新型コロナウイルスの化粧品業界への影響
こんにちは。データマーケティングの会社・ヴァリューズでコンサルタントを務めている伊東と申します。
株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント 伊東茉冬(いとう・まゆ)
新卒では出版社に就職。営業・社長秘書を務めたのち、ヴァリューズに入社。現在は事業会社に対してマーケティング支援を行っている。息抜きは欅坂46の動画を見ること。
私は美容雑誌にはくまなく目を通し、SNSも駆使して情報を集める美容好きです。
今回は、前回の記事『いま化粧品市場では何が起きている?新型コロナの影響を検索データからマーケコンサルが読み解く』に引き続き、新型コロナウイルスの化粧品業界への影響について、調査していきます。
いま化粧品市場では何が起きている?新型コロナの影響を検索データからマーケコンサルが読み解く
https://manamina.valuesccg.com/articles/799感染拡大により百貨店などが営業自粛となっている中、化粧品業界へはどのような影響が及んでいるのか。消費者の化粧品への関心度合の変化や、化粧品の中でもアイテムによって違いがあるのか、Web行動データを基に分析します。
新型コロナウイルスの影響はもはや一過性の物ではなく、長期的なものとして受け入れることが必要とされる中、化粧品業界としても「新たな生活様式」へどのように対応していくのか、考えていく必要があります。
外出の機会が減ったこと、マスクを常に着けるようになったことがあり、特にメイクアップに関しては以前とは頻度・関心ともに変わってしまっています。
しかし、このような状況だからこそ生まれた新たなニーズはないのでしょうか。「消費者のニーズ」という観点で、アンケートやWeb行動ログから読み解きます。
化粧頻度や美容に関する関心の変化
まずは化粧頻度や美容に対する関心の変化を見てみましょう。
こちらは外出自粛前と自粛後で、化粧頻度にどの程度変化があったかをアンケートにて調査したものです。
外出自粛前後での化粧頻度に関するアンケート調査(調査期間:2020年6月5日~6月11日)
調査結果を見ると、外出自粛期間前は週に3日以上化粧をする人が7割以上を占めているのに対し、外出自粛後は約5割に減少していることがわかります。また、化粧を全くしない人は、外出自粛以前に比べ、外出自粛以後には約2倍に増加しています。
このことから、化粧頻度はやはり減少傾向であることが分かります。
また、検索キーワードでも動向を見てみましょう。スキンケア関連キーワード「化粧水」とメイクアップ関連キーワード「ファンデーション」を比較してみます。
「化粧水」「ファンデーション」検索者数推移(PC&スマートフォンデータ合算)
「化粧水」検索は4月に一度減少したものの、5月に入り盛り上がりを見せ、6・7月では落ち着いている傾向です。しかし、2020年7月と、前年の2019年7月を比較すると、検索ボリュームは約3割増えていることが分かります。
一方、ファンデーションは4月に減少し、5月に回復しているものの、コロナ影響以前ほどには回復していないことがわかります。依然としてメイクアップへの関心は低下傾向にあるものの、スキンケアに関しての関心はむしろ高まっていると言えそうです。
コロナウイルスの影響で新たに生まれたニーズは無いのか?
メイクアップへの関心低下など、化粧品業界では厳しい状況が続いていますが、このような状況下だからこそ生まれた新たなニーズは無いのでしょうか。分類して調べていきます。
まずはニーズを大きく「美容に関して」と「世の中(生活)全体」の2つに分けて考えます(下図の縦軸)。さらに、横軸には「コロナ影響で新たに生まれたニーズ」「伸びが見込める領域」を設定。これは、前者が消費者の不(不便・不安・不満)から生まれたマイナス要素からのニーズ、後者が志向の変化や状況への適応から生まれるプラス要素からのニーズと考えてみました。
この4象限の具体例は次のようなものとなっています。
四象限
以降は、トピックとして上記の中からいくつか取り上げて見ていきたいと思います。
■①美容に関して消費者の「不」から生まれたニーズ(左上)
美容に関して新型コロナウイルスの影響で新たに生まれた「不」として出ているのが、マスクによる肌荒れです。日常的にマスクをつけることにより、マスクに触れている部分が肌荒れしやすくなっています。
検索キーワードの傾向としても「肌荒れ」検索が5月に増加し、6月・7月では落ち着いてきているものの、2019年の7月と比較すると検索量は2倍となっています。
「肌荒れ」「シミ」検索者数推移(PC&スマートフォンデータ合算)
また、「シミ」検索も増加しており、2020年5月以降増加したまま維持傾向であることがわかります。アンケートで聴取した美容に関する悩みでは、
「鏡を見る機会が増えたのかシワシミなどアラばかり気になる(50代女性)」
と回答した方もいました。
化粧頻度が下がったためすっぴんでいる時間が増え、さらに家にこもり鏡を見る機会が増えた結果、肌質などが気になる人が増えているのかもしれません。
■②世の中全体的に消費者の「不」から生まれたニーズ(左下)
世の中全体として新型コロナウイルスの影響で新たに生まれた「不」としてあるのは、手洗い増加による手荒れや、ストレスの増加です。
検索キーワードの傾向としても、「手荒れ」検索は前年と比較して2.1倍に検索者数が増えています。また、「ストレス」についても同様に比較すると1.2倍に検索者数が増えています。
「手荒れ」「ストレス」検索者数推移(PC&スマートフォンデータ合算)
