ライオンが中国市場を捉えるために活用するECデータの全貌とは?越境EC売上増の戦略を聞く

ライオンが中国市場を捉えるために活用するECデータの全貌とは?越境EC売上増の戦略を聞く

ライオン株式会社では中国越境EC事業における取り組みとして、市場環境の把握や競合の状況を理解するために株式会社ヴァリューズが提供するEC市場データを活用しています。ブランド軸での売上推移に加えプラットフォーム全体の推移や競合の推移を見ることで、効果的な仮説検証を行う戦略です。その背景を越境事業部・部長の吉田亮さんに取材しました。


ライオンの越境EC事業とは

ヴァリューズ 姜茹楠(以下、姜):今日はライオンさんの中国越境EC事業における取り組みについてお話をお聞かせいただければと思います。まず吉田さんのご担当業務についてあらためて教えてください。

ライオン 吉田亮さん(以下、吉田):私は2021年1月に新設されたライオンの越境事業部にて部長を務めており、主にアリババやジンドンなど中国ECの大手プラットフォーマーとの取り組みを進めています。こうした大手ECではライオンの旗艦店を開設しており、現地の代理店と一緒に実運用を進めるのがメインの業務です。

ただしミッションとしては、チャネルを問わず中国の方々にライオンの商品をできるだけたくさん届け、売上額を最大化することです。ライオンでは1990年頃から中国現地法人を立ち上げており、オーラルケアの製造販売を行ってきました。最近では中国での輸入販売量も増えてきています。そこで日本からの需給についても一元的に管理し、現地のEC販売やオフラインでの店舗販売、加えて日本国内におけるインバウンド売上等を束ねて動向を確認、施策につなげることも私の業務です。

取材風景

(左)ライオン株式会社 ヘルス&ホームケア事業本部 越境事業部長 
吉田亮(よしだ・りょう)さん
(右)株式会社ヴァリューズ 姜茹楠(きょう・じょなん)
取材はオンラインにて行った。吉田さんは約2年ぶりに中国に渡航し、現地で業務を行っているという

姜:ライオンさんはヴァリューズの中国ECデータを活用して市場環境の把握を行っています。利用する前に抱えていた課題感はどのようなものだったのですか?

吉田:そもそも越境事業はライオンにとって新規事業に近かったため、中国のEC市場の規模感やプレイヤー、売れ筋のチャネル等を定量的に捉えたいという思惑がありました。しかし中国EC市場に関しては、なかなか私たちが捉えたい粒度のデータが見つからなかったのです。日本では販売店でのPOSデータなど、市場を俯瞰できるデータを提供する企業さんも多々ありますが、国土が広く人種も多岐にわたる中国では、そういったデータを得るハードルが元来高いことも影響していました。

姜:具体的にはどのあたりが難しかったのでしょう?

吉田:市場トレンドや競合の状況を把握できるデータとしてはグローバル展開しているリサーチ企業のものもあるのですが、ライオンの管理上で付与しているデータの定義と違っている点がまずひとつありました。また、そうしたデータは英語ベースなのですが、ライオンでは中国語ベースで管理しています。そうすると紐付けが大変で、実用化の上で難点でした。

本来であれば日本で行っているように、販売店やモールから実際のPOSデータを入手するのが一番良いのです。しかしそれはモール内である程度の事業規模がないと提供してもらうことが難しい状況なんです。そんなとき、これまでもオンラインチャットインタビュー調査でお世話になっていたヴァリューズさんから、中国EC市場のデータを提供できるとうかがいました。テンプレートを見せていただいて、これなら市場トレンドを把握できると考えて導入したのです。

▼関連記事:ライオンさんとのオンラインチャットインタビュー調査の取り組みについては下記の記事で紹介しています。併せてお読みください。

ライオンが中国の生活者の意外なインサイトを掴んだオンラインチャット調査とは? 越境ECの取り組みを聞いてみた

https://manamina.valuesccg.com/articles/927

伸長する中国市場への越境ECを伸ばしていきたい国内各社ですが、中国消費者の購買行動や嗜好をつかむのに手間取り、適切な商品開発やマーケティングができていない場合も多い状況。そこでライオン株式会社ではヴァリューズの中国オンラインチャット調査を使用し中国の生活者の実態把握を行いました。ライオンでリサーチ業務に携わる高木優さん、ヴァリューズの姜に取材します。

ヴァリューズが提供する中国EC市場データ

姜:中国EC市場のデータではどんな内容を主に分析していますか?

