マーケティング戦略にどのようなデータを活用している?
株式会社ヴァリューズ データプロモーション局ゼネラルマネージャー・山本渚氏(以下、山本)
マーケティングリサーチ会社での調査設計などを経て、2011年からヴァリューズに参画。現在はeMark+を広告代理店やコンサルティング会社向けにASPで提案したり、クライアント企業のデータ活用やデータマネジメントのコンサルティングを行う。
VENECT株式会社 代表取締役CEO 大脇香菜氏(以下、大脇)
CRM支援会社会社の事業戦略立案やクライアント企業の海外進出プロモーション支援などを経験。個別案件にも加わり、データを基軸にしたマーケティング戦略と実践をサポート。クライアントの社内データを分析したり、データ保有術の最適化を支援することもある。
■フェイズ別利用データ例
― 仮説、調査、計画、実行、検証といったマーケティングフェイズごとに、どんなデータを活用されているのでしょうか。
大脇:競合他社の動向やブランド現ユーザーのインサイトを把握するために、SNSや商品レビューなどで使われているキーワードやキーワードに付帯する形容詞なども含めて実に多様なデータを扱っています。
仮説段階では、キーワード分析などで大きなトレンドやユーザーの目線を比較したり、ユーザーのコメントデータデータからどういう属性の方がどんな感情をもたれているかなどを確認します。
VENECTの強みのひとつであるソースオブビジネス調査、つまりその商品・サービスに費やされる金額の源泉の発見が次の段階です。ここでは、ビジネス上の競合をリストアップし、行動ログなどから単に同一カテゴリ競合ではなく、ビジネス全体でみたときの競合を調べます。調査結果をふまえて需要の季節要因などを明らかにしたうえ、マーケティングカレンダーすなわち計画に落とし込んでいきます。検証の段階では、検索キーワードが本当に導線として機能しているのかどうか、コンテンツが相応なのかを確認します。
山本:多忙な現代消費者の時間や財布におけるシェアと考えると、あらゆる商品やサービスが競合になりえますよね。単純にAmazon対Netflixじゃなくて、ソーシャルゲームだったりジムでのワークアウトかもしれない。どうSOBのスコープを絞るんですか?
大脇:商品が提供できるベネフィットと商品の価格ゾーンは大きな要素だと思います。可処分所得における150円と10万円とでは、やっぱり絶対的な価値が違ってくる。観点として利用回数と顧客ベネフィットのバランスは必要だと思います。商材が旅行だとしたら150円のビールを600回我慢した積み上げだったりもするので、一概にはいえないのですが。
そういう意味でも、SOB特定に仮説立て、調査を踏まえたジャーニーの設計は不可欠です。eMark+などを活用しユーザー行動を描き見つめながら、狙いを定めていきます。
― データ活用の事例を教えてください。
大脇:例えば家電メーカーのマーケティングカレンダーだったら、社内の販売データをもちろん使いますが、一般的な需要期、競合製品ユーザーが使っている検索キーワードなど、戦略上必要なデータは社外にこそ多かったりします。
クリエイティブのフェイズだとVENECTではカスタマージャーニーやパーセプションフローをもとにを設計するので、eMark+でサイト訪問の10分前後の行動を確認するととても便利。これは社内にはない情報です。
あと、eMark+では年収や居住地などのユーザー属性からインサイトを得ることが多いです。例えば保険だったらどの代理店の営業エリアでどうユーザーが反応しているのかを確認したりしています。
山本:保険加入なら、購買行動までのプロセスごとに困りごとを見つけて、そこに刺さるキーワードをコンタクトポイントとして配置したいですよね。けど、困ったシーンで使うキーワードって、ユーザー自身に聞いてもわからないことが多い。普段の感情はすごく見えづらいものですが、行動ログだと推察できる場合があります。キーワード分析を使うと、デモグラフィック属性だけでなく、そのひとの感性という属性に訴求できるように思います。
大脇:広告媒体の選定にも、行動ログは有益です。メディアデータで一定の属性はわかるけれど、どう使われているかが知りたい。マーケティング成果を出すには、導線や閲覧後の行動が肝心ですから。
eMark+への要望です。アプリの行動ログをWeb並みにキーワードと一緒に取得したいです!! クライアントは、ユーザーにとって身近なタッチポイントとしてますます独自アプリを重視していますが、アプリが本当に来店を促しているのかどうか。アプリを使ったあと、例えば10分以内にGoogle Mapを開いてくれているのかどうか、すごく気になります。
山本:アプリ内の行動ログ取得は技術的に難しい面もあるのですが、確かに有益な機能ですよね。現場の熱烈な機能拡充リクエストとして、社内で展開します。当社ではWebを導線にしたアプリ起動状況の確認や特定サイト、アプリユーザーを対象にしたアンケートでインサイト調査を組み合わせたりしています。
― ほかに、普段ウォッチしているデータはありますか?
