2023年の関心は立ち上がり遅め?
まずは、プロ野球関連ワード(※)の検索者数の推移から見ていきましょう。なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。
下記グラフは、2021年4月〜2023年3月のプロ野球関連ワードの検索者数の推移を表しています。特に検索者数が伸びていたのは、開幕直後である3〜4月とポストシーズン(クライマックスシリーズ・日本シリーズ)である10月でした。反対に、オフシーズンである11〜2月の検索は少ないことが分かります。プロ野球関連ワードの検索者数は、やはりシーズンの注目度に依存しているようです。
※「プロ野球」「セ・リーグ」「パ・リーグ」「セリーグ」「パリーグ」「開幕戦」のワードを含みます。
「プロ野球関連ワード」検索者数の推移
集計期間:2021年4月~2023年3月
デバイス:PC、スマートフォン
では、開幕直後である2023年3月の検索者数のボリュームは、例年と比較するとどうなのでしょうか。以下は、過去4年間の3月時点でのプロ野球関連ワードの検索者数です。
2020年3月 395,000
2021年3月 629,000
2022年3月 668,000
2023年3月 581,000
2020年3月の検索者数が例年と比べて低いのは、コロナの影響でシーズンの開幕が延期されたためと考えられます。気になる2023年の検索者数は、前年比で87%とやや減少しています。
プロ野球の開幕日を確認すると、2021年は3月26日、2022年は3月25日、2023年は3月30日でした。上記のデータは3月のみの検索データなので、開幕日の違いも結果に影響している可能性も考えられます。
では、実際の観客動員数はどのように推移しているのでしょうか。
2023年、ついにコロナ禍前の野球観戦が帰ってくる?
ここからは、2019年から2023年までのセ・パ公式戦の入場者数を基にして、新型コロナウイルスがプロ野球に与えた影響を振り返ります。2019年の1試合平均入場者数は約3万人でした。この頃は新型コロナウイルスの影響は全くなく、例年通りの入場者数でした。
しかし、2020年に新型コロナウイルスが蔓延してからは、無観客試合や観客数に制限をかけた試合を余儀なくされました。翌年の2021年は、徐々に観客数の制限が緩和されたためか、僅かに入場者数の回復が見られました。しかし、それでも2019年の観客数と比べると3分の1にも満たない状況でした。
つづく2022年シーズンでは、ようやく観客制限を撤廃して開催され、前年の入場者数に比べると大きな伸びが見られます。。しかし、コロナ前の水準に完全に回復したわけではありませんでした。この時期には感染対策の観点から、声出し応援が制限されており、依然としてスタジアムの一体感を楽しめない状況だったことが、完全回復に至らなかった原因としてあったのかもしれません。
そして気になる2023年の入場者数は1試合平均で29,620人(4月11日時点)に至りました。この数字はコロナ禍前の水準とも大差ありません。これにはやはり新型コロナウイルスとの関わり方が大きく影響しているのではないでしょうか。2023年3月13日、マスクの着用は個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断が基本となりました。それに伴い、プロ野球観戦時の声出し応援も解禁され、以前のように観戦を楽しめるようになりました。
セ・パ公式戦の入場者数から考えると、プロ野球の開幕初速は順調であるといえるのではないでしょうか。2023年はWBCの盛り上がりもあり、普段は野球を観ないという人からも野球への注目が集まりました。今年は今後の野球人気への期待が高まる1年になるかもしれません。
では、そんなプロ野球はどのような層から、特に注目を浴びているのでしょうか。
野球部員数は15年で半分以下に⁉若者の野球離れが深刻化
