サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?

「ユーザーアンケート」はお客さまの生の声を収集できる貴重な機会。アンケートを通して得るユーザーの嗜好分析をもとに、企業はサービスの現状把握や改善へと繋げていけます。しかしマーケティング環境が進化し整備されていく中、「普段行っているデータ分析結果とアンケート結果の使い分けはしっかりできていますか?」。そう話すのは、リサーチャーの菅原大介さん。今回はユーザーアンケート全体のお話から、アプリを運営する企業にフォーカスしたユーザーアンケートにおける“オススメの活用法”について解説していただきました。


マーケティングデータの中での「ユーザーアンケート」の期待値

――企業成長においてマーケティングデータの重要性が確立されている今、「ユーザーアンケート」への期待値とは何でしょうか?

菅原大介(以下、菅原):期待されているものは個人的に3つあると思っています。まず1つ目は環境の変化です。例えばスタートアップの企業では自分たちでアンケートを作ってユーザーリサーチを行い、その回答を自分たちの提供するものへのクオリティへ繋げていけるような環境を作っています。

2つ目は自社のサービスや提供物の詳細を聞くためのインタビュー協力者を募集する手法です。対象に合致したユーザーかどうかをスクリーニングする目的でアンケートを使用しています。

3つ目はサイトやアプリでのユーザーの行動に対して、なぜそのような行動をとったのかを確認できることです。記事や動画の閲覧後やネガティブな行動をとったときなど、ポップアップダイアログで通知して回答してもらいます。

――マーケティング環境が整っていく中で、普段行っているデータ分析にはない“アンケートデータの付加価値”とは何でしょうか?

菅原「自分たちでテーマを自由に定義付けできる」ことと、「構造化されたデータを作っていける」ことですね。デジタル化により情報が氾濫している中で、あらかじめ自分たちでテーマを設定し、質問と選択肢を用意し、ユーザーの反応を確認していける。さらに要素分解して分析していけるのがアンケートの付加価値だと思っています。

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「アプリ利用習慣アンケート」3つのメリット

――なぜ菅原さんはアンケートデータの中でも、今回「アプリ利用習慣」に着目されたのでしょうか?

菅原:付加価値が必要とはいえ、相応の設計を施さないと浅い分析で終わってしまいがちなのもユーザーアンケートの難しいところ。そこでオススメのアンケートテーマが「アプリの利用習慣」です。ユーザーの利用時間の長い短いに関わらず、一定期間を切り出して習慣化・定着化を検証しやすい特性があります。この特性を活かして、付加価値の高いデータを企画・報告することで業務成果を上げていけますよ。

――「アプリ利用習慣アンケート」では、具体的にどのようなメリットがありますか?

菅原:主に3つありますが、1つ目のメリットは市場競争力を比較できることです。アンケートは市場におけるサービスの競争力を比較する用途にも優れています。あらかじめサンプルを抽出して選択してもらうことで、競合との差別化が図れる自社のポジションを確認できるのです。
これはブランドポジション調査に該当しますが、準備や実施が大規模なものになり、データ活用の難易度も高いため、アプリの利用習慣テーマの中で取り扱うことがオススメなのです。

――気軽に競合との差別化が把握できるのは嬉しいですね。次に2つ目のメリットとは何でしょうか?

菅原:ある程度の組織規模の場合、マーケティング担当が固定され、ツールの権限設定や有償アカウントの数の関係で閲覧者や閲覧範囲に制限が出てしまうことがあります。しかしアンケートでは複数の目でデータを確認していけるため、あまり立場に囚われずフェアに実態把握できるのです。

――では最後に3つ目のメリットを教えてください。

菅原:小売や流通など消費者に近い位置でサービスを展開している企業では、カスタマーサポートやお客様相談センターを設置し、サービスや商品の課題を洗い出し品質向上を目指す取り組みがなされています。しかしすべての企業で体制構築が可能なわけではないですよね。ウェブサービスでは直前の行動に対しての理由を尋ねられるユーザーアンケートが役立ちます。こういった自社の抱える課題感を確認できるのが3つ目のメリットです。

業界や市場でのポジションや接点ポイントが確認できる

――実際の目的ごとに、どのようなアンケート設計をしたらいいでしょうか?

菅原:業界や市場のポジション優位判定が知りたい場合は「優位判定モデル」がオススメです。

オープンワールド型アクションRPGゲームアプリ「原神」を例に見ていきましょう。

<原神> プレイ習慣ユーザーアンケート

①競合するジャンル Q.他に遊ぶジャンルは?(SLG/MOBA/ARPG…)

②継続利用ブランド Q.1ヶ月以上続いたのは?(経験ゲームA/B/C/D…)

③可処分時間シェア Q.ゲーム時間のシェアは?(他ゲーム優先/同等/原神優先)

「原神」ではユーザーのゲームアプリ習慣を尋ねるアンケートを通して、ゲーム体験全体における原神の位置づけを把握することに努めています。こういった「業界や市場のポジション優位判定に使える」のが優位判定モデルです。

他に遊ぶジャンル(=競合するジャンル)、1ヶ月以上続いたゲーム(=継続利用ブランド)、ゲームの実施時間の割合(=可処分時間シェア)といった意味合いになっています。プレイヤーそれぞれが深掘りできる遊び方をアップデートして提供することが強みの原神ですが、それはアンケートで同時期における競争市場ポジションを理解し、定期的にモニタリングしていくことで現在のロングヒットにつながっていると言えそうです。


