【リサーチャーが語るアンケート虎の巻】美容業界は「美意識のマーケティング」が鍵!

【リサーチャーが語るアンケート虎の巻】美容業界は「美意識のマーケティング」が鍵!

リサーチャーの菅原大介さんが、消費者・生活者のことを深く知るためのアンケート調査法を語ります。今回のテーマは美容業界。カテゴリの特徴を洗い出した上で、美容業界でユーザーリサーチを行うときの3つの観点を示し、それぞれの質問文例と、そこから導くべき考察についても解説します。美容業界に携わる方だけでなく、真にユーザーのニーズを知りたい方に必見の内容です。


こんにちは、リサーチャーの菅原です。私は調査会社を経たのち、国内大手の総合EC企業で物販とサービス両方のビジネスの中期経営計画やカテゴリ戦略を担当しており、個人でもリサーチのノウハウを普及させるための書籍執筆や寄稿などに取り組んでいます。

菅原大介 プロフィールページ|菅原大介|リサーチャー|note

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初めましての方向けの自己紹介&活動紹介ページです。 リサーチャー 菅原大介を何卒よろしくお願いします! (※2021年5月13日更新) ▼ プロフィール リサーチャー 菅原大介 リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で株式会社学研ホールディングスを経て、株式会社マクロミルで月次500問以上の調査を運用するリサーチ業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業でマーケティング戦略・中期経営計画の立案を担当する。 会社では小売・サービスの分野を中心に年間1,000ページ超のレポートを作成しており、従業員数100名~1,000名の企業におけるリサーチ組織の立ち上げ経験が

マーケティング活動に携わるビジネスパーソンにとって、小規模のアンケート・インタビューを自分自身で行うスキルの習得は今や必須です。しかし、データ分析の定番項目をそのまま当てはめたり、購入理由をストレートに尋ねても、なかなか示唆は得られません。

実はこうしたアスキング調査の手法は、業界ごとのビジネス特性理解があってはじめて深まります。このコラムでは、誰もが目的に応じた示唆にたどり着けるよう、業界ごとに最適な質問と分析のノウハウを解説します。

今回のテーマは美容業界。ヘア・エステ・マッサージ・フィットネス・ヨガなどの事業を展開する店舗や施設、エリアローカルの店舗を紹介する美容メディアなど、美容サービスの提供・紹介に携わる幅広い事業者の方に役立つ質問法と分析法をご紹介します。

美容業界の3つの特徴とは

まずは美容業界のカテゴリ特性・ビジネス課題を押さえておきましょう。

美容業界のカテゴリ特性・ビジネス課題

1.リピーター獲得が難しい

1つめはリピーター獲得が難しいことです。美容の業態は「髪を切る・腰が痛い・痩せたい」など、初めて利用する理由は得られやすくなっています(お客様の側からの来店が起こりやすい)。しかし、距離・時間・料金などの負担要因から、飲食のように高頻度な利用にはなりません

さらに、「一時的に課題が解消されればOK」「行きやすい店をその都度選ぶ」というスタイルのお客様も多いため、定期的に通ってもらう=リピーター獲得のハードルが高く、特定商圏で営業し続けられるだけの「常連の数」で営業効率を上げる必要があります。

2.付加価値を出しやすい

2つめは付加価値を出しやすいことです。飲食における食材仕入れのようにサービス提供ごとに一定のコストがかかることはなく、店舗面積も比較的小規模から営業できる業態が多いため、美容サービスは全般的に原価・固定費を抑制できるモデルになっています。

これはつまり、ヘアカットやマッサージなどのサービスそれ自体が付加価値(利益)になるということです。店の看板となる専門性を磨き上げ、オーナーやエースの技術力によって指名を獲得できれば、商圏におけるシェアを一定にキープすることができます。

3.売上の頭打ちが早い

3つめは売上の頭打ちが早いことです。「1.リピーター獲得が難しい」で見たように、初期投資が少なく技術力で営業できる=参入障壁が低い業態なので、同じ地域に競合店がひしめいています。これでもかというくらい連続して美容室や整骨院を見かける繁華街も、決して珍しくありませんよね。

おまけにお客様の利用メニューは基本的に固定しがちです。ヘアカットにせよエステにせよ、「失敗したら嫌だな」という気持ちが強く働いているので、あれこれ色々なメニューを試してくれることはありません。結果的に売上の頭打ちがかなり早い時期に訪れます。

以上の3点が美容業界の特徴です。

美容業界のユーザーリサーチの観点を解説

美容業界でビジネスを行う上で、消費者・生活者へのリサーチへの観点には大きく、下記の3つが挙げられます。

質問サンプル・分析スコープ

以下ではそれぞれについて、実際に行うべき質問のサンプルと、回答に対する分析のスコープをまとめました。ひとつずつ解説していきます。

1.利用サイクルはどうなっている?

