オーツミルクはなぜ中国で大人気になったか|中国トレンド調査

オーツミルクはなぜ中国で大人気になったか|中国トレンド調査

オーツミルクという植物性ミルクは、2020年に入ってから中国で食品・飲料品の中で最も急速に成長しているカテゴリとなりました。今回の記事では、オーツミルクが中国で人気を得た謎を紐解いてみました。


オーツミルクとは植物性ミルクの一種で、欧米では売り切れ続出のため、入手困難なほどの人気を誇ります。このオーツミルクは2018年から中国での販売を始め、爆発的な増収が見られました。ニールセンの調査によると、2020年に入ってからオーツミルクは食品・飲料品の中で最も急速に成長しているカテゴリとなり、昨年の同月に比べて今年の1-4月期に、オーツミルクを製造するブランド「Oatly」の天猫Tmallとタオバオにおける売れ行きは、それぞれプラス115.4%、2305.7%と、大躍進を見せました。

オーツミルクの欧米での人気は、ビーガン・ベジタリアン人口の増加や牛乳アレルギーなどによるものだと考えられていますが、中国におけるオーツミルクの人気の理由は、一体何によるものなのか、分析を行いました。

オーツミルクが中国で大人気になった理由とは

乳糖不耐症や牛乳アレルギー

牛乳や乳製品に含まれている乳糖は、ラクターゼという酵素により分解されます。しかし、生涯にわたって体内でラクターゼを産生する欧米人とは異なり、中国人は87%、離乳後からラクターゼの量が減少し、年長児や成人は乳糖の消化を微量にしか行うことができないことが、分かっています。従って、乳糖不耐症を持つ中国人は、実に12億人以上存在するということになります。

また、牛乳でアレルギー反応を起こしてしまうことは欧米人だけではなく、中国人も同様です。牛乳アレルギー(CMA)の有病率は0.25%〜4.9%とされており、成人よりも乳幼児に多く見られます。これらの理由により、乳糖を含まないオーツミルクや豆乳をはじめとした植物性ミルクは高い人気を得ることとなりました。なお、大豆アレルギーやナッツのアレルギーなどを持つ人の割合もかなり高いです。その結果、消費者は、牛乳やアーモンドミルクなどの植物性ミルクよりも、オーツミルクを選択するようになったことも、一つの要因としてあげることができます。

栄養価値

牛乳と比べて、オーツミルクはカロリーがほぼ同様、また、タンパク質は約2分の1ではありますが、総脂肪量は3分の1も満たしておらず、特に心血管疾患のリスクを高める飽和脂肪酸は遥かに少ないです。オーツミルクに含まれる炭水化物は牛乳の約2倍ですが、牛乳にはない水溶性繊維は240mL中2gも含まれています。植物繊維はお腹の調子を整えたり、糖質の吸収を抑えたりする効果があり、植物繊維が不足しがちな中国人にとっては、とても嬉しい栄養素です。

オーツミルクと牛乳およびその他の植物性ミルクとの栄養成分に関する比較

また、他の植物性ミルクと比べても、オーツミルクが勝る大きな特徴があります。それは、オーツミルクにはエン麦β-グルカンという成分が含まれていることです。エン麦の水溶性植物繊維の大部分はβグルカンで、満腹感を増進することで食欲を抑制し、血液中コレステロールのレベルを低下させ、血糖値を安定させる効果があるとされています。そのため、オーツミルクには健康維持とダイエットの効果が期待されています。

爽やかな風味

オーツミルクの味わいは、まろやか且つ爽やかで、牛乳のような舌触りを持ちながら、豆乳やアーモンドミルクのようなクセがないことが特徴です。特に、オーツミルクはコーヒーの味を引き立てると言われており、ホットとアイス、どちらの状態にもよく馴染み、幅広いコーヒーの種類に適応します。

また、オーツミルクは植物性ミルクの中でも、泡立ち、きめ細かさ、ラテアート、コントラストといった項目で優れたパフォーマンスを認められており、牛乳の代替品として、バリスタの間でも評価が高いようです。

健康なライフスタイルの象徴

経済成長が進展するにつれて、国民生活の質が向上し、人々は健康で環境に優しいライフスタイルを求め始めました。その結果、植物性由来の素材をベースにしているプラントベース(PlantBased)の食物は中国で注目を浴び始めました。そして、プラントベースのブームに便乗して、植物性ミルクであるオーツミルクは健康なライフスタイルの象徴へとなりました。

