DXのボトルネックは意外にも「データの整備」
後藤賢治(以下、後藤):コロナ禍でデジタルの有効性・必要性が増し、「DX」についても急速にバズワード化しました。一方、トップダウンでDX推進の方針が打ち出されても、現場ではなかなか進まないという状況も耳にします。この要因として、データの整備が挙げられると思っています。
いろいろな方とお話しをするなかで「社内にデータは多くある。だからデータから顧客を理解したり、戦略を精緻化することができるはず」といった内容をよくお聞きします。しかし、データそのものが欠損していたり、意味のあるかたちでまとまっていなかったりする場合が多い印象です。
後藤 賢治 株式会社ヴァリューズ 取締役副社長
1992年株式会社リクルート入社。複数の事業企画を行い、ECサイトの責任者を行ったのちに株式会社マクロミルに執行役員として入社し、新サービスや新規事業開発などを手がける。2009年、元マクロミル代表の辻本と共に株式会社ヴァリューズを立ち上げ、データを活用し、自動車・不動産・日用品・金融など、様々な業界のマーケティング課題の解決を行っている。
小浜勇人さん(以下、小浜):データ自体が使えないというのがまず壁になりますよね。営業とマーケティングのデータがつながっておらず、トレースできない場合も多い。そのため、何が売上に影響を及ぼしていたかも一気通貫では分からない。
DXにおいてはデータを整備することが実は全体工程の7割ほどを占めると言っても過言ではありません。データを意味のあるかたちでまとめるために、データにどういうタグを貼ったりカテゴリに分類するのかも大事です。それが最終的な意思決定や価値創造につながります。
小浜 勇人さん 株式会社FUTURE VALUES INTELLIGENCE 代表取締役
慶應義塾大学理工学部電気工学科を卒業後に株式会社リクルートに入社。通信系の新規サービス事業の立ち上げに技術サイドから関わり(現ネクスウェイ社)、以降ブライダル事業(ゼクシィ)や進学事業(受験サプリ)などの事業運営を経験。2015年9月に株式会社FUTUREWOODSを起業。2018年にデータサイエンス 部門をFVIとして独立させ、2020年に代表就任。データ・AIを活用した様々なマーケティング・DXプロジェクトを推進中。
林佑磨さん(以下、林):大ざっぱに言ってしまえば、データが綺麗に整備されていれば、その後の分析は枯れた技術でも十分に価値を生み出すことが可能です。弊社が強みとするAIによる分析にしても、データのフォーマットは最適か、目的にあった情報が付与されているのか、といった視点がないままご相談をいただく場合も多いです。いくらAIとは言え、どんなデータからでも良い結果が得られるとは限らないのです。
林 佑磨さん AIREV株式会社 CEO
早稲田大学情報理工修士課程修了。学生時代から情報検索やデータマイニングの研究を行うなかで、ラベリングのための自然言語処理に興味を持つ。その後、同じ学科の仲間と会社を立ち上げ、人と同じように言葉を理解する人工知能づくりを進める。早稲田大学学部長賞受賞、IPA未踏クリエータ認定。明治大学客員研究員でもある。
後藤:手法論よりも目的の話から入ることが多いですよね。弊社ではマーケティング課題のご相談をお聞きすることも多いですが、実際に見てみると途方もなくデータの形式が揃っていなかったりする場合もあります。
また、データの欠損にもいろんな理由があります。たとえば、売上の最終的な評価が営業マンの手作業になっているために欠損があったり、ネットで集客しても売れたかどうかが分からない、など。DXと言う前に、そもそものデータの集積や整備に目を向ける必要があります。
「AIによるデータの知識化」とは何か
後藤:FVIの小浜さんとAIREVの林さんは、DXにとって「AIを使ったデータの知識化」が重要だと考えられていますよね。これは具体的にどのようなことなのでしょうか?