1つめは「利用サイクル」です。利用サイクルとは「利用頻度・きっかけ」を指します。

美容サービスは、お客様がお店に通うサイクルを把握することがマーケティングの基本になります。一度の施術である程度の効果があることと、お小遣いに対して決して安くないサービス単価に照らすと、一人のお客様に利用してもらえる頻度には限度があります。

ですので、周期性に合わせて販促の企画を立てることがポイントです。ただしこの時、季節アプローチ(新生活は〜、夏は〜、今年からは〜)だけだと他店と差別化できません。そこで、お客様の行動特性と志向性にフォーカスして、自店のお客様に合った販促の企画を考えるようにしましょう。

では、お客様の行動特性と志向性を理解するためには、どんな質問を行えば良いでしょうか。以下にサンプルを用意しました。

質問サンプル:「業態の利用サイクル」に注目

美容の業態を利用するサイクルを質問する

Aあなたは○○[美容の業態]をどれくらいの頻度で利用していますか。(直近1年間の状況を基準にしてお答えください)
B○○[美容の業態]を利用するきっかけを教えてください。(タイミング・目的・用途などの観点からお聞かせください)。
C

○○[美容の業態]を利用する際のあなたの志向性に最も近いものを教えてください。

(1つの店舗を固定して利用する・複数の店舗を併用して利用する・利用の都度行く店舗を選ぶ)

質問では、自社のサービスが属する美容の業態を利用するサイクルを利用者に尋ねます。Aは直近1年の利用頻度を確認する質問です。Bは利用のきっかけを尋ねる質問です。Cはお店の使い分け方を明らかにする質問で、固定・併用・都度の中からあてはまるタイプを選んでもらいます。

「B:利用のきっかけ」を尋ねる際の注意点として、聴く対象を店舗にしてしまうと、割引クーポンやクチコミサイトなど販促施策や認知経路の回答が集まってしまうことが挙げられます。そこで、聴く対象は業態そのものの粒度にしておき、タイミング・目的・用途の観点から回答してもらうよう、質問文に適宜注釈を加えると良いでしょう。

これらの質問により、どれくらいのサイクルで店舗を利用する機会があるのかを総合的に把握することができます。シンプルな利用頻度はPOSで分析可能ですが、アスキング調査ではお客様の生活スタイルに沿って、美意識の程度を反映した傾向がわかります。

分析スコープ:周期性を発見しよう

上記の質問の結果として得られた回答から、どのような分析を行うと良いでしょうか。次のような観点に着目してみましょう。

*頻度やきっかけに基づく周期性・規則性を発見する

利用頻度(ヘアサロン)
2〜3ヶ月に1回程度
きっかけ(ヘアサロン)
→カラーやパーマが落ちてきたら。季節の大型連休前のタイミング
併用状況(ヘアサロン)
→カットの店は固定。カラーやパーマはお店の特徴や割引を見ながら併用

分析では、利用サイクルに内在する周期性・規則性に着目します。上記のように、ヘアサロンの利用頻度が2〜3ヶ月に1回であるお客様タイプを考えてみましょう。この場合、カラーやパーマの施術を基準として、季節の大型連休前が意識されている結果の頻度であることがわかります。

こうした特徴がわかっていると、利用サイクルの長さ・短さに応じて、集客方法(DM・看板など)や提案メニューを臨機応変に変えることができます。すべて一律にプロモーションを行うと、施術機会を取りこぼしたり営業色が強くなってしまうので要注意です。

また併用状況の質問結果からは、以下のようなことがわかります。

・ひとつの店舗を固定利用する人→立地・料金・接客・技術との相性の良さ
・併用して利用する人→興味関心や行動範囲のバリエーション
・都度、利用する店舗を変える人→イベント・割引や体験のキャンペーン・回数券等の企画粘着性

これらの情報から、消費者の利用サイクルを読み解く手がかりにします。

2.利用メニューは何か?

