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体制一新でタイアップへの向き合い方が変わった
――まず「ねとらぼ」ではどのような組織体制でタイアップ広告を運営しているのでしょうか?
アイティメディア株式会社 河村泉(以下、河村):2018年に社内でねとらぼのタイアップのセールスを独立させようという動きがありました。ねとらぼのタイアップ広告の営業や企画・進行、編集などのすべてを一元管理できる組織を作ろうとなったのです。
――なぜタイアップ広告のチームを独立させることになったのでしょうか?
アイティメディア株式会社 大井正太郎(以下、大井):2018年以前はねとらぼは組織としてもまだ小さく、タイアップというよりもまずはメディアとしての情報発信に力を入れようという動きだったのです。その後運営も軌道にのって、タイアップの発注も少しずつ増えてきました。当時は社内の複数メディアを横断でタイアップ広告を制作していたこともあったのですが、やはりねとらぼ編集部でないと、ねとらぼ感を100%出すのが難しく2018年に独立化させようとなったのです。
――お二人のご担当業務について教えてください。
河村:私は営業本部の所属だったのですが、2018年にねとらぼのタイアップセールスチームに異動しました。2020年10月からは、ねとらぼだけでなく他の社内メディアも兼任しています。
大井:僕はもともと、ねとらぼのフリーライターでした。ねとらぼのタイアップを強化しようというタイミングでお声をかけていただき、現在は社員としてねとらぼのタイアップ専任担当になりました。営業が案件をもってきたあとの企画構成や人のアサイン、取材などのディレクション業務を行なっています。自分で編集・執筆をすることも多いです。
左:アイティメディア株式会社 河村泉さん
右:アイティメディア株式会社 大井正太郎さん
普段メディアで読んでいる記事と同じ感覚で読めること
――そもそもタイアップ広告を知らない方のために、タイアップ広告について説明いただけますか?
大井:企業からお金をいただいて記事を制作する、いわゆる記事広告と呼ばれるものです。ねとらぼとしては、普段ねとらぼで読んでいる記事と同じ感覚で読めることが最も重要だと捉えています。普段の記事と作り方を変えてしまい、読者が「なんだ広告じゃん」と違和感が出てしまうのはよくないですし、けれどPRという表記はつくので、ステマ(※)でもないよと、読者に示すこともできます。
(※)ステルスマーケティング:宣伝であると消費者に悟られないように宣伝を行うこと
――実際に組織が独立して読者の反応はいかがでしたか?
大井:当時はタイアップ広告が業界で増えていた時期でもあり、同時に読者がPR記事への嫌悪感を感じ始めていたときでもありました。当然ねとらぼでも、記事のどこかに「これはPRです」と記載していたのですが、SNSなどで読者から「広告かぁ」と突っ込まれることもしばしば……。普段ねとらぼで読んでいる記事と同じ感覚で読めることがタイアップの良さなのですが、逆に広告と分かりにくいことで読者は騙されたと感じやすいのですよね。タイアップをやっているメディアの“あるある”ではないでしょうか。
屏風から虎を出すのはクライアント。僕らの仕事はすごさを伝えること
――ねとらぼさんはクライアントや代理店からのお問合せページも独自性が強いですよね。企画はどのように立てられたのですか?
大井:ねとらぼはお客さんから“おもしろサイト”みたいな扱いを受けることが多かったのです。堅い商材を持ってきていただいて「この商品をおもしろく紹介してください」みたいな。ゆるめのサイトだと思われていたのですよね。
――おもしろサイトと思われることに、なにかデメリットがあったのですか?
大井: クライアントは僕たちを魔法使いだと思っていたのですよ。一休さんみたいに屏風から虎を出してごらんなさい! みたいな。でも僕たちからしたら屏風から虎を出すのはクライアントの仕事で、屏風から虎が出てすごいですって記事を作るのがニュースメディアの仕事だと思っています。僕たちが屏風から虎を出すことはできないんです。
ねとらぼはおもしろおかしい題材を取り上げることも多いのでゆるく見えるかもしれないけれど、きちんと取材を行い、事実確認や裏取りもきちんと行なっていて運営はゆるくない、真面目なニュースサイトなんです、と伝えるためにも作りかえた部分もあります。
河村:もともと営業本部で複数のメディアを見ていた環境から、ねとらぼにきた際に固定クライアントがいない、というのが課題だと感じました。メディアの強みが分からないと営業を組み立てていくのも大変ですし、お問合せページを通してメディアの特性をアピールすることで、インバウンドでの受注をベースに組み立てることができるようになると思ったのです。
自分たちのおもしろさを貫き、売上も2倍へ
――チーム編成や広告ページを一新することで、営業数値に変化はありましたか?
