増税を機に定着するキャッシュレス決済 実態そして普及推進のキー (1)データで振り返る増税とキャッシュレス

増税を機に定着するキャッシュレス決済 実態そして普及推進のキー (1)データで振り返る増税とキャッシュレス

2019年10月に消費税が10%に上がり、2020年6月末までの消費対策としてキャッシュレス・ポイント還元事業が始まりました。マナミナでは2018年12月のPayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」からスマホ決済アプリの利用動向に注目してきましたが、増税後そして今後の利用状況やいかに。eMark+の決済アプリ利用ログから、日常消費に浸透するキャッシュレス決済の動向、そして一層の普及推進へ向けたヒントを探ってみます。


キャッシュレス・ポイント還元対象決済額は4.3兆円

キャッシュレス・ポイント還元事業によると2019年10月1日~2020年1月13日までの対象決済金額は約4.3兆円、還元額は約1,750億円で、すでに当初予算1,786億円に迫り、政府は補正予算案約1,500億円を追加計上しています。さらに4月に発表される10兆円超の新型コロナウィルス緊急経済対策の一環で、現金給付と並びキャッシュレス・ポイント事業の拡充あるいは延長も議論が始まりました。

ポイント還元事業登録加盟店推移

(キャッシュレス・消費者還元事業より)

期間中の還元対象決済金額に占める決済手段は「クレジットカード」が2.7兆円(約63%)、PayPayに代表されるQRコード決済は0.3兆円(約7%)、「その他電子マネー等」が1.3兆円(約30%)とのこと。10月1日~11月25日の段階ではそれぞれ約60%、約10%、約30%だったので、意外にもQRコードよりクレジットカードの方が決済金額は増えているようです。

通信系キャリアへの集約が進む

昨年11月の記事「消費増税の追い風で、スマホ決済アプリPayPayが独走!1日の起動ユーザー数は900万人以上に」でもお伝えした通り、1年前からキャッシュ/ポイント還元で会員そしてLTV獲得バトルを牽引してきたPayPayはその後も独走中。消費増税10月では一気に2,000万ユーザーの大台を突破し、以降右肩上がりでユーザーを増やしていて、2020年2月20日には登録ユーザーが2500万人突破のプレスリリースも出ています。

d払いはPayPayに約1,000万人ほど差をつけられるものの、こちらも増税後は1,200万ユーザー程度で推移。ゆるやかにユーザーを増やしてきたau WALLETに10月楽天ペイが追いつき、2アプリはほぼ同程度の1,000万ユーザーをうかがう勢いで推移しています。コンビニ系のファミペイや交通系モバイルSuicaも増税前に比べユーザーが増えました。

主要スマホ決済アプリの月次起動ユーザー数

主要スマホ決済アプリの月次起動ユーザー数

(「LINE Pay」は決済機専用アプリのログのみで、
「LINE」アプリから「LINE Pay」機能を使用した分は含まない)

LINE PayはLINEアプリから決済機能を利用するユーザーを含みませんが、IR資料によると2019年10月-12月期の月間アクティブユーザーは370万人で、対前年同期比2.5倍程度には増えているとのことです。

LINEの月間アクティブユーザー

LINEの月間アクティブユーザー

ゆうちょPay、Origami、Kyash、QUICPayなども堅調にユーザー数は伸びていますが、1月にはメルカリがOrigamiの買収を発表しています。現時点ではLINEと経営統合予定のソフトバンク/Zホールディングス(ZHD)陣営、NTTドコモ、au、楽天(通信は4月から本格参入)の通信キャリアが市場を制したといっていいでしょう。

「ペイ」検索のピークは10月。チャージやキャンペーンに関心がシフト

「ペイ」または「PAY」を含むキーワードで検索したユーザーは、消費増税の10月が過去2年間のピークでした。11月以降は若干減りますが、それでもPayPayが還元バトルの号砲を鳴らした2018年12月の202万を上回る水準で推移していて、関心は衰えていません。「キャッシュレス」や「消費税」は検索キーワードとしての利用は意外に多くありませんでした。

