経済圏確立へキャリアが向かう道|ペイだけじゃない、通信キャリアアプリの浸透

経済圏確立へキャリアが向かう道|ペイだけじゃない、通信キャリアアプリの浸透

2018年のPayPay「100億円あげちゃうキャンペーン」に端緒した決済アプリバトルはどうやら4月に本格参入した楽天を含む通信キャリア4社のサービスへ収れんしつつあります。マナミナではこれまでも色々とりあげてきましたが、この連載では通信キャリア各社が目指す市場囲い込み、「スーパーアプリ」へ向けた経済圏構築の動向を事業領域ごとにレポートしてみます。


まずは主要通信キャリア各社グループのアプリ利用状況から市場を概観してみましょう。

上位1000アプリユーザーの27%をキャリア系アプリが囲い込み

決済アプリやECサイトにおけるバトルからは相変わらず目が離せませんが、そもそも通信キャリアが提供するアプリはどのくらいあるのでしょうか。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天各社サイトに掲載されている「グループ会社」掲載企業(※1)が運営するアプリ(以下、キャリア系アプリ)をピックアップし、2020年3月のeMark+の「アプリランキング」(Gmail、YouTubeなどプリインストールアプリは対象外)におけるシェアを確認してみます。

5,600万人が利用するLINEをはじめ、上位1,000アプリののべユーザー数は約1.7億人。そのうちキャリア系アプリは117あり、合計利用ユーザーは27%に上りました。

利用上位1000アプリに占めるキャリア系アプリ数と利用ユーザー数

利用上位1000アプリに占めるキャリア系アプリ数と利用ユーザー数

※2020年3月
※メール、Chrome、YouTube、Googleマップ、Gmailなどプリインストールアプリは対象外

ドコモで一番利用が多いのは「dポイントクラブ」で2,050万人が利用。ついで決済「d払い」、携帯ユーザー向けサポートアプリ「My docomo」の順です。ゼンリンとの提携による「地図アプリ」も多く使われていました。

KDDIは決済「au PAY」にやはり携帯ユーザー向け「auサービスTOP」が続きました。KDDIはユーザー向けサービスに加えGunosy「グノシー」やカカクコム「食べログ」といったグループ企業アプリの利用も多く、自社ブランドにこだわらずコンテンツビジネスを拡充している印象です。

ソフトバンクと楽天の上位は、ほとんどが「Yahoo!」「PayPay」や「楽天」の自社ブランド名を冠したアプリ。ソフトバンク「Yahoo! Japan」は全アプリでも4位の2,700万人が利用するほか、「PayPay」は2,530万人と相変わらずユーザーを伸ばしています。ちなみにソフトバンクグループと経営統合予定のLINEと名のつくグループ会社提供のアプリは上位ランキング中22アプリのべ8,496万人が利用しています。

楽天は「楽天市場」が2,310万人と「楽天ポイントクラブ」1,290万人より1,000万人以上多くのユーザーを獲得。決済「楽天ペイ」はキャリア系アプリのうち唯一1,000万人を下回り、「楽天カード」や「楽天ポイントカード」の方が多く使われていました。

各キャリアの主要アプリ

各キャリアの主要アプリ

※2020年3月の月間ユーザー数が200万人以上

アプリのカテゴリ別にみると、いずれの通信キャリアも「ファイナンス」はトップ3に入り、注力領域と考えられます。「ショッピング」はやはり楽天が強く、6アプリのべ3,821万人が利用しましたが、ドコモとソフトバンクも2,000万人以上を確保しています。KDDIもWowma!やLUXAといったECブランドを展開していますが、3社に比べると苦戦している模様です。

「ニュース&雑誌」をはじめとするコンテンツ系アプリではYahoo!ブランドを擁するソフトバンクが圧倒的な存在感ですが、前述のとおりKDDIも実は注力しています。

アプリユーザー分布にみる経済圏

アプリユーザー分布にみる経済圏

※2020年3月、スマートフォン
※上位1000アプリの合計値
※太字は各グループのユーザー上位3領域。
 分類はGoogle Play Storeにより、携帯ユーザー向けサポートアプリを
 ドコモとソフトバンクは「ツール」、KDDIは「ニュース&雑誌」、
 楽天は「通信」に分類している