山本:Twitterはよく見ています。業界のオピニオンリーダーだけでなく、ごく普通の新人ママとか新社会人のつぶやきとか、ハッシュタグ動向とか。
「自分ではない属性の方々」が日常的に何を感じているのか。一消費者視点を磨くことで、そうした行動の集合体であるデータのマクロ分析においても、トピックへの反応などユーザー像をイメージしやすくなります。クライアントやチームでの、データの定点観測を使ったテーマ別意見交換なども有効ですね。
大脇:使っているではなく欲しいデータだと、サプライチェーン上で動くデータの全体像が知りたいです。物流も広告コミュニケーションもすごくスピードアップしているわけで、ユーザーの反応もダイレクト。せっかく反応してくれたのに店舗に在庫がないなんて事態は炎上につながりかねません。
シェアリングエコノミーが急速に進むなか、CtoC市場の動向も確認する必要があります。
■データを扱うポイント
― データを扱う上で気をつけていることはありますか。
山本:クライアントと競合の動向を見たり、業界全体を見渡したり、日々やはり定点観測ですね。そのうえで新クライアントの業界について調べると、初めての分野でもデータの意味を理解し業界インサイトをつかみやすくなると思います。
もうひとつ気をつけているのは、一消費者としての視点を磨くことです。自分がどう感じるかに気をつけながら、マクロ的にデータを見たらどうかといったりきたり。2つの視点で向き合う姿勢が、クライアントの信頼につながっていると思います。
大脇:アプローチが似ています! 人間味が欠かせない仕事です。数字でファクトを見ること、一消費者が感じることのバランスを重視しています。
山本:データを見るとわかった気になりがちなのですが、買う人の立場になったときどう感じるかが決め手なわけですよね、実際の購買行動では。マーケティングという生身の人間を動かす取組みにおいて、ひとりの消費者として自分はどう感じるか。ほかのメンバーはどう感じるか。
データは重要ですが、囚われすぎないのがポイントといえるでしょうか。
■社内データはなぜ使いづらいか?使えるデータの要件
― 社内データ活用の課題はどんなことでしょう。
山本:「データはあるので何か活用できる、発見できるはず」というご相談が増えています。資産としてのデータ価値が認知されてきたという側面では喜ばしい傾向ですが、往々にして期待が大きすぎる。そのままの姿では活用しづらいデータが少なくありません。
大脇:データベース構築当初の目的と現在の目的が異なるケースがよくあります。その結果、別々のデータベースに分散していて、つなげてあげないと意味や価値をもたないデータが多いと感じます。
「データというもの」の理解を助けるならeMark+のような外部データサービスやSNS上のデータをきっちり見つめるほうが有効な場合もあります。外部に良質な情報がたくさんあるなら、無理に社内データを使わないほうがスピーディです。
山本:社内データは自社のことしか表していないことがほとんどです。競合や世の中全体の動向と併せて初めて意味が出てきます。社内の既存データって、役職や担当によって異なる誰かの、何か特定の目的のために蓄積されているわけですが、多くの場合その目的はマーケティングではないんですよね。マーケティングの意思決定にそうした既存データを使おうとすると、色々変換しないといけません。
大脇:社外にどういうデータが流通していて活用できるのか、多忙なブランドマネージャーがそもそも知る時間がないケースもあります。コンテンツ制作の提案でeMark+指定キーワードユーザーの属性マップをお見せしたら、多大な時間をかけることなくアウトプットを見ることができることにクライアントはすごく驚かれました。便利なツールがあるのに、社内データにこだわるのは無駄な時間ですよね。
社内データにこだわらず、外部データを手っ取り早く有効活用して、まずはデータをみんなで見つめる習慣をつけていただきたいですね。マーケティング成果というゴールのスピーディな達成が目的であって、データありきじゃないんです。
