スピーカー紹介
2021年の調査から見えてきた新トレンド
■実例で解説!3つの新テーマ
株式会社ヴァリューズ 海野秋生(以下、海野):はじめに、ヴァリューズが2021年に発表した80本以上の自主調査レポートから、特に反響が大きかった3つをご紹介します。
ヴァリューズでは250万人規模のモニター会員のウェブ行動ログを取得し、どんな人が、どんな検索キーワードで、どんなウェブサイトを、どれぐらい見たのかを分析することができます。そこから見えるトレンドを、「業界」「トレンド」「消費者理解」「海外市場」の4つのテーマで発表しています。
①【消費者理解】 美容クラスター調査(男性編)
1つ目は、男性の美容に対する価値観を「年代」×「美容にかける費用」で6分類したクラスター調査です。よく見るYouTubeチャンネルやAmazonのビューティーカテゴリを分析し、クラスターごとに特徴をまとめました。男性の美容については、女性に比べると調査数が少ないことから反響があったと考えています。
「男性美容クラスター調査」レポート
②【業界】 植物性食品、大豆ミートに関する調査
2つ目は、大豆ミートや植物性ミルク等、植物性食品に関する調査です。昨年1月に発表後、長期間にわたるダウンロードがありました。拡大市場への関心の高まりが理由ではないでしょうか。植物性食品の認知度に対するアンケート調査では、大豆ミートの認知度が45%。女性の方が男性に比べて認知度が高く、女性の関心の高さが分かります。
③【トレンド】 夏の旅行トレンド調査2021
3つ目は、夏の期間である6〜9月をどう過ごすか、行動変化、意識変化に関する定点調査です。コロナ禍での旅行に対する意識、コロナ前後での意識変化等、定点調査ならではの分析に反響があったと考えています。
例えば旅行先選びの重視点は、2020年から2021年にかけて、温泉等、宿泊先でゆっくり過ごしたい人が減り、マリンスポーツ等、アクティブに過ごしたい人が増えています。今年は前年の反動で「動きたい」と思う人が増えたのではと推測しています。
またウェブログは定点的なリサーチに向いているデータです。「旅行」の検索ユーザー数の推移をみると、コロナ影響前である2019年の夏とコロナ後の2021年の夏では、検索者数が半分ぐらいに減っていることが分かります。つまり2020年の夏よりも2021年の方が、インパクトが大きかった。ウェブログは、こういう使い方もできます。
「夏の旅行トレンド調査2021」レポート
このようにヴァリューズでは、人の気持ちに関する調査はアンケート調査で深掘りを、オンライン上の行動はウェブログで分析し、掛け合わせで分析内容を深めています。
■リサーチが果たす役割とは
「リサーチは世相を映す鏡」と言えます。2021年は植物性食品や男性美容など、SDGsに関するテーマが盛り上がった1年でした。反響から、新しいトレンドの数だけ「知りたい」という気持ちがあることが分かります。ヴァリューズの自主調査では「ユーザー属性」「トレンドは続くか、一過性か」「アップセル、クロスセルが見込めるトレンドか」を分かる形でまとめています。
また夏のトレンド調査でも分かるように、定点調査の価値が向上したことも2021年の特徴の一つでした。コロナ前後をみるプレポスト調査の役割も果たすようになり、定点調査を見直す傾向があります。
本日ご紹介した以外にも、マナミナでは多くの自主調査レポートを掲載していますので、ぜひご覧ください。
最新の調査レポートや過去に反響が大きかった分析レポートをはじめ、ヴァリューズのサービス資料を無料でダウンロードできます。
2021年のリサーチ・トレンドと2022年の展望
■2021年、象徴的な新サービスやブレイクテーマ
菅原大介さん(以下、菅原):続いて私から、2021年のトレンド情報をお伝えします。
①インタビューサービスの群雄割拠
1つ目は、インタビューマッチングのサービスが急増したことです。2021年は、短期間・低価格で利用できるサービスの開発が進んだ1年でした。アンケート調査は自分達で行うことが進んできましたが、インタビュー調査もリクルーティングの部分を解消するDIY型のサービスがいくつも出ています。
スライドでは、不動産ポータルのホームズを運営する株式会社LIFULLが新規事業として手掛ける「uniiリサーチ」、「トリマ/torima」や「ゼロン/Zerone」等をご紹介します。
インタビューサービスの群雄割拠
