「マーケティングリサーチ」と聞くと、大量のグラフやデータが並んでいたり、「多変量分析」や「因子分析」などと専門用語が飛び交う調査レポートを思い浮かべて、なんだか難しそうと思う方もいるかもしれません。確かにそうした分析が鍵を握る場合もありますが、一方で多くの場合、マーケティングリサーチはシンプルな設問と集計方法で行われます。
そこで今回は数式などは一切使わず、「面白そうだな」「なんだか自分でもできそうだ」といった状態になってもらうことを目指して、マーケティングリサーチの基礎知識を解説します。マーケティングリサーチの入り口として活用してみてください。
マーケティングリサーチのWhat
最初に、そもそものマーケティングリサーチの定義から確認してみましょう。日本マーケティング・リサーチ協会によると、マーケティングリサーチとは次のように定義されています。
企業などの組織が、商品・サービスを提供するために、お客様を知り、お客様にあった商品・サービスをつくることで、様々な経営資源を効率的に運用するために顧客を知る活動
また、以下のようにも言われています。
企業や団体、政府等の意思決定を支援することを目的として、統計学および社会科学、行動科学、データサイエンス等の理論または手法を用いて、個人または組織に関する情報を体系的に収集し、分析し、解釈すること。上記にあてはまる限り、すべての形態の市場調査、世論調査、社会調査およびデータ解析を含む。
簡単にまとめると、マーケティングリサーチは企業や団体の活動に活かすために行う情報収集・分析と言えるでしょう。
マーケティングリサーチで扱うデータの種類は、行うリサーチの目的に合わせて選択されるため、多岐にわたります。たとえば次のようなデータが挙げられます。
とはいえ、目的に関わらずマーケティングリサーチの一連の流れは「データを集めて分析、その結果を企業や団体の活動に活かす」ことです。最初は多様なデータがあるんだな、程度で理解しておけば大丈夫です。
▼関連記事:市場調査とマーケティングリサーチはどう違うのかについては、下記の記事にまとめています。こちらも併せてご覧ください。
市場調査とマーケティングリサーチ、両者の違いや調査方法を解説
https://manamina.valuesccg.com/articles/1291商品やサービスの企画・開発にあたり、マーケティング施策立案の材料になるのが市場調査とマーケティングリサーチ。混同しがちですが、両者はベクトルが異なっています。市場調査は過去、マーケティングリサーチは未来にベクトルが向いています。このように性格が異なる両者の違い、そして主な調査方法などを解説します。
マーケティングリサーチのHow
では、実際のマーケティングリサーチはどのような方法で行われるのでしょうか。マーケティングリサーチは大きく分けると、定性調査と定量調査の2つに分類できます。以下、この2つの調査方法について具体例を交えながら解説します。
まずは定性調査について。これは言語情報を中心に収集して分析する調査手法です。
定性調査では主に記述的な手法を用います。そうすることで、回答者の生の反応や、個々の対象者ごとに異なる項目の調査も可能となり、自由度が高いというメリットがあります。特にマーケティングリサーチにおいては、仮説の抽出や消費の理由、プロセスの把握、消費者の深層心理の把握といったテーマで利用されることが多いです。
次に定量調査です。これは取得したデータを数値化して分析する調査手法です。
収集したデータを統計的に処理して数値化することで、全体の構造や傾向が把握しやすいというメリットがあります。特にマーケティングリサーチにおいては、仮説検証や消費実態の把握、マーケットのシェア・ポジションの把握といったテーマで利用されることが多いです。
この2つの調査方法の違いを、映画「名探偵コナン 緋色の弾丸」の鑑賞理由調査の具体例を用いて見てみましょう。
まず定性調査の場合です。観客一人一人に対して、映画「名探偵コナン 緋色 の弾丸」を見た理由は?とインタビュー調査を行うのは定性調査です。この場合、たとえば「子供が見たいと言っており、自分も昔好きな作品だったから」という回答が返ってくれば、「他の作品より親子鑑賞率が高そうだ」「大人も作品を楽しんでいそうだ」という仮説を抽出することができます。このように定性調査では対象に対する深い理解や洞察を得るために行うという側面があります。
次に、定量調査ではどうでしょうか。これは、たとえば次のような選択肢を用意してアンケート調査を行う場合が挙げられます。
映画「名探偵コナン 緋色の弾丸」をどなたと一緒に利用しましたか?