吉田:まずはチャネル別のブランド軸での売上推移です。旗艦店を運用する上では広告投資をするブランドを絞り込み、継続的にWeb広告等の販促を打っています。その効果検証のために時系列でどう売上が推移しているかを見ます。また当然、競合の売上状況とも比較し、加えて各プラットフォーマーでの全体の売上データを見ることで、競合がどんな販促を仕掛けていて市場での売上がどう動いたのかが把握できます。これがメインの使い方ですね。

中国ECデータのTableauダッシュボード画面

中国ECデータのTableauダッシュボード画面。「データには実際のEC商品ページへのリンクがあり、商品と口コミまで併せて簡易的に見れるので使い勝手も良いです」と語る吉田さん

姜:データの使い方は時期を決めて定点で観測するイメージですか?

吉田:というよりは、広告施策を実行したのちの広告代理店さんとの効果検証のタイミングで、中国EC市場のデータも加工して併せて見るやり方をしています。ただ、たとえば口コミアプリの小红书(シャオホンシュー)や、中国版インフルエンサーであるKOLによるライブコマース施策を打ったときなどは、売上状況を確認するために見たりはしますね。我々のミッションは全中国での売上最大化なので、オフィシャルのルートだけでなく、市場全体で当該のブランドがどこまで伸びているかを見る必要があります。

ほかの使い方としては、現地でのマーケティング戦略を組むときに、日本で中国向けの製品開発などを担当する国際事業部門と共有して見ていくというものもあります。彼らは中国でのオフラインの売上データを持っているので、ECのデータと合わせることでオフライン・オンライン両面での全体的な市場規模や競合との関係を確認できます。ECだけで見ると客層が若年層に偏っていたり、海外製の製品の売れ行きが良かったりもしますが、オフラインではまた違った状況が見えてきたりもする。中国市場全体を見据える上では、オフラインとも併せた全体感の把握は必須と考えています。

姜:データの共有方法で工夫している点はありますか?

吉田:これまではメールで関連部門の担当者に転送していましたが、よりデータへのアクセシビリティを上げるため、Tableauを導入して利用促進を図るプロジェクトをヴァリューズさんと進めています。担当業務によってデータを見る軸は違うので、多岐にわたる分析と考察をスピーディーに行えるためのシステム設計は必須だと考えています。ただ、もともとエクセルでピポットを組む方が慣れていて早い、と私なんかはつい思ってしまうのですが……(笑)。そこでツールに慣れていない人でも使いやすいように、基本的なテンプレートをいくつか用意しておいて、「とりあえずこれさえ見ればよい」というようなところから始めていくのが良いと考えています。

▼関連記事:BIツール「Tableau」の導入支援もヴァリューズでは行っています。下記の事例記事と併せてお読みください。

導入企業が急増中!BIツールTableau(タブロー)が支持されている背景とは?

https://manamina.valuesccg.com/articles/1538

昨今、セルフサービス型BIツール「Tableau(タブロー)」を導入する企業が急増しています。なぜ、今ビジネスの現場でTableauが使われるのか、その背景をご紹介します。

アマナの緻密なデータ分析組織はどう生まれたか? Tableauで仕掛けるビジュアル×テクノロジーの未来

https://manamina.valuesccg.com/articles/941

「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。」を経営理念に、時代の半歩先を行くクリエイティブカンパニーである株式会社アマナが、2017年に立ち上げたデータ活用推進の組織「Amana Data Center(ADC)」。同社は、Tableauを活用してビジネス推進を行っています。アマナのデータ組織の仕組み、事業部へのデータ活用推進の方法や、画像認識の活用も視野に入れた未来について、様々な角度から掘り下げました。

ライオンの越境ECが目指す今後

姜:最近では企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性も言われていますが、そうした意識が取り組みの背景にあるのですか?

