BtoBマーケティングでデータ起点のカスタマージャーニーづくりが効く理由とは【ネットイヤー神田×ヴァリューズ宇都宮】

BtoBマーケティングでデータ起点のカスタマージャーニーづくりが効く理由とは【ネットイヤー神田×ヴァリューズ宇都宮】

BtoBでもカスタマージャーニーが重要視され始めたのはなぜなのでしょうか。BtoBマーケティングにおけるカスタマージャーニー活用の理由を探るため、ネットイヤー社の神田さんとヴァリューズ社の宇都宮さんの対談模様を取材しました。


BtoBでカスタマージャーニーが重要視され始めた

カスタマージャーニーはいままで、BtoCのマーケティングで広く使われてきたフレームワークです。しかしここ最近はBtoCのみならず、BtoBの文脈でもカスタマージャーニーが広く使われるようになってきました。

企業のBtoBマーケティング支援の業務に長く携わってきた、ネットイヤーグループ株式会社の神田卓哉(かんだ・たくや)さんも、カスタマージャーニー活用に着目するひとり。現在、株式会社ヴァリューズでデータアナリストを務める宇都宮匡(うつのみや・ただし)さんと、インターネット行動ログのデータを使ったBtoBカスタマージャーニー設計の取り組みを進めています。

BtoBでもカスタマージャーニーが重要視され始めたのはなぜなのでしょうか。今回マナミナ編集部は、BtoBマーケティングにおけるカスタマージャーニー活用の理由を探るため、神田さんと宇都宮さんの対談を企画しました。その模様をお伝えします。

「BtoBマーケティングとは何か」で悩んでいる

宇都宮匡さん(以下、宇都宮)「BtoBマーケティングでカスタマージャーニーが着目され始めたのはなぜか、というテーマですが、そもそもおそらく『BtoBマーケティングで何をすべきかよく分からない』と思っている人が多いのではないかと考えています」

株式会社ヴァリューズ データアナリスト 宇都宮匡(うつのみや・ただし)
関西学院大学大学院 数理科学研究科を卒業。新卒でヴァリューズに入社し、データアナリストとして大手広告代理店、不動産事業会社、求人メディアをはじめ、多様な業界のマーケティングリサーチを経験。最近ではWEB行動ログデータだけではなく、売上データや顧客データなどの分析・可視化を行っている。

神田卓哉さん(以下、神田)「私もそう思いますね。日本のBtoBマーケティングで真っ先に名前が上がるのは、ミスミさんやキーエンスさん、モノタロウさん、NECさんなどですが、こうした世界でも注目を浴びるようなレベルのマーケティングを行っている企業との隔たりが大きいように思います」

ネットイヤーグループ株式会社 デジタルビジネスデザイン事業部 マーケティングクラウド部 プロジェクト推進第2チーム チームマネジャー 神田卓哉(かんだ・たくや)
2000年より、企業Webサイトの構築業務に従事。2004年に、大手自動車買取買社のWebマーケティング担当者に転職。コーポレートサイトのリニューアルおよび、自動車メディアサイトの立ち上げを担当。2006年に老舗通販企業のWebマスターに。データ分析を武器に、コンテンツ制作から、Webマーケティング、そして商品開発まで担当し、6年間で売上規模を月商100万円程度から月商6億(年商70億円弱)にまで育て上げる。2012年よりネットイヤーグループに参画。データを主軸においた各種プロジェクトのディレクションや、プロジェクトマネジメントを主に担当。

神田「例えば、商品の問い合せ段階で受注率を推定するような施策を行っているそうですし、コンテンツも初心者向けから専門家向けまで並んでいて、『どのコンテンツを見たのか?』でアクションを決めたりもするそうです。非常にマーケティングに長けていますね。このような会社さんに憧れて、MA(マーケティングオートメーション)などのツールを導入する企業さんが増えています。ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)も流行っていますしね。そんな流れで、カスタマージャーニーを作ってみたりする企業さんも多い。ただ、ツールを導入してもカスタマージャーニーを作ってみても、うまく使えず何も変わらないといった問い合わせを最近、頻繁に受けますね。

 マーケティングツールを料理で例えると、包丁や鍋といった道具となります。そう考えると、例えばカレーを作るときに、鍋を買ってから「どんなカレーを作ろうか?」なんて考えないわけですよね(笑)。カオスマップができるくらい、いろんなツールが登場しました。しかし、そもそもBtoBマーケティングでは何をすべきなのかが分からず、立ち止まって考えている会社さんが多いという状況に思います」

宇都宮「ツールを導入したあと、いきなりBtoBマーケティングができるようになるわけではないですよね。むしろそこからBtoBマーケティングとは何かを悩み始める企業さんが多いように思います」

神田「そんな状況が起きる背景のひとつには、もともとホームページの更新担当だった方がBtoBマーケティングの担当になる場合が多いことがあります。こうした方々にとって、いきなりマーケティングツールを比較するのはやはりハードルが高いと言えるでしょう。