□ | 自分ひとりで |
□ | 友人と |
□ | 親子で |
□ | 夫婦・恋人と |
ここでたとえば、「親子で」という回答が平均より多かった場合、親子鑑賞率が高いことが分かります。すると先ほど定性調査で抽出した「他の作品より親子鑑賞率が高そうだ」という仮説が検証できるでしょう。
このように、ある程度仮説が立っていて、それを検証したい場合には定量調査が効果的です。目的に合わせて定量調査と定性調査を使い分けることがマーケティングリサーチにおいて重要になるでしょう。以下、定量調査と定性調査それぞれの主な調査手法をまとめました。参考までに見てみてください。
定量調査、定性調査それぞれで使われる手法の例
ちなみにマーケティングリサーチの市場全体としては、1回限りで完結し、そのときごとに行われるアドホック調査が主流です。また、アドホック調査全体のうち75%が定量調査であり、さらにそのうち約7割がネットリサーチとなっています。現在はアドホックでネットリサーチを用いて定量調査を行うのが、最もポピュラーなリサーチ手段だと言えるでしょう。
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エンタメ・スポーツ業界ではコンテンツの強さに依存しすぎないマーケティングが重要だ【リサーチャーが語るアンケート虎の巻】
https://manamina.valuesccg.com/articles/1455リサーチャーの菅原大介さんが、消費者・生活者のことを深く知るためのアンケート調査法を語ります。今回のテーマはエンタメ・スポーツ業界。カテゴリの特徴を洗い出した上で、エンタメ・スポーツ業界でユーザーリサーチを行うときの3つの観点を示し、それぞれの質問文例と、そこから導くべき考察についても解説します。当該の業界に携わる方だけでなく、真にユーザーのニーズを知りたい方に必見の内容です。
マーケティングリサーチのWhen
では、マーケティングリサーチはどのタイミングで行うべきなのでしょうか。結論としては、マーケティング活動のすべての段階で役に立つということになります。
市場分析・ターゲット選定から離反者調査まで、あらゆる場面でマーケティングリサーチは有効です。それぞれの場面でどんな調査が効果的かをまとめたものが下記になります。
マーケティングの各段階において効果的なリサーチをまとめた図
一連のマーケティング活動のなかで、それぞれのタイミングごとに役に立つ調査があることが分かります。上の表を元に、どんな調査が必要なのかを検討してみてください。
▼関連記事:市場把握の手法や4P分析などについて、マーケティング戦略を立てる際に効果的な10のフレームワークを下記の記事でまとめました。こちらも併せて参考にしてみてください。
マーケティング戦略とは、商品やサービスを消費者に対して競合と差別化し、いかに自社のものを手にとってもらえるかを考えてそれを実行に移すものです。この際「フレームワーク」を活用すると漏れなく、効率的に戦略を立案できます。今回はマーケティング戦略立案に役立つ10のフレームワークを紹介します。
マーケティングリサーチの分解:家電購入の調査事例より
最後に、実際の調査事例として、株式会社ヴァリューズが行った「家電購入に関する調査」を元に、マーケティングリサーチの要素を分解してご紹介します。
この調査では、「どんな商品が、いつ、どれくらい売れそうか?」を知ることを目的に行われました。この目的は以下の3つに分解できます。
家電購入に関する調査の目的
目的1 | 市場規模を把握するために、昨年1年間に購入された家電の種類を知る |
目的2 | 商戦時期を把握するために、家電の購入時期を知る |
目的3 | 商材別の重視点を把握するために、家電別の購入重視点を知る |
このうち、目的2「家電の購入時期」をリサーチした結果が下図になります。
横軸が購入月と購入した家電の種類、縦軸が購入率のグラフです。
一見作成に苦労しそうな複雑なグラフに見えますが、このグラフを作成するにあたって必要な設問は以下の2つだけです。
Q1.あなたが「直近1年以内に購入した家電」は何ですか?
□ | テレビ |
□ | プロジェクター |
□ | 家庭用ゲーム機 |
□ | ブルーレイ・DVDレコーダー |
□ | 冷蔵庫 |
□ | 炊飯器 |
□ | 電子レンジ・オーブン |
など
Q2.あなたは「直近1年以内に購入した家電」をいつ購入しましたか
○ | 2019年12月以前 |
○ | 2020年1月 |
○ | 2020年2月 |
○ | 2020年3月 |
○ | 2020年4月 |
・・・ | |
○ | 2020年12月 |
この2つの質問の回答結果を組み合わせ、家電をカテゴリ別に分類することで、上記の折れ線グラフを分析結果として取り出しているのです。
このように実はアンケート調査の設問はシンプルなものの積み重ね。分析の際は、それらの設問のなかから適切な設問同士を組み合わせて見ることによって、洞察を試みます。つまりテーマと目的が決まってさえいれば、設問自体を考えるのは難しくありません。
まとめ
今回はマーケティングリサーチの基礎知識について、事例も織り交ぜながら解説しました。定量調査と定性調査をうまく活用し、設問を組み合わせて分析を行うことがポイントです。また、実は設問のひとつひとつはシンプルでOKという点も重要でした。
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Googleフォームでつくる「利用者アンケート」テンプレート(BtoC編)|きほんのアンケートフォーム
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