これらのサービスでは「こういう条件で調査をしたい」という設定を付けた後、サービス側で募集を呼びかけて、1人あたり2,000〜3,000円の相場でインタビューを取ることができます。今まで内製型というと、社員の家族にインタビューをして乗り切る企業が多かったのですが、広く一般の人にリクルーティングをすることができます。
海野:インタビュー調査をしたい会社の方にとっては、嬉しいサービスだと思います。ただ簡単にできる一方で、スクリーニングやモニタリングの質が不安な方もいるかと。お勧めの利用方法を教えていただけませんか。
菅原:リーンな企画開発のシーンが当てはまるのではないでしょうか。たとえば、UXリサーチのように、アプリやサイトのリリースに対する意見を求める場合等、相手に対して、何を聞くか、何に活用するか、目的と出口がはっきりしている時にクイックに行うことができると思います。
海野:コロナ禍はインタビューサービスの在り様を変えたと感じています。今後オンラインインタビューがどんな風に変わっていくのか、菅原さんが考える未来予想図をお聞きできませんか。
菅原:オンラインサービス関連でいうと、最近インスタグラムを調査で使うことに注力しています。私が書いた記事の中で、日記調査、写真調査の代わりにインスタグラムを使うことを紹介したところ、大きな反響をいただきました。
今は自分が気になるテーマをハッシュタグで検索し、画像を見て、どういう要素がそこにあるのかを調べていますが、ある程度、協力者を募ることができれば、投稿された背景や動機を深掘ることができるのではないかと。現在、大々的にインスタグラムと組み合わせて調査設計するサービスが無いので、私自身、深められるよう研究をしているところです。
中長期では、こういったインスタグラムとの連動性に注目しています。
②インサイトテーマの復興
菅原:2つ目は「インサイト」のテーマがブレイクし、ユーザーリサーチやインサイト関連の書籍出版、セミナーが数多く行われたことです。
インサイトテーマの復興
『「心」が分かるとモノが売れる』の著者である鹿毛さんは、エステーの宣伝を担当されています。「消臭力」が代表的な事例ですが、本の中でインサイトを掴むと大きな反響が得られることが紹介されています。インタビューに代表される定性的な調査手法や、UXリサーチのような定性的なモノの見方が強まったと感じます。
タイトルに「復興」と付けた理由は、マーケティングを担当する人にとってはインサイト自体珍しくはなく、前に流行ったことがあるテーマだからです。また今、求められていて今後は定着していくという印象です。
海野:改めて復興してきた背景は何でしょうか。
菅原:主には成功事例が浸透したことだと思います。鹿毛さんのエステーの事例のように「インサイトを捉えて成功した」ことが認識されるようになり、やってみようかなと思う人が増えたのではないかと。
加えて、ここ数年はビッグデータへの対応が企業活動の主になっていて、定量調査がかなり進んだことがあります。デジタルマーケティングのような定量調査をやり込んで、この先何をやったら更にドライブにかけられるか考えた際、定性調査をあまりやれていない、という認識になったのかなと。定性調査を使って、新しいことを考えたり、独自性のあるサービスを目指したり、という動きになっていると思います。
これらが上手く絡まってきたことが、2021から2022年の流れと考えています。
③ソリューション型プランの流行
菅原:3つ目は、調査サービスが特化型プラン・パック志向になったことです。2021年にリリースされたものを中心に事例をご紹介します。
ソリューション型プランの流行
真ん中上は、昨年12月に発表された「サーベイPRパック」です。広報で使える調査のパックサービスで、bizhike(ビズハイク)とセルフ型アンケートツールのFreeasy(フリージー)がタッグを組みました。調査リリースでは、ユーザーや消費者、生活者にアンケートを取り、データにまとめて発信する、という流れですが、それを外注できるサービスになります。
背景としては、一般的な依頼主から見た際、色々な調査会社が様々なサービスを持っているものの、違いが分かりづらいことがあります。そのため調査メニューによって、サービスの差別化を試みる流れが加速しました。調査会社が、ブランド研究、PR、広告領域等、強みを発信することで、依頼主は自社に足りない部分をサービスと提携して補うことができる。そういった流れが強まっていると思います。