早速、プロ野球に関心のある人の属性について見ていきましょう。まずは、プロ野球関連ワード検索者の性別、年代割合です。性別に関しては、男性が約7割と多めであることが分かりました。野球は競技人口としても男性が圧倒的に多いスポーツなので、男性からの関心が高いのはイメージ通りなのではないでしょうか。次に年代に関してですが、こちらは特に40〜50代の関心が強いようです。
「プロ野球関連ワード」検索者の性別・年代割合
集計期間:2023年3月
デバイス:PC、スマートフォン
近年では、「若者の○○離れ」が問題視されていますが、「若者の野球離れ」もその1つです。以下の表は、「日本中学校体育連盟」の調査結果に基づいて作成した、男子中学生の部員数の推移です。一番下の行は、2022年の2008年に対する比率を表しています。
前提として少子化の傾向があるため、どの部活も減少傾向にあります。しかし中でも軟式野球部は、2022年の部員数が2008年の半分以下になっており、減少幅が最も大きいことが分かります。また、2022年のサッカー部や剣道部の部員数は2008年と比較して、7割以下に落ち込んでいます。一方で、バスケットボールや卓球部のように数%程度しか減少が見られない部活もあり、バレーボール部の部員数にはむしろ増加が見られました。
なぜここまで野球離れが進んでしまったのでしょうか。「野球部は活動に大人数を要するため、小規模な学校では他の部よりも廃部になりやすい」、「丸坊主などの野球部の伝統的な風習が、今の若者には受け入れられにくい」など、様々な要因が考えられます。
現在プロ野球への関心が特に高いのは、40〜50代、男性であることが分かりました。今後さらにプロ野球の人気を高めるには、女性や若い世代の関心をいかに集められるかが鍵になりそうです。
さらに、プロ野球に関心がある層が、どの地域に集中しているのかについても見ていきましょう。下記グラフはプロ野球関連ワード検索者の居住地域の割合を表しています。グラフからは、12球団に属するチームが集中している関東からの人気がやや強いものの、おおよそネット利用者全体の分布と近いことが読み取れます。野球は各地域の球団ファンが存在するため、全国的に親しまれているスポーツといえます。
「プロ野球関連ワード」検索者の居住地域の割合
集計期間:2023年3月
デバイス:PC、スマートフォン
プロ野球の関心層はVODの視聴時間が長い
つづいて、プロ野球に関心のある人は、普段どのような媒体でメディアに触れている層なのかについても分析します。なお以下の分析には、「Web行動データとアンケートデータを用いて、ターゲットユーザーにおける特定の Web 行動の前後の動きと属性を集計できる、ヴァリューズの分析ツール「story bank(ストーリーバンク)」を用います。
下記グラフは、プロ野球というワードで検索した人(以下:対象者)の、テレビ、VOD、新聞の1日当たり視聴時間を示しています。対象者はネット利用者全体と比較すると、テレビの視聴時間は短く、VODの視聴時間はやや長い傾向があるようです。
「プロ野球」検索者のテレビ、VOD、新聞の視聴量
集計期間:2023年3月
デバイス:PC、スマートフォン
プロ野球はテレビで観戦して、家族や知人と盛り上がりを共有するという印象もありますが、VODで視聴されているのにはどのような背景があるのでしょうか。
最近では、「DAZN」や「スカパー!プロ野球セット」など、スポーツ観戦に特化したサービスが普及しています。また、パ・リーグの6球団の試合が見られる「パーソル パ・リーグTV」や、広島東洋カープ、中日ドラゴンズ、横浜DeNAベイスターズの試合が見られる「J SPORTSオンデマンド」など、特定の球団に絞って視聴できるVODも存在します。
VODで視聴するメリットとして、「見逃し配信」「オリジナルコンテンツ」などが存在することや、「チャンネル放送の時間枠に捉われず、始球式からヒーローインタビューまで見られる」ことなどが挙げられます。プロ野球に関心のある層は、こうしたメリットを重視してVODでの視聴を選択しているのかもしれません。
2022年流行語大賞から見る新規層獲得の可能性
