抹茶はコーヒーの代わりになる?
朝、家で飲むインスタントコーヒーに、通勤途中のカフェで飲む淹れたてのコーヒー。コーヒーは、仕事や勉強に集中するための飲み物として長年愛されてきました。コーヒーを飲むことは、世界中の多くの人々が、朝の日課としています。今後もコーヒーの需要や売上が大きく減少することはないでしょう。しかし近年、ライフスタイルや価値観が変わってきており、消費者のニーズや行動に変化をもたらしています。朝のコーヒーの代わりに、抹茶で一日を始める人がいるというのです。そのような人々はなぜ、コーヒーよりも抹茶を選ぶのでしょうか。
■豊富な健康成分を含む「スーパーフード」
抹茶には、多くの健康成分が含まれています。抗酸化作用がある「カテキン」や、リラックス効果のある「テアニン」、美肌作りに欠かせない様々な「ビタミン」類、便秘解消に役立つ「食物繊維」などです。
抹茶は「スーパーフード」の1つとして分類されています。プレミアム価格を払ってでもヘルシーで健康効果の高い食品を求める消費者に対して、抹茶の「スーパーフード」「デトックス」「クレンズ(浄化)」といった側面がアピールポイントになっていると考えられます。
■心身の健康を意識するライフスタイル
心の健康づくりのために、肉体的にも精神的にも良い習慣を取り入れる人が増えています。近年では、健康文化の盛り上がりに伴って、瞑想やジャーナリングといった落ち着いた朝の習慣を取り入れる人もいます。
抹茶と飲み方は禅宗である臨済宗に由来することから、海外の人にとっては、「日本の茶道は禅=瞑想につながる精神的な儀式」という印象が強いようです。日本人には意外かもしれませんが、世界にも抹茶用の茶碗と伝統的な茶せんなどを使って、朝の抹茶を点てる人がいます。そして抹茶を点てるというプロセスを、魅力的で心地よい朝の始まりを演出するもの、忙しい生活から一休みする機会だと感じている人もいるようです。コーヒーを淹れるよりは時間がかかるかもしれませんが、抹茶は「マインドフルネス」や「シンプルさ」を意識させてくれるもの、リラクゼーションやセルフケアのひとつとしても受け止められているのです。
SNSやインフルエンサーが抹茶を広めた
SNSは抹茶の人気を広めるのに大きな役割を果たしてきました。
俳優のグウィネス・パルトロウや起業家のコートニー・カーダシアンのような健康志向のセレブたちは、SNSを通してライフスタイルを普段から公開しています。独自のセルフケアや健康の秘訣を発信したり、自ら立ち上げたウェルネスライフスタイルブランドを宣伝したりすることもあります。抹茶については飲む姿を写真として投稿しています。
YouTubeで1,200万人の登録者とInstagramで1,590万人のフォロワー数を持つインフルエンサーのエマ・チェンバレン(2023年7月時点)も、Vlogや投稿内で頻繁に抹茶を取り上げています。例えば、彼女のYouTubeのVlogでは、抹茶ドリンクを楽しむ姿が見られ、ある動画は1,000万回再生を記録しています。彼女は視聴者に抹茶を紹介するだけでなく、独自の抹茶ドリンクを開発して販売しており、これらの商品は彼女のウェブサイトで購入できるようになっています。
YouTubeチャンネル登録者数1,200万人のインフルエンサー、エマ・チェンバレンがモーニングルーティンの動画で抹茶を紹介している映像。
「抹茶」をテーマにしたコンテンツは他にもたくさんあります。抹茶ラテや抹茶味のデザート、抹茶入りカクテルまで。抹茶レシピを公開しているクリエイターもいます。
また、様々なカフェで提供されている抹茶ドリンクを試飲し、飲み比べのように評価する内容の動画も人気です。抹茶の鮮やかな緑色がインスタ映えすることも影響してか、Instagramでは、#matchaというハッシュタグが730万件、#matchalatteでも145万件投稿されています(2023年7月時点)。