さらに、「手荒れ ○○」や「ストレス ○○」のように、これらのワードと掛け合わせて調べられたキーワードで、どのようなものが増えているかを調べてみました。下記の表にそのユーザー数ランキングを示しています。
データによると「手荒れ」では「アルコール消毒」に関係するキーワードが伸びており、「ストレス」では「ストレス発散・解消」に関係するキーワードの検索者数が増加していることが分かりました。
2019年2月~7月と2020年2月~7月を比較した際の「手荒れ」との掛け合わせ検索キーワード ユーザー増加数ランキング(PC&スマートフォンデータ合算)
2019年2月~7月と2020年2月~7月を比較した際の「ストレス」との掛け合わせ検索キーワード ユーザー増加数ランキング(PC&スマートフォンデータ合算)
このような世の中全般的に増えている消費者の「不」のニーズに対して、化粧品だとどのようなことができるのかを考えていくことが、顧客との接点を増やしていくことに繋がりそうです。
■③美容に関して伸びが見込める領域(右上)
続いて、美容に関して志向の変化や状況への適応により伸びが見込める分野はないのか、探っていきましょう。業界としても最近注目されている男性用化粧品について分析してみます。
まず、スキンケア関連キーワードである「化粧水」検索者は男性だけに絞るとどのくらいいるのか、また、時系列で伸びはあるのかを調べます。
「化粧水」「乳液」検索者数推移(男性のみ、PC&スマートフォンデータ合算)
時系列でみると、2018年8月から2020年7月にかけて、検索者数は1.5倍に増加しています。
徐々にではありますが、右肩上がりで増加傾向であるため、今後も引き続き関心のある人は増えていくのではないかと予想されます。
また、実際に大手ECモールで男性が閲覧していた化粧水カテゴリの商品に関しても特徴が見られたのですが、詳細はダウンロードいただけるレポートよりご覧ください。
■④世の中全体的で見て伸びが見込める領域(右下)
最後に、世の中全体的にニーズの高まりがみられる領域についてです。
2020年7月時点で前月比・前年同月比ともに伸びが見られるサイトの中に、「自己研鑽」に関係するサービスが多く見られました。特に、下記の3サービスに注目してみると、どのサービスもコロナウイルスの影響が大きくなり始めた2020年3月以降、ユーザー数を伸ばしています。
・オンライン英会話「レアジョブ」(https://www.rarejob.com/)
・WEBデザイン・プログラミングスクール「インターネットアカデミー」(https://web-camp.io/)
・プログラミングスクール「DMM WEB CAMP」(https://www.internetacademy.jp/)
ユーザー数推移(2019年8月~2020年7月 PC&スマートフォンデータ合算)
さらに、3サイトに訪問しているユーザーの属性を比較してみると、比較的男性の割合が高く、また、年代では20代の割合がすべてのサイトで最も高い、という結果になりました。
ユーザー属性(2019年8月~2020年7月 PC&スマートフォンデータ合算)
他の年代に比べ単身の人が多いと思われる20代の人は時間を持て余している、もしくは将来への不安から自己研鑽に目が向いたのかもしれません。
消費者ニーズからコミュニケーション設計を考える
最後に、発見したニーズに関して「化粧品」というカテゴリでどのようにアプローチができそうかを考えてみます。
美容領域ではおそらく多くの企業が取組んでいるのではないかと思いますので、世の中全体で見て生まれたニーズに対してアプローチする方法がないかを考えてみました。
上図にまとめたように、大きく2つの方向性が考えられそうです。
まず消費者の「不」に関して、「手洗い」や「ストレス」の増加というトピックがありました。そこで例えば、「手荒れ」という不に対するコミュニケーション設計として、「手洗い・消毒・保湿を1セットにしたハンドクリーム」のような訴求は効果的かもしれません。また、ストレスのかかる状況下に対して、「いつもと違うリップ(メイク)で変化を取り入れよう」といった訴求も良いのではないでしょうか。
また、プラス志向の変化として、「自己研鑽」というキーワードも見られました。例えば「この時間を活かして身体や肌に投資しませんか?」というテーマには、ニーズがあるだろうと考えられます。
ではまとめます。本稿では、コロナ禍による化粧品領域の消費者の関心の変化を検索ワード等を用いて分析し、ニーズを「不の解消」と「伸びが見込める領域」の2つに分類することで、これからのコミュニケーション方法を考えてみました。パラダイムシフトが起こった状況下だからこそ生まれた新たなニーズを起点とし、消費者へのアプローチを考えることが今できることの1つではないでしょうか。今回のデータや分析を参考にしていただけたら幸いです。
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■「長引くコロナ禍で、化粧品へのニーズはどのように変化しているのか?Web行動ログから読み解く消費者の実態」
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株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント 伊東茉冬(いとう・まゆ)
新卒では出版社に就職。営業・社長秘書を務めたのち、2019年にヴァリューズに入社。現在は化粧品、日用品、住宅業界などの事業会社に対してマーケティング支援を行っている。