台湾総統選挙・立法院選挙を経て、ねじれがもたらすこれからの中台関係
2024年になって早くも1月が終わりましたが、この1ヶ月間だけでも地政学リスクの観点からは多くの変化があったように思います。まず、選挙イヤーの先陣を切って台湾では次の指導者を選ぶ総統選挙が行われ、蔡英文総統の後継者である頼清徳氏が勝利しました。両者とも親米派で、中国は両者が所属する民進党を独立勢力と敵視しています。よって、これまで緊張感漂ってきた中台関係は今後も続くことになります。蔡英文政権の8年間で、中国はパイナップルや柑橘類、高級魚ハタなど台湾産品の輸入を突然停止し、中国軍機が事実上の境界線となる中台中間戦を超え、台湾の防空識別圏に侵入するなどしましたが、こういった経済的威圧や軍事的挑発は今後も繰り返されるでしょう。
しかし、今回は総統選挙と並行して日本の国会にあたる立法院選挙も行われ、野党の国民党や民衆党が議席を増やし、頼氏の民進党は少数与党となりました。よって、頼氏は国民党や民衆党の意見も配慮しながら政権運営をしていくことになりますので、“欧米との結束を強めて中国に対峙する”という頼氏本来の姿勢を取りにくいという事情もあります。そして、これが台湾有事のリスクがすぐに高まるわけではないという理由にも繋がるわけです。しかし、中国当局は最近も台湾海峡の上空に設定している民間機の航路をこれまでより台湾寄りに変更すると発表するなど、台湾へプレッシャーを掛け続けおり、台湾有事の潜在的リスクを含め、引き続きその動向には注意が必要です。
米国大統領選挙は2024年最大の地政学リスクとの見方も
一方、2024年最大の地政学リスクとも言われる米大統領選挙を巡る動向も動き始め、トランプ再選の可能性が現実味を帯びてきました。米中西部アイオワ州では1月15日、米大統領選に向けた共和党候補指名争いの初戦となる党員集会が行われ、トランプ氏が圧倒的大差で勝利しました。続くニューハンプシャー州での選挙戦でもトランプ氏が圧倒し、最大のライバルとされてきた現フロリダ州知事のデサンティス氏は選挙戦から撤退し、トランプ氏支持に回ることを発表しました。オハイオ州の地元紙「デモイン・レジスター」が15日直前に発表した世論調査では、党員集会参加者の48%がトランプ氏支持で、今後も選挙戦を続けるニッキ・ヘイリー氏は20%に留まるなど、今後はヘイリー氏がいつまで選挙戦を続けるかというトランプ一強の状況です。
そして、秋の大統領選ではバイデンVSトランプの4年前の再戦の可能性が飛躍的に高まっています。バイデン大統領もそれを現実問題と受け止め、1月下旬にはバージニア州での集会でトランプを名指しで人工妊娠中絶の権利を不当に制限したなどと痛烈に批判し、今回の大統領選は自由と民主主義が懸かった戦いだと支持者たちに訴えました。しかし、バイデン大統領の支持率は30%あまりと高くなく、バイデン大統領の4年間の成果を評価しないことに加えて80代という年齢を懸念する声が広がり、現在ではトランプ氏の方が優勢との見方が多いのが現実です。
すでに囁かれるトランプ氏の勝利が招く「招かれざる問題の数々」
トランプ氏が大統領に返り咲けば、様々な変化が起こると言われています。たとえば、今月でロシアによるウクライナ侵攻から2年となりますが、トランプ氏は「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる、最優先でウクライナ支援を停止する」と言及するなど、ウクライナを巡る情勢が大きく動く可能性があります。
また、トランプ氏は中国からの輸入品に対して一律60%の関税を課す意志も示しており、第2次トランプ政権では中国との間で関税制裁など貿易摩擦が再び激化する可能性が高いでしょう。仮に、米中の間で再び貿易戦争が激しくなれば、中国で製品を製造し、それを米国へ輸出する企業などを中心に大きな影響を受けることになります。トランプ再選なんてあり得ないと思う方もいるでしょうが、その可能性は高まってきています。
このように、1ヶ月単位でも地政学リスクを巡る動向は大きく動くのです。
国際政治学者、一般社団法人カウンターインテリジェンス協会 理事/清和大学講師
セキュリティコンサルティング会社OSCアドバイザー、岐阜女子大学特別研究員を兼務。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障の研究や教育に従事する一方、実務家として海外進出企業へ地政学リスクのコンサルティングを行う。