アマナのデータ活用推進組織「ADC」を取材
写真に始まりTVCM映像やWeb動画の制作、ストックフォト販売など、ビジュアルコミュニケーションを切り口にさまざまなクリエイティブサービスを提供する1979年創業のアマナ。「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする。」を経営理念に、時代の半歩先を行くクリエイティブカンパニーとして企画立案から制作まで、ビジュアル領域に於けるさまざまなコミュニケーションプランニングを手がけ、業界を牽引しています。
ビジュアルというクリエイティブ領域が主軸の同社では、2017年にデータ活用推進の組織「Amana Data Center(ADC)」を立ち上げました。データ基盤システムを独自に構築する一方、データ分析プラットフォーム「Tableau(タブロー)」も活用しながら事業推進を行っています。
ビジュアルコミュニケーションのエキスパートである同社の強みを存分に活かしたデータ活用の形とは一体どのようなものなのでしょうか。今回は、ADCのデータ活用責任者である舘充範(たて・みつのり)さん、同じくADCの石井洋平(いしい・ようへい)さんに加え、株式会社セールスフォース・ドットコム Tableau Softwareの杉井健人(すぎい・けんと)さんの3者にオンラインで取材。インタビュアーは、本メディア・マナミナを運営するヴァリューズ社の執行役員 子安亜紀子(こやす・あきこ)が務めます。
アマナのデータ組織の仕組み、事業部へのデータ活用推進の方法や、画像認識の活用も視野に入れた未来について、様々な角度から掘り下げました。
人・データ基盤・縦横連携の3本柱とは
ヴァリューズ 子安亜紀子(以下、子安):ヴァリューズではデータ分析によるマーケティング支援事業を主としているのですが、ここ2,3年、クライアント様からデータ活用組織の構築についてご相談をお受けする機会が多くなってきています。
ただ、データ組織においては課題を抱える企業も多く、組織を作ってもデータ活用の仕組みが全社に浸透しないといった悩みも多いと感じます。そこでまずお聞きしたいのですが、アマナさんがTableauを導入されたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
アマナ 舘充範さん(以下、舘):Tableau自体はADCを立ち上げる以前の2013年ごろから導入していました。まだTableauが現在ほどまで有名になる前だったと思います。
アマナは、お客様のコンテンツパートナーとして、コンテンツの企画制作や広告のビジュアル制作、TVCMやWeb、ライフスタイルコンテンツ、ストックフォト販売など様々なコミュニケーション領域でソリューションを提供しており、現在では年間約2万件と膨大な数の案件を扱っています。そこで、案件数や売上高といったデータを分かりやすく可視化し、販売管理を行っていくためにTableauを導入しました。
子安:なるほど。販売管理のためのデータ活用、ということですね。
舘:はい。しかし導入当初は事業部間でデータ活用の足並みがそろっていない状況でした。当時は各事業部に所属するデータ推進担当者が、各々で販売管理データベースにアクセスし、売上チャートを作るような状態でした。また、アウトプットも手作り感が満載でした。
そこで2017年に各事業部のデータ活用者を一同に会したデータ組織としてADCを立ち上げ、全社統一でのデータ活用に踏み切りました。
オンライン対談の様子
【左上】株式会社ヴァリューズ 執行役員 子安亜紀子
【右上】株式会社セールスフォース・ドットコム Tableau Software コーポレート営業本部 第二営業部 部長 杉井健人さん
【左下】株式会社アマナ ADC Division推進室マネジャー 舘充範さん
【右下】株式会社アマナ ADC 兼 ICTソリューションテクノロジー部マネジャー 石井洋平さん
子安:では、アマナさんのデータ活用の仕組みとは具体的にどのような形なのでしょうか。
舘:アマナでは人の組織であるADCに加えて、様々な業務のプラットフォームであるACP(Amana Creative Platform)と、マネジメントシステムであるVHL(Vertical & Horizontal Line management system)の3つをセットにしたシステムを採用しています。