 今までは、いわゆるケイレツが機能していましたが、そうなくなってしまったというのも、要因の一つであると思いますね。エンドユーザーの把握まで、自社で独立して頑張らなければならなくなった。あとは、働き方改革と人手不足ですね。少なくなるリソースで今まで以上の売上を上げるために、BtoBマーケティングが必要になってきたという流れだと考えています」

データで分かる「不都合な真実」

宇都宮「なるほど。しかし、今までやってこなかったことだから、エンドクライアントがどういう購買検討を行うかどうかが分からない。こうした文脈の中でユーザー理解が必要になっているというわけですね」

神田「そうです。その一環として、ヴァリューズの宇都宮さんと一緒にネット行動調査を行っています。今まで調査と言えばデプスインタビューをしていましたが、これだと結構なお金がかかっていた。そこで営業同行などを行い、クライアントのヒアリングを行っていましたが…」

宇都宮「生の声を聞くのと、データで見る実行動には差がありますよね。例えば失注した際の理由として、予算感が合わなかったという話はよくいただきますが、それが本当かは分からないわけです」

神田「そうなんですよね。本当に担当者が良いと思った商品に関しては、場合にもよりますが、なんとかして予算を押さえるものでしょう。関係性もありますし、対面では本当のことを言わなかったりします。そうしたとき、なかなか読み取ることのできない検討行動の本当のところを知る上で、ネット行動ログは有益な情報をもたらします。競合他社の製品を購入したというような、見たくもなかった不都合な真実が見えることもありますが、受け入れないと次には進めません」

BtoBカスタマージャーニーには横と縦がある

神田「クライアントの検討行動のファクトを明らかにしたら、カスタマージャーニーを設計していきます。ここでもまた行動ログの良いところがあります。それは検討が発生した起点とゴールを設定することができる点です。最近はBtoBのカスタマージャーニーが作られるようになってきましたが、契約までの期間を定義していないものが多いように思います。しかし実はそれが重要なのですね。その期間によって、コミュニケーションの内容が変わってくるのですから」

宇都宮「カスタマージャーニーは一般的に、仮説ベースで作られることが多いと思います。しかしネット行動ログは、その仮説をより確からしいものにすることができる。これも利点ですよね」

神田「カスタマージャーニーマップはBtoBの場合、予算ベースで考えるべきです。例えば会計年度が4月に始まる企業を狙っている場合、予算化が始まる前年度の秋頃には比較検討の候補に入っていないといけません。消費者の需要で変動するカスタマージャーニーとは考え方が違うのです。もちろん、1月から新年度が始まるお客さんもいれば、7月から始まるお客さんもいる。さらに課題や予算や規模が違って、動きが変わってきます」

神田「またBtoBの場合、カスタマージャーニーには横と縦があると考えています。横は従来のカスタマージャーニーと同じような、比較検討→購買という流れ。しかし縦は、組織における情報の流れといったようなものです。まず情報収集をする現場の社員がいて、それを課長に報告する。そして課長は情報を稟議として部長に上げたり、経営に上げたりします。このような縦のコースがBtoBでは存在するわけです。それがどう動くのかを把握することが、カスタマージャーニー設計で重要になります。

 BtoCと違い、BtoBでは態度変容は起きないと言って良いと思います。BtoCでよく言われているような、コミュニケーション施策による態度変容ではなく、情報が上に上がっていくときのジャッジで購買が決まります。決済をする人が違うため、ある程度ロジカルにものごとが決まっていく。この仕組みを理解するためにカスタマージャーニー設計を行うのです」

宇都宮「神田さんがよくおっしゃっている『BtoBのカスタマージャーニー設計は業務理解とほぼ同義』というのは、このような意味ですね」

神田「はい。そこでまず、比較検討がどのように行われているかを行動ログのデータで明らかにします。仮説の肉付けをするためにこのようなリサーチを行い、そして業務理解を深めてカスタマージャーニーを作っていくのです」

BtoBマーケティング、これからすべきことは

神田「データで多くのことが見えるようになってきたので、次はどんなコミュニケーションを取ればいいのかをクライアントに伝えられるようにしていきたいですね。私たちネットイヤーとしては、BtoBマーケティングとは営業の支援だと考えています」

神田「つまり、いままで営業の方が10の工数を使っていたのを、8や9に置き換えるといった支援です。コミュニケーションをツールに置き換えるとは、ずばりコンテンツになるでしょう。例えば、できる営業はメールのテンプレートをステータス別に作るといった工夫をして、お礼のメールをすぐに出しているらしいんです。

 そこで先ほどのカスタマージャーニーの考え方を使って、比較検討の横と、組織の縦のマトリックスを整理します。そして、商談のあとのステータスをマトリックスの中に位置づけ、適切なメールテンプレート=コンテンツづくりを提案することを考えています。それは、行動ログからどういうサイトを見ているのかを明らかにし、抱えている悩みを推察することで実現できるでしょう」

宇都宮「私としては、訴求すべきコンテンツが明確に分かるデータを提供していければと思います。営業の方にとって、コンテンツを作っていくのは工数のかかる難しい作業でしょう。データをベースに支援することができれば嬉しいですね」

