中国での「お姉さん経済」とは
UBSグループの香港駐在戦略担当者の劉鳴鏑さんが発表した、「お姉さん経済」について報告書によると、「お姉さん経済」を主導する「お姉さん」たちは、「20歳から40歳までの高学歴で都市部に住む女性」であり、彼女たちが特に関心を持つ領域は「免税商品(化粧品、ハイブランド)」、「医療(美容)」、「ゲームアプリ」、「ネットコンテンツ」に分けられます。
そして、結婚、出産などライフステージの変化により、「教育」や「育児」まで興味を持つようになる可能性もあり、お姉さんたちが化粧品、スポーツ・レジャー用品から食品、飲料品、家電まで各業界の繁栄・発展を牽引していると述べています。
また、2020年まで中国における「お姉さん経済」の市場規模は5兆元になると予想してます。
この「お姉さん経済」が生まれた理由は、女性の活躍が進む中、所得が増え、女性向けのサービス・商品が増したからです。
中国では、大学または、大学での教育と同等レベルの教育を受けた女性が女性総人口の56%(2019年)を占めており、女性の就業率は89%(2019年)に達しました。この数字には、中国人女性の強い仕事志向が反映されており、絶えることなく仕事を通じ、自分に挑戦する、仕事を通じて自分の人生価値を実現するといった考え方を持つ女性が多く存在することが分かります。
そのため、女性の所得は年々上昇を続けており、それに伴って女性消費者をターゲットとするサービスやECプラットフォームも、ここ数年たくさん見られるようになってきました。
例えば、女性向けファッションに特化したソーシャルEC「蘑菇街(MOGUJIE)」
蘑菇街(MOGUJIE)アプリの画面
中国版のインスタグラムともいわれる口コミアプリ「小紅書」(RED)
小紅書(RED)
中国における天猫や京東に次ぐ第3位の巨大ECサイト唯品会(VIPSHOP)
ECサイト唯品会(VIPSHOP)
また、女性EC利用者の拡大を背景に、女性向けのマーケティング・プロモーション活動も注目されています。その例として、国連で制定された「国際女性デー(International Women’s Day)」と同じ日に行われるT-mall「女王の日」、JD.com「バタフライフェス(蝴蝶節)」、海外ブランド品販売に特化した「88グローバルカーニバル」などが挙げられます。
中国の「お姉さん」の消費傾向
「お姉さん」の消費傾向は五つの特徴があります。
①自意識が強い
「お姉さん」は、商品の質と実用性を重視するが、自分のセンスや欲求を満たしたブランドに手を出す「ご褒美消費」の傾向も見られます。
そのため、商品名、パッケージ、色味から店舗の雰囲気などによって「衝動買い」することがよくあります。例えば、空港でしか買えない免税商品、また「空港型市中免税店」という新たな形態の免税店に強い興味があり、ANA DUTY FREE SHOPの売上構成比を見てみると、中国人観光客の中で、化粧水や美容液などスキンケア商品をまとめた「セット商品」がよく売れています。
②商品・サービスの多様化を求める
多様な生き方を求める「お姉さん」たちは、ライフステージの変化に伴った多種の商品・サービスに期待しています。
例えば、最近、子育て消費、ベビー・キッズ用品、早期教育向けのサービスが多様化しています。その中でも、889万人のユーザーを抱えるまで成長したのが育児コミュニティサイトの「宝宝樹(以下、Babytree)」であるアリババからの出資を受け、ユニコーン企業として評価されています。
③個性を求める
自立心が強い「お姉さん」たちは、個性を求めています。特別なデザインがある服、限定性がある化粧品など、消費者心理の動きに合った商品のプロモーションは特に、ファッション、EC、コスメ領域に盛んに行われています。
例えば、限定のコスメ&化粧品、クリスマスコフレなど限定性がある商品が最も「お姉さん」たちにマーケティング効果があると言われています。
④積極的に自己投資を行う
自己投資の種類は多岐に渡りますが、自分の能力の成長に投資するだけでなく、「お姉さん」たちは「美」という分野への投資も惜しむことなくします。
中国国内で、美容外科、美容皮膚科、エステなどの美容診療を行うクリニックが爆発的増加しており、海外旅行の際に美容医療の施術を受ける人も増えています。例えば、「訪日美容医療観光」が人気であり、目もとエステ、超音波美顔器、ナノスチーマーなどの日本製の美容家電も「お姉さん」たちによく売れています。
⑤娯楽・レジャー消費の増加
モノ消費からコト消費への転換に伴い、「お姉さん」たちの娯楽・レジャー消費の増加も見られています。
観光によって「リラックス・癒やし」を求め、またはフィットネス活動を利用して仕事上のストレスを発散したり、引き締まった体を実現させることを目標にしている女性が増えています。
中国・北京のビジネススクール長江商学院によると、この数年で3万7,000カ所以上のフィットネスクラブが新たに開設され、このフィットネストレンドを牽引したのはミレニアル世代の「お姉さん」と言われています。
今後の傾向・まとめ
「お姉さん経済」を発展させるために様々な消費領域で「お姉さん」のニーズをよりよい形で満たせるような提案をしていくことが重要ですが、その中でも特に、従来のしきたりや考え方に囚われない柔軟性や「自分らしさ」を持つ「お姉さん」のペルソナを描き上げた商品やサービス、プロモーション企画は勝ち残るでしょう。
また、大量にあふれる情報に踊らされることなく、自分の求めるものを確実に選択する「お姉さん」をターゲットにしたマーケティング活動を行うには、視点や時代の変化をふまえつつ、プロモーション方法の多様化への取り組みが必要になると考えられます。
<参考文献>
“小姐姐”经济来了 年轻女性推动中国消费增长
http://www.chinatradenews.com.cn/content/202008/12/c114752.html
人民網日本語版 中国の「おねえさん経済」がやってきた 消費の推進力に
http://j.people.com.cn/n3/2020/0813/c94476-9721335.html
小姐姐经济来了
https://xw.qq.com/cmsid/20200807A0W1QM00
MBA智库・百科
https://wiki.mbalib.com/wiki/她经济
中国出身の留学生。慶應義塾大学に在学中。