「ペイ」または「PAY」で検索したユーザー数

「ペイ」または「PAY」で検索したユーザー数

※デバイス:スマートフォン

個別の検索キーワードも、増税前後で変化がみられます。「ペイ」「Pay」を含む検索キーワードは、増税前はブランド名のない「PAY」が1位でしたが、増税後「ペイペイ」「PAYPAY」が200%以上増えて「PAY」を抜き1位と2位を独占しました。「楽天ペイ」も8位から4位へ順位を上げ、伸び率も190%に。

他のブランドでは増税前4位だった「LINE」が9位に順位を下げ、検索ユーザー数も唯一ダウン。5位「ラインペイ」、6位「メルペイ」、7位「ファミペイ」はトップ10に入りませんでした。替わってランクインしたのが7位「クイックペイ」と8位「QUICPAY」です。前述の通りQUICPAYアプリユーザー数は増えていないのですが、増税後12月15日までの20%還元キャンペーン上限額が1万円と他社より大きかったせいか、いずれも50万人近くが検索しました。

増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の検索キーワード

増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の検索キーワード

※増税前:2019年6月~9月、増税後:2019年10月~2020年1月
※デバイス:スマートフォン
※単語分割。網掛けは増税前後両方で登場

増税前10位だった「チャージ」が5位に上がったのは、実ユーザーが増えてチャージ方法が気になりだした影響でしょうか。「キャンペーン」も9位から6位に順位を上げる一方、増税前圏外だった「ポイント」が10位にランクインしました。決済時のキャッシュバックだけでなく各社がテコ入れを図るECや通話料とのポイント連携を含め、いちばんおトクな手段を模索しているのかもしれません。

囲い込みバトルはまだ続く

2018年12月に始まったキャッシュ/ポイント還元キャンペーンそして増税を機に、各社の囲い込みは進んだのでしょうか。主要決済アプリの併用状況を確認します。

ログからは、程度の差はあれ、いずれのアプリも増税後「併用なし」の高ロイヤルティユーザーは減少傾向。顧客LTVをめぐるバトルはむしろまだ続いているといえそうです。とくにau WALLETは増税前67%から増税後50%へ17ポイント、d払いは50%から39%へ11ポイントダウンし、その分PayPayの併用が増えています。楽天ペイユーザーは62%がPayPayを増税前から併用していましたが、増税後はさらに73%と、10ポイント以上併用が増えました。

増税前4ヶ月(2019年6-9月)の主要決済アプリの併用状況

増税前4ヶ月(2019年6-9月)の主要決済アプリの併用状況

増税後4ヶ月(2019年10月-2020年1月)の主要決済アプリの併用状況

増税後4ヶ月(2019年10月-2020年1月)の主要決済アプリの併用状況

PayPayはというと、他アプリほどではないもののやはり増税前40%から38%へ2ポイント「併用なし」が減り、d払い併用が3ポイント増加しています。LINE PayユーザーのPayPay併用は75%から85%と10ポイント増加し、LINEとPayPayとの親和性は高まっているようです。ZHD-LINE経営統合の観点では、顧客基盤全体の拡大というよりも、すでにPayPayを使っているLINEユーザーへのエンゲージメント強化が目先の成果といえるでしょうか。

第2回は、キャッシュレス決済普及推進へ向けた施策のヒントをeMark+の行動ログから考察してみます。

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第1回では、キャッシュレス決済普及に対する消費増税の確かなインパクトを、データから振り返り、通信キャリア系キャッシュレス決済サービスの集約が着実に進みつつも、ユーザーロックオンといえるほどの囲い込みには至っていない現状を確認しました。4月から通信事業へ本格参入する楽天、10月のZホールディングス(ZHD)-LINE経営統合などのイベントも控え、通信と決済、EC等のサービス連携強化による経済圏構築はこれからも続きそうです。他方、政府が掲げる「2025年までにキャッシュレス比率40%」達成のためにはどんな施策が有効でしょうか。第2回は増税を機にキャッシュレス決済を受け入れたユーザーセグメントからヒントを探ります。

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インターネット行動ログ分析によるマーケティング調査・コンサルティングサービスを提供する株式会社ヴァリューズは、一般ユーザーの行動ログとデモグラフィック(属性)情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用して、消費増税前後の決済アプリ利用ログからキャッシュレス決済の利用実態を調査しました。また国内の20歳以上の男女18,517人を対象に、キャッシュレス決済やポイ活の認知度、利用意向に関するアンケート調査を実施しました。

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この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

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