ニュースや地図アプリも通信キャリアの存在感

カテゴリ別には、「ファイナンス」「ショッピング」「ニュース&雑誌」でキャリア系アプリの寡占状況がみられます。これらジャンルはいつでもどこでも携行されるスマートフォンとの親和性が高く、外せない領域ということなのでしょう。「ソーシャルネットワーク」「ゲーム」「美容」といったジャンルは専門性が高いせいか、通信キャリアが闘うフィールドではなさそうです。

キャリア別には、全方位でアプリを展開するソフトバンクの強さが際立ちます。とくに「天気」74.2%、「スポーツ」59.2%、「地図&ナビ」45.1%はキャリア系に限らず圧倒的なシェアです。ほかにドコモは「健康&フィットネス」「写真」の記録系KDDIは「エンタメ」「音楽&オーディオ」のコンテンツ系でカテゴリ10%以上のユーザーを集めました。

利用上位1000アプリにおける主要カテゴリ別キャリア系アプリのユーザーシェア

利用上位1000アプリにおける主要カテゴリ別キャリア系アプリのユーザーシェア

※2020年3月、スマートフォン
※カテゴリユーザー合計数が多い順に500万人以上のカテゴリを掲載
※太字はシェア10%以上

10%以上のシェアをもつカテゴリ数はソフトバンクが最多で寡占率も高い一方、ドコモは最大シェアをもつ「健康&フィットネス」でも13.7%。ただしドコモの寡占率が高い「写真」「健康&フィットネス」といった記録系アプリは、ユーザーロックオン効果が高いと考えられます。


次回以降は、事業領域ごとに通信キャリアの取組みを概観していきます。まずは通信領域です。

※1 https://www.kddi.com/corporate/group/https://group.softbank/segments/group(LINE含まず)https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/about/group/https://corp.rakuten.co.jp/about/group.html

本記事では調査・分析ツールとして、市場・自社・競合の3C分析ができる「eMark+」を使用しました。
無料で利用できる機能もありますので、ぜひ登録されてみてはいかがでしょうか。



eMark+ 無料で競合調査ができる! 無料登録はこちら


調査概要

全国のヴァリューズモニター(20歳以上男女)の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用し分析しました。
※アプリのユーザー数は、Androidスマートフォンでの起動を集計し、ヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。アプリのカテゴリはGoogle Playのアプリカテゴリより取得。メール、Google Chrome、YouTube、Googleマップ、Gmailなどプリインストールアプリは対象外とする。

関連記事

経済圏確立へキャリアが向かう道|通信領域編(1) 楽天本格参入の影響は?

https://manamina.valuesccg.com/articles/851

第1回に続き、キャッシュレス決済やEC、金融等の総合的な提供を通じた顧客LTV最大化へ向け、通信キャリア各社の動向を探ります。まずはソフトバンクによるボーダフォン買収以来14年ぶりに第4の通信キャリア・楽天を迎えたモバイル通信事業から概観してみましょう。

経済圏確立へキャリアが向かう道|EC編(1) コロナ禍がもたらした市場変化

https://manamina.valuesccg.com/articles/884

通信キャリアの経済圏確立へ向けた動向について、第4回ではEC領域を分析してみます。新型コロナウィルス感染拡大防止に伴う外出自粛でさらに欠かせない存在となり、市場成長が見込まれるEC市場。米国では過去5週間に失業給付金申請が2,650万件を記録するなか、Amazonが3月に10万人、4月に7.5万人を採用するなど労働力の受け皿としても期待されています。

この記事のライター

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。

関連する投稿


Z世代に人気のVTuber市場を深掘り!「にじさんじ」と「ホロライブ」に沼った人はどんな人?

Z世代に人気のVTuber市場を深掘り!「にじさんじ」と「ホロライブ」に沼った人はどんな人?

