本が売れない時代、ゲーム作品とのコラボレーションで書店の集客増を目指す。日本出版販売のデータ活用戦略

本が売れない時代、ゲーム作品とのコラボレーションで書店の集客増を目指す。日本出版販売のデータ活用戦略

書店で本がなかなか売れない時代に、どうすれば書店への来客が増え、商品購入まで至ってもらえるのか。出版業界が抱える課題に立ち向かうのが、1949(昭和24)年の創業以来、出版社と書店をつなぐ「取次」事業を展開する日本出版販売株式会社です。売れる企画を打ち出すにあたり、同社がどのようにデータ活用を進めているのか、マーケティング推進部の阿部氏に伺いました。


「どうすれば書店に人が集まり、本を買ってくれるのか?」を考える日本出版販売の出版取次

―― 日本出版販売様には、消費者Web行動プロセス可視化ツール「story bank」を活用していただいています。本日は改めてお取り組みについて詳細をお伺いできればと考えていますが、まず貴社の事業内容や、阿部様のご担当業務についてお聞かせいただけますでしょうか。

日本出版販売 阿部 高広氏(以下、阿部):日本出版販売は、出版社と書店をつなぐ「出版取次(とりつぎ)会社」です。出版業界は、川上から川下までプレイヤーが非常に多いため、私たちが担っている役割は一般的な卸売会社に比べて多くあります。

日本出版販売株式会社 阿部 高広氏

阿部:本は、読んだ人たちの心を豊かにするもの。本を届けることは、文化をつないでいくことでもあります。当社は“人と文化のつながりを大切にして、すべての人の心に豊かさを届ける。”を経営理念として掲げ、より顧客志向であることを目指しています。

阿部:卸会社としてメインとしているのは物流機能で、日々商品を書店に届けています。物流に加えて、全国の営業担当者が店舗の陳列の仕方や、店頭の売り上げアップのための施策の提案など、コンサルティングに近い業務も行っている点が特徴的です。出版物は返品ができるもの。無駄な配送にならないよう、いかに店頭で売れるようにするか提案することが求められています

――本を届けるだけでは終わらないということですね。

阿部:その通りです。この「書店に本を届けた後、店頭の売り上げをいかに上げるか」を生活者起点で考えているのが、2022年4月に新設されたマーケティング推進部です。特に昨年まで私の所属していた企画課では、従来は、すでに書店にいらっしゃっているお客様に対して、どうしたら商品を購入していただけるかを考えていましたが、出版業界の不況に対応するため、戦略を変えることに。消費者行動をしっかりと分析したうえで、どうすれば書店に人が集まるのかを考えるようになりました。

売れる企画につながる、story bankの購買行動データ

――書店の客数増加を目指すうえで、課題と感じられることはありましたか。

阿部:マーケティングに有効なデータが少なかったため、データ分析の解像度が低かったことが挙げられます。

企画課では、書店に足を運ぶ習慣がない人たちを集客しようと、出版物のIP(キャラクターなどの知的財産)ではなく、出版以外の(特にゲームの)IPとのコラボ企画を実施したのですが、「そのキャラクターのファンがどれくらいいるのか」「どのような施策が刺さるのか」が分かるデータが少なく、実態がつかめない取り組みになっていました。

そこで、様々なデータ分析ツールを比較検討することにしました。

――ツールを選ぶうえで大切にしていたポイントはありますか。

阿部:主に2つの点を見ていました。

まずは、なるべくAI分析のような予測分析ではないもの。Twitterのようにサブアカウントを含めIDが無限に増やせるものだと、排除できない情報が多すぎると考えたためです。なりすましアカウントへの対策も難しく、正確性の高いデータを入手できないのではないかと。今回はゲームやアニメなど若年層向けのIPと組むため、この点をより重視しました。

もうひとつは、消費者の購買行動に直結するデータを得られること。今回の私たちの取り組みは書店への集客ですが、商品の購入まで導線をつなげる必要がありました。

この2点を備えていたのがstory bankでした。特に、分析対象者が「セール品やレジ前の商品に対する反応が良いかどうか」などまで詳しく分析できるのは大きなポイントだと思います。

story bankの画面の例(上図はサンプルとして「マナミナ」接触者のデータ)。モニター会員の属性や普段の行動、興味関心などのアンケートデータを有しており、「このWeb行動を起こした人」という行動データと紐づけることで、分析対象者がどのようなステータスの商品を購入する傾向にあるか、簡単に集計することが可能。