オーツミルク「Oatly」は「健康なライフスタイル」を企業理念とし、広告はもちろん、パッケージまで消費者にその理念を伝えるよう、こだわっています。また、Oatlyは顧客グループをポストミルク世代(Post milk generation)と定義づけ、2015年に開催されたスウェーデンの野外フェスティバル「Way Out West Festival」では、「Post milk generation」が印字されているTシャツを、参加者は奮って着用していました。

オーツミルク「Oatly」

オーツミルクブランド「Oatly」

Oatlyは中国上陸後、「Saturnbird(三頓半)」や「HEYTEA(喜茶)」のような人気ブランドとコラボすることで、健康的な食生活と環境意識の企業理念を中国人に向けて訴求し続けました。そのブランドイメージは、中国人のプラントベースへの需要とうまく合致したと考えられます。

数多ある飲料品の中、オーツミルクは決して唯一の選択肢ではありません。しかし、健康で環境に優しい食生活への需要を満たすことができたからこそ、オーツミルクは、このように多くの人に選ばれたのでしょう。

喜茶(HeyTea)と「Oatly」のコラボレーション商品

「HEYTEA (喜茶)」と「Oatly」のコラボ商品

まとめ

日本でも最近、オーツミルクが販売されるようになりました。スターバックスでは期間限定でオーツミルクのラテとフラペチーノも登場しました。その際、「豆乳より美味しかった」、「コーヒーの味が引き立っててよかった」などと、オーツミルクへの評価はかなり高いものとなっていました。

体に嬉しい植物繊維が含まれる、レシピのバリエーションも豊富なオーツミルクなら、日本でも益々、注目を集めることになるでしょう。

<参考文献>
「燕麦奶火了,成就它的是一家瑞典公司」
https://www.ifanr.com/1154622
「A Comparison of the Nutritional Value of Cow's Milk and Nondairy Beverages」
https://journals.lww.com/jpgn/fulltext/2017/05000/A_Comparison_of_the_Nutritional_Value_of_Cow_s.28.aspx
「风靡全球的燕麦奶,为什么这么受欢迎?」
https://m.sohu.com/a/350640248_798833
「燕麦奶:又一个中产阶级专属陷阱?」
https://www.cn-healthcare.com/articlewm/20190530/content-1060546.html
「中国儿童乳糖不耐受发生率的调查研究」
https://www.ixueshu.com/document/7a7c331c404db86b318947a18e7f9386.html
「乳糖不耐症」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/03-消化器の病気/吸収不良/乳糖不耐症
「World Allergy Organization (WAO) Diagnosis and Rationale for Action against Cow’s Milk Allergy (DRACMA) Guidelines」
https://waojournal.biomedcentral.com/track/pdf/10.1097/WOX.0b013e3181defeb9.pdf
「为什么出圈的是燕麦奶?」
https://zhuanlan.zhihu.com/p/145905643?utm_source=wechat_session
「欧气燕麦奶CEO王鑫:疫情后中国燕麦奶品牌怎么打?」
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_7561714
「ビーガン人口が6倍に増加?ベジタリアンなどの世界菜食トレンド推移」
https://tokyovegan.net/ever-increasing-vegan-population/
「PREHISTORIC MAN AND LACTOSE INTOLERANCE」
https://www.food-intolerance-network.com/food-intolerances/lactose-intolerance/ethnic-distribution-and-prevalence.html
「日本のオーツミルクブームのリーディングブランド*「ALPRO」から、バリスタ特別仕様のオーツミルクが登場」
https://www.agara.co.jp/article/80950
「牛乳が健康に悪いって本当?モー信じられない 牛乳のウソ&ホント」
http://www.arcj.org/milk/?gclid=CjwKCAiAq8f-BRBtEiwAGr3DgUQe1Tq-UPD0Csb8H4zxmcZJ3Hau-HBAe1GkxW4WXyxPbbL60fXV1RoCHGcQAvD_BwE
「スタバのオーツミルクとは!?味はどうなの?口コミまとめ!」
https://labopick.com/sutaba-oatsmilk/

​​

メールマガジン登録

最新調査やマーケティングに役立つ
トレンド情報をお届けします

この記事のライター

中国出身の留学生。立教大学大学院に在学中。

関連する投稿


中国冬季の新トレンド「冰雪消費」を調査

中国冬季の新トレンド「冰雪消費」を調査

現在中国では、冬季のウィンタースポーツや雪祭り、氷祭りなどの「冰雪経済」「冰雪消費」が盛んになっています。政策の支援や商品の刷新などのプラスの影響を受け、「冰雪消費」は著しく増加しています。本記事では中国における冰雪消費の盛り上がりをデータで確認し、活発な冰雪旅行やウィンタースポーツ関連事業の具体例を紹介します。


