女性ユーザーは増税に反応
主要決済アプリのユーザーを属性別に増税前/増税後の各4ヶ月間で比べてみましょう。
男女別では、のべ4,500万人程度だったユーザーがのべ約8,800万人(月平均2,200万人)とほぼ倍増したPayPayをはじめ、全体にも大きな変化がなかったau WALLETを除くと、いずれのアプリも女性の増加が成長ドライバーでした。増税前おおよそ60%程度だった男性比がほぼ50%に近づきました。総人口の構成比は男性49%:女性51%なので、あと数%で男女差は克服できそうです。
増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の主要スマホ決済アプリのユーザー数(男女別)
※増税前:2019年6月~9月、増税後:2019年10月~2020年1月
※デバイス:スマートフォン
ポイントという目に見えるおトクが、一般的に新技術受容のハードルが高いといわれる女性ユーザーにも増税であらためて実感され、少しでも節約したい心理に火がついたのでしょうか。
6月末予定のキャッシュレス・ポイント還元事業終了(拡充・延長議論も始まりましたが)後におトク感を失った女性ユーザーが小銭に戻らないよう、おサイフとして生活に定着するための工夫は必要かもしれません。
シニア層への浸透が次のキーに
年代別では、やはりあまり変化がなかったau WALLETを除き、いずれのアプリも最もユーザーが増えた年齢層は40代。住宅、育児、介護などお金がかかりがちで、かつスマホ決済に抵抗のないセグメントといえるでしょうか。とくにPayPayはのべ1,000万人(月平均250万人)以上40代ユーザーが増えました。
増加率ではPayPayの50代2.0倍と60才以上2.2倍増が最多です。もともとやや年齢層が高いd払いと楽天ペイは20代の増加率が最多でした。
増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の主要スマホ決済アプリのユーザー数(年代別)
※増税前:2019年6月~9月、増税後:2019年10月~2020年1月
※デバイス:スマートフォン
増税後4ヶ月間の年代別分布でみると、どのアプリもやはり最多ゾーンは40代。通信キャリア系サービスという安心感からかd払いとau WALLETは比較的50代以上が多く、d払いだけは60才以上が20%を超えました。楽天ペイとLINE Payは30代までのユーザーが多い傾向。PayPayはそれらの中間と位置づけられそうです。
しかし、総人口の41%を占める60才以上への普及はまだまだ道半ばであることが明らか。総務省「平成30年通信利用動向調査」によれば60代のスマートフォン所持率は78.3%、65才以上全体でも55.7%に上り、70-74才でも62.8%。75才以上でやっと40.2%と半数を割ります。個人金融資産の多くを占めるといわれる(世代内格差はあるものの)シニア層への浸透は、キャッシュレス・ビジョンが掲げる「キャッシュレス40%」達成へ向けた重要施策といえるのではないでしょうか。
主要決済アプリの年代別ユーザー分布
※2019年10月-2020年1月
※総人口は総務省人口推計の11月概算値
低所得層への浸透は進まず格差が拡大?
世帯年収では、au WALLETを除きいずれのアプリも400-600万円未満の平均的家庭(2018年の全世帯平均年収は551.6万円)ユーザーが増加を牽引。とくにPayPayは増税前に比べのべ857万人(月平均214万人)ほど世帯年収400-600万円未満のユーザーが、次いで200-400万円未満ユーザーがのべ764万人(月平均190万人)増えました。d払い、楽天ペイも同様に、年収200-600万円未満ユーザーが増加しています。
増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の主要スマホ決済アプリのユーザー数(世帯年収別)
※増税前:2019年6月~9月、増税後:2019年10月~2020年1月
※デバイス:スマートフォン
しかしいずれのアプリも、世帯年収200万円未満の低所得層はそもそも数%で、増税後も微増にとどまりました。日本全体の世帯年収分布でいうと20%、400万円未満まで入れると47%に登る母数を考慮すると、比較的余裕のある家庭がよりおトクにポイント還元を享受し、スマホや通信料金に対する余裕がないかもしれない低所得層との格差を広げる構図と読むこともできます。
2018年の世帯年収分布
(厚生労働省「平成30年国民生活基礎調査の概況」より作成)
総務省「平成30年通信利用動向調査」によると、全世帯平均スマートフォン所持率は79.2%に上る一方、世帯年収200万円未満だと一気に46.1%。200-400万円未満で70.2%に上がり、400万円以上で90%を超えます。