― データは多ければ多いほどいいのでしょうか。
山本:量は小さくても、最小限の活用可能なデータから使っていくのが効果的だと思います。細かく見だすとキリがないので、マーケティングでやりたいことの目的とスコープにさえ合致していれば、ミニマムでいい。
大脇:マーケティング活動の本質において、闘うべきではないフィールドのデータは使わないほうがいいですね。例えば価格満足度を競合と比較して自社が低かったら、「上げなきゃ」と魔が差しがちです。でも、そこ闘うところでしたっけ、と。ターゲットへのアプローチやパッケージの見せ方など、本来注力すべき施策に必要なデータへフォーカスすべきです。
戦いから帰還した飛行機の損傷箇所は、撃たれても飛行に影響がなかったポイントですよね。補強すべきは「戻らなかった飛行機」の損傷箇所であって、空いても帰還できる箇所の穴は対処の優先順位が低い。「見るべきではないデータ」です。あえて目をつぶって、ブランド基盤として守るところをしっかり守ることが戦略の本質だと思います。
山本:データの質というよりは見方の問題ですね。どこまで対象データを削ぎ落とすかがポイントだと私も大脇さんに同意です。あれもこれもと細かい数字を見始めると本質を見失うので、ダッシュボードから外しちゃいましょうと提案することもあります(笑)。
マクロで大きく捉えて、優先度の高いフィールドでの致命的な課題特定に集中すべきです。とにかく大量のデータやツールに囲まれるいまどきのマーケターはただでさえ多忙です。集中すべきことを決めるのと同じかそれ以上に、「やらないこと」を決めるのも重要だと思います。
大量のデータを集めたり見ること自体が目的ではなく、マーケティングで成果をあげるためにはどのようなデータを見るべきかを考え、外部データやスモールデータを活用することでスピードが上がる、というお二人のお話は、データ活用の一歩を踏み出すヒントになりそうです。次回はこの対談の最終回。顧客のインサイトをもとにマーケティング戦略を設計するメソッドについてうかがいます。
■事業内容
株式会社ヴァリューズ
2009年創業。消費者の行動履歴に基づくマーケティング調査やデータ活用・マネジメント等のコンサルティング、インターネット行動ログ分析サービス「eMark+」、行動ログをふまえたインターネットリサーチなどを展開。BtoC分野を中心とした250社以上の上場企業のビジネスパートナーを務める。
ビッグデータ×マーケティングで事業の成長を支援|株式会社ヴァリューズ
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ヴェネクト株式会社
WPP傘下のデジタルエージェンシー・VMLの東京支社VML TOKYOとして2013年に創業。2019年4月の独立を機に現VENECT(INVENT+CONNECT)に社名変更。市場調査、顧客分析、戦略立案、施策実行まで、一連のデジタルマーケティングを支援。「eMark+」のユーザーでもある。
「データ活用ってなんのためのもの?」|VALUES×VENECT データ活用マーケティング談義(3)
https://manamina.valuesccg.com/articles/524「ビッグデータ×マーケティング」を掲げる株式会社ヴァリューズ、「データドリブンマーケティング」を掲げるヴェネクト株式会社。マーケティングでのデータ活用が注目されるなか、国内有数のデータ分析手法を持つ両社のキーマン同士の対談が実現。最終回の第3回は顧客のインサイトをもとにマーケティング戦略を設計するメソッドについてうかがいました。
法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。
CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している。