スピーカー紹介
リサーチャー 菅原 大介氏
株式会社ヴァリューズ ソリューション局 インサイトアナリティクスG
リサーチャー/マネジャー 海野 秋生
自主調査から見えるリサーチの進化と生活者トレンド
株式会社ヴァリューズ 海野 秋生(以下、海野):第1部は、ヴァリューズで自主調査した2023年のトレンドを3つご紹介します。
■1.生成AIの活用
一つ目はなんといっても生成AIの活用です。ChatGPTが2022年11月にリリースされた後、2023年にかけてのユーザー変化をヴァリューズが調査しました。
リリース当初は学生と社会人が多かったのですが、一般社員、特にエンジニアの利用が増えたことが分かります。また年収が高い経営層から徐々に一般社員への定着が見られ、年間を通して裾野が広がってきたことがうかがえました。
ChatGPT利用者は、初期からどう変化した?ChatGPTユーザーの実態を調査
https://manamina.valuesccg.com/articles/2788生成AIの先駆けとして登場したChatGPT。2022年11月のリリース以降ユーザーは増加し続け、広範囲に認知されています。マナミナではリリースから約4ヵ月後の2023年3月時点でのユーザー数や人物像について調査しましたが、リリースから約9か月経った現在、ChatGPTユーザー層に変化はあるのか、改めて調査していきます。
1.生成AIの活用
リサーチ現場の活用では、ヴァリューズの取組みをご紹介します。リサーチャーは調査票の設問項目や選択肢を考える際に、データアナリストはコード生成アシスタントとして、ChatGPTを活用する試みが始まっています。
他には、ユーザーイメージの作成など、画像生成AIも活用しています。ただ指示を出すプロンプトの書き方は試行錯誤しており、欲しい内容が出てこない等、難しさを感じています。最近ではプロンプトエンジニアリングをサポートするサービスも出てきました。
生成AIは、このようにリサーチの現場を大きく変化させています。
■2.KPI指標の再考
海野:2つ目はKPI指標についてです。
リサーチでは「好意度」や「純粋想起」など、マスマーケティングを実施する際に検証しやすいKPIが使われてきましたが、デジタルマーケティングが浸透した現在、「好意度はあがったけれど購買に繋がっていない」など、マーケティングと現場にギャップがあるというご相談が増えてきました。また複数の指標がある中、どの指標にするか迷う企業様もいらっしゃる状況でした。
そこで、購入に効きやすいKPIは何なのか、ヴァリューズで調査を実施しました。
第一想起、購入意向など...ロイヤルティKPIとして選ぶべき指標は? | ホワイトペーパー
https://manamina.valuesccg.com/articles/2277KGI(Key Goal Indicator / 最終目標)を達成する上で設定しておくべきKPI(Key Performance Indicator / 中間目標)。しかし、似たような指標が多かったり、アンケート結果と実際の数値に乖離があるなど、悩みが尽きないのがロイヤルティKPIです。ブランドが追っていくべき適切なKPIを設定するには、どうすべきなのでしょうか?KPIと購入の関連度を検証しました。
今後、このようにKPIを一つに絞るだけではなく、自社向けにカスタマイズしようという動きが広がってくるのではと考えています。
■3.Z世代を中心としたトレンドの短命化
海野:3つ目はZ世代のトレンドについてです。
ヴァリューズではZ世代のアナリストが集まり、GenZ調査隊としてZ世代のトレンド分析を毎月行っています。1年間の検索ワードをランキングにして分析したところ、「スイカゲーム」「君たちはどう生きるか」など、瞬発性が高いワードに存在感がありました。
現役Z世代がSNSデータ×Web行動データから2023年を振り返る!2023年は「自分アピール」の年?(ヴァリューズ×Sucle)
https://manamina.valuesccg.com/articles/3061Z世代のデータアナリストが、自らZ世代の行動データを分析する本連載。第13弾となる今回は、若年女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」編集部の皆さまをゲストにお迎えし、ヴァリューズのWeb行動ログデータと、SucleのSNSデータを活かして、2023年のZ世代のトレンドや価値観を振り返りました。 「いい人すぎるよ展」などの参加型展示や季節性イベント、創作体験、「MBTI診断」「BeReal.」などの人気に焦点をあて、データとリアルな声を掛け合わせて、Z世代のニーズを読み解きます。
3.Z世代を中心としたトレンドの短命化
SNSに載るような短いトレンドが中心である一方で、「夏祭り」「花火」など、季節系のワードも特徴的でした。イベントの季節参加、期間限定商品の購入など、Z世代がその時にしか出会えないトレンドに反応し、自分らしい楽しみ方を追求していることが分かります。
※本セミナーの詳細な資料は、記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。