「現金決済インフラの社会コスト削減」というキャッシュレス政策の意義が本当に実現するためには、所得に関わらず誰も取り残さない観点でのターゲティング、アプローチも求められそうです。
地域差は縮小? 伸び率は地方で増加
関東地方では増税後4ヶ月で8,133万人(1ヶ月平均2,033万人)が主要決済アプリを利用し、関東地方だけで2,665万人ユーザーが増えました。中部地方、近畿地方もそれぞれ4ヶ月でおよそ1,000万人(1ヶ月平均250万人)増税前よりユーザーが増加しています。
増税前4ヶ月/増税後4ヶ月の主要決済アプリのユーザー数(PayPay、d払い、au WALLET、楽天ペイ、LINE Payの合計/地域別)
※増税前:2019年6月~9月、増税後:2019年10月~2020年1月
※デバイス:スマートフォン
他方、増税前後の伸び率でいうと四国地方156%、北海道153%、中部地方152%と、首都圏から離れたエリアほど増税を機にユーザーが増えていました。キャッシュレス決済の対応店はもともとコンビニやフランチャイズが先行していたので都市圏は増税前から一定のユーザーを獲得していて、政府キャッシュレス・ポイント還元事業で登録加盟の進んだ地方がそれに追いついたという見方もできるかもしれません。
12月のキャッシュレス・消費者還元事業の資料では「自治体や中小企業支援団体・業界団体等と連携しながら、特に人口当たりの店舗数が大きくない地域を重点的に、本事業の周知・説明に取り組んで」いく方針が示されて全国的に登録加盟店が増えてはいます。しかし人口も店舗数も多い関東圏も、東京とそれ以外では温度差が大。人口当たり店舗数のワースト都道府県もまた埼玉県(5.0店)、千葉県(5.2)、茨城県(5.4)、神奈川県(5.8)、栃木県(6.5)の順で関東地方に集中していて、最多の石川県(12.1店)や東京都(11.9店)の半分以下なのです。
ポイント還元事業登録加盟店の地域分布
※キャッシュレス・消費者還元事業より。色が濃いほど人口当たり加盟店が多い。
上図の通り関東地方のアプリユーザー自体は増税後の4ヶ月間でのべ8,000万人を超えていますが、東京都とそれ以外の関東地方で差は広がっているのかもしれません。
中小・小規模事業者の状況
ポイント還元事業登録加盟店は2月に100万店を越え、3月現在は105万店に増えました。が、PayPayの加盟店数は194万店以上に上るので、まだ開拓の余地があるのかもしれません。利用可能店舗を増やすには登録手続のスピードアップや簡素化、何より「キャッシュレス対応した経営上のメリット」を示す施策が重要と思われます。
ポイント還元事業登録加盟店推移
還元額は登録加盟店数の5%にすぎずかつ還元率2%(政府補助なし)のコンビニが10%超、同じく還元率2%(政府補助)のフランチャイズが3%を占めています。日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」によるとキャッシュレス還元等の効果で増税後(2019年10月-2020年1月)のコンビニ全店売上は4ヶ月連続のプラスとのことで、コンビニやフランチャイズには確かな恩恵がありました。
3月時点のポイント還元事業加盟店舗と還元額
他方、95万店と登録加盟店の90%を占める中小・小規模事業者は、還元率5%(政府補助)なのに還元額が1,500億円と全体の86%にとどまっているとみることもできます。詳細は事業終了後の経済波及効果などを待ちたいと思いますが、中小・小規模事業者がどれだけキャッシュレスメリットを感じられるかは、地方創生の歩みそのものと不可分ではないでしょうか。
当面はキャッシュレス推進の意義・メリットとして掲げられていた「インバウンド受容取込による売上拡大」には期待しづらいなか、シニアや低所得層といったターゲットを明確にしつつ、ベストプラクティスなども示しながら、ユーザーと店舗、そして地域が幸せになるアプローチを模索する必要がありそうです。官製の取組みだけでなく、店舗と伴走する決済各社の営業・マーケティング力にも大いに期待したいところです。
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https://manamina.valuesccg.com/articles/7922019年10月に消費税が10%に上がり、2020年6月末までの消費対策としてキャッシュレス・ポイント還元事業が始まりました。マナミナでは2018年12月のPayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」からスマホ決済アプリの利用動向に注目してきましたが、増税後そして今後の利用状況やいかに。eMark+の決済アプリ利用ログから、日常消費に浸透するキャッシュレス決済の動向、そして一層の普及推進へ向けたヒントを探ってみます。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。