子安:ACPとVHL、ですか。
舘:次の簡単なスライドで示しますね。まず、ACPとはデータ基盤システムのことを指しています。
ACPを構成するアプリケーション群の概念図。全社共通のデータ基盤システムを使用することで、Tableauによるデータ可視化もスムーズになる
舘:販売管理とワークフローを併せ持ったシステムである「compass」を背骨として、協力会社とやり取りするコミュニケーションシステム「bridge」やコンテンツ管理システム「shelf」、労働時間のセルフタイムマネジメントシステム「sketch」、ナレッジ共有システム「akb」などがあります。
これらプラットフォームと人の組織であるADCをかけ合わせて、データ推進を活性化させるという考え方ですね。
子安:データ基盤システムであるACPを、人の組織のADCが活用していく、と。
舘:さらにVHLとは、縦横連携のマネジメントシステムを指しています。アマナには縦を営業軸、横をクリエイティブサービス軸として、計10カテゴリ36ディビジョンの事業部があります。
ADC所属のメンバーは、それら事業部の執行責任者やマネジャーとともに頻繁に顔を突き合わせて事業の進捗を追っています。ADCは、36ディビジョンの事業責任者の身近にいるパートナーとして担当する事業部と共に、縦横の事業部のクロスポイントを活性化させることによって、クライアントへのソリューション価値を最大化する機能を担っているのです。
子安:なるほど…! 人の組織であるADCが、共通のデータ基盤ACPを活用しつつ、VHL=縦横連携を担って事業推進を行う。練り込まれた美しい枠組みですね。
「議論する文化」がデータ活用に拍車をかける
株式会社セールスフォース・ドットコム Tableau Software 杉井健人さん(以下、杉井):Tableauはアマナさんと長くお付き合いさせていただいているので、データ組織の強さがよく分かります。ポイントは、ADCのメンバーの方が頻繁にコミュニケーションを取り、連携を活性化させている点だと個人的に感じています。
ADCのようなCoE組織(事業推進組織=Center of Excellence)には、代表的な3パターンがあります。それは次に示すように①集中型、②分散型、③セルフ型です。
杉井:アマナさんのADCは真ん中の分散型の形に近いかなと思っています。データによる事業推進の組織を作り、各事業部に担当者を配置する仕組み。メリットとしては、事業に近いところにデータ担当者がいるため改善のスピードが速い点や現場のビジネスニーズに合った支援を提供できるという点です。
一方で、事業部ごとの担当者によるCoE組織への情報共有がうまくいかないと、全社的に足並みを揃えるのが難しくなり各部門で重複した作業がされるリスクや、標準化が進みづらいというデメリットもあります。
アマナさんの場合は、そのデメリットをユーザーコミュニティにおけるコミュニケーション量でカバーされていると感じていますね。組織内の人数が多いにも関わらず、勉強会を定期的に開催し、しっかりとメンバーが参加しているのが素晴らしいと思います。
舘:コミュニケーションという意味では、アマナの事業ではプロデューサーとクリエイターが喧々諤々と議論しながら、より良いアウトプットを出しています。チーム力の強さを文化にしているところもあり、コミュニケーションは普段から多く行われていると思いますね。
アマナ 石井洋平さん(以下、石井): あとはやはり、ADCの立ち上げがデータ活用の契機となりました。データ組織のよくある失敗例として、IT主導でツールを導入したが現場が分からず使わない、あるいは現場主導でITが下請けのようになってしまうから良いものができない、などがあると思います。
ADCを立ち上げてからは、普段から売上高や受注数などのレポーティング業務を行っていたメンバーが集まって「DataCamp」という社内ユーザー会のようなコミュニティが出来ました。仲間と互いにデータ利活用における課題感を共有しながら、Tableauを使って解決に向かっていける、という場が出来たことが良かったなと思いますね。