ポストコロナ時代における「中国のペット経済」の発展状況とトレンド

ポストコロナ時代における「中国のペット経済」の発展状況とトレンド

中国の独身者の増加と消費能力の向上に伴い、若者の一人暮らしがますます定番化してきています。ペットは人も精神的な支えにもなるため、独身の若者たちのパートナーとして徐々に位置づけられ、ペット経済もそれに伴って成長しています。ポストコロナ時代に中国のペット経済の発展状況や新しいトレンドについて、本稿で詳細にご紹介します。


ポストコロナ時代における中国人の消費変化

ポストコロナ時代における中国人の消費変化

「コロナ時代が過ぎた後、中国は一波の消費ブームを迎えるだろう」という予測の声が上がりました。しかし、「三亜旅行ブーム」を除いて、中国人の消費ブームは現れず、その代わりに中国人はむしろ借金の返済や預金に熱心でした。新型コロナウイルスが終息した後、中国人の消費能力は本当に低下し、もはや消費に熱心ではなくなったのでしょうか?それとも、中国の消費者の消費行為にはどのような変化が起こったのでしょうか?この記事ではポストコロナ時代における中国の消費トレンドの変化を解説します。


“質”重視の消費観がもたらす。2024年中国経済の新傾向

“質”重視の消費観がもたらす。2024年中国経済の新傾向

緩やかな回復を続けている中国経済では、人口の半数近くを占める「80後(1980~89年生まれ)」、「90後(1990~99年生まれ)」、「00後(2000年以降生まれ)」が消費の主力となっています。これらの年代の消費者は生活の質や精神的満足をより重視する傾向にあり、中国経済に新しいトレンドを生み出しています。


自分を癒す、潤す、小さなご褒美!プチ贅沢調査【スイーツ編】ホワイトペーパー

自分を癒す、潤す、小さなご褒美!プチ贅沢調査【スイーツ編】ホワイトペーパー

日本生活協同組合連合会の「節約と値上げ」の意識についてのアンケート調査結果によると、回答者全体の93.3%の人が節約を意識しているという今、何かとメディアで取り上げられているのが「プチ贅沢」。本レポートでは、どのようにして「プチ贅沢」が生活に取り入れられているのか、日常生活における小さな幸せの追求が、どのようにして個人の生活の質を向上させているかという視点で、中でも手軽に取り入れられる「スイーツのプチ贅沢」にフォーカスを当て、考察しました。<br>※調査レポートは記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。商品企画やマーケティングをご担当の方はぜひご確認ください。


最新の投稿


日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ、AR撮影装置を活用した「没入体験型CM」の実証実験を開始 GW期間内に大型ショッピングモール内にて

日本テレビ放送網株式会社は、日本テレビが事業展開する XR分野のコンテンツ制作および開発支援サービス『日テレXR』において、新たな広告没入体験ができるサービスの実証実験を開始しました。


ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

ギブリー、生成AIがマーケティング業務を支援するサービス「マーケGAI」の提供を開始

株式会社ギブリーは、生成AI技術を活用してマーケティング業務を自動化・効率化するAIマーケティング支援ツール「マーケGAI」の提供を開始したことを発表しました。


「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

「○○とは」検索に見るトレンドや生活者の気になりごとは?「インボイス」「NISA」「猫ミーム」など

検索エンジンで調べ物をするときによく使われる「〇〇とは」検索。今回は、直近1年間で検索数が多かった注目ワードや、時期によって急上昇したトレンドワードをご紹介します。「とは」検索から見えてくる最新の流行りやみんなの関心事を読み解いていきます。


GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

GWに10連休を取得する人は約2割!連休の予定はインバウンドの影響か「国内旅行」が下降し「家事」が上昇【mitoriz調査】

株式会社mitorizは、消費者購買行動データサービス「Point of Buy®」の会員に対し「大型連休に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

Supportive fans are willing to spend money? “Oshikatsu” insights & applying it to marketing strategy

“Oshikatsu” stimulates consumption in Japan. In fact, more than 80-90% of teens answered that they have an “Oshi.” We will deepen our understanding by investigating the current state of the “Oshikatsu” market, behaviors like time and money spent on “Oshikatsu,” and its connection with collaborations, etc. in marketing.


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