林:まずデータの知識化についてですが、データに対して「こういう情報が付与されていたら便利」ということがあります。たとえば飲食店が自社の売上を把握する際に、メニュー名に「牛肉料理」といったメタ情報がついていれば、売上カテゴリの可視化につながります。このようなタグ付け、カテゴリ付けのことを「データの知識化」と呼んでいます。
データの知識化は、AIを活用することで自動的に行うことができます。飲食だけでなく、メディア運営時のコンテンツのタグ付けや、Web広告配信の際の適切なメディア選定等にも活用できます。バラバラのデータを適切に分類しまとめることで、データがビジネスやマーケティングに活用できるようになるのです。
飲食店のメニュー名につけるタグの例。適切なタグ付けにより統計を取ることが可能になる
後藤:なるほど。ただ、分類はこれまで人間が目検で行っていたこともあると思います。先ほどのWeb広告配信の例では、広告主が不適切な媒体に配信してしまえば風評被害にもつながります。AIによる分類はたしかに効率的ですが、こうした信頼性の問題もありそうですよね。
林:閾値の問題は常につきまといます。人間の目検よりも正確な、100%正しい判断がAIで可能になるというわけではありません。ただし、AIの判断が「何%くらいの自信があるのか」という数字を出すことはできます。そこで、たとえばその基準が60%以下の場合にアラートを人間に送り、人間がチェックするオペレーションを組むといった仕組みを設けることが現実的な手立てかと思います。
後藤:では、実際にどのような企業で活用されているのですか。
小浜:タグ付けやカテゴリ分けという話なので、どんな業界の企業でも活用できます。たとえば保険業界だと、自動車事故が起こった場合の記録文書を知識化することで、保険金の見積もりを自動化する、といった活用法があります。
あるいは、BtoBビジネスにおける見込み顧客リストの作成にも使えます。Webサイトから従業員数や資本金、業種・業態やサービス内容などを取得、カテゴリ分けすることで、自社にとって最適な顧客リストを自動で導き出すこともできるでしょう。
データを適切に知識化することで、ビジネスの効率化やDXにつながる
「風が吹けば桶屋が儲かる」の「風」を知るために
後藤:AIによるデータの知識化は今後、どのような分野で活用が進むと思われますか?
林:先ほどお話しした業界のほかに、出版業界や防災分野など、多領域で応用いただいています。データ次第で活用の方法は多彩。取り組みとしては最初の障壁が高いのではと思う方もいるかもしれませんが、高単価で大きなシステムを作っていく必要もなく、スモールスタートも可能です。オペレーション構築も込みで3ヶ月ほどのプロジェクトなので、気軽にトライしてみるのが良いですよ。
小浜:AIの活用という文脈では、工業や産業などではロボット化などが進み、自動運転の実用化も見えてきている段階です。ただ、より汎用的なマーケティングやセールスの分野、特にtoBビジネスではAIによるデータの知識化が進んでいない状況です。見込み法人顧客の発見以外にも、広く見ればM&Aなどのビジネスマッチングにも使える。新しい活用法も常に模索しています。
FutureSearch 〜法人リスト作成からお問い合わせフォーム営業までワンストップで営業支援〜
https://www.future-search.jp/FutureSearch(フューチャーサーチ)は、新設法人を含む新鮮な法人リストを、AI技術を使って業種・エリア・規模などの会社情報から作成できる「ビジネスサーチ」と、お問い合わせページへの営業代行を行う「コンタクトアシスト」から成り、効率的なアポイント獲得に貢献する法人営業ツールです。しかも、月々6,500円という格安価格での提供を実現し、本当に探したい企業の顧客像とマッチしたオリジナルな法人リスト・営業リスト・法人名簿の獲得と、営業の反響率の向上とコストダウンの両立が可能となっております。貴社の新規顧客開拓や営業生産性の向上にご活用ください。
後藤:データやAIによって、「風が吹けば桶屋が儲かる」の「風」の発見につなげたいですよね。たとえば、弊社でよく引き合いに出す例に「犬を飼い始めた人は最初にどんな検索行動をするのか」という例があります。しつけについて調べるのか、あるいは病気のことを調べる、などいろいろと考えられます。ただ、実は最初のタイミングでそのような具体的な検索行動は実は起きていません。そうではなく、実は寂しくて悩んでいたり、暇つぶしでスマホゲームをしていたりする。人間の目では非論理的に見える兆候を可視化できることが、機械学習の強みなのではないかと思います。
犬を飼う人のカスタマージャーニーとは?アンケートとWeb行動ログのビッグデータで分かること
https://manamina.valuesccg.com/articles/522マーケティングにおいて、ユーザーとのコミュニケーション施策を決めるために必要なのがカスタマージャーニー。カスタマーの心情理解のための調査としてはアンケートを用いることが多いですが、インターネット上の検討行動は分かりません。これを明らかにするのがWeb行動ログデータです。犬を飼育し始めた人の、飼育前と飼育後のカスタマージャーニーを例にセミナーが行われました。
後藤:ただし注意点もあります。機械は様々な風をレコメンドしてくれますが、最終的にビジネス上の判断を行うのは人間だということです。「風」なのかただの偶然なのかを見誤ると、無駄なところに意識が向けてしまうことになり、非効率です。重要なのは目的を明確化し、データに意味を持たせること。どこまでを機械が判断し、どこから人間が判断するのかをはっきりさせる必要があります。そして最終的に、機械の支援によって人間の未来予測の精度が上がればベストですね。
取材協力:株式会社FUTURE VALUES INTELLIGENCE、AIREV株式会社
▼AIによるデータの知識化について興味を持たれた方は、ぜひお気軽に下記リンク先よりお問い合わせくださいませ。
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。