菅原さんによるリサーチのトレンド総括 2023
菅原 大介氏(以下、菅原):続いて第2部では、2023年の振り返りとして7つのトピックスをご紹介します。
■1. ChatGPT/生成AIの活用
まずはChatGPT、生成AIの活用です。2023年を振り返るにあたって、どの分野でも議論がされましたし、リサーチ分野でも同様でした。ChatGPTのリリース後、リサーチツールにどのように反映されたのかを振り返ります。
まずは定量調査での動きです。セルフアンケートでは、ノバセルの「ノビシロ」にてAIを使った調査票作成機能が提供開始されました。調査したいキーワードやテーマを入力すると、対応する質問のリストがAIで自動作成され、それをテンプレートとして利用できるツールです。
1.ChatGPT/生成AIの活用
またGMOリサーチでも、セルフアンケートツールが提供されました。調査票の作成はもちろん、配信から回収、レポートの納品まで、一連の動きをAIでサポートし、プロセス自体もAIが管理するサービスです。このように6月前半は生成AIの実装ラッシュでした。
続いて定性調査での場面です。「Zaim」という業務管理システムを運営する今泉さんの投稿では、ユーザーインタビューで議事録の作成や要約、またユーザーの発言録を作成する際に生成AIを活用し、単語の登録や話し手を分割することで、非常に分かりやすく作成できたそうです。一方、事実情報を把握するのは良いけれど、感情やポイントの認識はまだまだと振り返りをされていました。
さらにインタビューの分析では、KJ法で意見を振り分ける作業の際に生成AIが使えたことを、何人もの方が業務成果として投稿されていました。
画像生成を活用した例では、マーケティングトレースで有名な黒澤さんが、Midjourneyを活用して作った画像を、企画書のムードボードとして使用したと紹介されていました。定性調査はデザインリサーチの部分もあります。調査結果から、自分達のサービスをどのようにまとめていくのか、画像を活用したケースと言えます。
続いてデスクリサーチにおける事例です。こちらもChatGPTの代表的な活用例で、市場調査、特にマクロ調査目的での情報収集や情報整理において、Notion AIが活用されました。具体的には市場規模、トレンド情報、マーケティングツールの種類、また既に公開されているアンケート調査等を収集する際に使用し、デスクリサーチが効率化されたそうです。
■2. VOCデータの再評価
菅原:また2023年はVOCデータがよく活用されました。VOCとは「Voice Of Customer」の略、つまり顧客の声の分析です。コールセンターに届く問い合わせ、デジタルであればアプリレビュー、ユーザーフィードバック、アンケートなども、VOCの有力なデータとして取り扱われます。
具体的には生成AIのトレンドを受けて、ユーザーフィードバックとしてミニアンケートの結果をAIツールを用いて分析を進めたり、エモーションテックというNPS分析に強い企業では、VOCのテキスト情報をAIによって分析するサービスをリリースしたりしています。
一方、元々のVOCを上手く活用した例として、森永乳業のリプトンミルクティーの事例をご紹介します。
2.VOCデータの再評価
コロナ禍にリニューアルをしたところ「元の味の方がいい」という声が半年間で667件、届いたそうです。コアなファンの声を受けて戻すことを決定しましたが、休眠層や未顧客の人にも届けられないかと考えて、PR用の短編アニメを作って公開されました。お客様からの問い合わせがまるでラブレターのように見えたからということで、「667通のラブレター」という施策を推進されています。VOCは改善要望や困り事への要望が多いのですが、攻めの形で活用できた好例でした。
■3. ディスカバリーリサーチの価値浸透
菅原:「ディスカバリーリサーチ」とは、探索型の調査、インサイトや仮説構築のフェーズの調査内容です。言い換えると、何かを実装する前段階のアイデアをしっかりと見つけて検証していくフェーズになります。(対比させる概念は「デリバリー」です)
盛り上がりの先駆けは、2022年6月にUXリサーチ、UXデザインで有名なグッドパッチがディスカバリーリサーチに特化した専門のサービスを立ち上げたことでした。新規事業の中でも、アイデアを見つけ社内の合意形成に持っていく、そのためにスピード感をもって深堀していくという部分で成果があがっているそうです。
3.ディスカバリーリサーチの価値浸透
■4. リサーチ支援会社の合従連衡
菅原:2023年はかなり大きな動きがありました。まず9月に業界最大手のインテージがドコモグループに参画されました。リサーチの支援会社は色々な会社と組む際、中立的な動きが多かったので、業界の反響が大きいニュースでした。大きなグループに所属することで今後の展開が注目されます。
4.リサーチ支援会社の合従連衡
■5. リサーチツールの越境機能強化
菅原:2023年はセルフリサーチツールも多く活用されています。インタビューではリクルーティングで使う「Unii(ユニー)リサーチ」や「ノバセル」のセルフアンケートなど、定性、定量それぞれ強みを越境する形で、機能やサービスを拡張する動きがありました。
