法が存在する国もありますが、日本では商標法、著作権法、不正競争防止法などが対象になり、オリンピックやパラリンピックの知的財産権を守っています。

オリンピックやパラリンピックの知的財産権には、シンボル、大会エンブレム、マスコット、そして「がんばれ!ニッポン!」などのスローガンや「聖火リレー」「Tokyo 2020」などのオリンピックに関わる多くの用語が含まれます。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、「大会ブランド保護基準」にて、これらの知的財産権の法的保護、違反に関する刑事罰も掲載し、アンブッシュマーケティング防止に向けた注意喚起を行っています。

アンブッシュマーケティングを防止しなければ、スポンサーの権利が守られず巨額のスポンサー費用を支払ったにもかかわらずマーケティング効果が弱まってしまいます。その結果スポンサーを希望する企業が減り、大会運営や出場選手の強化ができなくなってしまう恐れがあるため、厳格な姿勢を打ち出しているのです。

オリンピックで禁止されている便乗商法の例

次に、オリンピックで禁止されている便乗商法の具体例をご紹介します。

●オリンピックに関する知的財産を使用した広告やPR
オリンピックのシンボルやエンブレムを用いたポスターなどの広告掲載は知的財産を使用しているため、法律違反になってしまいます。「オリンピックエリアに新店舗オープン!」「オリビアンがやってくる!」などの用語を使った広報、PRもNGです。
●オリンピックのパートナーであると誤解を招くような広告やPR
●オリンピック日本選手団のパートナーであると誤解を招くような 広告やPR
●オリンピックをイメージさせるおそれのある 広告やPR
オリンピックシンボルを想起させるグラフィックもNGです。「がんばれ!ニッポン!」などのオリンピックのスローガンはもちろん、「◯◯◯リンピック」もイメージを流用しているとみなされるため使用禁止されています。

また、「2020」や「東京」などの単独用語自体は法的保護対象に含まれていませんが、オリンピックを想起させる表現は違反とされる可能性があるため注意しましょう。

公益社団法人 日本広告審査機構(JARO)は、「2020年にはばたく子どもたちを応援」「2020円キャンペーン」も便乗商法となる恐れのある表現例としてあげています。

その他違反となる可能性のある表現例は次のとおりです。
「Tokyo 2020 ◯◯◯◯◯◯」
「祝!東京五輪開催」
「2020スポーツの祭典」
「目指せ金メダル」
「ロンドン、リオそして東京へ」

オリンピックで便乗商法とならない事例

法律で保護されている用語を直接使う例のみならず、オリンピックが想起される表現であれば違反とみなされる恐れがあることをご紹介しました。そうなると、便乗商法となってしまうかどうかグレーゾーンな領域が多くあると思います。

たとえば、「スポーツ」やスポーツの中の競技「サッカー」「陸上」などの文言を用いた表現は法律には抵触しない可能性があります。また特定の商品・ブランドの宣伝目的や商業利用は違反の対象になるものの、オリンピック・パラリンピックを盛り上げるため商店街が協力してPRする場合は問題視されないともいわれています。(もちろん、法的保護されているシンボルやエンブレム、用語を使うのはNGです。)

オリンピック出場選手の広告起用に関しても、「原則」のガイドラインのみであったためグレーであるといわれてきました。そのため、アメリカやイギリス、ドイツでは「ここまではOK」と明らかにするホワイトリストが存在します。

日本にはホワイトリストは現状ありませんが、2019年11月、日本オリンピック委員会(JOC)は、オリンピック出場選手の広告における規制を緩和することを発表しました。その中で、所属先企業のみならず個人スポンサーまで、オリンピック開催中における日本代表選手の肖像を使った広告の使用が可能となりました。

今まではたとえオリンピックと関係ない広告であっても、オリンピックのスポンサーおよび所属先以外は日本代表選手の肖像を使うことができませんでした。このように、規制が緩和されたり、逆に違反の恐れがある表現例が増えたりとルールが変化するため、最新の情報をチェックする必要があります。

まとめ

オリンピックは開催国の企業・店舗にとり一生に数回のビジネスチャンスでもあります。多くの観光客が日本を訪れ、日本全体で経済効果が期待されています。

オリンピックの公式スポンサーは、オリンピックのロゴなどを使ったマーケティングが認められますが、巨額の費用を払ったスポンサー企業の権利を守るため、IOCはオリンピックに関する便乗商法=アンブッシュマーケティングに厳しい姿勢を取っています。

企業がオリンピックに関係したマーケティングを検討するさいは、本記事で例示した禁止事例を参考に、問題となる行為か注意が必要です。

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