「顧客起点」で心を動かすコンテンツをつくる
―― フロンテッジさまには、消費者Web行動プロセス可視化ツール「story bank」を活用していただいています。本日は改めてお取り組みについて詳細をお伺いできればと考えていますが、まず貴社の事業内容や、お二方の担当業務についてお聞かせいただけますでしょうか。
フロンテッジ 牟田神東 章悟氏(以下、牟田神東):フロンテッジは、ソニーと電通の資本からなる「コミュニケーション エンタテインメント カンパニー」です。アイデアとテクノロジーを駆使しながら、エンタテインメントの力で人の心を動かしていくことで、企業様の課題解決と存在価値の向上を実現します。
牟田神東:私がグループリーダーを務めるコンテンツストラテジーグループは、心を動かされる顧客の立場、つまり顧客起点での課題の抽出と、その解決策となるコンテンツの開発をミッションとしています。
フロンテッジ 東島 未來氏(以下、東島):僕も同じチームでプランナーとして働いています。主にストラテジーを軸に、アウトプットの具体的な企画立案や、案件によってはコピーライティングまで携わっています。
すべての業務に共通しているのは、顧客起点であること。広告に触れた人の感情をどう設計していくか、戦略からクリエイティブまで一気通貫して考えるよう努めています。
株式会社フロンテッジ コンテンツストラテジーグループ(写真中央が牟田神東氏、後方一番左が東島氏)
――コンテンツストラテジーグループは、2022年10月に発足した部署と伺いました。発足の経緯をお聞かせください。
牟田神東:製品やサービスの機能面での差別化が段々難しくなっているなか、ブランドの思想に基づいた体験価値の提供が求められるようになってきたことが、理由のひとつとして挙げられます。膨大な情報量の中で、顧客の行動を理解し、最適なモーメントを捉えなければ価値のある体験として届けるのは難しくなってきました。
これまでも知見のあるメンバーが個々で顧客起点のメソッドを実践していたのですが、「コミュニケーションエンタテインメント」のさらなる推進に向けて、顧客起点のソリューション開発を全社的な取り組みとすべく、グループとして発足させることとなりました。
――グループとしてデータ活用を重要視されている背景には、どのようなものがあるのでしょうか。
牟田神東:顧客起点でものごとを考える際、主な手法として挙げられるのがペルソナとカスタマージャーニーの設計です。しかし、個人の想像で考えるには限度があるもの。そのため、手段のひとつとして、客観的な根拠となるデータを活用しています。
簡単に、深いインサイトを得られる「story bank」
――顧客分析を行えるツールは他にもありますが、「story bank」の導入を決めた理由をお聞かせいただけますでしょうか。
牟田神東:他のツールと比較してみたところ、「story bank」はより深いところまで消費者のインサイトを探れると実感したからです。Googleの検索データを取得できるほか、モニター会員に偏りがないのもポイントとしてありました。
また、操作が簡単な点も大きかったです。私たちのグループは、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっているため、このようなWebツールに慣れていないメンバーもいます。「story bank」は操作が簡単、かつインサイトを深く理解できる点で、使いやすいと感じます。
東島:僕はデジタル出身ではなく、もともとこのようなツールも使ったことがありませんでした。しかし実際使ってみると便利ですね。基本的な情報を、手軽に得られることに驚きました。例えばキーワードを入力し、抽出条件を設定するだけで、細かいユーザーデータを見ることができます。
抽出条件の設定画面の例。『「ダイエット」を含む検索』という行動を起点に、そこから前後180分に該当検索者がどのようなWeb行動を起こしたのか、検索者はどのような属性・興味関心を持った人物なのか、といったことを深掘り分析できる。
東島:またコンテンツストラテジーグループでは、「story bank」とあわせて同じくヴァリューズのWeb行動ログツール「Dockpit」も活用しています。使い分け方としては、競合分析などの市場環境把握に「Dockpit」を、さらに消費者のインサイトを深く分析し、ストーリーを組んでいく場面で「story bank」を、という形です。