Z世代から強い人気を集める「VTuber」。大手企業のCMやPRに起用されるなど躍進を遂げる一方で、「VTuberとは何か」よくわからない方も多いのではないでしょうか? この記事では、VTuberに関する疑問を解消しつつ彼らの経済効果を深掘りするために、VTuberの二大事務所といわれるにじさんじとホロライブを分析。ファンの姿と消費行動を読み解きます。


2022年観光関連サイト推計閲覧者数ランキング ー 都道府県別の公式観光サイトでは、全国旅行支援・県民割等の影響が顕著

2022年観光関連サイト推計閲覧者数ランキング ー 都道府県別の公式観光サイトでは、全国旅行支援・県民割等の影響が顕著

公益社団法人日本観光振興協会(本部:東京都港区、会長:山西 健一郎)と、ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズ(本社:東京都港区、代表取締役社長:辻本 秀幸)は協同で、2022年の観光関連Webサイトの年間推計閲覧者数を調査しました。


Most Popular Websites & Apps [2022 Ranking]! Instagram Surpasses Twitter, Ranking 3rd! Increase in Senior Users

Most Popular Websites & Apps [2022 Ranking]! Instagram Surpasses Twitter, Ranking 3rd! Increase in Senior Users

The number of accesses to websites and smartphone apps from January to October 2022 were researched and ranked. The ranking is based on a comparison with the previous year and usage trends by age group. 2022 is characterized by the growth of Instagram, with Instagram becoming the leading social media among seniors.


物価高騰で“ポイ活”系アプリに関心?全世界が熱狂した「2022FIFAワールドカップカタール大会」の影響で「ABEMA」も急増(2022年11月)

物価高騰で“ポイ活”系アプリに関心?全世界が熱狂した「2022FIFAワールドカップカタール大会」の影響で「ABEMA」も急増(2022年11月)

毎月更新のスマートフォンアプリインストール数ランキングTop5をまとめました。今月のランキングでは、自動的にポイントの貯まるアプリ「タウンWiFi 」や「Tポイント×シュフー」といった物価高騰に少しでも役立つ“ポイ活系”アプリがランクイン。そして、様々な番狂せと華麗なプレーの連続で大いに盛り上がった「2022FIFAワールドカップカタール大会」。その全64試合を生中継したことでユーザーを増やした「ABEMA」にも大きな注目が寄せられました。


【2022年ヒット記事集】マーケターが注目した記事は?トレンド・消費者インサイト・業界動向まとめ

【2022年ヒット記事集】マーケターが注目した記事は?トレンド・消費者インサイト・業界動向まとめ

withコロナも3年目となり、外出の自由度が少しずつ戻ってきた2022年。 回復の兆しが見えてきた業界、コロナ禍を逆手に取って勢いを増している業界、と様々見られる中で、世間が注目したマーケティング・トレンドの調査記事はどのようなものだったのか、2022年の人気記事を振り返ります。


最新の投稿


タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

近年タイではコーヒーブームが起こっています。バンコクには次々と新しいカフェができており、SNS映えする店内だけではなくコーヒーの味にもこだわりを持つカフェが増えています。実際に、起業してカフェオーナー兼バリスタになるのはタイでは一つのトレンドです。 近年、タイのコーヒー市場は右肩上がりに伸びており、タイのコーヒー市場は日本円で1440億円を超えると言われています。 そこで本記事では、タイのコーヒー市場の現状を読み解くとともに、タイでなぜコーヒーの人気が高まっているのかを、タイのコーヒーブームの歴史と共に解説します。


2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

株式会社Creative Groupは、同社が運営するメディア『トレンドメディアTrepo(トレポ)』にて、10代~20代の女性を対象に、2025年上半期のZ世代トレンド予想調査を実施し、結果を公開しました。


ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズは、ゲームプレイヤーの心理・行動を分析し、分かりやすく彼らの実態を可視化した「ゲーム総合調査レポート2024」を作成し、公開しました。


スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

疲労回復、毎日のコンディション管理に必要不可欠な「睡眠」。その睡眠、あなたは足りていますか?最近ではニュースでも多く取り上げられた通り、日本は世界規模での「不眠大国」。実に日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の加盟国33ヵ国の中で最下位とも言われています。そして睡眠はただ眠るだけではなく、経済とも大いに関わりがあるのです。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、良質な睡眠の鍵を解説します。


BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、全国のマーケティングコンサルタントを対象に、「BtoBマーケターが始めた方が良いこと」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