ここまで、プロ野球に関心のある層について分析してきました。一方で、今後のプロ野球人気を占ううえでは、現在野球に関心のない新規層の動向をチェックすることも重要です。そこで最後に、最近の野球が世間に与えた影響について見ておきましょう。
近年では、周囲と野球ネタで盛り上がる機会が減少していることが懸念されていますが、新規層が野球に興味を持つきっかけはなかったのでしょうか。2022年の野球トレンドを振り返ってみましょう。世間の注目度を反映する2022年の流行語大賞を見てみると、野球に関連するワードが複数ランクインしています。
特に、「村神様」は年間大賞に選ばれ、「きつねダンス」はトップテン入りを果たしました。その他にも、「大谷ルール」、「BIGBOSS」、「令和の怪物」などもノミネートされています。新語・流行語大賞は30語選出されますが、そのうちの5語がプロ野球関連ワードという結果になりました。
さらに、夏の甲子園で優勝した仙台育英高校の江航監督が、優勝インタビューの際に発した「青春って、すごく密なので」も選考委員特別賞に選ばれています。
これだけ野球関連ワードが流行していることを踏まえると、世間一般にとっても野球は国民的なスポーツだといえるのではないでしょうか。
年間大賞を受賞した「村神様」というワードは、ヤクルトの村上宗隆選手が2022年のシーズンで大活躍したことを機に、ニュースやSNSで使われるようになりました。村上選手は「シーズン最終打席で56本目のホームランを打ち、日本人のシーズン本塁打記録を更新」「打率、塁打、打点で史上最年少・令和初の三冠王となる」など、野球をよく知らない人でも凄さが伝わる偉業を成し遂げています。
大谷翔平選手や佐々木朗希選手など、野球に詳しくない人でも知っているスター選手が登場することで、「名前を知っている選手のプレイシーンなら見てみたい」と思う人も増えてくるかもしれません。
トップテン入りした「きつねダンス」は、北海道日本ハムファイターズのファイターズガールによる応援ダンスのことです。「きつねダンス」はその真似しやすい振付から、YouTubeやTikTokを中心に、多くのSNSで踊ってみた動画が投稿され、話題を集めました。
きつねダンスの振付は上半身の動きが特徴的なため、座ったまま踊ることが出来ます。声出し応援が出来ない2022年において、野球観戦時に客席で踊ることのできるきつねダンスは、観客も試合に参加して時間を共有するモチベーションとなりました。
このように、新規層を獲得していくためには「SNS映えを意識したコンテンツ」の存在が重要になってくるかもしれません。また、きつねダンスはコロナ禍の状況を逆手に取り、「声出し制限の中、みんなで出来る応援」であることで人気を集めました。ピンチをチャンスに変えるような施策を模索し続けることで、成功につながるヒントがみつかるかもしれません。
まとめ
今回は、プロ野球への関心の状況と、今後どうなっていくのかについて分析しました。まとめると、以下のようなことが分かりました。
・プロ野球への関心は季節により変動しており、2023年3月の検索者ボリュームは例年よりも低い水準だった。
・セ・パ公式戦の入場者数から考えると、2023年の開幕初速では、コロナ禍前の勢いを取り戻したかのように感じられる。
・今後の野球人気は、「若者の野球離れ」にどう向き合うかに左右される可能性が高い。
・プロ野球に関心のある層は、VODをよく視聴する傾向にある
・2022年の新語・流行語大賞を見ると、野球は世間一般的に国民的なスポーツであることが感じられる。
世間の関心が薄れていくことが懸念されている野球ですが、2023年の開幕初速は順調といえそうです。また、流行語大賞の複数ノミネートやWBCの勢いがあることからも、まだまだ国民的スポーツとして人気を博していくことでしょう。
一方で、若い世代からの人気が弱まっていることも分かりました。今後新規層をいかに獲得できるかによって、プロ野球の将来が大きく変わるかもしれません。
大学では経済学部で主に会計学を学び、2024年に新卒でヴァリューズに入社しました。現在はデータプロモーション局にて、弊社プロモーション事業のフロントを担当しています。