「ストレスフリー」「誰でも使い続けやすい」ことが重要

――story bankを実際に触ってみて感じたことはありますか。

阿部:直感的に操作できる点がいいですね。UIはやはり大事だと思いました。

例えば、画像のダウンロードやコピーをボタン一つでできるので、アウトプットを出す際に非常に使いやすく、一つひとつがユーザー目線で作られていると感じます。

また、意外に思われるかもしれませんが、色とフォントにストレスを感じないことも、ツールを使い続けるうえで重要だと考えています。原色を使っていないほか、意味のない強調もなく、文字の細さと太さのバランスも非常に良いなと。

どんなに高い機能が備わっていても、インターフェースが良くないと使わなくなってしまいます。チームのメンバーも分析ツール慣れしているわけではないので、直感的に操作できることは大切でした。教育時間もそこまでとれないですし…。story bankはヴァリューズさんに一度使い方をレクチャーしていただいたところ、皆スムーズに使えるようになりました。

書店と組むことの価値を訴求し、成約率アップに貢献

――story bankを実際に活用された事例をお聞かせいただけますでしょうか。

阿部:まずコラボ企画の概要について説明しますと、書店で本を購入していただいた方に、ゲームやアニメキャラクターのノベルティを差し上げる内容となっています。

企画を考える際に大切にしていたのは、なぜそのゲームと、その書店がコラボするのか。納得感を高めるため、キャラクターに本について紹介してもらったり、本を選んでもらったりすることを考えていました。

ただ、ゲームやアニメのIPは数多く存在し、その中から企画につなげるものを選ぶのは大変なこと。2022年10月からstory bankの利用を開始し、該当ゲーム関心層の男女比や年代、消費行動を分析できるようになったことで、コラボ先を選びやすくなったと感じていました。

一方で、IP側に企画を持ちかけてもうまくいかない、つまり商談の成約率の低さが企画を考えた後の課題となりました。そこでヴァリューズさんに伴走していただきながら、story bankを使って、提案書の型を作ることに。先方が思っている自分たちのユーザーと、実際にstory bankで分析したユーザーをお見せすることで、ギャップがあることを理解していただけたり、ギャップがない場合でもその後の提案の納得感を高められたり、といったことができるようになりました。

日本出版販売がstory bankを活用して作成した、提案書のイメージ

阿部:具体的に使っている機能は、例えばメディア接触。電子書籍や雑誌、新聞の閲覧時間など、書店で本を買う人たちの特性とユーザーの特性が近しいことを検証することで、書店でキャンペーンをする価値をIP側に提案しました。例えば、ゲームやアニメ作品のターゲットとなる人は若い世代が多いので、コンビニエンスストアでキャンペーンが実施されていることが多いのですが、そのような中で書店で実施するメリットをお伝えできたことは大きかったと思います。

story bankの画面の例(上図はサンプルとして「マナミナ」接触者のデータ)。分析対象者が、ネット利用者全体に比べてどのメディアへの接触時間が長いのか、把握することができる。

阿部:あとは買い物行動。消費者が何にお金を使っているかや、どのような施策に興味があるかがわかります

story bankの画面の例(上図はサンプルとして「マナミナ」接触者のデータ)。対象者に刺さる施策の判断に役立つ。

阿部:このようにstory bankを活用して提案したこともあり、結果的に成約率のアップにつなげることができました。当初の課題だった集客数に関しても、概算で120%ほど増加しています。

今後も成約率を上げて、一つひとつの企画の効果を最大限にしていきたいです。

消費者理解にもとづき、PDCAを回していく

――データ活用について、今後の展望をお聞かせください。

阿部:顧客志向であるためには、消費者のことをしっかりと理解することが必要不可欠です。そのために、ゆくゆくは社内のメンバー全員がツールを使ってマーケティング分析できるような社風にしていきたいと考えています。

自らツールに触れて、仮説を立て、実行していく。社内にこのようなサイクルを作っていきたいです。

取材協力:日本出版販売株式会社

この記事のライター

IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。

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