「感情」で消費する中国のZ世代

「感情」で消費する中国のZ世代

新型コロナウイルスが終息した後、経済が低迷しているように見える中国ではさまざまな新しい消費現象が現れています。以前から話題となっていたシティウォーク、ペット経済、リラックス感のあるファッションや「搭子社交」など、これらの現象をよく考えてみると、一つのキーワードに辿り着きます。それが「感情」です。社会的地位を証明するためにブランド品を追い求め、他人に自慢するのではなく、現在の中国のZ世代は、むしろ自己の癒しに注目し、一つの活動や商品を購入する際に自分に「感情的な価値」をもたらすかどうかを重要視しています。この現象は中国で「感情経済」を生み出すに至りました。本記事ではこの現象について詳しく紹介します。


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感情価値とは何か?

感情価値の範囲は非常に広く、ポジティブな感情価値とネガティブな感情価値があります。一般的に言われる感情価値はポジティブな感情価値、つまり人々に良い感覚をもたらし、肯定的な感情を引き起こす能力です。本来感情価値はマーケティングの概念で、顧客が感じる感情的な利益とコストの差額を指します。感情的な利益は顧客のポジティブな感情体験であり、コストはネガティブな感情体験です。顧客は製品やサービスの品質や実用性といったハードな要素を重視する一方で、消費体験における感情価値も非常に重要視します。感情価値は製品やサービスが消費者に与える感情的な体験を具体化する、無形の付加価値です。

DT研究院が発表した「2023年若者消費調査」によると、中国の若者の約半数が感情価値に基づいて消費することを望んでいます。人々は単なる物理的な商品を購入するのではなく、体験の消費者として行動しています。調査によると、今中国の消費者が精神的な消費を重視しており、特に若年層の消費者がその傾向が強いです。たとえば、ある製品が消費者に喜びをもたらすには、機能が優れているだけでなく、癒しの要素など、感情的な刺激も重要な要素となっています。

若者の消費が多くなる理由トップ3
記事をもとに、ヴァリューズが翻訳

中国のZ世代はどのような消費で感情価値を得ているのか?

現在、中国の主要なショッピングプラットフォームには、消費者に感情的価値を提供する様々なバーチャル商品が登場しています。たとえば、試験を受ける学生を応援するための「試験応援サービス」、失恋した人を慰める「失恋慰めサービス」など、バラエティに富んだサービスが提供されています。これらはまだニッチなサービスではありますが、中国の若者の日常生活に重要な役割を果たし、大きな経済効果を生み出している商品もあります。その代表例が「ブラインドボックス」です。

止まらないブラインドボックス

ブラインドボックスとは、消費者が事前に具体的な商品のデザインを知ることができないランダムな特性を持つ玩具ボックスを指します。このトレンドは日本で「ミニフィギュア」という名前で誕生し、欧米で人気を博した後、「ブラインドボックス」としても知られるようになりました。その実体は日本人にも馴染みの深いガチャガチャの箱入りバージョンです。とはいえ、中国のブラインドボックスはおよそ1000~1300円と決して安くはありません。1シリーズ12種類ほどで、1~2種類のレアアイテムが含まれていることが多いです。このブラインドボックスは一種のトレンド玩具として、中国の若者市場にうまく浸透しました。文具、美容製品、お菓子、玩具など、さまざまな「ブラインドボックス+」ビジネスモデルも急速に展開されています。現在中国のショッピングモールではブラインドボックスの自動販売機が至る所に見られ、その周りには若者たちが集まって購入している光景がよく見られます。

中国の知名ブラインドボックスのブランド「POP MART」

「Z世代」は旺盛な消費力と強い購買意欲を持ち、ブラインドボックスのランダム性や未知性は、彼らが求める新鮮さや刺激を満たします。ブラインドボックスを収集することは、若者たちにとって大きな楽しみとなり、彼らはソーシャルメディアで自分の「戦利品」やユニークなコレクションを共有することも好みます。このようにしてブラインドボックスは若者たちの間でさらに影響力を拡大しているのです。

