タイ人は「資料を読まない」?
タイ人に対して自社ブランドの良さをアピールする際、日本人に対するアプローチと同じ方法では刺さらないだろうなと、常々感じています。
タイで生活をしていて、いろいろな職種のタイ人と接してきました。そこでわかったのが、彼らは日本人と比較すると、一概にして「メモを取らない」「資料を読まない」人が圧倒的に多いことです。要は、習慣的に文字の読み書きをあまり行わないのです。
自分にとって大事だと感じたことは覚えていますが、自分にとってどうでもいいことは、たとえ相手が大事だと思っていても、すっぽり抜け落ちることが多々あります。大丈夫かなと心配になるのですが、まあ大体のところ日本人的には、大丈夫ではなかったりして……。
カップ麺の説明書きも読まないタイ人
身近なところで事例を挙げますと、例えばカップ麺。カップ麺を食べるときに皆さんは、「お湯を入れてフタをして何分」のような説明書きを読んで確認しませんか?
タイ消費者の多くは、何分かは自分で決めます。というか、正確には時間すら計りません。フタを開けてお湯を入れた後は、時々フタを開けて、見た目やフォークで突っついた時の麺の感触などで決めています。お湯の量もまた然り。カップの内側の線なんて気にしていません。その日の気分で、濃い味を楽しみたいときは少なめ、薄めな気分の時は多め。
このように、情報をカップに丁寧に記載してもあまり読まれないのであれば、いっそのこと、そこのスペースは美味しそうなシズルカットなどに変えてしまった方がいいのではなどと、乱暴なこともふと思ってしまいます。
そのほかにも、例えば「歯磨き粉」や「ハンドソープ」などの日用品。
日本ではおおむね、どのような成分配合でどのような効果があるか、文字情報としてわかりやすく、パッケージに記載されています。
タイで同じような情報量をパッケージに入れ込むと、おそらく多くのタイ人は、文字が多くて「頭が痛くなっちゃう」と言いそうです。余談ですが多くのタイ人は、文字情報が多かったり、理屈を長々と聞かされたりすると、「頭が痛くなっちゃう」と言います。
……と、つらつら書いてしまいましたが、皆さんに愚痴を聞いていただきたいのではなく。このような感じのタイ人に対して、自社ブランドの良さをアピールしていくには、どのようにすればよいのでしょう。
タイを代表するカップラーメンブランド「MAMA」
タイ人に刺さる訴求メッセージとは?
タイ人の消費者は、文字情報や理屈の説明などよりも、感覚的なもの、感性に訴えられる情報に対してとても敏感です。
「歯磨き粉」であれば、細かい成分名よりも、磨いた後ピカピカになった歯のイラストや、ハーブ由来の成分を使用しているのであれば爽やかな色合いのハーブのイラストなど、視覚に訴えるものを入れた方が、タイ人的には刺さります。
使用しているハーブの産地はどこで、どのような効果があるかなど、文字情報で長々と説明すると、タイ人の消費者は「頭が痛くなっちゃう」のです。情報を感覚的にスッと理解できる、ビジュアルでの訴求の方が効果的です。爽やかな香りやしっかりと汚れを落とす効果について、イラストのみからイメージを膨らませることは、おそらくは日本人よりもタイ人のほうが得意だと、私は思います。
また自動車の場合。自家用車をお持ちの方、仕事で自動車に乗られている方は、乗っている車の燃費はどのくらいか、大体把握されていませんか。自動車を購入される時も、「リッター何キロ走るか」という情報は確認されるでしょう。
一方でタイ人の消費者の多くは、自分の車がリッター何キロ走るかなど、細かくは把握していないでしょう。でももちろん燃費は重要です。タイ人の間でも、あの車は燃費が良い、良くないなどという話をしています。
では、何を基準に判断しているかと言いますと、ざっくりとしたガソリンの量と走行距離が基準になります。例えば、以前乗っていた車は月に2回満タンにしなければならなかったけれど、今度の車は月に1回と半分で大丈夫。あるいは、前の車なら500バーツ分ガソリンを入れたら仕事先まで5往復できたけれど、今度の車は6往復行ける、などという感じです。
またまた余談ですが、タイではガソリンを入れる場合、満タンではない場合は、「XXリットル入れてください」ではなく「XXXバーツ分入れてください」とキリのいい金額を言います。「満タンで」とお願いしても、日本のようにタンクぎりぎりまで入れないで、表示されている金額を見て、キリのいい金額でピタッと止めてくれます。だからガソリンの量が基準になりやすいのですね。
タイ発祥の口臭予防歯磨き粉「デンティス」
タイのテレビCMは、日本よりも感覚的なものが多い
皆さん、どんなカテゴリーでもいいので、タイのTVコマーシャルをYouTubeで検索して観てみてください。タイ語がわからなくても、何が言いたいのかが、ビジュアルと音声のみでおおよそ理解できる広告が、日本のものに比べると多いと思います。
伝えたい内容は日本と同じであっても、日本のスタイルを踏襲するのではなく、商品のパッケージデザイン、広告のクリエイティブのトーンなど、タイ人に刺さるツボを外さないように検討することが、とても大切です。
タイに住んで20年以上になりますが、私は日本人。ついつい長い文章で理屈っぽく説明してしまいました。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございます!
株式会社ヴァリューズ相談役
Shyu Co., Ltd.代表取締役
在タイ23年目。タイをはじめとする東南アジアでのマーケティングリサーチとブランドマーケティングを専門とし、消費者分析にとどまらず、製品・流通レベルの課題も加味した上で、次期課題を浮き彫りにしていく手法は、多くのクライアントより好評を博している。