2つめは「利用メニュー」です。

美容では各業態で基本となるメニュー(ヘア→カット・パーマ、エステ→痩身・フェイシャル、フィットネス→マシン・スタジオ)があります。基本メニューにおける技術力や環境性はとても大事ですが、なかなかそれだけでは店の特色まで理解されません。

そこで調査では、自店あるいは他店において、ターゲットユーザーが評価している要素をサービスメニューのラインナップベースで検証していきます。店全体の利用率や満足度は立地や接客などの影響を受けますが、メニュー(施術内容)は自力で改善できます。

質問サンプル:強みとなっているメニューを知ろう

自店あるいは他店で利用しているメニューを質問する

A○○[自店・他店]でふだん利用しているメニューを教えてください。
B○○[自店・他店]に行ったことで初めて体験したメニューがあれば教えてください。
C

あなたが日頃行っていて効果を実感しているホームケアグッズ(美容アイテム)があれば教えてください。/○○[自店・他店]のスタッフから教わって効果を実感しているホームケアプログラム(ルーティンメニュー・サロン専売品など)があれば教えてください。

質問では、店で利用しているメニューを利用者に尋ねます。Aはふだんよく利用するメニューを、Bはそのお店に行ったことで初めて体験したメニューを確認する質問です。(Bは「初回利用時のメニュー」ではないので、質問作成時にはその違いにご注意ください。)

これらの質問により、自店や他店の強みとなっているメニューがわかります。「A:ふだん利用しているメニュー」の実績はPOSから明らかですが、「B:自店に行ったことで初めて体験したメニュー」を比較情報に加えることで、近隣のお店が持っていない特性が浮かび上がります。

Cの質問は、自宅で日々行うケアについて自身で取り組んでいるもの、あるいは、お店のスタッフから教わって良かったものを聴く質問です。ホームケアの情報は店でヒアリング結果を集めてデータベース化しないと揃わないので、アスキング調査の結果は特に重宝します。

分析スコープ:新規/リピーターそれぞれのメニューを考案

上記の質問の結果として得られた回答から、どのような分析を行うと良いでしょうか。次のような観点に着目してみましょう。

新規向けのサービスメニューとリピーター向けの物販商材を検討する

ふだん利用しているメニュー(ヘアサロン)
カット・カラー・パーマ
店で初めて体験したメニュー(ヘアサロン)
白髪染め・ポイントストレートパーマ
ホームケアグッズ・ホームケアプログラム(ヘアサロン)
スカルプケアシャンプー・縮毛ケア機能付きヘアアイロン

分析では、新規向けのサービスメニューを検討します。Aで質問した「自社サービスの業態の基本メニュー」と、Bで質問した「自店で初めて体験したメニュー」を突き合わせると、自店に特徴的なメニューがわかります。そこから、他店では経験しにくいメニューの種類・技術を新規客向けのアピール材料にします。

ヘアサロンを例にしてみましょう。ヘアサロンでは、カット・カラー・パーマは基本メニューであり、これだけだと店の差を知ってもらうのは困難です。そこで、店を通じて初めて体験したという「白髪染め」や「ポイントストレートパーマ(部分的な施術)」を活かすと店の個性を打ち出せます。

また、ホームケアの質問からは、リピーター向けの物販商材を検討します。回答者が自身で使用している美容アイテム(衛生用品・美容家電など)に注目して結果を見ると、物販でトップライン(売上・利益)を引き上げるビジネスモデルを検討する時の十分な材料になります。

同じくホームケアの質問で、店のスタッフから教わって効果を実感しているルーティンやサロン専売品からは、継続的に店を利用してもらうには欠かせない、店舗と自宅の両方で日々関係性を築くためのコミュニケーションノウハウを参照することができます。

3.あこがれの人は誰か?

3つめは「あこがれの人」です。美容室ではカットモデルのカタログを見せてヘアスタイルや仕上がりを決めていきますが、この方法は美容の他業態でも有効です。「あこがれの人」を聴き出すと、お客様がイメージしている方向性やレベル感がわかってきます。

質問サンプルを見ていきましょう。

質問サンプル:自サービスの分野に合わせて尋ねる

美容の業態に合わせたあこがれの人を質問する

A○○[美容の業態]分野で、あなたがあこがれに思っている人(タレント/モデル/アーティスト)を教えてください。
B前問で回答した人をお選びになった理由を、いいなと思っているポイント・参考にしているポイントを交えて教えてください。

質問では、自サービスの分野に合わせたあこがれの人を利用者に尋ねます。Aはあこがれの人物を特定する質問です。Bはあこがれの人物を選んだ理由を具体的なポイントと共に聴き出す質問です。Aは選択式が理想ですが、リストアップが難しければ自由回答でOKです。

