ライオンが行った中国オンラインチャット調査
海の向こうの経済大国、中国。GDPでも世界第2位とグローバル経済を牽引する同国は、アフターコロナでもいち早く復調傾向と見られています。この巨大市場を狙い、中国法人の展開や越境ECなどを伸ばしていきたい国内各社。しかし、中国の生活者の購買行動や嗜好をつかむのに手間取り、中国の生活者に合った商品開発やマーケティングができていない場合も多い状況です。
そんな問題意識のもと、ライオン株式会社ではヴァリューズの中国オンラインチャットインタビュー調査を使用しました。「目的は中国の生活者が何を感じ、どんな購買行動をしているのか知ることだった」とライオン株式会社の高木優さんは話します。
ライオン株式会社 ビジネス開発センター コンシューマーナレッジ マーケットナレッジチームの高木優(たかぎ・ゆう)さん
ライオンで日中両国の市場動向把握や、生活者データの分析を行うリサーチ業務に携わる
プロジェクトではどのような背景や目的のもとに中国の生活者の実態把握を行ったのでしょうか。マーケティングリサーチ&コンサルティングサービスを提供するヴァリューズで、今回の中国オンラインチャットインタビュー調査を主導したリサーチャー・姜茹楠(きょう・じょなん)と高木さんに、プロジェクトの詳細についてお話を聞きました。
課題は「ちょっと聞きたいこと」がすぐに聞けないこと
--今回の中国オンラインチャットインタビュー調査を行った背景や課題感について、あらためて教えてください。
ライオン 高木優さん(以下、高木):既にライオンではいろいろなルートで中国に商品を展開しています。ただ、中国の生活者や文化の習慣には不明瞭な点が多く、どんな商品を売れば効果的なのか分かりませんでした。
そこで中国の生活者の動向、すなわち、どんな商品が好きで、どんな購買チャネルを使っているかなどを知りたいと考えていました。そのために定性調査をおこなって中国の生活者のビビッドな意見を聞き、マーケティング仮説を立てていく必要がありました。
現地でのインタビュー調査を行うことも検討したのですが、これだと中国への渡航費など膨大なコストがかかり、かつ渡航者も数人に限られる。
そこで、中国版MROCのようなオンラインコミュニティで、細かい点までインサイトを聞けないかということを考えました。例えば「商品パッケージの色は赤と金どちらがよいか」のような、いわゆる「ちょっとしたこと」を聞きたい場合は、わざわざ中国に渡航してインタビューをしなくてもいいはずです。
当初は、中国でMROCのような、ちょっと聞きたいことを簡単に聞ける調査ツールを探していましたが、なかなか見つけられていない中で、ヴァリューズさんがMROCのような形式のオンラインチャットインタビュー調査を提案してくれたのです。
ヴァリューズ 姜茹楠(以下、姜):実は最初にライオンさんからご相談をいただいたとき、我々もまず現地のパートナーにMROCのようなツールが提供できないか、問い合わせるところからはじめました。しかし現状、ニーズに応えられるツールはないと分かりました。
株式会社ヴァリューズ 姜茹楠(きょう・じょなん) 中国北京の出身。リサーチャーとして主に中国消費者を対象にしたアンケート調査、SNSやECデータの分析を担当する
姜:そこで、現地にないなら作ってしまおうと(笑)。もともとヴァリューズは現地のパートナーと連携して中国でのアンケート調査プロジェクトも実施してきましたし、対象者を注意深く選定していけば良い結果が出るはず、という考えもありました。
--では、チャットインタビュー調査の立て付けを教えてください。
高木:はい。まずは調査対象者の選定からはじめました。重視した項目としては、既にライオン製品を使っているユーザーに加え、潜在顧客となりそうな方としてオーラルケア商品を買ったことがあったり、越境ECを使ったことがあった方を選びます。調査では対象者選定がもっとも大事だと考えていますので、既存ユーザーとポテンシャルユーザーのバランス設定を慎重に行いましたね。
そうして集めた方々に事前調査としてアンケートを行った上で、オンラインチャットによるデプスインタビューを実施。各回でテーマを設け、全部で8回ヒアリングを行いました。テーマは例えばオーラルケアに関する行動、ハブラシの選び方や使い方、ECモールの選び方や買い物の方法など。
また、最終回では、実験的にオンラインチャットでのグループインタビューも行いました。
オンラインチャットインタビューのイメージ図。姜をはじめとするヴァリューズの中国人リサーチャーがチャットでモニターに質問し、クライアント様に同時通訳する形式
高木:一方、オンラインチャットを行う現場にはライオンの越境事業に関わる部所からメンバーが出席しました。そして対象者からのリアクションを聞き、その都度疑問に思ったことを深堀っていきました。リアルタイムで中国消費者のインサイトをつかみ、中国人のビビッドな意見や行動を把握することができたと感じています。
姜:毎回のオンラインチャットではライオン様にヴァリューズの会議室に来ていただき、モニターにチャット画面を映しながらインタビューを進めました。同じ現場でヒアリングを行えたので、質問の背景を議論して方向性を調整するなどもやりやすく、お互いの見解が深くなったと思います。
高木:そうですね。ヴァリューズさんとは実査の前段階でもオンラインで毎週2時間、徹底的に議論を行いました。こちらから調査設計へのフィードバックや実査の作戦会議もできて、コミュニケーションの円滑さも非常に助かりました。
オンラインチャットの利点は機動力と多様性
--実際にオンラインチャットインタビュー調査を行ってみてどうでしたか?
