2016年9月に行われたパリモーターショー2016で、メルセデス・ベンツが中長期戦略として掲げた「CASE(ケース)」。今では自動車業界で広く用いられるようになったこの造語は、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)という方向性を表す4つの頭文字から来ています。
「Connected」を実現する車はコネクテッドカー(つながるクルマ)といわれています。富士経済の「コネクテッドカー関連の世界市場調査」では、2021年のコネクテッドカーの販売台数は前年比22.2%増の4,020万台になると予想されていました。近年の半導体不足の逆風の中でも販売台数が増加していることから、各自動車メーカーの「Connected」への投資強化が伺えます。
そんな中、特にスマートフォンとクルマの連携はここ数年でかなり進んでいます。日本の自動車メーカー各社による「ドライバーとクルマをつなぐアプリ」のリリースは2017年以降に相次ぎ、その後も機能やUXのアップデートが繰り返されています。
自動車メーカーはこれらのアプリを通して、ユーザーの生活の中に自然なタッチポイントをつくることができます。ブランドロイヤルティ向上のための重要なメディアとなるだけでなく、直接ユーザーに付加価値のあるサービスを提供できる貴重なチャネルにもなるでしょう。そこで今回は、自動車メーカーの公式アプリを、日本国内のユーザー数ランキングで調査しました。
自動車メーカー公式アプリのユーザー数ランキングは?
eMark+を用いて推定した各自動車メーカーの公式アプリの利用ユーザー数をもとに、Top20のランキングを作成しました。
「eMark+」で抽出した自動車メーカー公式アプリの利用ユーザー数ランキング
(集計期間:2021年12月)
1位はホンダの「Honda Total Care」で、自分の車に関する情報をまとめて管理したり、ホンダからのお知らせを確認できる会員専用アプリ。ランキング内で唯一の月間100万ユーザー超えのアプリとなっており、利用者の多さがうかがえます。
続いて2位はトヨタの「MyTOYOYA」でした。
「MyTOYOTA」はトヨタのコネクティッドサービス「T-Connect」契約者向けのアプリです。ベースとなる機能は「メンテナンス機能」。燃料の残量や走行距離といったクルマの状態を確認できたり、安全運転とエコ運転の2つの視点からドライブ診断をしてくれたりします。
また、3位にはスバルのオーナー専用アプリ「マイスバル」が月間約37万ユーザーでランクイン。車メーカーが提供するアプリとしては、ホンダ、トヨタ、スバルの3社が上位という結果が分かりました。
「MyTOYOTA」ユーザーの特徴とは
ここからは、国内シェアで50%以上(2020年の登録車販売台数実績)と市場を圧倒するトヨタについて、アプリ「MyTOYOTA」のユーザーを詳しく分析してみましょう。
まずは、性別のユーザー比率を見てみます。
「MyTOYOTA」の性別ユーザー割合
(分析ツール:eMark+、分析期間:2021年1月~2021年12月、対象デバイス:スマートフォン)
MyTOYOTAのユーザーの性別比は、男性が85.2%、女性が14.8%でした。8割強のユーザーが男性のようです。内閣府によると、運転免許保有者の男女比率は男性が約55%、女性が約45%となっています。このことからも、MyTOYOTAは男性比率が非常に高いアプリであることが分かります。
株式会社ビデオリサーチが10,500名のドライバーを対象に行ったアンケート調査によると、「クルマを運転することが好きだ」「自分の乗っている車が自慢である」という質問に「はい」と答えた人の割合は男性の方が高くなっています。自身が所有するクルマを「しっかり管理・メンテナンスしたい」「もっと使いこなしたい」という気持ちは男性の方が強い傾向がありそうです。
(参考:「クルマの運転が好き」という人|株式会社ビデオリサーチ)
(参考:第3節 安全運転の確保|平成28年交通安全白書(全文)|内閣府)
次に、年代別のユーザー比率を見てみましょう。
「MyTOYOTA」の年代別ユーザー割合
(分析ツール:eMark+、分析期間:2021年1月~2021年12月、対象デバイス:スマートフォン)
年代別の観点では、40代以上の割合が73.6%と、中高年代層に広く利用されていることがわかります。
内閣府によると、運転免許保有者の年代比率は、20代が13.4%、30代が16.5%、40代が21.5%、50代が18.0%、60代以上が30.6%のようです。このことからも、MyTOYOYAは40代〜50代の方に特徴的に利用されていることが分かります。
(参考:第3節 安全運転の確保|平成28年交通安全白書(全文)|内閣府)
次に、子どもがいる/いない観点でユーザーの構成比をみてみます。
「MyTOYOTA」の子ども有無別ユーザー割合
(分析ツール:eMark+、分析期間:2021年1月~2021年12月、対象デバイス:スマートフォン)
子どもがいる/いないの観点では、子どもがいるユーザーの割合が61.3%と過半数を占めています。中高年代層の利用率が高いことからも伺える傾向です。
続いて、個人年収別のユーザー比率を見てみましょう。
「MyTOYOTA」の個人年収別ユーザー割合