これらの質問により、各業態であこがれの対象となっている人物とその要因が明らかになります。Aの質問文の冒頭にあるように、分野を特定した聴き方にすることで、テレビ等でよく見かける「オシャレだと思う芸能人ランキング」以上の情報が手に入ります。

ただし、回答結果は単純に「知名度の高い人」「今ブレイク中の人」が集まりやすいため注意が必要です。Aの質問文後半にある通り、各業態に適した(芸能)ジャンルを補足で提示しましょう。そうすると回答意識を特定業態へと集中してもらうことができます。

分析スコープ:利用者のなりたいイメージを分析しよう

上記の質問の結果として得られた回答から、どのような分析を行うと良いでしょうか。次のような観点に着目してみましょう。

ターゲットがイメージする方向性・レベル感分析する(※できるだけサービスメニュー単位で)

石田ゆり子(ヘアスタイル)
可愛らしい雰囲気のショートヘア
吉瀬美智子(ヘアスタイル)
オトナの女性らしいショートヘア

分析では、ターゲットユーザーがイメージしている方向性・レベル感を考察します。たとえば女性のヘアスタイリングにおいて、子育て世代ではショートヘアへの願望があり、そのショートヘアも「可愛らしい」「大人っぽい」などの種類があることがわかります。

この時に、できるだけサービスメニュー単位での考察を試みるようにします。回答傾向はどうしても有名人に偏りやすいため、たとえばフィットネスであれば、ランニング・ヨガ・筋トレなどのメニュー単位で、誰がどの要素で評価を集めているのかを参照します。

美容業界の攻略法

ここからはまとめです。まず、美容業界のカテゴリ特性・ビジネス課題とは次のようなものでした。

カテゴリ特性・ビジネス課題のまとめ

つまり美容業界で勝ち抜くには、商圏のお客様をリピーターとして常連客化しつつ、いかにオプションメニューや物販で一人あたりのお客様の消費を最大化できるかがポイントです。基本メニューの利用単価は店のグレードで決まるため、クロスセルの勝負です。

そこで、来店時情報だけのお客様理解に留めず、生活シーンの中で店がどのような位置づけで利用されているのか把握するように努めます。その際、利用者にアスキング調査で尋ねるべき質問とその分析法は、あらためて以下のようになります。

質問サンプル・分析スコープのまとめ

どの項目にも共通する大事なキーワードが「美意識のマーケティング」です。これは単純な美意識の有無ではなく、どんな生活者でも持っている美容・健康への意識を理解することを意味し、美意識が高くない状態も含めた理解が美容業界攻略のカギになります。

利用サイクル、利用メニュー、あこがれの人——取り上げた質問の答えはいずれも、回答者なりの美意識を反映したデータになって表れます。そのデータを自店のターゲットユーザー比率に置き換え、メニュー・プラン・販促施策・物販展開につなげていきましょう。

最後に、コロナ禍の影響についても補足します。美容サービスは他のサービス業ほど極端な落ち込みは見られません。もちろんスポーツクラブの閉店増などの影響は出ていますが、全体で見ると時短や自粛の影響は少なく、比較的従来通りの利用形態が維持されています。

上記のまとめではクロスセルの観点から考察してきましたが、コロナ禍の状況が長引く中でアップセルの意向も見られます。ヘアサロンにおいては、ヘッドスパの利用や明るいカラーの利用が増えており、リフレッシュやイメチェンによる癒しニーズが見られます。

もともとはお客様が新しいものを試したりサービスのグレードを上げることに抵抗を持つことが多い美容業界において、これは大きな変化です。自店に留まらない世の中のニーズを広く知るには本稿のアスキング調査の手法が有効なので、ぜひ試してみてください。

▼初回だった前回は「食品業界」がテーマ。当該業界の方、そうでない方問わず、ユーザー分析のための本質的な思考を学べる内容です。まだお読みでない方は、ぜひご一読ください。

【リサーチャーが語るアンケート虎の巻】食品業界は「旬のマーケティング」が鍵!

https://manamina.valuesccg.com/articles/1335

アンケートによるアスキング調査では、業界ごとのビジネス特性の理解があってはじめて深まります。そこでこのコラムでは、リサーチャーの菅原さんから業界ごとに最適な質問と分析のノウハウを教わります。第1回のテーマは食品業界。食品業界では、売れている場所・買われ方・食べ方など、商品の製造から消費までを貫いて旬を考察する「旬のマーケティング」が重要だと言います。

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この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でUX戦略・リサーチ全般を担当する。

個人でリサーチに関する著作を持ち、デザイン・マーケティング・経営を横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行うほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。

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