「有料会員アンケート」の概要
――コロナの影響もあり、誰でも1つは有料のサービスに登録しているほど広がっているように感じます。今回菅原さんが「有料会員」をテーマにあげた理由があれば教えてください。
菅原:サブスクリプションや会員プランのアップグレード、課金サービスなどのサービス運営があります。通常は無料で利用できるけれど、一定以上の利用を有料で制限していくものも増えていますよね。無料・有料合わせてのサービス全体のアンケートはあるものの、有料にフォーカスしたアンケートは行っていないケースも見受けられます。そこで今回は「有料」にのみ、着目したのです。
――その中で「有料会員」に関する課題感はなんでしょうか?
菅原:「無料では使ってくれるのに有料では使ってくれない」「有料になったけれど、解約率が高い」「インパクトのある収益が出ないため、投資がしづらい」などさまざまな視点での悩みが出てきていますね……。
――有料会員アンケートで改めてサービスの価値を見直し、集客や収益に繋げていけるのですね。詳しく伺っていきたいと思います。
「有料会員アンケート」2つのメリット
――「有料会員アンケート」にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
菅原:有料会員アンケートのメリットは大きく2つです。
まず1つ目が「有料モデルの価値を診断できる」こと。これはどの有料サービスにも共通していることですが、有料会員はサービス開始時こそ、その新奇性やお得なキャンペーンなどで会員に促しやすいものです。一方で時間が経つにつれて価値が低減していき、事業者側からすると突然ユーザーが解約に至るケースが多く見られます。価値を出し続けるというハードルの高さがあるのです。
ここで会員アンケートを使うことで、サービスの提供価値をユーザー視点から考え直すことができます。例えば、特典や機能などの各構成要素の認知、特典や料金の再考にも繋げていけるのです。
――2つ目のメリットはなんでしょうか?
菅原:もうひとつは「課金・物販の精度を向上できる」ことです。有料サービスといっても登録初期から商品・サービスが次々計画されていくケースもあります。どのような商品やサービスがいいのか、価格や品数、販路などを知るキッカケにもなる。販売戦略を再設計し、よりユーザーに届きやすく、使われやすい事業モデルを模索していけますよ。
このように有料会員アンケートでは、サービスのベースとなるデータと方向性を導き出すことができるのです。
「有料会員アンケート」のモデルケース
――実際にどのような「有料会員アンケート」の設計をしていけばいいでしょうか?
菅原:アンケートの設計は大きく3つあります。「実態把握モデル」「需要確認モデル」「物販展開モデル」です。詳しく解説していきましょう。
■「実態把握モデル」
――まず「実態把握モデル」について教えてください。
菅原:実態把握モデルとは、「会員種別ごとの認識価値の把握に使う」 調査モデルです。有料会員サービスの業務実績はどうしても新規獲得と登録者数にフォーカスされがちですが、アンケートにおいてはユーザー視点でサービスの実態的な価値を把握する定量データが見込めます。
①会員ステータス、②会員特典認知、③退会理由 の3つを核として設計していきます。
まずは①の会員ステータスの質問を通じて、回答者の現在の状態を確認します。構成比は会員データベースでわかっていますが、続く他の質問とプランやグレードの種別を掛け合わせて、利点や不満を知るために役立てます。
つぎに②会員特典認知の質問では、提供していても認識されていないものを洗いだします。そして③退会理由の質問を通じて、価格はもちろん価値が実感されない理由を吟味します。
――実際に実施把握モデルを行っている企業事例はありますか?
菅原:マンガやアニメ、映画ともヒットしている人気作品「名探偵コナン 公式アプリ」のユーザーアンケートがあります。
<名探偵コナン 公式アプリユーザーアンケート>
➀会員ランク Q.現在の会員ランクは?(ダイヤモンド/ブラック/プラチナ/ゴールド/ブロンズ)
②有料契約:入会理由 Q.有料会員への入会理由は?(各種ボイス/イベント/推しキャラ/壁紙/会員証/年間プラン)
③有料契約:継続要因 Q.有料を継続するのに重要な機能は?(エピソード特集/スタンプ/裏話/アラームボイス/コナン検定)
まず現在の会員ランクを確認します。質問のメインは②③で、有料会員への入会理由や有料を継続するのに重要な機能 などを確認していきます。
■「需要確認モデル」
――つぎに「需要確認モデル」について教えてください。
菅原:需要確認モデルは「有料への期待や課題の確認」に使います。これから有料サービスの導入を検討している企業にとって、月額料金や年会費は一度始めるとなかなか変えられない重要な検討議題です。アンケートを使うことで、ユーザー側に立ったニーズや価格の許容度のラインを知ることができます。
①特典ニーズ、②利用意向度・価格受容性:尺度回答、③利用意向度・価格受容性:自由回答の3つを核として設計していきます。
まず①特典ニーズの質問で、自社で検討している特典ごとのニーズを把握します。特典は主となるものと副となるものに分かれ、ユーザーの生活環境によって期待されるものは異なります。総合スコアだけでなく、ユーザー属性別のニーズも確認するようにします。
次に②③の質問で利用意向度や価格受容性を尋ねます。質問では提供予定のサービス内容の具体的な価格を提示し、有料での提供価値を確認していきます。ファン層と一般層の境い目を自由回答で見極めていくのです。
――実際に需要確認モデルを実施した企業事例はありますか?