高木:想定以上に中国消費者のインサイトがつかめました。特に「ちょっと知りたいこと」がすぐ聞ける点がよかったですね。ハミガキの香味はどんなところが好きか、ハブラシの毛の硬さとかはどんなものが好きかなど、細かい嗜好性を深掘れたことは非常に価値があると感じています。
オンラインチャット調査は聞きたいことをすぐに聞けるという機動力と、調査対象者の多様性を担保できるという点が大きなメリットです。あとはもちろん、移動しなくてよく、コストが安い。かつ、結果報告というかたちではなく、チャットインタビュー現場で各部所のキーパーソンと同時一斉の情報共有もできます。ヴァリューズさんとの調査で存分にメリットを感じることができました。
オンラインチャットインタビュー調査の5つの特徴
(ヴァリューズのサービス説明資料より)
--逆に対面のインタビュー調査でないとできないことはあるのでしょうか。
高木:そうですね…。まず、対象者の表情が見られないという点はあると思います。私は海外の方へのインタビュー定性調査も多く経験しましたが、情報の獲得はリアルの方が速いです。実際にものを見せて質問するので、いま何を話しているかが分かりやすいためですね。
だからリアルでの調査はより深い内容を聞きたいときに使います。しかし実は、そこまでじっくりと行う調査でなくてもよい場合の方が多いのです。今回質問したハミガキの香味、ハブラシの毛の硬さ、パッケージの色のように、P/Qテスト的に方向性をちょっと聞きたい場面は非常に多い。その際はオンラインチャット形式の調査がとても適していると思います。
姜:おっしゃるとおりです。細かい質問項目は設計当初もたくさん出ていましたが、チャットインタビューを進めながらもどんどん追加していくことができました。それは多様な部所の方との一斉同時共有によって浮かんできた部分が大きいと思います。
また、より深い対面での調査まで行いたい場合、オンラインチャット調査を対象者選定にも使い、その後オフラインでインタビューをする、という設計も可能だと思います。
--最終回ではオンラインチャットでのグループインタビューを実施したとうかがいました。そこにはどのような意図があったのでしょうか?
高木:一般的にグループインタビューでは、参加者間のシナジーが出てアイデアが生まれやすく、コンセプト開発やデザイン開発につなげやすいという利点があります。しかし、参加者が意見を強く主張されるケースでは、それがテキストだとどうなるか…という懸念がありました。
そこで今回、テスト的な意味合いで実施してみることにしたのです。オンラインチャットでもグループインタビューができれば、今後使える武器がひとつ増えます。当日は対象者を3グループに分けて、別々の方法を試しました。
姜:1グループ目は指名制で発言者のコントロールをしながら、2グループ目は半分コントロール、半分はテーマを与えて自由に話してもらう開放型で。そして3グループ目は完全開放型で実施しましたよね。
高木:実際に行ってみると、3グループ目の自由チャットの際は発言が入り乱れ、中国語のテキストがバサッと送られてくる(笑)。そして会話がどんどん流れていくので、少し難しかったです。結論としては、2グループ目であればうまく行きそうだという感触を得ましたね。
ライオンの他の商品カテゴリにも展開したい
--今後はどのようなリサーチを進めるのか、展望を教えていただけますか。
高木:まずは今回調査した商品以外の他のカテゴリについても、中国の生活者の実態や行動特性を把握していきたいという思いがあります。テーマはどんどん社内から上がってきていますし、ニーズも増えていくと思いますね。
今後、海外現地法人のマーケティング担当者との連携も図りながら「ちょっと聞きたい」を積み重ねて実態をリアルに知り、より中国の生活者に即した越境ECのマーケティング・プロモーション施策、商品アイデアづくりに活用させていきたいです。
--では最後に、今後ヴァリューズに期待することもお聞かせください。
高木:中国オンラインチャット調査は本当に使えるものなので、ユーザーを増やしてまさに国内のMROCのようなかたちにしてほしいですね。他の国内企業でも中国向けマーケティングのニーズは大きいはずですし、システム開発を進めてほしいです。
姜:ありがとうございます! 今回は対象者を集めて一定期間内でチャットインタビューを実施するという比較的手軽なものでしたが、パネルも拡大して開発を進められたらと思います。
高木:バイリンガルのリサーチャーで、姜さんのように前面に出ていただける方はなかなかいないと感じています。姜さんだけでなくヴァリューズさんはレスや間接業務も含め、決定的にすべてが速い。そこが我々にとって非常にありがたいところです。
また、ヴァリューズさんはすべて窓口の方が同じなのも大きいです。課題感を把握していただいている担当の方から、かゆいところに手が届く提案をしていただけます。
姜:そう言っていただけてありがたいです!今回のライオン様とのプロジェクトを通して、国内のオーラル市場や習慣も含めて理解が深まりました。今後もより事業に貢献していけるよう頑張ります。
高木:今後ともよろしくお願いします。
--本日はライオン様の中国の生活者のオンラインチャット調査についてお話しいただき、大変貴重な機会となりました。ありがとうございました!
取材協力:ライオン株式会社
訪日中国人のインバウンド、越境ECに。中国人の消費意識と実態、ECモールやWeb広告の現状、Web行動の実態について把握できるサービスです。
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。