ペット経済

もう一つ注目されるのは中国で急速に拡大しているペット経済です。
ペット産業の消費規模は急速に拡大しており、伝統的なペットフードや用品に加えて、ペットの写真撮影、ペット教育、ペットマッサージ、ペット葬儀といったサービスも若者の注目を集めています。また、一部の若者はペット探偵やペットコミュニケーター、ペットインフルエンサーなどの新しい職業にも関わっています。

ますます拡大するペット消費市場規模
記事をもとに、ヴァリューズが翻訳

タオバオや天猫では、ペットのおやつを購入する消費者の50%以上が19歳から30歳の年齢層であり、「Z世代」はペット産業の成長を牽引する主要な原動力となっています。特にペット用品、特にペットフードを選ぶ際には、消費者は品質と安全性を最も重視し、価格はそれに次ぐものです。
従来の世代とは異なり、若者はペットを「家族の一員」として捉え、ペットにより良い生活を提供することを厭いません。自分にお金を使うよりも、ペットにお金を使う方が満足感が高いのです。ペットを飼うことは充実感や達成感を伴い、直接的な喜びと感情的なフィードバックを得られる体験です。若者にとってペットを飼うこと自体が一種の感情消費と見なされています。

占いにハマる中国の若者たち

ここ数年の経済低迷の中で中国の若者は異常に迷信的になり、今や「大事は生年月日で占い、小事はタロット、無事は星座」というフレーズが若者の間で流行しています。
抖音(Douyin/中国版TikTok)で「タロット」や「星座」と検索すると、関連する話題は数十億回の再生数を誇り、数多くのタロット占い師が短編動画プラットフォームでファンの疑問に答えています。
NetEaseのデータ研究チームによると、今年3月に発表された「インターネット占い調査」では、若者が占いの主要な利用者になりつつあり、占いを経験したことがある若者の割合は78.81%に達し、そのうち70%以上がオンラインで占いを行っています

オフラインの「占い屋台」と比べ、インターネット占いは即時性や手軽さなどのメリットがあり、若者たちの選択肢は生年月日占いに限らず、本命星座、タロット占い、夢占いなど多岐にわたっています。
Bilibili(中国版のYoutube)では百本以上のエピソードがあるドキュメンタリー『中国風水文化』は200万回以上の再生数を誇り、中国古代命理学は253.9万回の視聴を記録しています。また、「三分間であなたも六壬占術を使えるように」「タロット入門シリーズ」などの動画も、多くの忠実な視聴者を持っています。

Bilibiliにおける風水に関するドキュメンタリー

インターネットでの玄学ブームは一方で神秘主義そのものの魅力から来ています。人は常に未知の事柄や運命に強い好奇心を抱くものです。また一方で社会の激しい競争や日常生活での挫折による不安や迷いといったネガティブな感情も、若者たちが心の癒しを求め、神秘主義に転向する要因となっています。この熱狂の背景には巨大な潜在消費市場が存在していることを示しています。

未来への展望

ブラインドボックスやペットの飼育、占いに至るまで、その根本にあるのは消費者が追い求める感情価値です。この感情価値が消費者に正確に提供されるとき、その消費には一種の中毒性さえもあります。中国のZ世代はほとんどが一人っ子であり、高速に発展する社会環境の中での激しい競争が若者たちに精神的なストレスを蓄積させています。社会がますます孤独化する中、人々の脆弱な感情を捉えた者こそがビジネスチャンスを手にするのです。

参考文献

【イラストで知ろう!イマドキ中国】 「盲盒」とは何ぞや?
http://j.people.com.cn/n3/2021/0318/c94476-9830259.html
“Z世代”消费观啥样?注重“情绪价值” 追求品质生活
http://www.news.cn/fashion/20240820/b31bd402fcaf482da28afbad394200e8/c.html
互联网算命仍在疯狂“收割”年轻人
http://www.21jingji.com/article/20220125/herald/0f36d6a4368df4092c1eaaee267b20bd.html
算卦、塔罗、风水……年轻人沉迷互联网“算命”?
https://36kr.com/p/1389759043091459


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この記事のライター

広東省出身の中国人留学生。現在は名古屋大学でメディアを専攻している。

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