④調査手法の是非を問う議論
菅原:後の2つは簡単にご紹介をします。まずは、昨年10月に出た「都道府県の魅力度ランキング」の調査が話題になったことです。調査に関するニュースはほとんど話題になりませんが、テレビで取り上げられる程、一般の人の関心が高まったニュースになりました。
調査手法の是非を問う議論
大事な観点は、データの集計方法に注目が集まったことです。また下位のランキングだった群馬県知事が会見をしたことで、44位まで公表する必要があるのか、ということも話題になりました。
ニュース自体の良し悪しはさておき、いいなと思った点は、この調査会社が「私達はこういう方法で集計し、こういう意図でランキング公表に取り組んでいる」と、しっかり返答されていることです。調査や広報の方法について、自社の広報体制、経営体制の中で選択し、判断することが重要だと感じました。従来型の職種では、リスク広報や法務の分野に近く、今後そういった観点の調査設計が求められそうです。
⑤ウェビナーの増加・多様化
菅原:最後はウェビナーの増加、多様化です。
ウェビナーの増加・多様化
今までのマーケティング・リサーチのセミナーは、ザ・定性調査、ザ・定量調査をリサーチャーの卵のような人に、2日間かけてしっかり教育するようなものが主でした。でも今は調査会社、支援会社が総合化していく形で、いろんな調査領域や調査手法を取り扱い始めています。セミナーを行うことで、総合化したサービスをそれぞれ際立たせ、紹介の機会を増やしているという傾向が見られます。
海野:本日のセミナーもまさに、ですね。リサーチの裾野が広がっている気がします。
■2022年に求められるスキルや人材像
菅原:それでは最後に、2022年の展望についてお話をします。各サービスやメニューに関しては今までの中でお話ししたので、ここでは人材面について占ってみたいと思います。今日は特に3つ目の「データ統合活用人材の登用」についてご紹介しますね。
2022年展望予測(リサーチ人材)
具体的には、データセットの面から、CMO、マーケティング部長を支える人材が重要になってくるのではないかと考えています。今のCMOの仕事は非常に幅が広い。メインはマーケティング活動ですが、最近のデジタルマーケティングだけでも一大領域です。更には、自社のブランドの組み立てや、宣伝の展開方法等、それぞれ大きい領域を抱えるようになっています。
そしてリサーチ分野までとなれば、優先度の関係でなかなか上ってこないうえ、リサーチが専門的な分野になっているため、誰かがやるというより、CMOやマーケティング部長本人が兼ねるケースが多くあります。
そこで、提案やコーディネートから推進までできるデータマネージャーのような人が必要になり、その役割が強化されると考えています。既存の分野では、リサーチマネージャーがステップアップする領域だったり、CMOに近いスペシャリストが連携を広げる活動だったり、こういったデータ統合人材が必要になってくるのかなと推測しています。
海野:人材については色々なスキルが必要だと感じており、各社の困っていらっしゃることから提案活動を進めさせていただいています。
ヴァリューズの特徴としては、ビッグデータの扱いがあるので、データ取り回しとマーケティングの融合に長けている企業です。色々な人材がいますので、お困りの際は、ぜひご相談いただければと思っています。
菅原さん、本日はありがとうございました。
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リサーチャー菅原大介さんと考える、2021年の象徴的なリサーチ・トレンドと2022年の潮流
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#リサーチハックで振り返る、リサーチのトレンド2021年(菅原大介さん寄稿)
https://manamina.valuesccg.com/articles/1603リサーチャーの菅原大介さんが、2021年の象徴となる調査テーマやサービス等、調査業界のトピックスを振り返ります。2021年はインタビューサービスの群雄割拠やユーザーインサイトテーマの復興など、数多くの注目トピックスがありました。ぜひこの機会にリサーチの現状をまとめ、今後につなげてみてください。
大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。