インスタグラムでのハッシュタグ#matchalatteの検索結果。
グローバル企業のユニークな抹茶の取り入れ方
■カフェやコーヒーショップの抹茶フレーバー
大手コーヒーショップは、もはや定番人気となっている抹茶ラテのほか、オリジナルの食品やドリンクを生み出しています。
スターバックスの「抹茶ラテ」はホットとアイスがあり、ミルクをオーツミルクなどの植物性ミルクに変更できます。近年ヴィーガンが増えているアメリカなどの国では、ヴィーガンも飲める健康的なドリンクのニーズが高まっており、乳製品不使用のミルクでアレンジした抹茶は、その需要の受け皿になっているといえるでしょう。ほかには、「抹茶クリームフラペチーノ」や「アイス抹茶レモネード」などがあります。
ドーナツとコーヒーで有名な「ダンキンドーナツ」は、若い年齢層にとても人気があります。若い世代が心身の健康を意識するようになったため、ダンキンドーナツでも「抹茶ラテ」や「フローズン抹茶ラテ」を提供されるようになりました。ドーナツに抹茶パウダーをまぶすなど、さまざまな工夫をした抹茶メニューが見られます。
イギリスの大手コーヒーチェーン、「コスタ・コーヒー」にもアイスとホットの「抹茶ラテ」があります。ほかにも「バナナ抹茶スムージー」や 「ストロベリーローズ抹茶」など、ユニークなドリンクを提供しています。「ローズ(薔薇)」はイングランドの国花。日本の抹茶と自国の文化を組み合わせて、現地の味が生み出されています。
大手のコーヒーショップでの抹茶ドリンクの人気を受け、「抹茶バー」と呼ばれる抹茶専門カフェが次々と出店されています。抹茶バーでは、日本のミニマルでシンプルな「侘び寂び」文化を取り入れています。店内は和の装飾が施され、時には伝統的な道具を使い、注文を受けてから抹茶を点て、茶碗をお盆に載せて提供することもあります。
抹茶専門カフェのTHE MATCHA TOKYOは、表参道や渋谷の宮下公園など、東京のスタイリッシュな街に店舗を出店しています。伝統的な抹茶に現代的なアプローチを取り入れたこのお店では、スタッフがお客さんの前で本物の茶碗や茶せんを使ってドリンクを作るという、ユニークな顧客体験を提供しています。またTHE MATCHA TOKYOは、中国に1店舗、フィリピンに1店舗、香港に7店舗を構えています。各店舗では、現地の嗜好に合わせたメニューを用意していて、日本の店舗では抹茶どら焼き、フィリピンの店舗ではフィリピンでよく食べられている「レチェ・フラン」(フィリピン風プリン)の抹茶味を提供しています。
ほかにも、世界各地にお茶専門店があります。例えば、トルコのイスタンブールに複数の店舗を構える「Chado Tea(チャドティー)」、メキシコシティの「Matcha Mio Cafe(マッチャミオカフェ)」、タイのバンコクにある「HOME.matcha(ホームマッチャ)」などです。
■アルコール飲料やグミなど...自宅で楽しむアレンジ豊かな抹茶
抹茶ドリンクを自宅で作る人の為に、海外では抹茶パウダーや抹茶を点てる道具を扱う店もあります。
抹茶パウダーの販売部門は2019年において、世界の抹茶市場の半分以上を占めています。抹茶マニアは、抹茶には料理用や儀式用など用途が違う抹茶があることも理解しているようです。抹茶を点てるために、自分の茶碗、茶せん、茶杓を所有する人もいて、アメリカのAmazonでは多くの「抹茶セット」が販売されています。
アメリカのAmazonウェブサイトにおける「Matcha set(抹茶セット)」の検索結果。
