「データ活用ってなんのためのもの?」をテーマに、データ活用のプロが普段どのような観点からデータを見て、実際の施策に結びつけているのか、マーケティング担当者必見の対談です。
データ活用ってなんのためのもの?
「ビッグデータ×マーケティング」を掲げる株式会社ヴァリューズ、データドリブンマーケティングを掲げるVENECT株式会社。マーケティングでのデータ活用が注目されるなか、いまもっとも熱い2社から話を伺いました。
― おふたりについて教えてください。
株式会社ヴァリューズ データプロモーション局ゼネラルマネージャー・山本渚氏(以下、山本)
マーケティングリサーチ会社での調査設計などを経て、2011年からヴァリューズに参画しています。現在はeMark+を広告代理店やコンサルティング会社向けにASPでご提案したり、クライアント企業のデータ活用やデータマネジメントのコンサルティングを行っています。
VENECT株式会社 代表取締役CEO 大脇香菜氏(以下、大脇)
CRM支援会社会社の事業戦略立案やクライアント企業の海外進出プロモーション支援などを経験してきました。代表とはいえ個別案件にもどんどん加わって、データを基軸にしたマーケティング戦略と実践をお手伝いしています。クライアントの社内データを分析したり、データ保有術の最適化を支援することもあります。
■組織習慣としてのデータ
― マーケティングにおけるデータ活用が注目されています。どんなことを重視されていますか。
大脇:まず、顧客のステージアップなどの目的を明確にして、組織として見るべきデータを決め、定点観測を重ねていくこと。組織習慣としてのデータ活用がもっとも大切だと考えています。
データを見て何かを決める、という順番は違うと思うんです。組織の大目的や仮説がはっきりしていなかったら意味がない。沢山あればいいわけでもない。仮説を立てて議論して、調査して実行して検証して..というマーケティングサイクルを、まずは組織として始めること。その取組みにおける納得感の共有に、データというファクトを活用するのが本質だと思います。本当に実施すべき改善の議論に集中できるようになります。
山本:マーケティング成果という目的があり、その手段としてのデータ活用ですよね。何をやるか、やらないかのスコープが重要です。いきなりデータという細部に入ると、途端に目的がわからなくなります。
大脇:私も、目的の話をすることのほうが圧倒的に多いです。目的によって、見るべきデータが決まってくる。それを定点観測して、変化を見ていく習慣が、強いマーケティング組織の要だと思います。
ひとつの数値を、こんなに下がった、これだけで済んだと見るかは、目的に応じて変わります。局所的に切り出されたデータは、マーケティング戦略全体の文脈とその値が整合しなくなり、善悪の判断を見誤るリスクをはらみます。データ個々の値から入っていくと、顧客のステージアップという目的達成へ向け過去に取り組んできた施策の連続性が損なわれて、目的意識がずれていくんです。
山本:私自身も日々定点観測なのですが、eMark+も、スポット的な施策のための「調査」目的利用に加え、定期モニタリングUIが必要だと社内で話しているところです。クライアントの目的を理解し、変化があったら必要なデータを提示するようなプッシュ機能のイメージです。そういう機能があると、議論にデータが定着しますよね。
大脇:その機能、すっごくほしいです! 習慣を定着させるために、VENECTでは社内外データから定期レポートを作って、クライアントと共有しています。
月次とかキャンペーンなど一定期間のレポートだと、日々の変化に気づけないし、本質的な施策にデータが活かせません。もちろん大きな枠で競合動向などのトピックに気づくことは大事ですが、自社で解決できないような外部要因による変動ばかりに目を向けるより、ほかにやることがあります。時々のトピックに引っ張られず、マーケティング本来の課題やボトルネックを見失わないためにも、定点観測の習慣が重要です。最初は少しずつかもしれませんが、データの意味をどう捉えるのかを共有することによって、着実に意識が変わります。
■データ活用≠IT
― CRMやDMPを導入されているクライアントが多いのでしょうか?
山本:目的達成のためのデータ活用なので、投資が大きすぎたら本末転倒だし、ITありきではないと思います。社内のデータ資産整理は重要ですが、これも目的が定まっていないと、はやく気づきを得られる証左にはなりづらい。「魔法の箱」として過去にはCRM、最近はAIが注目されていますが、仮説を立てる人間の仕事があって初めて、ITは活きてきます。
大脇:人間的コミュニケーションの共通言語としてデータが重要ということですね。施策と結果すなわちユーザーの反応とのギャップ、どうずれているかという気づきを得るには、データが便利。データと人間味と、両方揃うことでバリューが出ます。データを軸にすると変化の捉え方が共有でき、自分はこう思うなどのコミュニケーションが活性化します。
あと、CRMを本当に使いこなすのは、難しい場合も少なくないんです。別々のデータベースに分散したデータを無理に統合して、やっと意味をなすとか。
山本:サイロ化したデータのつなぎこみは厄介ですね。シームレスに連携していれば、プレパレーションや活用もしやすいのですが。組織体制が横断的なデータ活用を前提にしていないので、そもそも人間的な調整が必要だったりして、なかなか機動的にいかない。
大脇:VENECTでは、いきなりIT投資ではなく、まずはシンプルなデータのトラッキング、その習慣化が最優先と提案しています。データソースは社内外複数に渡るかもしれませんが、簡単なダッシュボードを関係者が共有し、定点でウォッチする習慣が大事なんです。
山本:データを見つめる手間や時間、コストをかけすぎるのは、私も賛成しません。いくらでも細かく見ていきたくなってしまうのですが、まずは大きく傾向を定点観測する。大枠を見つめることでボトルネックが浮かび上がってきたら、そこで初めて深耕したりシステムを検討すればいい。細部にこだわりすぎて進まないのは最悪です。
― クライアントはITに強い方が多いのでしょうか?