この記事のライター

マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。

関連する投稿


カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はカスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


"飲みづらい"のに人気な「ゆっくりビアグラス」誕生秘話と想いに迫る

"飲みづらい"のに人気な「ゆっくりビアグラス」誕生秘話と想いに迫る

クラフトビールメーカー、ヤッホーブルーイングが手がけた"飲みづらい"グラス「ゆっくりビアグラス」。ビール好きからは疑問の声が上がりそうな飲みづらいグラスは、メディアやSNSで大きな反響を呼んだほか、「プレスリリースアワード2024」においてもインフルエンス賞(※)を受賞しました。社会のニーズを的確にとらえ、人々の共感を呼び、形にしていく同社の取り組みについて、河津さんと渡部さんにうかがいました。<br> <br> ※株式会社PR TIMESが開催している「プレスリリースアワード」の賞の一つ。発信と活用により社内外へもっとも広く好意的な影響をもたらしたプレスリリースに贈られる賞


新たなデータマーケティング手法「モーメント」とは?

新たなデータマーケティング手法「モーメント」とは?

昨今のデータマーケティングにおいて「モーメント」を重視した分析が進んでいます。消費者が商品やサービスを求める瞬間を「モーメント」として分析し、UX向上に活かそうとするものです。マーケティングにおける「モーメント」とは何で、なぜ重視されるようになったのか説明します。


国内外で受賞!味の素冷凍食品「冷凍餃子フライパンチャレンジ」における生活者との共創ポイント

国内外で受賞!味の素冷凍食品「冷凍餃子フライパンチャレンジ」における生活者との共創ポイント

味の素冷凍食品株式会社の「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトが、日本マーケティング大賞 奨励賞の他、世界有数のPRアワードである「PR Awards Asia-Pacific 2024」で3部門のゴールドを受賞しました。「冷凍ギョーザがフライパンに張り付いた」という一件のSNS投稿からはじまったという、このプロジェクト。立ち上げの背景や、取り組むうえで大事にされていたことを、同社 戦略コミュニケーション部 PRグループ長の勝村敬太氏に伺いました。


社内の営業資料・企画資料を自動で整理する「Pitchcraft (ピッチクラフト)」~ 社内にある“使える資料”が、みんなのものに

社内の営業資料・企画資料を自動で整理する「Pitchcraft (ピッチクラフト)」~ 社内にある“使える資料”が、みんなのものに

マーケティングの業務支援を行うSaaSとして、「Dockpit」を提供してきたヴァリューズが、2024年7月、組織の提案力と生産性を向上させる提案ナレッジシェアクラウド「Pitchcraft(ピッチクラフト)」をリリース。社内の情報を効率よく共有したいという思いから開発したツールは、その圧倒的な利便性からプロジェクト化し、1つのサービスとして世に出ることになりました。本記事ではナレッジシェアの重要性にはじまり、「Pitchcraft」の特徴や効果などについて、データマーケティング局アライアンスG マネージャーの大櫛、ソリューション局 システムソリューションG マネージャーの大島に取材しました。


最新の投稿


現役大学生のうち約4割がマスメディアよりSNSを信用!情報は正確性よりも"早さ"で選ぶのが主流【RECCOO調査】

現役大学生のうち約4割がマスメディアよりSNSを信用!情報は正確性よりも"早さ"で選ぶのが主流【RECCOO調査】

株式会社RECCOOは、同社が運営するZ世代に特化したクイックリサーチサービス『サークルアップ』にて、最新のZ世代調査として「情報リテラシー」をテーマにした調査を実施し、結果を公開しました。


コスモヘルス、シニア世代の保険加入に関する実態調査結果を公開

コスモヘルス、シニア世代の保険加入に関する実態調査結果を公開

コスモヘルス株式会社は、同社が運営するシニア専門の調査プラットホーム「コスモラボ」にて、保険に関する市場調査・アンケートリサーチを実施し、結果を公開しました。


カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

カスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回はカスタマージャーニーマップ(体験設計のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


コンタクトレンズを使用したい子どもは6割以上!対して9割超の親が子どものコンタクトデビューに不安あり【メニコン調査】

コンタクトレンズを使用したい子どもは6割以上!対して9割超の親が子どものコンタクトデビューに不安あり【メニコン調査】

株式会社メニコンは、小学4年生以上中学3年生以下の子どもを持つ親を対象に「子どものコンタクトレンズ選びに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


Z世代が最も利用しているSNSは「YouTube」で利用率8割超!前年から利用率が最も伸びたのは「BeReal.」に【サーバーエージェント調査】

Z世代が最も利用しているSNSは「YouTube」で利用率8割超!前年から利用率が最も伸びたのは「BeReal.」に【サーバーエージェント調査】

株式会社サイバーエージェントは、インターネット広告事業の「サイバーエージェント次世代生活研究所」において、「2024年 Z世代SNS利用率調査」を実施し、Z世代が利用しているSNSおよび各世代のSNS利用率・認知率を発表しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