菅原:ラグビーリーグのリーグワン(旧・トップリーグ)に所属する「静岡ブルーレヴズ」(旧・ヤマハ発動機ジュビロ)のファンクラブ会員アンケートの例があります。
<静岡ブルーレヴズ ファンクラブ会員アンケート>
①適正価格評価:尺度評価 Q.年会費の印象は?(お得/ややお得/適切/やや高い/高い)
②適正価格評価:金額選択 Q.妥当な年会費は?(1,000円/2,000円/3,000円/4,000円/5,000円…)
③特典効果検証 Q.チケット割引率の満足度は?(満足/やや満足/普通/やや不満/不満)
現在の年会費の評価や適正価格を問う質問を筆頭に、現在の有料サービスの特典の評価についても掘り下げていきます。特典ごとに質問を分けて尺度評価を問うことで、より精度の高い評価が得られます。
■「物販展開モデル」
――最後に「物販展開モデル」について教えてください。
菅原:物販展開モデルは「物販のニーズや受容性の確認に使う」調査モデルです。このモデルではマーケティング情報の全容をつかむのが難しい状態の企業でも、リアルとネットの両方の販売チャネルを視野に入れた情報分析が可能です。
核となる質問構成は、①平均購入金額、②販売チャネル認知、③購入商品です。
①の質問では、商品カテゴリの平均購入金額を尋ね、チャネルごとにターゲット一回あたりの予算を見立てます。同一人物であっても販売経路によって多少予算は上下するもの。このデータは客単価を再設定する際に役立ちます。
次に②販売チャネル認知の質問で、流通先の販売店やオフィシャルショップで自社商品の取り扱いが認知されているかを確認します。物販においては購入場所が認知されていることが前提となるので、そのうえで③購入商品を尋ねるようにします。
――実際に物販展開モデルを実施した企業事例はありますか?
菅原:グッズやアニメが定番人気となっている「カピバラさん」のキャラクターアンケートです。
<カピバラさん キャラクターアンケート>
①趣味にかけるお金 Q.ひと月に趣味にかける金額は?(3,000円/5,000円/1万円/2万円…)
②販売チャネル認知 Q.グッズ専門店/通販サイトを知っている?(知っていて購入したこともある/知っていたが購入したことはない/知らなかったが購入したい/知らない)
③購入商品 Q.購入した/持っている商品は?(ぬいぐるみ/スマホケース/雑貨/文具/デジタルコンテンツ)
ユーザーの趣味領域に対する可処分所得の割当を確認しており、ターゲット層の限界予算を把握します。リアル・ネットなどの販売チャネルの認知の確認や、チャネルごとの売れ筋も確認できるのです。
――各アンケートモデルの実施するタイミングを教えてください。
菅原):1年に1度程度がいいですね。「需要確認モデル」については、有料サービス立ち上げ前に行うのが効果的です。
――有料会員アンケートが向いているのはどのような企業や業種でしょうか?
菅原):業界や業種によっての不向きはありません。サブスクリプションや会員のアップグレード、課金サービスなどを行っている企業はぜひ検討してみてください。
▼今回菅原さんにお話しいただいたアプリの利用習慣アンケートについては、菅原さんのnoteでもまとめられています。ぜひ併せてお読みください。
有料サービスの方向性を考える会員アンケートの取り方|菅原大介|リサーチャー|note
https://note.com/diisuket/n/nd29d8b9ee756ファンクラブや優待プランなどの有料会員サービスは、利用メリットの旗印が鮮明な割に、「新規が増えない/退会申込が多い」「売上/利益インパクトが中途半端」など、有料の価値が社会でも社内でも認識されず、運営意義が問われることが少なくありません。 同じ状況は、本体事業から付帯的に立ちあがるオプション課金や物販展開でも同様に見られ、「売上の足しにはなっているけど、制作費・人件費を含めると赤字で、かといって廃止の判断が難しく、そのまま運営だけが数年続いていく」ケースもよくあります。 この原因は、もともとのサービス設計が甘いことのほかに、基幹事業ほどマーケットリサーチをせずに始めてしまって、その
菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業で総合ECのUXデザイン・リサーチ全般を担当する。
個人でリサーチに関する著作を持つほか、ニュースレター「リサーチハック 101」を定期配信中。マーケティングリサーチ・UXリサーチ・市場調査の実務ノウハウが、事業会社・調査会社のリサーチ担当者から好評を得ている。登壇・寄稿・取材実績多数。
女性系メディアの運営に4年携わり、現在は子育てをしながらフリーランスとして活動中。みなさんの”選択肢のひとつ”になるような、役に立つ記事をお届けしたいです。