■6. リサーチデータベースの構築
リサーチデータベースも先進的な企業を中心に進んでいると実感しています。代表例はスマートバンクです。UXリサーチャーのHarokaさんが「インタビュー調査の結果をまとめるデータベースを構築し、発言録やインタビューの動画、調査概要、対象者の情報について、Notionを見れば社内の誰でも分かるようにしている」というノウハウを共有されていました。多くの企業はイントラネットや社内ネットワークから見ていると思いますが、Notionを活用して作成されたそうです。
6.リサーチデータベースの構築
■7. 案件依頼・相談フローの改良
菅原:事業会社目線では、社内のリサーチ案件を担当部門がどのように受け付けていくか、フローの改良が進みました。今後大きなトピックスになりそうなので、2024年への期待も込めて取り上げます。
Chatworkでは、社内から依頼を受け付ける際、フォームの記入ハードルを下げて、ごく簡単な連絡だけでリサーチ部署が対応できる動きがありました。
またクックパッドでは、かなり以前からリサーチを活用されていますが、自社から調査会社に発注をかける際に、曜日枠を設定しておき、依頼を取り次ぐようにされているそうです。社内でバラバラな動きにならないよう、担当部署が中心になって動く体制を作っているとのこと。こういったプロセスの改善が進んでいると感じます。
7.案件依頼・相談フローの改良
※本セミナーの詳細な資料は、記事末尾のフォームより無料でダウンロードいただけます。
象徴的なリサーチ・トレンドから読み解く2024年の潮流
海野:菅原さん、ありがとうございます。ここからは2024年の潮流についてディスカッションさせてください。
1つ目は、やはり生成AIと調査会社の役割です。生成AIの力を借りて色々なサービスやツールが生まれていますが、企業様が自力で分析できるようになった点と、ここから先は調査会社の手が必要という点があると思います。
菅原:皆さんも検討されている部分だと思います。リサーチ施策で有名なアクセンチュアの上原さんが、生成AIがビジネスリサーチに与える影響というテーマで寄稿されていました。「基礎調査や情報収集の手間は確実に減っていく、Notion AIを使ってデスクリサーチは進めやすくなる一方、データの精度や真贋、意思決定のファクト探索では、AIはまだ力不足」とコンサルタント視点でまとめられています。
実務の面では、ChatGPT/生成AIの活用の中でご紹介したように、「事実情報をインタビュー内容から拾っていくのはOK、一方で感情や要点を掴むのは厳しい」ということですよね。感情分析はペルソナやカスタマージャーニーで使いますが、その部分はまだ人の手で見極めることが必要と思います。またオンラインや対面型のインタビューで、その人の表情を観察するのはAIでは難しい。
そう思うと、データエンジニアリングがまだまだ必要だと思います。つまりノイズとなるデータを除き、その中からどのような分析ができるか見極めていく工程です。特に、品質が高いデータ分析が求められる場面では、分析力や経験値が高いリサーチャーが引き続き必要だと思います。
海野:コンサルタントの領域や感情分析は難しいということですね。
続いて2つ目は、ディスカバリーリサーチの価値浸透についてです。新たにまた注目を集めているのは、なぜでしょうか。
菅原:プロダクトマーケットフィットのプロセスが浸透してきたからと感じています。プロダクトのアイデアや原型をいかに早く、市場やユーザーと馴染ませるかという部分です。
背景には、開発側のスピーディーなアジャイル開発の動きに合わせるため、またプロダクトソリューションフィットという、アイデアや仮説の段階で勝負したい動きがあるためで、現状2~3か月の短期間で集中的に取り組む期間を設け、素早く検証する工程が重視されています。
つまり、直線的な業務工程の一部というより、ディスカバリーリサーチがプロセスとして大事という認識が浸透したのが2023年でした。そこにインサイトリサーチの調査手法の進化、例えばデプスインタビューやエスノグラフィが交わって、大きな盛り上がりになっているのではと捉えています。
海野:最後に2023年の振り返りと2024年の潮流について、ひと言お願いします。
菅原:コロナ禍以降、他社がそれまで検討していないことに対し、ユーザーのニーズやペインを上手く拾い上げて、第一想起で選ばれていく動きが大切になると考えます。そのプロセスでディスカバリーリサーチや生成AIをいかに使いこなしていくのか、自社の注力テーマをどんな動きで進めればよいか、トレンドを捉えていくことが必要だと思います。
海野:菅原さん、本日はありがとうございました。
ホワイトペーパーダウンロード【無料】|象徴的なリサーチ・トレンドから読み解く2024年の潮流 ~ リサーチャー菅原大介さんと共に
セミナー資料のダウンロードURLを、ご入力いただいたメールアドレスに送付させていただきます。
ご登録頂いた方にはヴァリューズからサービスのお知らせやご案内をさせて頂く場合がございます。
大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。