大阪・関西万博
アジアで初めて、日本で最初の国際博覧会。日本万国博覧会は1970年3月15日から9月13日までの183日間、大阪府吹田市の千里丘陵で開催されました。大阪万博、万国博、万博、EXPO‘70などとも呼ばれ、「人類の進歩と調和」をテーマに当時、史上最大規模を誇りました。戦後の復興を世界にお披露目するかの如く、アメリカに次いで世界第2位の経済大国へと成長を遂げた日本の1964年の東京オリンピック以来の象徴的な国家プロジェクトとして大成功を収めました。世界各国の新しい技術や文化を集め、未来社会やそこでの生活を覗くことが可能で、6422万人の入場者を集めました。テレビ電話や携帯電話、動く歩道、リニアモーターカー、缶コーヒー、ファミリーレストランなど現代日常生活でも普及している商品・サービスが初めて登場した意義深いイベントでもありました。
芸術家、岡本太郎氏のデザインした万博のシンボル「太陽の塔」、アポロ12号が持ち帰った「月の石」が展示してあるアメリカ館などは大人気で、その他印象に残るパビリオンが多数あり、開催期間中は大変な混雑となりましたが、国際博覧会史上初めて黒字になったと聞いています。
2025年日本国際博覧会、「大阪・関西万博」は大阪府此花区の夢洲で「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに4月13日から10月13日の184日間、開催予定です。日本の国家戦略Society5.0の実現やSDGs達成への貢献を主眼に大阪・関西さらには日本の成長における起爆剤として成功が期待されます。
ブランドと万国博覧会
フランスの万国博覧会を手本に、第1回万国博覧会はロンドンのハイドパークで25か国が参加して開催され成功を収めました。次いで1855年パリで万国博覧会が催され、その際の国際コンクールでガラス工芸のバカラ、銀食器のクリストフルが金賞に選ばれ、1867年の第2回パリ万国博覧会では宝飾品のブシュロン、クリストフル、バカラが金賞、女性用の鞍でエルメスが銀賞を受賞しています。現在の高級ブランドの多くは、これを機に名声を得て、そのブランド資産を現在まで維持、向上させています。
当時、マスメディアは発達途上で、万国博覧会は国際的に多くの消費者に同時に商品の価値を訴える絶好の機会でした。付加価値の高い奢侈品生産の技術が発達し、産地も形成され、ブランド資産の価値に気がついた生産者達にとり、国際的な事業展開を図るために万国博覧会は利用価値が高かったのです。
消費者が持つ特別な印象や思いによって商品・サービスのプレミアムを認めることでブランド価値は生まれます。知的資産であるブランドの価値を評価するには商品・サービスに関する知識が必要ですし、購入できる見込みが無ければ関心も湧きません。ブランド資産を認めて購入できる消費者層・知識層が形成されなければブランドは資産としての実効性を発揮できません。19世紀のヨーロッパは植民地の開拓、国際貿易の進展などで、豊かな消費者が厚く形成された時代であり、そうした階級の資産がブランドを資産に変えたのです。
ブランド価値
ヒト、モノ、カネ、情報と並びブランドは重要な経営資源と資本市場においても認められています。また、ブランド価値とは、商品自体の価値とは別に消費者に満足感や優越感をもたらす付加価値と定義できます。ブランド価値は商品・サービスを購入する際の重要な要素なのです。ブランドの根底にある価値観は明確でなくてはなりませんし、顧客に提供する商品・サービスについての価値観や知識を理解してもらう必要があります。ブランド価値を向上させるためには商品・サービス自体に価値があることは必須です。品質や性能、ユーザビリティの向上を常に意識し維持しなければブランド価値を高めることは不可能です。
顧客が商品・サービスを認知してから購入するまでの一連のサービスを旅に例えた概念として「カスタマージャーニー」が注目されています。それを可視化したものが「カスタマージャーニーマップ」です。チャネルの多様化により、消費行動は複雑化していて、「カスタマ―ジャーニーマップ」を活用する必要性は高まっています。顧客像(ペルソナ)を明らかにし、需要に合わせた顧客へのアプローチを進展させることでブランドの認知はさらに増し、ブランド価値の向上につなげることも可能になります。
地域ブランド
1855年の第1回パリ万博で目玉となったのは、ナポレオン三世がフランスから出品したボルドーワインの格付けを命じて、ボルドーをワインの生産地とし国際的に有名になる基礎を作ったことでした。このように欧州では古くから地域ブランドが重要視されてきました。
日本でも2006年から地名と商品・サービス名からなる地域ブランドを「地域団体商標」として出願の受付が始まり、2022年末には741件になりました。効力は国内だけですが、模倣品の排除やライセンス契約による販路の拡大が見込めます。登録数は都道府県別で、「京」を冠した商品・サービスで京都府が最多、次に兵庫県、北海道と続きます。最近、登録数の増加が著しいのは千葉県で「勝浦タンタンメン」など積極的です。
ブランドはネーミング、ロゴマーク、デザイン、店舗などで顧客に限らず不特定多数へ様々なコミュニケーションを創り出します。提供する商品・サービスへの信頼性や評判は人的信用の代わりとなり、欲望や憧れを喚起する装置として、ブランドは機能するのです。
19世紀、欧州の王立で認可された陶器などに王立のマークが見られるのは、贅沢品の製造・輸出を国家が独占事業として行い、国家の主要な財政源としたことによります。独占のライセンスを得ていることを示すことが主で、元来、競争のための差別化を図るものではありませんでした。しかし、19世紀はブランドが資産となることが発見され、ブランド価値が認識された時代となりました。特にフランスでは付加価値の高いファッションや贅沢品生産の技術を高め、産地が形成されるなど地域ブランドが芽吹いてきました。
「地域団体商標」が盛り上がりを見せることは、地域の活性化につながることは明白です。
そのためにも、一流ブランドがどのようにして中国のような大市場に挑み、グローバルに展開できたのか、あるいはブランドの盛衰の歴史を学び、探求を深める必要があります。
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ヒット商品や長く愛されるブランドを支える重要なキーが「ネーミング」。良いネーミングとはどのようなものなのでしょうか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏の寄稿により、ブランド価値を醸成する3つの力とネーミングの役割について解説します。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。