提案の初動にスピード感を!「story bank」活用事例
――実際に「story bank」をどのように活用されていますか。
東島:戦略や企画を考える際、顧客の解像度を上げるために使っています。
具体的な活用事例を2件、紹介します。
まずは大手メーカー様との新製品開発プロジェクトについてです。
このプロジェクトは社員の皆さんとのディスカッションから始まりました。製品ブランドの根幹にある思想は何か、競合と比べて機能優位性は何か、といった様々なテーマで議論を重ね、コアバリューを定義しました。
しかし当然ですが、実際に製品を使い、その価値を実感するのは生活者です。コアバリューを定義する段階までは、クライアントと二人三脚でできますが、そこから先は顧客の価値観や消費行動などについて分析する必要がありました。
そこで活用したツールのひとつが「story bank」です。
具体的には「クラスタ分析」機能を使い、価値観ごとに区切られた複数の顧客像を設定。「このクラスタの人が使うと、どんな価値が生まれるのだろう?」といった検証を重ね、ポテンシャルが高そうな3つの顧客像を抽出。具体的なペルソナを作成し、それぞれに向けた製品コンセプト案をご納品しました。
「クラスタ分析」を検索ワード「ダイエット」で行った例。任意のクラスタ数を設定し、検索者がどのような気になりごとを持っているのか、トピックごとにカテゴリ分けすることができる。この例では、ダイエットを「オートミール」や「サプリ」など手軽に摂取できるもので行おうという人もいれば、「筋トレ」というアプローチで進めようという人もいることがわかる。
牟田神東:「クラスタ分析」機能を使うと初動にスピード感を持たせられる、というのもメリットの1つではないかと感じています。私たちのような広告会社では、競合ピッチに参加することがあり、限られた時間の中でいかに初動を早くできるかが課題です。「クラスタ分析」機能を使うと、最初にペルソナの方向性を考える際に、今回狙うべきところと狙わなくていいところの見当をつけやすいと感じています。
東島:広告の仕事は答えがありません。限られた時間内で仮説を出し、チームで共有し、精度を上げながら、クライアントの課題を解決することが求められます。「story bank」を導入してからは、よりスピード感を持って進められているのでは、と感じています。
――スピーディーに確度の高い提案ができるようになるのですね。
東島:もうひとつは、クリエイティブプランニングの事例です。施策やメッセージを考える際に「story bank」を活用しました。
目指すブランドポジションを規定した後、実際どのような施策が効果的か、「story bank」のデータベースをひとつの参考にしながらペルソナを設定。さらにチームメンバーで意見を出し合いながらカスタマージャーニーを描きました。
精度の高いペルソナとジャーニーがあれば、クライアントとも具体的なイメージを共有しながらプロジェクトを進めることができます。ペルソナとカスタマージャーニーを一緒に提案することで、クライアント様としても具体的な想像がしやすくなっていると感じます。
「ダイエット」分析例。検索者が普段どのような興味・関心を抱いているのか、トピックごとに可視化されている。その他、性年代や未既婚、職業、年収といったユーザー属性や、主要SNSごとの利用時間、買い物時の主な購入チャネルや魅力に感じる施策なども分析可能。
データ分析は、より良いアウトプットをつくるための手段
――今後のデータ活用に対する考えをお聞かせいただけますでしょうか。
牟田神東:データ活用を大切にしつつも、それが主になってしまわないようにしていきたいと思います。私たちコンテンツストラテジーグループのミッションは、「心を動かすコンテンツを開発する」こと。データを活用して完璧に分析しても、アウトプットが凡庸なものになったらになったら意味がありません。データやストラテジーに基づき、デジタルコンテンツ、イベント、楽曲、小説…、手法を問わず人の心を動かすことを一緒に企める人材を募集中です。
顧客の心が動くポイントがどこにあるかを、正確にスピード感を持って探るための手段として、これからもデータを活用していきたいです。
取材協力:株式会社フロンテッジ
IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。