世界のスーパーマーケットでも、ユニークな飲料を購入できます。「Matcha Libre(抹茶リブレ)」は、ジン、ライム果汁、蜂蜜、抹茶が入ったアルコール飲料で、ほのかな苦味が人気です。「Motto Sparkling Matcha Tea(もっとスパークリング抹茶)」はガラス瓶入りで、ハチミツとアガベシロップで甘みをつけています。
抹茶風味の食品もあります。ビタミングミブランドの「Lemme」は抹茶味のビタミングミを発売しています。抹茶風味のプロテイン・パウダーは市場に複数あり、そのひとつが「Vital Proteins(バイタルプロテインズ)」です。「Häagen-Dazs(ハーゲンダッツ)」には抹茶アイスクリームがあり、イタリアの菓子会社「Loacker(ローカー)」は抹茶味の「クアドラティーニ」(ウエハースのお菓子)も販売しています。
世界中のカフェや抹茶バーがその国にしかない抹茶メニューを作っているのと同じく、様々な国が抹茶に独自のアプローチをとり、その市場の消費者にアピールする商品を開発しています。アイデアは無限です。
■抹茶を使ったコスメ・スキンケア商品も登場
抹茶をベースとした化粧品も、世界市場に参入しています。
コスメやスキンケアに関して「オーガニック」や「ナチュラル」な成分が好まれるようになったのは、人々が自分の肌に塗るものに対してより慎重になり、心を配るようになったからかもしれません。抹茶は植物由来の天然成分であるため、安心して使えるイメージがあるのでしょう。成分がシンプルで、理解しやすいものほど、消費者はその成分に魅力を感じるものです。
お茶をベースにしたスキンケア製品は数多く市場に出回っていますが、その中でも抹茶には、老化の原因となる紫外線から肌を守るカテキン系抗酸化物質や、頑固なシミや小ジワを薄くし、環境ダメージによる炎症を抑えるポリフェノールが含まれているなど、高い効果が期待されています。
アメリカの「Boscia(ボウシャ)」は、日系企業のファンケルが米国で立ち上げた防腐剤フリーのスキンケアブランドです。ボウシャという名前は、「ボタニカル」と「サイエンス」を組み合わせ、「ナチュラル」な成分にこだわるブランドイメージを伝えています。「MATCHA Magic Super-Antioxidant Mask」は、肌の「デトックス」能力をアピールしています。
韓国のスキンケアブランド、「Peach and Lily(ピーチ・アンド・リリー)」は、エイジングケアの「抹茶プリン抗酸化クリーム」という商品を取り扱っています。
フランスのブランド、「Odacite(オダシテ)」の「Green Ceremony Cleanser」は抹茶入りで、パウダーを水と混ぜて作ります。「Milk Makeup(ミルクメイクアップ)」は抹茶を配合し、肌を「デトックス」する化粧水(トナー)を開発しました。
■ヘアケアにも
抹茶はその健康効果から、ヘアケアにも使われています。
「Purezero(ピュアゼロ)」のシャンプーとコンディショナーは、ティーツリーオイルと抹茶の組み合わせで、頭皮を清潔にします。同社の製品は、「Target(ターゲット)」や健康食品店「Whole Foods(ホールフーズ)」などの小売店で購入できます。Not Your Mother’s(ノット・ユア・マザー)の「Matcha Green Tea & Wild Apple Blossom」は、乾燥し傷んだ髪向けのトリートメントタイプのヘアマスクです。
抹茶美容製品の多くは、ラベルやパッケージに「天然由来」「クリーン」と表示しています。
よく使われるキーワードは「デトックス」「クレンズ」で、抹茶の解毒作用をアピールし、成分の浄化能力を伝えているのです。
抹茶はどこから仕入れている?
