SNSはユーザーとコミュニケーションがとれる場所
――はじめに「公式SNS運営アンケート」とはどのようなアンケートでしょうか?
菅原大介(以下、菅原):自社が運営する公式SNSの利用状況をユーザーアンケートにて聴取し、公式SNSの効果検証やユーザーがどのようなことを求めているのかなどを取得するアンケートを「公式SNS運営アンケート」と位置づけました。SNSはユーザーとコミュニケーションがとれるメディアで、企業にとって重要な顧客接点です。「公式SNS運営アンケート」を通じて、ユーザーからのフィードバックを得ながらSNSの運営方法を改善していきます。
――菅原さんが公式SNSでアンケートを行う手法に着目されたのはなぜでしょうか?
菅原:近年SNSを運営している企業が増えているにもかかわらず、SNS運用担当の仕事価値は広まりづらいなと感じたからです。とくにアプリを運営されている企業などでアンケートが実施されるケースが増えている印象ですね。
SNSもTwitterやInstagram、LINE、YouTubeなどの複数のツールを持ったり、自社のサービス別にアカウントを分けたりしているケースも見受けられます。こうしたSNS間での連携は扱っているSNSが多くなればなるほど難しいものですが、ユーザーアンケートを実施すれば総合的にSNSにおける自社の評価や方針に役立てられます。この点が興味深く、注目しました。
――公式SNS運営アンケートが向いているのはどのような企業でしょうか?
菅原:まず、複数のSNSを運営したり、マルチアカウントでSNSを運営している大企業にとって、公式SNS運営アンケートは効果的です。というのも、あとで出てくるようにメリットとして「マーケティング成果の複線化」ができるので、SNSの価値を明確化しやすいからです。
もうひとつ、アカウントの「バズり要素」はないけれども、機能として必要なためSNSに力を入れて運営している企業にも役に立つでしょう。SNSの効果は短期的な「バズ」に目が向きがちですが、それ以外にも顧客接点として重要な役割を果たしている場合もあります。そのような、SNS上の数字には見えづらいフィードバックを得るために、公式SNS運営アンケートは効果的だと思います。
――どのような職種の方が公式SNS運営アンケートを行うのでしょうか?
菅原:SNSの運営を会社方針や事業計画と結びつけることができる事業企画や営業企画などの担当者がいいのかなと思います。SNSの運営担当だと方針や計画がおりてこなかったり、運営を外部に委託していて共有できなかったりするケースもあります。そうなると運営担当では「アンケートを行おう」などの発想になりづらいためです。
公式SNS運営アンケートの3つのメリット
――公式SNS運営アンケートのメリットは何でしょうか?
菅原:公式SNS運営アンケートのメリットは大きく3つあります。1つ目は「マーケティング成果の複線化」になること。SNS活動の運営指標は、投稿インプレッションや新規フォロワー数、お気に入り保存率などの指標で確立されています。SNS担当者はKPIや実績を社内に強調していく必要がありますが、自社のSNSアカウントの評価や、ほかのSNSと比較した際の比較を周囲に説明しづらいのです。
ここで公式SNS運営アンケートの回答と日々のユーザーエンゲージメントを表す各種指標の数値を併せることで、周囲に伝わりやすいSNS成果として評価できます。このように公式SNS運営アンケートは「マーケティング成果の複線化」になるのです。
――2つ目のメリットを教えてください。
菅原:2つ目は「担当ツールをまたいだ検証」ができることです。とくに実際の現場ではSNSごとに担当者を分けているケースが多く、SNS同士を比べて評価できず、会社としてSNSの良し悪しを評価しづらい。その点同じ内容のアンケートをとることで比べやすく、SNSを統括しやすくなります。
――3つ目のメリットは何でしょうか?
菅原:本来SNSはイメージ向上やブランディングなど、長期的に成果を得られるものです。これらは日々のコンテンツ投稿の積み重ねで得られる成果ですが、ビジネス貢献を意識して告知や宣伝ばかりをSNSに投稿しているとユーザーは離れてしまいます。SNS担当者がユーザーが求めていることを理解している場合はいいのですが、これがなかなか難しい……。
しかしアンケートを通してユーザーの要望を知ることで、投稿コンテンツの統一に必要な材料を得られます。SNSアカウントを通じて会社の個性を検証することができ、さらにファンの姿をデータに映し出すこともできるのです。こういった「ユーザー接点の機能性」を広げられる点もメリットですね。
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「公式SNS運営アンケート」のモデルケース
――公式SNS運営アンケートにはどのようなモデルケースがありますか?具体例を教えてください。
菅原:とくにアプリ事業会社では公式SNS運営アンケートを行うケースが増えています。今回は公式SNS運営アンケートの代表的な3つのモデルケースを説明します。
■①実態把握モデル
菅原:まずは実態把握モデルから説明します。これは各アカウントのフォロー状況を把握する目的に行います。自社アプリ(サイト)のユーザーとSNSフォロワーの重複比率や複数アカウントの併行フォロー状況を把握するのに便利です。
――実態把握モデルでは、具体的にどのような質問をするのですか?