吉田:もちろんあります。越境ECの取り組みを始めた当初は市場環境も不透明ななか、商品を売り場に並べて売れ筋のあたりをつけ、広告投資の判断していました。それでもある程度の効果はあったのですが、しかし最近の中国ECではプラットフォーマーがアルゴリズムであてがってくれる「自然流量」と呼ばれる流入が減ってきています。そのため、自分たちで投資、つまりプラットフォーム内での販促をしてお客様を集客しないと、流入すら見込めません。

となると効率が重要で、そのためにデータドリブンで行わないと売上を担保できないのです。費用対効果が厳しくなったなかで、「日本産の商品である」というブランドだけでは戦えない状況にもなってきていると感じます。

姜:最後に今後の展開を教えていただけますか。

吉田:他の国内メーカーさんとも今年のW11(注:「ダブルイレブン」。中国で毎年11月11日の「独身の日」に行われる年間最大のECセールイベント)の状況を共有し合った中で、やはり越境EC市場の厳しさを実感しました。現在では中国製品の質も向上しており、中国の消費者も国内品志向が高まっている可能性が考えられます。

そこで、より詳細な中国消費者のマインドを知る必要があると考えています。肌感どおり国内品志向の人が増えているのか、それともそれは一部だけで、まだまだ海外品志向の人は一定数いるのか。であればどんなジャンルで当てはまるのか……といった消費者マインドを理解したいです。その上で未来の見通しを固め、中・長期的なチャネル戦略や商品戦略につなげていきたいですね。

取材協力:ライオン株式会社

調査データのお問い合わせはこちら

この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

関連する投稿


「防老」から「享老」の時代へ ~ 中国シニア市場の新動向と日本企業の参入機会

「防老」から「享老」の時代へ ~ 中国シニア市場の新動向と日本企業の参入機会

変わりゆく中国の高齢化の現状やシニア層の価値観・ライフスタイル。その変化を体系的に紹介するとともに、従来の医療・保障を中心とした「防老」(老後の備え)から、自我実現や社会参加を目的とした「享老」(老後の享受)へとシフトする消費心理および市場動向について解説。中国市場参入を計画する日本企業にとって、参考となる中国シニア市場の今をまとめました。


中国の若者に人気なのはドッグフードならぬ「ヒューマンフード」?「人糧」の魅力とは

中国の若者に人気なのはドッグフードならぬ「ヒューマンフード」?「人糧」の魅力とは

中国の社会人の若者の間で、「人糧」と呼ばれる食事が今、人気を集めています。「ドッグフードの人間版」のような自虐的なニュアンスの名前を持ちながら、忙しい彼らにとって生活の助けになっています。本稿では、この人糧の特徴や魅力について紹介します。


営業やマーケ、経営層まで「POSデータ」を活用。日本ペットフードが構築したデータ体制の裏側

営業やマーケ、経営層まで「POSデータ」を活用。日本ペットフードが構築したデータ体制の裏側

日本ペットフード株式会社はPOSデータの統合ダッシュボード化や、自社サイト上の「販売店検索」機能の構築など、近年は着実にデータ活用の成果を積み上げてきました。営業本部 マーケティング部長の津々樂仁美氏、同部第2課長の堀田千博氏に、その道のりを伺いました。


中国自動車市場は新時代へ~中古車取引量急増で新車販売数に肩を並べる

中国自動車市場は新時代へ~中古車取引量急増で新車販売数に肩を並べる

2026年、中国の自動車市場は歴史的なターニングポイントを迎えました。2026年7月のデータによると、新車と中古車の取引比率が初めて1:1に達しました。この構造的変化の背景にはどのような要因が隠されているのでしょうか。そして、この変化は業界エコシステムの再構築にどのような可能性をもたらすのでしょうか。さらに、中国の中古車市場が直面する新たな機会、課題、そして取り組むべきテーマとは何なのか、この全く新しい領域についてレポートをします。