もう1つご紹介したい事例が、スポーツ中継・スポーツ番組の動画配信アプリ「DAZN」です。「DAZN」では配信カテゴリにおけるコンテンツ競争力を見極めるアンケートをたびたび実施しています。

<DAZN>スポーツ放送視聴者アンケート

①No.1カテゴリ想起 Q.DAZNで思いつくのは?(サッカー/野球/F1…)

②視聴目的コンテンツ Q.DAZNで目当ての番組は?(契約目的/視聴意向/関心無し)

③No.1視聴意向サービス Q.スポーツ放送で一つ選ぶなら?(DAZN/スカパー!/WOWOW…)

DAZNで思いつくスポーツは?(=No.1カテゴリ想起)、DAZNで目当ての番組は?(=視聴目的コンテンツ)、スポーツ放送で1つ選ぶなら?(=No.1視聴意向サービス)といった意味合いになっています。

商品やサービス(「DAZN」の場合はコンテンツ)の特性を知ることで、ユーザーの視聴習慣を促す取り組みができそうです。とくに1番の視聴意向サービスの立ち位置を獲得するには、耐え得る商品やサービスのアップデートのため内部分析が重要なのです。

――業界や市場のポジションの優位判定以外に使えるアンケートもありますか?

菅原:アクティブ時間外を含む自社アプリとの接点確認に使う「接点確認モデル」もオススメです。

ここではサッカーJ1を代表するクラブチーム「川崎フロンターレ」の球団サービスアンケートの例を見てみましょう。

<川崎フロンターレ>球団サービスアンケート

①試合日以外の接点 Q.試合日以外の関わりは?(SNS/DAZN/スクール…)

②欲しいもの Q.欲しい商品/サービスは?(フリーアンサー:欲しい商品/サービス)

③見たいもの Q.見たい記事/動画/企画は?(フリーアンサー:見たい記事/動画/企画)

「川崎フロンターレ」では試合日以外の接点の把握に努めていました。こういった「アクティブ時間外を含む接点確認に使う」のが接点確認モデルです。

試合日以外の関わりは?(=試合日以外の接点)、欲しい商品/サービスは?(=欲しいもの)、見たい記事/動画/企画は?(=見たいもの)といったアンケートを実施しています。

日常におけるブランドとの接点になる選択肢やその充実度合いを確認することで、非サービス利用時に消費者の心を占めるブランドの占有率を高める方策を検討・検証できるのです。

業種問わずに気軽にトライできる点を活かそう

――アプリ利用習慣アンケートの実施間隔はどの程度あけるのがいいでしょうか?

菅原:短くても月に1回、大抵は数ヶ月〜半年程度が多いでしょうね。四半期などのタイミングでもいいと思います。デジタルデータでは日時や週次などスパンで打ち手や改善案を出していくと思うのですが、アンケートは中長期で分析していけるのが大きな違いです。

――アプリ利用習慣アンケートが向いているのはどのような業種でしょうか?

菅原:業種を問わずどのような企業でも実施いただいて問題ありません。誰でもいつでも気軽にできるのがユーザーアンケートのメリットの1つでもあるので、本記事を参考にぜひ気軽に取り組んでいただければと思います。

▼今回菅原さんにお話しいただいたアプリの利用習慣アンケートについては、菅原さんのnoteでもまとめられています。ぜひ併せてお読みください。

アプリの利用習慣をわざわざアンケートで聴くメリット|菅原大介|リサーチャー|note

https://note.com/diisuket/n/n07092256fc5d

「意気込んでユーザーアンケートをやってみたが、だいたいログデータでわかっていた結果だった」(あるいは、周りがそのような微妙な反応だった)―とりあえずユーザーアンケートに手を出してみたものの期待したような業務成果に至らなかった、という状況は、データ分析体制がある程度整いつつある企業や組織で見られる調査課題です。 また、社内に数あるデータ分析業務の中でもアンケートが後発の存在だと、既に確立されている業務と同等あるいはそれと異なる分析パフォーマンスを求められます。分析しようとしていることが重複していないかどうかや、同一の調査項目でスコアが異なるダブルスタンダードとなる状態を危惧され、必ずし

菅原大介

リサーチャー 菅原大介

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業でマーケティング戦略・中期経営計画・UXデザインを担当する。

会社では小売・サービスの分野における市場調査・マーケティングリサーチ・UXリサーチを担当し、自身もマーケティング・広報・店舗開発の実務経験を有する。また、スタートアップから大企業まで各規模のIT企業でリサーチ組織の立ち上げ経験を持つ。

個人でも「リサーチハック」をキーワードに、リサーチの魅力や技能を普及させる著述・講演活動に取り組み、調査手法・質問設計・組織運営などのオペレーションノウハウが、マーケティング・調査メディアでの寄稿やセミナー・研修会で好評を得ている。

主な著書に『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』『新・箇条書き思考』(ともに、明日香出版社)がある。

この記事のライター

女性系メディアの運営に4年携わり、現在は子育てをしながらフリーランスとして活動中。みなさんの”選択肢のひとつ”になるような、役に立つ記事をお届けしたいです。

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