動物図鑑
動物や昆虫、恐竜、植物、昆虫、交通、宇宙など様々な図鑑を子供の頃、ボロボロになるまで、毎日のように眺めて楽しんでいました。特に、動物図鑑が好きで両親に動物園や水族館へ連れて行けとねだったのを思い出します。動物図鑑で多種多様な動物や生物を知り、動物園や水族館で確認したいためです。動物達の特徴を面白がり、家族の前で動物を真似て、ふざける騒がしい子供の典型でした。今でも両親にはいくら感謝しても足りません。
図鑑で最も印象に残っているのは絶滅した動物達です。マダガスカル沖のモーリシャス島に生息していたドードーという絶滅した鳥類は多くの動物図鑑で想像された姿をイラストや挿絵で紹介されていたのでよく覚えています。隔絶した孤島の環境に適応し、特に天敵も存在せず生息していたドードーは警戒心が薄く、空を飛べず、地上に巣を作っていたため、侵入してきた人間の食糧として乱獲され、人間が持ち込んだ犬や豚、ネズミなどに捕食され、存在が確認されてから83年で絶滅しました。典型的な絶滅種といえます。他にも図鑑に掲載された絶滅種で有名な動物は、ニュージーランドに生息した地球の歴史上最も背の高い鳥類といわれるジャイアントモアや山の神とも恐れられたニホンオオカミ、優美な羽のため乱獲が進んだホオダレムクドリなどが紹介され、繰り返し読みました。いずれも人間が自然界に立ち入り絶滅。絶滅した動物達の悲劇と哀切はこれからも忘れることはできません。
絶滅危惧種
絶滅の危機に瀕している絶滅危惧種(endangered species)の生物種は、人や動植物が世界を行き交い始めた17世紀の大航海時代から加速度的に増加しました。自然界での淘汰もありますが、人間の活動による環境破壊が主たる要因で現在は「第6の大量絶滅期」と呼ばれています。IUCN(国際自然保護連合)は2022年7月21日時点で全世界の41,459種以上が絶滅危惧種に該当していると発表しています。絶滅危惧種はIUCNが全世界の種についてレッドリストと名付けられたリストで管理し、絶滅の危険度をランク付けしています。日本では環境省が国内の種の生存状況を調べた日本版レッドリストを作成し、管理しています。
誰もが知っている動物で世界的な絶滅危惧種は、チョウザメ、センザンコウ、レッサーパンダ、ワオキツネザル、ホッキョクグマ、アジアゾウ、シロサイ、チンパンジー、モウコノウマ、マレーバク、ジャイアントパンダ、ソデグロヅル、エジプトリクガメ、クロマグロなど多数です。日本に生息する絶滅危惧種はイリオモテヤマネコ、エゾナキウサギ、ラッコ、ジュゴン、トド、コウノトリ、トキ、ヤンバルクイナ、ハヤブサなどが挙げられます。
地球温暖化や森林の伐採、生息地域の汚染、密漁・乱獲、外来種の持ち込みなど人間による自然界への侵入が種の絶滅を招き、生態系そのものを変えています。人間の生活もビジネスも生態系が正常に成立しているからこそ、その恩恵を享受できます。地球上の生態系を持続可能にすることは地球及び人類の生存にとっての急務であり、取り組みは必須です。
感染症リスク
新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大は、その感染源がしきりに話題となりました。人間の活動範囲の拡大と自然界への遠慮ない立ち入り、容赦ない乱獲などの結果、生物多様性が一段と損なわれ、感染症の脅威が増大したわけです。特に土地活用の変化や著しい都市化の進展、無秩序な開発により生息地が次々と破壊され減少し、病原体を媒介するネズミやダニなどあるいはウイルスの病原体を持つコウモリなどの生物達の生息域が人里へと移動しました。そこには、地球温暖化による環境の変化も大きな要因と考えられます。
豊かな生物多様性により、人獣共通感染症のリスクが薄まる「希釈効果」の実証研究が行われています。アフリカでの調査では大型哺乳類が減るとネズミが増え、ペスト菌の媒介とするノミも同じく増加することが証明されています。日本でも「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」はマダニの媒介が原因となり、ウイルスが野生の動物の間で交差し、人間にも感染する事例があります。シカが一定数以上に増殖する地域ではマダニが急激に増加する傾向にあり、シカの生息数を統括・管理することでマダニの増加を防ぎ、感染リスクを低下できると推測されています。残念ながら、人類は近い将来も新しい感染症に脅かされ続ける可能性は高いと予測されます。人命や健康を守るためにも生物多様性の保全は重要なテーマです。そのための対策と実行に世界はスピード感を持ち、足並みを揃えて対処する必要があります。
ネイチャーポジティブと企業経営
人間は経済活動において、自然の恵みを活用してきました。製造業の多くは地下水などの水資源に依存してきましたし、食品・医薬品、化学、建築などの産業では動植物を利用してきました。最近でも生物の形や機能などを学習し、応用する技術としてバイオミメティクス(生物模倣)が注目されています。ルネッサンスを代表する芸術家であり万能の天才、レオナルド・ダ・ビンチは鳥から飛行機を想像しました。トンネル工事で使用されるシールド工法はフナクイムシが木質に穴を開けることをヒントに生まれました。最近では海を高速で泳ぐサメのサメ肌の微細構造を模倣し、物体の表面に周期的で微細な溝を施し、水や空気抵抗を減らし、燃料効率などを向上させる新技術リブレット加工なども導入されています。
生態系は生物同士の絶妙なバランス(ルース・カップリング)で成り立ち、一度崩れると回復させるのは困難です。自然や生物多様性の損失に歯止めをかけ、むしろ回復させる考え方が「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」です。日本のビジネス界での認知度はまだまだ低いですが、世界では新たな潮流となっています。課題はビジネス活動が自然に与えるポジティブもしくはネガティブな影響を可視化することです。2021年に発足したTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は2023年9月に最終的なフレームワークとリスク情報を開示する予定で、自然や生物多様性についての評価・分析の手法も開発が進むと予想されます。一方、ネイチャーポジティブによる雇用の創出といった経済効果も見込まれます。
生物多様性の保全や回復に企業が真摯に取り組むことは、経営リスクを減らします。同時に、企業もまたある意味で生き物なのです。
年々注目度が増し、避けては通れなくなりつつある「SDGs」。この目標達成に即した企業活動として、現在注目されている「サーキュラーエコノミー(=循環型経済)」。企業の事業展開において、廃棄物も汚染物も出さないという理念に基づき、収益を創造してゆくこの事業モデルの必要性、そして現代における「再生・再利用」への問題に関する示唆も含め、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。