中国乳製品市場が健康ニーズと共に拡大中

中国乳製品市場が健康ニーズと共に拡大中

中国では、冷蔵牛乳やチーズ、バターなどはもちろん、日本では馴染みのない、常温保存が可能で半年以上鮮度を保つロングライフの牛乳やヨーグルトも親しまれています。基礎的な栄養補給が目的だった乳製品は、消費者のニーズに伴ってより高い付加価値が求められるようになりました。この記事では、現在の中国乳製品市場のトレンドを紹介します。


最新の投稿


【無料レポート】2026年最新!SNSユーザー数ランキング〜わずか4ヶ月で“279万人”獲得の「setlog」、データが明かす次世代SNS台頭と最新の勢力図

【無料レポート】2026年最新!SNSユーザー数ランキング〜わずか4ヶ月で“279万人”獲得の「setlog」、データが明かす次世代SNS台頭と最新の勢力図

SNSは、国内でも多くのサービスが展開されており、日常生活に浸透しつつも次世代アプリの台頭などで勢力図が変化しています。本レポートでは、主要サービス(LINE、YouTube、Instagram、X、TikTokなど)に加え「setlog」や「BeReal.」を含む全30サービスのユーザー数、ユーザー属性、利用のされ方の現状・経年変化などを調査。2026年最新のSNS利用実態をまとめたレポートとなっています。※本レポートは記事のフォームから無料でダウンロードできます。


Gunosy、ニュースの「この先」を予想する新機能「グノシー予想」を提供開始

Gunosy、ニュースの「この先」を予想する新機能「グノシー予想」を提供開始

株式会社Gunosyは、同社が提供する情報キュレーションアプリ「グノシー」において、ニュースの先の展開を読者が予想し、結果とその背景を解説や関連記事で確かめられる機能「グノシー予想」の提供を開始しました。


ヴァリューズ 齋藤ロベルト義晃が 一般社団法人 日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)の「主任研究員」に就任 —「根拠のあるマーケティング」のさらなる発展と実務への応用を牽引

ヴァリューズ 齋藤ロベルト義晃が 一般社団法人 日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)の「主任研究員」に就任 —「根拠のあるマーケティング」のさらなる発展と実務への応用を牽引

インターネット行動ログ分析によるマーケティング調査・コンサルティングサービスを提供する株式会社ヴァリューズ(本社:東京都港区、代表取締役社長:辻本 秀幸、以下「ヴァリューズ」)と一般社団法人日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(代表理事:木田浩理、以下「EBMI」)は、ヴァリューズの齋藤 ロベルト 義晃が、EBMIの「主任研究員」に就任したことをお知らせいたします。


AI前提の組織で人材価値を高めるリサーチキャリア【目標設定編:AI導入で転換点を迎えるリサーチャーの評価指標】|現場のユーザーリサーチ全集

AI前提の組織で人材価値を高めるリサーチキャリア【目標設定編:AI導入で転換点を迎えるリサーチャーの評価指標】|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。10月本稿では、「AI前提の組織で人材価値を高めるリサーチキャリア」と題して、【目標設定編:AI導入で転換点を迎えるリサーチャーの評価指標】を解説します。


年末商戦の買い物で52%が「AIを利用する可能性あり」【Shopify Japan調査】

年末商戦の買い物で52%が「AIを利用する可能性あり」【Shopify Japan調査】

Shopify Japan株式会社は、2026年のホリデーシーズンにおける消費者の購買行動および事業者の動向に関する調査のうち、日本市場の結果を発表しました。日本では消費者2,000人、事業者の経営者・意思決定者500人が回答。ブラックフライデー・サイバーマンデー(BFCM)、クリスマス、年末年始商戦に向けた買い物への姿勢やAI活用、商品情報の整備状況などを調べています。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