山本:違います。手段はデジタルが中心ですが、やりたいことはマーケティングです。
色んなクライアントがいらっしゃるので、相手のリテラシーに合わせて密にコミュニケーションしながら進めています。プラットフォームがデジタルでもコンテンツオーナーはアナログだったり用語がバラバラでせっかくの商品記事が検索されていなかったり。記事タイトルの形態素解析からフラグを立ててさしあげた例もあります。目的を理解し、実践可能な方法を相手に合わせて提案する、柔軟性が必要ですね。
大脇:経営陣から「データ活用」「デジタルトランスフォーメーション」などといわれ、はてどこから着手しよう?というご相談が8割です。ソリューションは目的によってITもメディアも多数選択肢があるので、その都度パートナー企業を紹介したりして一緒に最善の方法をご提案します。
山本:デジタルソリューションがすごい勢いで成長するなか、最新技術をキャッチアップする時間はマーケターが頑張るところではないですよね。ソリューションベンダーとコミュニケーションできればいいわけで、間にVENECTさんのようなパートナーがいると心強いですね。
■マーケティング戦略のアクセラレーター
―「データ」という言葉自体、使う方やシーンによって、指しているものが同じではない気がします。
大脇:データ活用って、物事を目的しっかり明確にするためのディスカッションのほうが大事だし時間をかけるべきなのですが、「データ」というもののイメージが先行すると、手が止まっちゃう。 良質なアウトプットは、良質なインプットが創ります。社外データやツールを活用して、良質なインプットを「データ」と意識せず共通言語にしていくといいのかもしれません。データ共有習慣によって、本当に注力すべき創造や意思決定のスピードは格段に上がります。
山本:何でもかんでも、取得可能なデータは全部くれといわれがちです。でも、変化に気づくためのモニタリングを日々小さく重ねるほうが大切です。それをふまえて、個別施策の仮説検証にはその目的に合った調査を実施すればいい。一緒くたにして1回1回の調査内容が多すぎると、やりたいことがわからなくなってしまいます。
大脇:データがいまほど流通していなくても、マーケターは感覚やセンスで鍛えられた経験値からヒットを模索してきたわけですよね。ただ、データがあれば、経験値をもたないメンバーとも、有効な闘い方を証明し共有しやすくなります。活動のPDCAが習慣化されていれば、体制が変わってもスピーディに動けるし、施策の振り返りや改善策の議論がブレなくなります。 いずれにせよ、単発でなく習慣のなかで、繰り返しデータを見ていくこと。組織が変わっても持続するブランド価値向上の取組みには、感覚だけじゃなくて、一定の枠組みが不可欠だと思うんです。1年のうちの数ヶ月ではなくて、年間を通じまたその繰り返しのなかで積み上げてきた過去の取組みを探したり読み解く工数や時間が、昨今のブランドマネージャーには許容されていません。戦略の前に時間がかかると、年間で考えなければいけないのに、実質8-9ヶ月しかなくなっちゃったり。だけど売上目標は年間なわけです。 担当がいつ誰に変わっても、ブランド価値を届け続けることがブランドマネージャーのミッションです。感覚でなくデータ活用しながら落とし込んでいく習慣が組織に根付いていれば、過去の情報を共有しやすく、新年度からすぐスタートダッシュがかけられます。
山本:以前実施した調査の目的がわからなくなって、項目がちょっと違う、似たような調査にまた予算を使うケースもよくありますね。持続性が失われてしまうし、時間もコストも無駄です。戦略、施策を組み立てていくメソッドとモニタリングデータは、ブランド価値の持続性を担保するプラットフォームとして機能してくれると思います。
大脇:時間のロスがもっとも怖い。組織の共通言語として議論や取組みのスピードをあげてくれるもの。それがデータかもしれませんね。
定点観測の習慣の重要性で盛り上がった第1回のマーケティング談義。次回は、仮説、調査、計画、実行、検証といったマーケティングフェイズごとにどのようなデータを活用されているのか、具体的な事例をもとに対談が進みます。お楽しみに。
■事業内容
株式会社ヴァリューズ
2009年創業。消費者の行動履歴に基づくマーケティング調査やデータ活用・マネジメント等のコンサルティング、インターネット行動ログ分析サービス「eMark+」、行動ログをふまえたインターネットリサーチなどを展開。BtoC分野を中心とした250社以上の上場企業のビジネスパートナーを務める。
ビッグデータ×マーケティングで事業の成長を支援|株式会社ヴァリューズ
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ヴェネクト株式会社
WPP傘下のデジタルエージェンシー・VMLの東京支社VML TOKYOとして2013年に創業。2019年4月の独立を機に現VENECT(INVENT+CONNECT)に社名変更。市場調査、顧客分析、戦略立案、施策実行まで、一連のデジタルマーケティングを支援。「eMark+」のユーザーでもある。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。