また、データの信頼性も重要です。手作業の煩雑さの解消や、属人的な集計ロジックによる数字ずれなどが発生しないように、データ基盤構築とデータソースの一元管理を並行して行ったことも、アプローチとして良かった点かと思います。ADCのキラーコンテンツは、このチャートのようなTableauダッシュボードなのですが、現在多くの事業部で使われています。
Tableauで可視化されたチャートのダッシュボードイメージ図。ADC立ち上げのタイミングで舘さんが作成したという
石井:このダッシュボードでは月次や年次の売上高や案件数、クライアント数などの指標が一覧化されています。全事業部が共通で使うデータをTableauで分かりやすく可視化することで、データを見る文化がついてきたかなと思っていますね。
クリエイティブ領域にテクノロジーを融合
子安:ダッシュボードがとても見やすく、これぞビジュアルコミュニケーションだと感動しました…! ぜひ弊社でもお手本にして取り入れてみたいと思いました。では、今後はどのようなデータ活用に取り組んでいくのか教えていただけますか。
舘:現在、個々のプロデューサーの売上・利益率、その傾向や異常値、また個別案件ごとに関わったスタッフの労働時間から生産性を簡単に把握できるようなダッシュボードの制作に取り組んでいます。その一環として例えば、それぞれの案件で制作したビジュアルのアウトプットと数値情報を紐付け、ナレッジを共有できる仕組みを作っていきたいと考えていますね。
現在制作中の、個別案件・プロデューサーごとの生産性が把握できるダッシュボードのイメージ図
石井:また、商談の段階でクライアントから「こんなイメージがほしい」と言われる場合に、過去案件の膨大な制作物と画像認識技術を使ってすり合わせができるシステムも試作段階です。経験の浅い若手や、中途入社して間もないプロデューサーのスキルアップとして役に立つツールにもなるでしょうし、今後はもっとデータやテクノロジーとビジュアルを結びつけるチャレンジをしていくつもりです。
子安:お話しを聞いていると、最近よく言われているDXのような、ビジネスプロセス全体をデータで変えていく取り組みを目指されているのだなと感じました。
舘:クリエイティブの作業は労働力に対する依存度が高くなりがちで、どう変えていくかがこれからますます重要になります。人材確保も難しくなる中では、人手に頼る労働に依存してばかりではいけない。AIなどのテクノロジーをビジネスの中につなげていくのが今後の課題ですね。
子安:では最後に、今後データ分析の組織づくりを進めていこうとされている方へのメッセージをお願いできますでしょうか。
舘:私たちもまだまだこれからなのですが、まずはできるところからデータを可視化していくのが良いのではないでしょうか。データを扱うには高度なスキルが必要に見え、何においても難しく表現する場合が多いような気がします。しかし、ビジュアライズではいかに伝わるように作るかがとても重要です。
そしてさらに重要なのは、小さくてもアクションを起こしていくこと。リアルなミーティングの場での意見交換でも良いと思いますし、データ分析に加えて人とのやり取りを生まなければ何も変わりません。リアルな動きにどうつなげていくかが肝だと思いますね。
石井:私から別な観点でお伝えすると、Tableauさんはユーザーコミュニティがとても充実しています。業界や職種の垣根を超えたつながりが沢山生まれました。データ担当者はとにかくそうしたコミュニティに顔を出して刺激を受け、社内にフィードバックするようにすれば、モチベーションを高く持ち続けていけるのではないでしょうか。
杉井:ありがとうございます。アマナさんのデータ組織のお話しをお聞きし、信頼されるデータを提供すること、そしてデータ担当者間のコミュニティを作ることの2つの柱が重要だとあらためて感じました。
子安:また、見やすいダッシュボードの重要性も再確認しました。アマナさんの強みである「”伝える”ではなく”伝わる”」ビジュアルコミュニケーションが、データ活用の浸透に欠かせないのですね。本日は貴重なお話しをありがとうございました!
取材協力:株式会社アマナ、Tableau Software
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▼ヴァリューズではTableauの導入支援も行っております。BIツールの導入でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。