(分析ツール:eMark+、分析期間:2021年1月~2021年12月、対象デバイス:スマートフォン)
MyTOYOTAのユーザーの特徴として、約3割(29.7%)が高所得層(個人年収700万超)であることが挙げられます。
MyTOYOTAはアプリの仕様上、ユーザーはトヨタの自動車を保有している人に限られます。平均と比べて所得者層の割合はどうなっているのでしょうか。国税庁が公表している給与階級別の分布を日本の平均的な構成比として捉えて、MyTOYOTAのユーザーの構成比と比較してみましょう。
給与会計別分布(国税庁 令和2年分民間給与実態統計調査より作成)
日本の平均では、個人年収が700万円以上なのは全体の13.6%です。MyTOYOTAは全体と比べると給与水準の高いユーザーに特に好まれているのではないでしょうか。
(参考:令和2年分 民間給与実態統計調査|国税庁)
「MyTOYOTA」のユーザー像を深堀り
以降はヴァリューズのWeb行動ログデータやアンケート調査結果を用いて、MyTOYTA利用ユーザーがどのような人なのか、趣味・嗜好を詳しく分析していきます。
■国内旅行や投資・経済に関心を持つユーザー像
まずは、「MyTOYTA」のユーザーの興味関心マップから見ていきましょう。
MyTOYOYAユーザーの興味関心マップ
■集計概要
期間:2021年1月〜2021年12月
n=1,179人
MyTOYOTAアプリ利用の前後180分の行動ログから分析
デバイス:スマートフォン
※モニターは全国の20代以上男女
上記の縦軸「リーチ率」と横軸「特徴値」は、以下の定義に基づいて算出されています。
リーチ率 | 対象者のうちアンケートで当該項目に回答した人数の比率 |
特徴値 | 対象者が一般的なネット利用者と比べて特徴的に興味関心のあるジャンルを可視化するための指標 (対象者のリーチ率)ー(ネット人口全体のリーチ率)で計算 |
縦軸は「リーチ率」で、数値が高いほど興味・関心を持っているユーザー数が多いジャンルです。また、横軸は「特徴値」で、一般的なネットユーザーと比べて顕著に差があるジャンルほど高くなる数値です。両数値を合わせて考えると、グラフ右上に位置するジャンルほど、MyTOYOTAのユーザーが特に興味・関心を持つジャンルになります。
MyTOYOTAはクルマのメンテナンスアプリですので、「車」分野への関心が高いユーザーが多いのは納得ですが、他にも「国内旅行」「マネー、投資」「経済」といったジャンルに関心があるユーザーが多いようです。
先ほどのユーザー属性の調査では、中高年層の男性で、子どもがいて、給与水準が比較的高い人物像が見えてきました。「国内旅行」への関心をもつ人が多いことを踏まえた想像ですが、ゴールデンウィークに大きなクルマに乗って、家族みんなで旅行に行く、というような家族イベントが定期的に起きているのかもしれません。
また、「マネー、投資」「経済」に関心が高いことも、高所得層のユーザーが多い特徴を踏まえると納得感が高いです。
■危機管理意識が高く、ポイントをしっかり貯めるユーザー像
つぎに、MyTOYOTAのユーザーが使っているアプリを、特徴値でランキングしたものを見ていきます。
MyTOYOTAユーザー利用アプリの特徴値ランキングTop10
■集計概要
期間:2021年1月〜2021年12月
n=1,179人
MyTOYOTAアプリ利用の前後180分の行動ログから分析
デバイス:スマートフォン
※モニターは全国の20代以上男女
2位にはJAFの公式アプリがランクインしています。このアプリでは、何かトラブルが起きたときに、スマホから簡単にロードサービスを要請できるようです。また、8位には新型コロナウィルスの接触確認アプリCOCOAがランクインしていました。「万が一のケースに備えておきたい」「リスクを回避したい」という意識が高いユーザー像が見てとれます。
3位、4位のTS CUBICアプリは、トヨタのクレジットカード「TS CUBIC card」の明細、ポイントが確認できるアプリです。5位のTポイントアプリ、6位のヤマダデジタル会員アプリはどちらもポイントを貯めたり確認できたりする会員向けアプリでした。MyTOYOTAのユーザーはアプリでポイントをしっかり貯めて、活用している人が多いようです。
まとめ|MyTOYOTAのユーザーの姿
ここまで、MyTOYOTAのユーザーの属性や興味関心を調査してきました。見えてきたアプリユーザー像は以下の通りです。
・男性の割合が8割弱と非常に高く、40代以上の中高年層が多い
・子どもがいるユーザーが多く、「国内旅行」を特に好んでいる
・給与水準が高いユーザーが多く、「マネー、投資、経済」ジャンルへの関心が高い
・利用しているアプリからは、「万が一のリスクに備えておいて、安心したい」という意識がみられた
・ポイントをアプリで管理しているユーザーも多い
本調査を皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立てみてください。
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2022年4月に新卒としてヴァリューズに入社しました。それまでは大学院でダイヤモンド半導体について研究しつつ、ヴァリューズの内定者アルバイトとして働いていました。