菅原:自社のブランドを知ったきっかけを尋ねる「ブランドの認知情報源」や「利用中のSNS」、「自社SNSアカウントのフォロー状況」です。
ブランドの認知情報源では、SNSが自社ブランドの初期認知にどの程度影響しているのかを見極めます。よく使用するSNSツールや自社SNSアカウントのフォロー状況では、アカウントやSNSツールごとの差を可視化できるのです。
――実態把握モデルの事例を教えてください。
菅原:ドラクエブランドの宣伝アカウントが挙げられます。ゲームの情報収集源や公式アカウントのフォロー状況、キャンペーン参加経験などを尋ねていました。
このようにユーザーの情報収集法を押さえつつ、自社で運営しているアカウントのフォロー状況、キャンペーンの参加状況を可視化し、SNSを通じたユーザー接点の実態を会社全体として一斉把握する用途に向いています。
■②効果測定モデル
菅原:つぎはブランドロイヤルティの計測に使える、効果測定モデルです。SNSが何の役立っているのかを評価できます。フォロー期間やユーザーのブランドへの関わり方を問う接触効果(態度変容)から、ユーザーの期待に応じた自社SNS活動の役割が明確になります。
――効果測定モデルの事例はありますか?
菅原:検索・メール・ブラウザ・動画サービスのほかプロダクトの開発や提供も手掛ける「Google Japan」です。フォロー時期や自社SNSを見たあとの行動変容で質問が構成されていました。とくに行動変容を問う質問では、検索・投稿・購入などののちにユーザーがとった具体的なアクションを検証していましたね。いずれもブランドに対して主体的な関与度が高まる行動になっており、この結果は長期的ロイヤルティにつながります。
■③価値定義モデル
菅原:最後は価値定義モデルです。自社アカウントのフォロー理由・過去に行ったキャンペーンや投稿コンテンツの評価を尋ねます。これにより運営側が伝えたいこととユーザーの求めているものを答え合わせできるのです。
――価値定義モデルの事例も教えてください。
菅原:英会話サービスアプリ「DMM英会話」の9周年キャンペーンにおけるアンケートです。各種プロモーションの実施実績を活かして、印象に残ったSNSキャンペーンや印象に残ったイベントをアンケートにて尋ねていましたね。公式SNSをビジネス貢献させようとすると、告知と宣伝ばかりになってしまいがちですが、アンケートを使うと過去投稿を総括する形でSNS活動独自の価値を見極められます。
半期に1度、方針を確認していくのがベスト
――公式SNS運営アンケートの実施間隔は、どの程度あけるのがいいでしょうか?
菅原:「効果測定モデル」「実態把握モデル」は同時に実施してもいいと思います。また先日お話しした周年キャンペーンと絡めるのもオススメです。周年キャンペーンでも告知でSNSを使うことが多いので、同じアンケートにSNSのことを含めて尋ねていくのもいいと思います。ブランドの好感度調査なども親和性の高いアンケートモデルですね。
ユーザーの日常生活に馴染んでいるSNSだからこそ、手軽に本音を引き出しやすいです。公式SNS運営アンケートを自社の運営方針決めに役立ててみてはいかがでしょうか。
▼今回菅原さんにお話しいただいた周年キャンペーンでのアンケート施策については、菅原さんのnoteでもまとめられています。ぜひ併せてお読みください。
公式SNSの運営価値を高めるユーザーアンケート活用法|菅原大介|リサーチャー|note
https://note.com/diisuket/n/nca2aebcd810e「SNSの仕事価値が組織に浸透しない」「施策の成果以前にブランド力が弱い」―SNSの担当者が活動初期あるいは組織変更と共に悩む課題です。また、会社の文化によっては次のような業務に対する定番の指摘も入り、取り組む以前のハードルがあります。 ・ビジネス貢献がよくわからない ・ツールを増やしても大変なだけ ・ユーザーと交流するのはリスク さらに人員体制によって、専任体制下では業務が注目されていても孤立してアピール手段が不足したり、共同体制下では惰性的な運用により大きな成果は上がらなかったり、役割や方針が不透明なことによるSNS業務への疑念が生まれることもあります。 そこでおすすめしたい
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菅原大介
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業でマーケティング戦略・中期経営計画・UXデザインを担当する。
会社では小売・サービスの分野における市場調査・ユーザーリサーチ・プロダクトリサーチを担当し、自身もマーケティング・広報・店舗開発の実務経験を有する。また、スタートアップから大企業まで各規模のIT企業でリサーチ組織の立ち上げ経験を持つ。
個人でも「リサーチハック」をキーワードに、リサーチの魅力や技能を普及させる著述・講演活動に取り組み、業界・職種・施策・課題ごとの調査設計やデータ分析のノウハウが、マーケティング・調査メディアでの寄稿やセミナー・研修会で好評を得ている。
主な著書に『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』『新・箇条書き思考』(ともに、明日香出版社)がある。
女性系メディアの運営に4年携わり、現在は子育てをしながらフリーランスとして活動中。みなさんの”選択肢のひとつ”になるような、役に立つ記事をお届けしたいです。