河村:2018年にチームを一新し、売上自体はほぼ倍になりましたね。広告の問い合わせ自体もそれまでは半期で数十件程度だったものが倍になっています。メディアの特性上、アウトバウンドよりもインバウンドを軸に効率良く運用できた成果だとは思っています。
――なかでも特に反響の高かった事例を教えてください。
大井:ダイドードリンコさんの事例ですね。何度も出稿してくださっているのですが、今回はクライアントさんや社内を巻き込んで「オリジナルラッピングのねとらぼ自販機を本当に社内に導入してしまう」という企画でした。編集部のみんなでドリンクを選んだり、総務の方と置き場を決めたり、その様子をドキュメンタリー形式で紹介したのですが反響が大きくて驚きました。読者からもクライアントさんからも「あの記事良かったです」って言われて嬉しかったですね。
――反響が高かった理由はどこにあると思いますか?
大井:まずは企画のキャッチーさですね。自販機を導入するにあたっての豆知識が知れたり、普通の感想ではない角度で紹介したりなどが読者におもしろく感じてもらえたポイントです。実際にねとらぼ編集部が顔出しして体験し、普通とは異なるテイストで感想を述べていくリアリティと独自性が分かりやすかったりするのだと思います。「会社の自販機に自分の好きなドリンクを入れたい!」という個人的な欲求を素直に打ち出せたことで、売りつけているようなPRっぽさも消してくれたのではないかと。
――これらの企画にクライアントはOKを出してくれたのですか?
大井:はい、すごいですよね(笑)。メディア側はいいと思っていても必ずしもクライアントに良さをわかっていただけるわけではないので、ほとんどのメディアさんは諦めてクライアントの意向に沿ったものを作ってしまうと思うのです。だからこそこうやってメディアがおもしろいと言ったことを聞き入れてくれるのは本当に嬉しいことです。クライアントや調整してくださる代理店にはいつも感謝しています。
営業と編集の相互理解
――広告発注が増え、チームの連携はどうはかっていますか?
大井:営業メンバーは日頃から業界のトレンドもキャッチアップしているため、代理店やクライアントから難題がきたとしても事前にクライアントと話を詰めてから編集へおろしてくれます。よく営業と編集は畑違いから食い違うと聞きますが、うちの営業は編集と話す時間を頻繁に設けてくれますし、媒体の理解度も深いので助かっていますね。僕が大人だから成り立っているというのもありますが(笑)。
河村:大人なのは営業メンバーですよ……というのは冗談で(笑)。
もともと営業チームはねとらぼの媒体特性を理解した状態で異動してきていますし、編集部との極端なズレはないのかなと思っています。もちろんクライアントによっては編集部の意向が通らず、でも予算の関係で受けなきゃいけないという広告案件も出てきます。そういった場合でも編集とのコミュニケーションを密に取りながら、常に同じ認識で案件を進行しています。
大井:編集として読者に読まれる記事を提案することと、ユーザー目線になったとき商品の押しポイントはどこかということ、あとは当然ですが炎上させないことなども気をつけています。営業とはタイアップの掲載までに密なコミュニケーションを取れていると思いますね。
河村:営業として売上や案件を優先するときはあります。とはいえ、読者に刺さるコンテンツの方がクライアントにとってはメリットじゃないですか。だからこそ編集部の意図や思いの説明は怠らずにやることを徹底していますね。
コンテンツの質を追求するメディアが選ばれる
――最後にタイアップ広告は今後どうなっていくと思いますか?
大井:いまウェブの広告費がどんどん増えていて、だからこそ結局コンテンツの質の部分が大事なのかなと。コンテンツの質というのは、媒体の独自性や信頼性です。こういったところが備わっているメディアが残り、広告主に選ばれていくのかなと僕は思うところです。読者が「広告って嫌だな」って思ってしまわないように真面目に誠実にメディア運営をしていってほしいですね。
河村:広告でもテクノロジーが進化していき、アドネットワークのような効率重視の広告も非常に増えていますよね。ねとらぼも当然アドネットワークの収益の方が多くて、どうしても効率重視なものに塗り変わりがちなのですけど、それでもコンテンツが生み出す力にこだわって、タイアップ広告の価値を追求していく必要があるかなと思います。
河村さん、大井さん、このたびは貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:アイティメディア株式会社
女性系メディアの運営に4年携わり、現在は子育てをしながらフリーランスとして活動中。みなさんの”選択肢のひとつ”になるような、役に立つ記事をお届けしたいです。