たとえば「ダンキンドーナツ」は、愛知県の西尾市から抹茶を仕入れています。「Matcha Maiko Cafe」は、京都にある播磨園の抹茶を使っています。
日本は抹茶の主要輸出国です。抹茶人気の高まりから、日本の抹茶生産者は食品、飲料、外食サービス、化粧品の世界的ブランドと連携する大きな機会を得られるでしょう。
まとめ
海外から見た「抹茶」は、「日本人らしい」落ち着いた文化です。茶碗で茶せんを使って抹茶を点てるという難しくもシンプルな作業に、世界の人が穏やかな時間を感じています。海外の人は抹茶を通して、「メンタルヘルス」を意識した「マインドフルネス」や「セルフケア」を行っているのです。
伝統的な茶道を楽しむ一方で、世界の消費者や企業は、独自の抹茶の風味と栄養素を活かした創造的な商品を開発しています。
日本の抹茶を扱う企業や、食品、飲料、化粧品業界の企業は、海外の「抹茶」に対する印象をより深く理解することで、世界の消費者のニーズに合った抹茶製品を生み出すことができるでしょう。
【参考文献】
心にも効く 抹茶を楽しむティーライフと期待できる効果
https://www.chazen-co.jp/kawara_1/
Demand of Matcha Market is Growing and Expected to reach USD 6.42 BIllion By 2028 | Market Research Trends | Industry Analysis
https://www.linkedin.com/pulse/demand-matcha-market-growing-expected-reach-usd-642/
Dunkin’ embraces growing matcha trend
https://www.nrn.com/beverage-trends/dunkin-embraces-growing-matcha-trend
8 Benefits of Using Matcha Green Tea For Skin Care | For Sensitive Skin, Skin Aging, UV Protection, Melasma, & More
https://matcha.com/blogs/news/matcha-skin-benefits
How Matcha Is Challenging the Coffee Market
https://www.thestreet.com/investing/matcha-challenges-coffee-industry
Is Matcha the New Coffee? Talking with the Founders of Panatea
https://www.forbes.com/sites/viviennedecker/2015/05/19/is-matcha-the-new-coffee-talking-with-the-founders-of-panatea/?sh=64e364df31c6
https://docs.google.com/document/d/1OY-gGgH1T7t8tZ8hLQ8mfbTh9kYk1kUTYPAmsC-D3OE/edit
Matcha: Benefits and Opportunities to Consider in 2023
https://www.foodengineeringmag.com/articles/100901-matcha-benefits-and-opportunities-to-consider-in-2023
Matcha Culture: Everything You Need to Know About the Next Big Thing in Tea
https://www.bonappetit.com/entertaining-style/trends-news/article/rise-of-matcha
Matcha Is Not Just a Trend: Here’s What You Should Know About It
https://theeverygirl.com/what-to-know-about-matcha/
Matcha Market 2022 | Growth Strategies, Opportunity, Challenges, Rising Trends and Revenue Analysis 2030
https://www.linkedin.com/pulse/matcha-market-2022-growth-strategies-opportunity-challenges-singh/
Matcha Tea Market to Eyewitness Massive Growth by $4,480.5 million with a growing CAGR of 7.1% from 2021 to 2027
https://www.linkedin.com/pulse/matcha-tea-market-eyewitness-massive-growth-44805-million-malghe/
The Global Matcha Tea Industry
https://globaledge.msu.edu/blog/post/57216/the-global-matcha-tea-industry#:~:text=Matcha's%20popularity%20has%20risen%20significantly,of%20%245.5%20billion%20by%202027
The Global Matcha Tea Market size is expected to reach $3.8 billion by 2028, rising at a market growth of 6.6% CAGR during the forecast period
https://www.globenewswire.com/news-release/2023/04/20/2651503/0/en/The-Global-Matcha-Tea-Market-size-is-expected-to-reach-3-8-billion-by-2028-rising-at-a-market-growth-of-6-6-CAGR-during-the-forecast-period.html
The Matcha Market is Expected to Reach US$7.1 Billion by 20233’ Due to Health Benefits, Increased Awareness, and Antidepressant Properties - Report by Future Market Insights, Inc.
https://www.globenewswire.com/news-release/2023/02/22/2613232/0/en/The-Matcha-Market-is-Expected-to-Reach-US-7-1-Billion-by-2033-Due-to-Health-Benefits-Increased-Awareness-and-Antidepressant-Properties-Report-by-Future-Market-Insights-Inc.html
The New Food Trend Kicking Coffee To The Curb
https://www.theurbanlist.com/a-list/new-food-trend-matcha
12 Skin-Care Products Infused With Matcha Green Tea
https://www.allure.com/gallery/matcha-beauty-products
What makes superfood so super?
https://www.ucdavis.edu/food/what-makes-superfood-so-super
Born and raised in the Bay Area, U.S.A, I was fascinated by the different social and purchasing behaviors between Japanese and American consumers. I studied communication for undergrad and international marketing for my graduate studies. My professional background is in bilingual recruitment and Japanese-English translation.